2025年問題とは、日本が超高齢化社会になるため生じるさまざまな問題です。ここでは各分野の影響や政府の対策、企業がすべきことなどについて解説します。
目次
1.2025年問題とは?
2025年問題とは、国民の4人に1人が75歳以上になる結果、医療や介護、財政などで起きるさまざまな問題のこと。2025年、高齢者人口は約3,500万人に達すると推測されているのです。
2025年の崖との違い
既存の複雑・老朽化したシステムが解消されない場合、2025年以降、最大12兆円の経済損失が生じてしまうこと。
2025年までに予想されるIT人材の引退やサポートの終了などがこの問題を引き起こし、企業のグローバル競争力を低下させるといわれています。
2.2025年問題が起きる原因
なぜ2025年問題は起きるのでしょう。ここでは2025年問題が起きる原因を、3つの視点から説明します。
- 高齢者の人口推移
- 人口減少による少子高齢が深刻化
- 労働人口の減少による経済の鈍化
①高齢者の人口推移
日本の総人口は、前年に比べておよそ29万人減少しています(2020年9月15日現在推計)。一方、65歳以上の高齢者人口は3,617万人。前年に比べて30万人増加し、総人口に占める割合は28.7%となりました。
この割合は今後も上昇が続き、第二次ベビーブーム期(1971~1974)に生まれた世代が65歳以上になる2040年には、35%におよぶと考えられています。
団塊の世代について
団塊の世代とは、1947年から1949年にかけての第一次ベビーブームに生まれた世代のこと(1951年まで、または1956年までを指す場合も)。
さまざまな分野で日本の産業を牽引してきたこの世代が75歳以上を迎える2025年、労働力不足や技術伝承、企業力低下などさまざまな問題が生じると予想されています。
②人口減少による少子高齢が深刻化
前述のとおり後期高齢者が急増する一方、日本の総人口は2011年以降9年連続で減少しています。つまり若年層の人口が低下し、少子高齢化がますます進んでいるのです。
現在の日本は若い世代が高齢者の生活を支える仕組みとなっています。若い世代が減り、高齢者が増える、それはつまり労働人口の減少や労働資源の不足を意味するのです。
③労働人口の減少による経済の鈍化
2025年問題が近づくにつれ、少子高齢化はますます加速していくでしょう。労働人口の減少は単なる医療費や介護費の増大、技術継承の断絶にとどまらず日本経済の鈍化につながるといわれています。
また生産年齢人口は貴重な労働力であると同時に、消費の中心。労働人口の減少はそのまま消費の先細りへつながり、日本経済の鈍化に拍車がかかると懸念されています。
3.2025年問題による分野ごとの影響
労働力の供給が低くなり、社会全体への影響が予想される2025年問題。具体的にどのような影響をおよぼすのでしょう。ここでは2025年問題が与える影響について4つの分野から説明します。
- 医療分野
- 看護分野
- 介護分野
- 税金
①医療分野
厚生労働省の報告によると、2002年に約150万人だった認知症高齢者数は、2025年には約320万人になるそうです。認知症だけではありません。肺炎や脳卒中、がんや糖尿病、循環器系疾患や神経系疾患など、あらゆる疾患で患者数増加が想定されているのです。
医療従事者の確保や業務の負担増加に関する報酬の見直しなどは、優先して対処すべき問題とされています。
②看護分野
厚生労働省は2025年、6~27万人もの看護職員が不足すると述べています。従来、看護では医療を提供し、いのちを守る機能を担ってきました。
しかし2025年問題に向け、人々が自身で「生活の質」を維持するセルフケアの向上に努める必要が出てきたのです。
③介護分野
介護人材の不足も深刻です。現在、介護難民(介護が必要にもかかわらず、施設でも在宅でも適切な介護サービスが受けられない人たち)の数は年々増え続けています。
2025年に必要とされる介護職員の数はおよそ250万人。これに対して2016年度の介護職員数は約190万人です。介護人材の需要と供給のアンバランスはすでに深刻な問題となっています。
④税金
2025年問題に向けて医療や看護、介護などさまざまな分野で人手が必要となります。もちろんそのためにはお金が必要です。高齢化の進展により、ひとりあたりの社会保障費が増加するのは避けられないでしょう。
厚生労働省によると、2025年の医療負担は2018年に比べて1.2倍増、介護負担は1.4倍になると見込まれています。
4.2025年問題が企業に与える影響
2025年問題が影響を与えるのは医療や介護、看護だけではありません。さまざまな分野の企業に事業継承問題や離職者の増加、人材不足などの影響をおよぼすのです。ここでは2025年問題が企業に与える影響を以下3つの視点から説明します。
- 事業継承が困難になる
- 離職者の増加
- 人材不足
①事業継承が困難になる
中小企業および小規模事業者の経営者は、2025年までに平均引退年齢である70歳を超えます。その数は延べ245万人。
しかしそのうちの約半数にもなる127万人の後継者が決まっていません。これは日本企業全体のおよそ3分の1。この問題を放置していては中小企業および小規模事業者の廃業が急増し、2025年までに約22兆円のGDPが失われてしまうでしょう。
②離職者の増加
2017年、介護や看護を理由とした離職者数は約9万人となりました。これは10年前の2007年に比べて2倍の数です。
介護離職者の増加は企業にとっての人材流出だけでなく、日本経済全体の減速にもつながると懸念されています。経済産業省によると、介護離職にともなう経済全体の付加価値損失は1年あたり約6,500億円ともいわれているのです。
③人材不足
経済産業省が2017年に実施した調査によると、大企業および中小企業あわせた製造業の94%以上が人手不足を感じているそうです。そのうち32%は実際の経営にまで影響が出ていると回答しています。
製造業の人手不足はとりわけ深刻です。これには少子高齢化にともなう労働力人口の減少や、世代交代による技能人材の確保などさまざまな問題が潜んでいます。
5.2025年問題に対する政府の対策
政府は2025年問題を解決するため、さまざまな取り組みを実施しているのです。ここでは3つの視点から、2025年問題に対する政府の対策について説明します。
- 介護離職者ゼロへの取り組み
- 高齢者の再雇用の推進
- 地域包括ケアシステム
①介護離職者ゼロへの取り組み
厚生労働省では家族の介護を理由とした離職を防止するため「介護離職ゼロ」の取り組みを推進しています。
介護離職の理由の多くは「仕事と介護との両立が困難」や「心身の健康状態悪化」。しかしなかには「介護サービスの品質や内容を十分に知らなかった」という理由もあるのです。そこで政府では下記のような取り組みを実施しています。
介護人材の育成
政府は、「介護職未経験だが働きたい」と考える人たちが仕事に就きやすくなる体制づくりが必要と考えています。そのために実施しているのが、資格取得支援や待遇改善など人材育成に関するサポート。
「介護福祉士修学資金等貸付制度」では、介護福祉士修学資金や離職した介護人材の再就職準備金などの費用を貸与しています。介護福祉士といった資格を取得しやすくし、介護人材の育成サポートや介護人材の確保を支援しているのです。
介護職員の処遇改善
介護職員の給与水準は以前から問題視されてきました。介護職員の離職理由に低賃金や処遇改善をあげる声は決して少なくありません。
そこで政府は段階的な処遇改善政策を実施。2009年には2万4,000円、2012年には6,000円、2017年には1万円の月額平均給与増加を実現したのです。
また2012年から開始している介護職員処遇改善加算の制度もあり、職場改善やキャリアパス整備に取り組んでいる事業所への介護報酬も支給されるようになりました。
介護ロボットの導入
実機化に向けた試行錯誤が続く介護ロボットやICTの活用も、介護者の身体的負担軽減に役立ちます。政府では移乗介助や移動支援、入浴支援などに介護ロボットを活用できれば、直接処遇にかかる業務により多くの時間をかけられると考えているのです。
同時に介護ロボットを活用している事業所に対しての介護報酬や人員設備基準の見直しも行っています。
介護士を目指す外国人留学生の受け入れ
2008年以降、政府は段階的に外国人看護師および介護福祉士候補者の受入れを実施しています。外国人留学生の在留資格に「介護」を創設し、介護業務に従事する外国人留学生を受け入れているのです。
また介護を学びたいと日本を訪れてきた外国人留学生に、奨学金の貸付や奨学金返済の免除、養成施設卒業者の継続的なフォローなども実施しています。
②高齢者の再雇用推進
2025年問題を解決するには、人材不足を補うべく高齢者の再雇用推進も必要になりました。
「高齢者」の意味は今と昔で大きく違います。70歳を過ぎても企業に活躍の場を求める人材もいるでしょう。政府は高齢者の再雇用を推進するため、次のような取り組みを行っています。
シルバー人材センターとの連携
政府はシルバー人材センターおよび福祉人材センター、ボランティアセンターの連携を促進して、就業意欲のある中高年齢者を掘り起こしています。
若い頃のような働き方は難しくとも、単純作業や短時間勤務などニーズに合わせた働き方を提供できれば、重要な戦力が確保できるでしょう。なかには掘り起こした人材と事業者とのマッチングをサポートしている自治体もあります。
高年齢雇用継続給付
高年齢者雇用安定法の改正により、希望すれば60歳以降も継続して企業に勤められるようになりました。しかし多くの場合、雇用継続する労働者の賃金は70%以下に引き下げられています。
こうした賃金低下を補う目的で作られたのが「高年齢雇用継続給付」の制度。「企業だけでは賃金を賄うのは難しい」という状況を避けられるよう、高齢人材の雇用継続を行った企業に給付金を支給しているのです。
③地域包括ケアシステム
2025年までのあいだに突如高齢者が減ったり、労働力人口が急増したりするのは考えにくいでしょう。2025年問題は避けられない、確実に起こる問題です。
そこで日本政府は「地域包括ケアシステム」の拡充に取り組んでいます。言葉自体は新しくありません。2025年問題を間近に迎えるなか、具体的にどのような取り組みが実現できるのかに注目が集まっています。
地域包括ケアシステムの概要
地域包括ケアシステムとは、高齢者が人生最後のときまで住み慣れた土地で自分らしい暮らしが続けられるよう、以下5つを切れ目なく一体的に提供する体制のこと。
- 住まい
- 医療
- 予防
- 介護
- 生活支援
システムの実現には地域住民や介護事業者、医療機関やボランティアなど地域全体が一体となって取り組む必要があります。
地域包括ケアシステムのメリット
地域包括ケアシステムのメリットは、下記の4つです。
- 地域の実情に合った介護サービスの提供:暮らしやすさに地域差が生じない
- 住み慣れた土地で生活を続けられる:自宅で生活しながら高齢者支援のサービスを受けられる
- 要介護者の増加を抑制:健康寿命を延ばす取り組みを活性化し、高齢者に長く自立した生活を送ってもらう
- 介護者の負担軽減:関係各所が連携し、高齢者の抱える問題を明らかにしながら生活の障壁を減らす
6.2025年問題に対して企業がすべきこと
2025年問題に対して政府は、介護離職者ゼロへの取り組みや高齢者再雇用の推進などを実施しています。では、企業としてできることはないのでしょうか。ここでは2025年問題に対して企業が取り組むべき対策を、3つの視点から説明します。
- 公的機関の支援による事業継承
- ダイバーシティ推進による人材の多様化
- 離職防止
①公的機関の支援による事業継承
確実に訪れる2025年問題に対して、企業は公的機関の支援を活用した事業継承を進める必要があります。中小企業庁では経営承継円滑化法による支援を実施しているたため、以下の公的支援を受けられるのです。
- 税制支援(贈与税・相続税の納税猶予および免除制度)の前提となる認定
- 金融支援(中小企業信用保険法の特例・日本政策金融公庫法等の特例)の前提となる認定
- 遺留分に関する民法の特例
いずれも10年程度の準備期間が必要とされる、事業承継の負担を軽減する取り組みです。
②ダイバーシティ推進による人材の多様化
少子高齢化による人手不足の解消には、ダイバーシティの推進による人材の多様化も欠かせません。もはや国内の労働力人口だけでは企業力やGDPを維持できないでしょう。
これまで労働市場への参入を阻まれていた女性労働者や高齢者、外国人労働者の力が必要です。多様な働き方を認め、その多様性を生かすダイバーシティマネジメントが、あらゆる企業に求められています。
③離職防止
2025年問題に対して企業が取り組むべき対策には、ワークライフバランス支援をはじめとした離職防止策もあげられます。介護や看護のほか、出産や育児などを離職原因とする従業員を、いかに引き止められるかが鍵になるのです。
フレックスタイム制やテレワーク制度などを導入し、仕事と家庭が両立できる社内制度を整備して、2025年問題で直面する労働力人口の不足に備えましょう。