2030年問題とは、高齢化の進行によって生じるさまざまな社会的課題のことです。企業に与える影響や実施すべき対策などについて解説します。
目次
1.2030年問題とは?
2030年問題とは、日本の高齢化現象によって2030年頃から顕在化するといわれている社会問題のこと。
高齢化による大きな問題は、生産年齢人口の減少。2030年までに、日本の65歳以上の高齢者の割合は総人口の約30%に達すると予測されています。高齢者の増加とともに労働力が不足する可能性が高く、国内の経済活動が遅滞するのではと懸念されているのです。
また医療や介護負担の増大や、年金支給額の減少といった財政面での問題も起こりえます。
2.2030年問題が企業に与える影響
2030年問題が企業へおよぼす影響のうち、もっとも大きいのは労働力の確保が難しくなる点。
労働力の減少によって、日本の経済的な低迷や国際市場における競争力の低下が起こる可能性が高まるとされています。2030年問題が企業に与える具体的な影響を説明しましょう。
生産年齢人口減少による労働力不足
生産年齢人口の減少により、深刻な労働力不足に陥る可能性もあります。
内閣府の「選択する未来」委員会によると、2030年の日本の生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)の割合は全体の約60%を切り、2060年には約50%になるとの予測を公表。
労働力が不足すると企業の成長や勢いが失われ、日本の国際市場における競争力の低下やGDPの減少を招く恐れもあります。
人材確保の競争が激化
生産年齢人口の減少にともなって多くの企業が優れた人材を獲得しようと活動するため、人材市場での競争が激化する可能性が高くなります。
企業が持続的な成長と安定した収益を確保するには、優秀な人材の確保が欠かせません。そのため企業は魅力的な雇用条件や手厚い福利厚生の提供、採用プロセスの多様化など、人材を引き付ける採用戦略に取り組む必要があります。
採用コストの高騰
人材確保の競争激化にともない、企業の採用コストが増加する可能性もあります。人材獲得のために、高給与や福利厚生の提供、採用のための有料広告費用、研修プログラムの実施、効率的な採用プロセスの整備などを講じると、それだけ費用がかかるからです。
採用コストの増加は企業の収益に影響をおよぼすため、適切なコストで効果的に採用できる戦略を考えなければなりません。
業績不振
労働力不足によって必要なスキルを持つ従業員が減少し、業績不振に陥るリスクも高まります。人手不足で製品の生産やサービスの提供が遅滞しやすくなり、顧客離れを起こす恐れがあるからです。
業績不振はさらなる人材流出につながるため、業績の低迷による人材流出を最小限に抑え、労働力不足の悪循環を回避する努力が必要です。
3.2030年問題に向けて企業が実施すべき対策
2030年問題による悪影響を軽減するために、企業が取るべき対応策がいくつかあります。具体的にどのような対策を取るべきかを説明しましょう。
多様な働き方を導入
企業は従来のオフィス勤務にくわえ、多様な働き方を導入することが重要です。リモートワーク、フレックスタイム、パートタイム労働など、ライフスタイルや個々のニーズに合わせた雇用形態を導入すると、従業員の満足度やモチベーションが増加するでしょう。
従業員のワークライフバランスの促進は、生産性や従業員の定着率の向上につながります。
労働層の拡大
若年層からシニア層、障がい者まで幅広い労働層を受け入れる戦略を展開するのも効果的な対策です。潜在的な価値を持つ人材を見逃さず、多様性と包括性を組織内に根づかせる重要なステップとなります。
また再就職希望者の雇用拡充、リカレント教育制度の整備など各層に合わせた教育や支援を提供し、多様な従業員を受け入れられる環境を整備するのも有効です。
労働時間の見直し
労働時間を積極的に見直し、過度な労働時間による生産性低下や健康への悪影響を極力避けてください。ワークライフバランスを重視した労働環境を実現すると、従業員の定着率や新採用の成功率のアップにつながります。
労働時間の見直しとともに、休暇制度や有給休暇の活用促進、残業削減、事前承認制導入などにも取り組みましょう。
従業員の生産性を向上
生産性向上は企業の競争力の鍵となるため、生産性と業務効率の向上のために、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整える必要があります。
具体的な施策は「スキルトレーニングの提供」「キャリア支援」「フィードバックとコミュニケーションの強化」など。このような施策をとおしてやりがいが高まった従業員が増えるほど、生産性が向上しやすくなります。
AIといったデジタル技術を活用
AI(人工知能)やRPA(ソフトウェアロボットによる業務自動化)といったデジタル技術を活用すると、単調なルーチン作業やタスクを自動化でき、人手不足解消に寄与します。
またテレワークの導入も有効です。地理的な制約を超えて遠隔地からも優秀な人材を採用できるようになり、育児や介護などをしながら働きたい従業員を獲得しやすくなります。
労働者のリスキリング
労働者のリスキリング(再教育)は、企業の労働力不足やテクノロジーの進化に対応する重要な施策。リスキリングでは、単に従業員のスキルの習得をサポートするだけでなく、個々の従業員のキャリアビジョンに合致した支援が必要になります。
また義務的な学びではなく、自発的な学びとなるような学習文化の醸造も大切です。
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4.2030年問題で人材不足が懸念される業界
2030年問題が迫り、多くの業界において労働力の減少は避けられません。なかでもとくに懸念されているのが技術者不足です。どのような分野や業界で人材確保が難しいとされているのかについて、原因や対策を含めてご紹介します。
医療や介護業界
団塊世代の高齢化にともない、医療や介護業界の人材不足は2025年から2030年にピークを迎える見通しです。
厚生労働省の「病院等における必要医師数実態調査の概況」によると、2010年すでに医師不足は13,000人を超え、国内の介護施設の60%以上が介護士不足に陥っているとされています。
医学部の定員や看護学校の枠の増加、外国人の採用といった対策が取られているものの、人材不足の根本的な解消には至っていません。
人材派遣や人材紹介業界
人材派遣や人材紹介業界は、2030年問題にくわえて、新型コロナウイルス感染拡大の影響も受けています。パンデミックの間は多くの企業が採用プロセスを一時停止し、有効求人倍率が大幅に低下。これにより人材派遣や人材紹介会社は需要の減少に直面したのです。
コロナ後も新しい雇用モデルの採用などで、引き続き競争の激化が予想されます。
建設業界
建設業界では、建築士、施工管理者、職人など専門的なスキルを持つ労働者の不足が深刻です。
労働人口の減少でただでさえ人材が不足するなか、建設業界は長時間労働や厳しい労働条件、3K(キツイ、キケン、キタナイ)といったイメージを持たれる場合もあり、思うように人材を確保できない企業も少なくありません。
そのため福利厚生や労働条件の改善が進んでいない企業は、今後も人材の採用が難しくなる可能性があります。
IT業界
日本では、IT業界で働く労働者の高齢化が懸念されています。
2030年には、AIやIoTのエキスパート、サイバーセキュリティ専門家、ビッグデータエンジニアといったIT人材の需要が高まると予想されているものの、日本ではIT人材の高齢化による供給不足に陥る恐れがあるのです。
新たなIT人材の育成が急務であり、とりわけ若手層への投資と教育が不可欠でしょう。
観光業界
現在、訪日観光客がコロナ前の水準に戻りつつあり、需要は増加傾向にあります。しかし人材不足が観光業界全体の低迷を招きかねないと考えられているのです。
政府は2030年の訪日観光客の目標を6,000万人としているものの、業界では「高齢化した団塊世代の退職や離職」「業界への若手の誘致の難しさ」などの理由で、将来的な人手不足が懸念されています。
運輸や倉庫業
物流業界では、2030年までにトラック運転手や倉庫作業員の不足がさらに深刻化するといわれています。
主な原因とされるのが、アマゾンや楽天などのeコマース(ネット取引)の拡大。eコマースの拡大による流通量と業務量の大幅な増加が人手不足を加速させており、この傾向はコロナ終息後も長期化すると見られています。
航空業界
航空業界も、2030年問題で人手不足が懸念される業界のひとつ。パイロット、航空管制官などの高度なスキルを持つ人材の不足に直面しており、2023年で7,000人以上の不足が起こると予想されています。
さらに航空専門学校への入学者の不足、整備士不足も問題となっており、需要に対して供給が追いついていない状況です。