2024年問題とは?【わかりやすく解説】物流、運送、倉庫

2024年問題とは、働き方改革関連法の猶予期間が過ぎる2024年4月に起こると予想される問題のこと。2024年問題の概要、影響などについて解説します。

1.2024年問題とは?

2024年問題とは、働き方改革関連法が適用されるにあたって起こりえる問題のこと。

2019年から順次施行された働き方改革関連法では建設業や医師、自動車運転業務など一部の業種には、2024年3月31日まで猶予期間を設けています。この猶予期間が終了したときに、さまざまな問題が発生すると予想されているのです。

罰則規定の設置

働き方改革関連法の猶予期間が過ぎる2024年4月以降、規定を守らなかった事業者には「6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦」が科せられる可能性もあります。そのため多くの事業者が、猶予期間の間に急いで対応を進めているのです。

参考 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について厚生労働省

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2.2024年問題が起こる経緯と「働き方改革関連法」

少子高齢化の進んでいる日本では、今後約30年の間に生産年齢人口(15歳から64歳の人数)が、半数近くにまで減ると予測されています。

生産年齢人口が減ると当然、フルタイムのように長時間働ける労働者数も減少。育児や介護などと仕事を両立する世代への支援やサポートが足りていない点も、長時間働ける労働者数を減らしている要因です。

このような課題を解消し、あらゆる世代や多様性に合わせて、誰もが働きやすい環境を作るために働き方改革関連法が制定されました。

  1. 残業に関する規制
  2. 割増賃金の増額
  3. 勤務間インターバル制度の導入
  4. 給与体系の見直し

①残業に関する規制

働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制が定められました。上限は原則「月45時間、年360時間」です。特別な理由があり労使の合意を得ている場合、以下の上限が適用されます。

  • 年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 2か月から6か月の平均が80時間以内
  • 月45時間を超えられるのは年6か月まで

自動車運転業務については猶予期間が設けられ、適用後も年960時間が上限です。しかし長距離輸送などの業務では、トラックドライバーの長距離勤務が常態化しているのです。

2021年3月に厚生労働省が公開した「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書」によると、トラック事業者のうち1日あたり7時間超の時間外労働時間が発生している事業者は4.3%、1時間以上から4時間以下の時間外労働時間が生じている事業者は14%。

猶予期間終了後、速やかに960時間の上限規制へ対応するのは難しいと考えられています。

②割増賃金の増額

2023年4月からは中小企業でも、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の割増率が25%から50%になります。なお2010年の労働基準法改正にて、すでに大企業は割増率50%を義務づけられていました。

その後、2019年の働き方改革関連法で、中小企業に対しても割増率50%を適用したのです。猶予期間終了後も従来と同等の時間外労働が生じた場合、大幅に人件費が増加してしまいます。時間外労働を抑制するために、生産性を高める施策が必要となるでしょう。

③勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度とは、前日に仕事が終わってから翌日に仕事を始めるまでの間に「一定時間以上の休息時間」を確保しなければならない制度のこと。2024年4月からは、「継続11時間以上を基本とし、9時間を下回らないとする」という改正が適用されます。

トラックドライバーのような運転手は、夜勤明けに仮眠をとるだけで再び出勤というのも多く、睡眠不足が重大事故の原因になると問題になっていました。そこで改善基準告示では、8時間以上の休息時間の確保を必要としたのです。

よって2024年以降、事業者は余裕をもった人員配置が事業者を行う必要があります。

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④給与体系の見直し

2024年4月からは中小企業にも「同一労働同一賃金」が適用されるため、給与体系も変わります。

同じ職場で同じ仕事をしている労働者に対しては、正規や非正規など雇用形態にかかわらず原則、同じ待遇を用意しなければならなりません。待遇には基本給や賞与、各種手当や福利厚生、キャリア形成や能力開発を含む教育訓練が含まれます。

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3.2024年問題の影響

2024年4月からの働き方改革関連法の適用にともない、物流や運送といった業界にはさまざまな問題が直面しています。2024年問題の影響について解説しましょう。

企業側:利益低下

時間外労働の上限規制や割増賃金の増額によって、企業側は利益低下のリスクが高まるのです。

時間外労働の上限規制でドライバーの労働量が減少します。しかし物流業や運送業における売上はドライバーの労働量によるところが大きいため、労働量の減少が売上の減少に直結しやすいのです。

また割増賃金の増額が適用されると、これまでより1時間あたりの残業代が上がります。従来と同等の時間外労働が生じている場合、コスト増加が懸念されるでしょう。

たとえばこれまで時給1500円のドライバーが残業した場合、割増賃金25%では1,875円ですが、割増賃金50%では2,250円です。売上の低下と人件費の増加という、企業の利益を下げる状況を招きかねません。

ドライバー側:収入減少

時間外労働の上限規制が適用されると、ドライバーの残業代が減り、月々の収入が減少する可能性もあります。

ひとりあたりの時間外労働を減らせるので、企業によっては人件費の軽減効果をもたらすでしょう。しかし残業代による収入に頼っていたドライバーにとって、時間外労働の制限が死活問題にもなりかねません。

残業代を稼げないのであれば、ほかの業種へ転職する可能性もあります。もともと人手不足に悩まされていた物流業や運送業は、さらに人手不足が深刻化するかもしれないのです。

荷主側:運賃の上昇

2024年問題の影響で起こりえる利益の減少や人件費の増加をカバーするため、運送料の値上げを検討する企業が増えると予想されます。

運送料を上げた場合、ドライバーの収入減や企業の収益減少を抑制する効果が現れるでしょう。しかし一方、運送を依頼する荷主の物流コストが増加するため、顧客離れも起こりえます。

顧客を獲得しようとする同業他社の間で運送料の値下げ競争が発生し、業界全体の運送料相場が下がってしまう恐れもあるのです。こうなると、さらなる利益の低下を招きかねません。

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4.2024年問題における物流(運送・倉庫)業界の課題

2024年問題は、つねづね物流業界が抱えている課題に起因する問題です。ここでは4つの課題について解説します。

  1. 長い労働時間と安い給料
  2. 慢性的なドライバー不足
  3. 年々増加する物流量
  4. 従業員の高齢化

①長い労働時間と安い給料

トラックドライバーは年間所得が低く、労働時間が長い傾向にあります。

公益社団法人 全日本トラック協会が2022年10月に公表した『トラック運送業界の2024年問題について』を見てみましょう。それによると、トラックドライバーの年間所得を全産業平均と比べると、大型トラックは約5%、中小型トラックは約12%低いと判明しています。

一方労働時間は、全産業平均と比べて大型トラックは年間432時間(月36時間)長く、中小型トラックは年間384時間(月32時間)長いのです。

労働時間が長くなってしまう原因には、荷主によって待ち時間や準備時間、時間指定などが生じることや、手作業による荷物の積み下ろしを行うことなどが挙げられます。

②慢性的なドライバー不足

物流業界では、慢性的な人手不足に悩まされています。

2022年9月に経済産業省、国土交通省、農林水産省がまとめた『我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』によると、「トラックドライバーが不足している」と感じる企業は半数以上。

現状でも賃金が安く労働時間が長いうえ、2024年問題の影響でさらに賃金が低下してしまうと、さらに人材確保が難しくなるでしょう。

③年々増加する物流量

トラックドライバーが不足している一方、コロナ禍による通販の需要拡大で、配送業務は増加傾向にあります。

2021年3月に国土交通省が公表した『令和2年度宅配便取扱実績について』によると、2020年の宅配便個数は約48億3647万個。5年前より約11億個増加しているのです。

さらに近年、各企業がサービスレベルの向上に取り組み、翌日配送などのスピード配送、不在連絡票による再配達指定などを実施。このようなサービスもドライバーの負担が増加する一因となっています。

④従業員の高齢化

物流業界は人手不足にくわえて、ドライバーの高齢化も進んでいます。

2022年9月に経済産業省、国土交通省、農林水産省がまとめた「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、道路貨物運送業年齢構成は、15歳から29歳が全体の10.1%、40歳から54歳が全体の45.2%、65際以上が9.5%でした。

また上記の結果から、2028年にはドライバーが約27.8万人不足するとも予測されています。

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5.2024年問題への対策

2024年問題に対して何らかの手を打たなければ、業務遂行は難しくなるでしょう。ここでは企業で実施できる対策について解説します。

  1. 生産性や業務効率の向上
  2. 運転時間と走行距離の再検討
  3. 長距離輸送の勤怠管理
  4. 職場環境や労働条件の改善
  5. M&Aの実施

①生産性や業務効率の向上

2024年問題で人材不足や勤務時間の減少が予想されるため、現在よりも少ない人数や時間で効率的に業務をまわす取り組みが必要です。

そこで近年注目されているのが、IT技術の活用。AIやドローンなどの先進技術を駆使すれば、正確かつ迅速に業務を進められるようになります。

空き時間や待ち時間を軽減するトラックの予約受付システムや、ロボットが自動でピッキングを実行するシステムなどを導入すれば、作業効率化がアップするでしょう。

②運転時間と走行距離の再検討

長時間労働の抑制には、運転時間と走行距離を短くする方法があります。しかしただ短縮するだけでは、配送量の低下による売上減少を招きかねかねません。

まずは配送ルートを見直し、より短時間で到着できるルートを探してみましょう。また遠距離への配送には、中継輸送(配送途中でほかのドライバーと交代する方式)を導入する方法もあります。ひとりのドライバーが運転する距離を減らせます。

また時間外労働の上限規制の遵守や、勤務間インターバル制度の導入も可能となるでしょう。

③長距離輸送の勤怠管理

ドライバーの勤怠管理を強化し、時間外労働を正確に把握する必要があります。トラックドライバーは勤務中に外出しますし、長距離輸送では複数日以上連続の勤務も多いもの。たとえ所定労働時間外で仕事をしていてもわかりません。

また紙の出勤簿や日報などを使っていると、ドライバーが申請する労働時間を信用せざるをえず、実情との乖離が起こりやすくなります。

そこで有効なのが勤怠管理をデジタル化すること。ドライバーはスマホからその場で勤怠情報を入力でき、企業側はリアルタイムな勤怠情報を把握できます。時間外労働を正確に把握できるため、残業の調整や割増賃金計算にも大きく役立つでしょう。

④職場環境や労働条件の改善

ドライバー不足の解消を目指し、働きやすい環境づくりに取り組むのも重要です。

時間外労働の上限規制でドライバーひとりあたりの売上減少が予想されます。売上や利益を維持するには、より多くの人材を確保する必要があるでしょう。

多くの人材を長く確保するなら、職場環境や労働条件の改善は欠かせません。たとえば給料体系や福利厚生、ワークフローなどを改善すると、長時間労働や低賃金といった問題の解消が期待できます。既存ドライバーの離職防止と新たな人材確保を促進するでしょう。

⑤M&Aの実施

M&A(企業の合併や買収)でもさまざまな問題が解決できます。たとえば大企業が運送業や物流業の企業を買収した場合、大企業は人材不足の解消や拠点の増加などのメリットを得られるのです。

一方買収される側は、業務量が安定して収益が上がりやすくなりますし、大企業と協働すれば労働環境や待遇の改善が図れます。

実際に2024年問題に対応するためのM&Aは増加傾向にあるのです。ただしM&Aは自社にとって大きな変革をもたらすもの。慎重な検討が必要でしょう。