360度評価の効果的なやり方とは、実施の目的を明らかにして、適切なフィードバックを行うこと。ここでは360度評価を効果的なものにするためのポイントや評価項目の例、360度評価の注意点などについて解説します。
目次
1.360度評価には効果的なやり方
360度評価とは、上司や人事担当者だけでなく、被評価者に関係するさまざまな人が一人の社員を評価する制度のこと。同僚や部下など多角的な立場から評価するため、公平性が高く、被評価者の納得感も得やすくなっています。
360度評価は幅広い立場から評価を行うため、被評価者に「さまざまな人が自分を理解して評価しているため、評価に偏りがない」という安心感や信頼感を与えられるのです。
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2.360度評価を効果的に行うポイント
360度評価を効果的に運用するには、何に気をつければよいのでしょう。そのポイントは、下記のとおりです。
- 評価基準や運用ルールを明確にする
- フィードバックを行う
- すべての社員を対象にする
- 評価項目数を絞り込む
- 評価の反映先を説明する
①評価基準や運用ルールを明確にする
はじめに360度評価に対して明確な基準とルールを設けます。それと同時に実施する目的を説明し、全社員の理解を得ましょう。360度評価の目的や基準に納得できない社員がいるまま実施しても、公平性の高い評価や期待する効果は得られないためです。
また匿名性の担保や評価内容の他言禁止など、評価に不信感を抱かせないためのルールを決め、これを遵守する必要もあります。
②フィードバックを行う
360度評価は、評価結果を評価者と被評価者の双方にフィードバックします。もし適切なフィードバックが行われなければ、評価者は何のために360度評価を実施しているのかわからなくなるでしょう。それにより制度が形骸化するおそれもあります。
③すべての社員を対象にする
360度評価では評価対象をすべての社員にします。「特定の社員だけを評価する」「特定の社員のみが評価する」システムでは、公平性や客観性に欠けてしまうでしょう。
またすべての社員が被評価者になるため、自分も組織運営にかかわっているという実感を得られます。当事者としてのモチベーション向上を狙うのも可能なのです。
④評価項目数を絞り込む
評価の項目数が多すぎるとかかる時間が長くなり、評価者の負担が増します。360度評価は通常業務の合間に行うため、長い時間をかけると通常業務に支障を来してしまうでしょう。その結果、おざなりな評価になるおそれもあります。
しかし反対に少なすぎても具体性や網羅性に欠けて、適切なフィードバックができません。360度評価は1人の評価対象者につき10分程度で回答できる項目数が理想です。
⑤評価の反映先を説明する
「何のために360度評価を実施するのか」「評価結果はどこに反映されるのか」、たとえば「昇給や昇格などの人事評価として使用する」「組織運営の参考情報にする」のようにあらかじめ説明しましょう。
それがないと「何に使うのかわからず不安だ」と評価に不信感を抱かせてしまいます。
3.360度評価を効果的に運用するステップ
360度評価を効果的に運用するためには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。効果的に運用するためのステップを6段階にわけて説明します。
- 人事評価を目的とした評価にする:具体的にどのような基準で人事評価に反映するのか、も定めておく
- 人材育成を目的とした評価にする:自己評価と比較して被評価者の振り返りに活用する方法も効果的
ここで360度評価の将来的な目標や反映先、フィードバック方法などを定めておくと、評価者によるばらつきや不正行為を抑制できます。
評価項目はすべてをテンプレート化せず、被評価者に応じて質問内容を変更したり、能力や人格に左右されないシンプルな質問を選んだりと、目的に合わせて作成すると効果的です。
一般的に、一般社員に対する評価では業務遂行能力に関する設問を、管理職に対してはマネジメントに関する設問を織り込みます。
運用ルールや目的が正しく理解されていないと、360度評価に期待する効果を十分に得られません。それだけでなく人間関係の悪化やハラスメントの原因となる可能性もあります。実施の狙いや背景などについて、可能な限り丁寧に説明しましょう。
実施の途中に予期せぬトラブルが発生する可能性もあるため、はじめのうちはトライアルとして対象者を限定して実施するとよいでしょう。そこで発見した問題を改善していくと、本番でもスムーズに運用できます。
また所定の期間内に回答が終わるよう、一定のタイミングでリマインドをかけるのも重要です。
フィードバックは一般的に被評価者へ行います。しかし本人にくわえて被評価者の上長に行う場合もあるのです。これには被評価者と上長のあいだで情報が共有でき、相談や具体的なアドバイスがしやすいといったメリットがあります。
4.360度評価の効果的な評価項目例
先に触れたとおり評価項目は、一般社員に対するものと管理職に対するものとでわけて設定するのが一般的です。ここではそれぞれの立場から見た360度評価の効果的な評価項目について説明しましょう。
管理者向けの評価項目例
管理者向けの360度評価ではマネジメントに関する評価項目が中心になります。ポイントは次の2つです。
- 部下やメンバーに対して適切な目標や課題を設定しているか
- 部下やメンバーに対して適切な助言や指導を行っているか
360度評価の多くは人材育成を目的としています。そのため管理者が部下の成長に向けた課題を適切に設定しているか、またそれに向けた行動を促しているかが重要となるのです。
管理者の役割は目標や課題の設定だけではありません。目標達成に向けて適切な助言や指導も実施します。360度評価にて管理者は、自身の評価を客観的に見られるのです。
一般社員向けの評価項目例
一般社員向けの360度評価では業務遂行能力に関する設問が中心になります。以下2つのポイントをおさえて、仕事の結果だけでなくプロセスを重視した評価を行うのです。
- 業務を遂行するにあたって適切な行動がとれているか
- 上司やチームメイトと良好なコミュニケーションがとれているか
「困難を環境や周囲のせいにせず、自分の課題としてとらえられているか」「困っているメンバーを支援できているか」「現状に満足せず不測の事態を想定してそれを解決するための最善策を考えているか」など、仕事に必要なスキルや取り組む姿勢を評価します。
5.360度評価の評価項目テンプレート
360度評価の実施に際して、1から質問項目を作るのは手間と時間がかかるもの。評価項目をある程度固定したテンプレートの活用が便利です。
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360度評価とは、対象者の上司・同僚・部下など複数の人が人事評価をする手法です。360度評価のテンプレートはどう使うのかといった使い方とともに解説します。
1.360度評価のテンプレートとは?
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6.360度評価の注意点とデメリット
360度評価の効果を高めるには、何に注意したらよいのでしょう。またデメリットはあるのでしょうか。ここでは360度評価の注意点とデメリットについて説明します。
- 評価が主観的になりやすい
- 人間関係に影響が出る可能性も
- 正直に評価できない可能性も
- 指揮命令に影響をおよぼす可能性も
- 評価に一貫性を持たせるのが難しい
- 工数や時間がかかる
①評価が主観的になりやすい
360度評価の失敗として多いのが、評価が主観的になってしまうケース。360度評価を効果的なものとするには公平公正な評価が欠かせません。しかし人が人を評価する以上、多少なりとも主観的な観点が入ってしまいます。
また評価することに慣れていない社員の場合、主観的になりやすいです。この問題をカバーするためにも、360度評価の目的や具体的な評価方法を周知する必要があります。
②人間関係に影響が出る可能性も
360度評価の内容がポジティブになるとは限りません。なかには同僚や部下から批判的なコメントを受けたり、本人が思っているよりも低い評価を受けたりする可能性もあります。それにより評価者と被評価者の関係性に悪影響が出てしまうかもしれません。
そのためにも評価を匿名制にしたり、人事部が評価者を指定したりしましょう。
③正直に評価できない可能性も
前述した人間関係への影響をおそれて、正直に評価ができない問題も考えられます。「この人とは気まずくなりたくないから高めに評価しよう」「低い評価をしたのが自分だとバレないよう無難な評価にしよう」といった問題が生じてしまうのです。
反対に仲の悪い社員に低い評価をつけたり、自分に低い評価を付けた人に低い評価を付け返したりする場合もあります。公平性を保つためにも、実施する前は評価の目的を伝え、適切な評価方法を周知しましょう。
④指揮命令に影響をおよぼす可能性も
360度評価では上司が部下から評価を受ける場合もあります。つまり上司が高評価を得たいがために、部下への適切な指揮命令ができなくなる可能性もあるのです。
「今のやり方では効率が下がるけれど、部下からの評価を下げたくないから指摘しないでおこう」「評価結果は昇進に影響するので、部下からの評価が上がるような指示をしよう」、こういった意識を働かせないため、360度評価を匿名で行う企業もあります。
⑤評価に一貫性を持たせるのが難しい
360度評価の効果を高めるには、評価に一貫性を持たせる必要があります。しかし評価に慣れない社員が公平な評価をするのは、そうかんたんなことではありません。
何を基準に判断すればよいのかわからないまま評価した結果、評価した社員によって評価結果にばらつきが生じてしまう可能性もあります。こうした問題を防ぐためにも、360度評価の目的や周知、評価基準の明確化が重要なのです。
⑥工数や時間がかかる
360度評価では部署や立場を超えて評価する場面が多いです。またさまざまな立場から評価するため、本来であれば評価しない社員を評価する工数が増えます。そもそも被評価者とのつながりが希薄な人は、被評価者を知ることからはじめなければなりません。
さらに評価をチェックしてデータ化する人事担当者の業務も増加します。そのためツールやテンプレートなどをうまく活用して、工数や時間の削減を考えなくてはなりません。
360度評価の失敗理由とは? 失敗例と原因、防ぎ方を簡単に
社員の納得度を高める評価手法の一つとして注目を集める360度評価。多くの社員を巻き込むからこそ、失敗したくありませんよね。本記事では360度評価の失敗例とそこから学べる「成功のポイント」をご紹介します...
7.360度評価を効果的に運用している企業例
360度評価は国内でも大企業を中心に多くの企業が導入しています。ここでは360度評価を導入して効果を上げている企業の事例について説明しましょう。
ディー・エヌ・エー
インターネット関連企業のディー・エヌ・エーでは「360°フィードバック」という名前で360度評価を実施。360度評価は一般的に無記名で運用されます。しかし同社ではあえて記名式にしているのです。
その結果、「誰からどのような評価を受けたのか」がダイレクトに伝わり、被評価者の課題も明らかになりました。またこれにより双方のコミュニケーションが活性化し、改善サイクルも早まったのです。
メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」で知られるメルカリでは、社員同士が成果給を送り合う「ピアボーナス」のしくみを360度評価に活用しました。これは立場や役職に関係なく、社員の行動に優良性があると認識した際、ょっとしたボーナスを送り合う制度です。
ピアボーナスの活用によって360度評価が定着し、評価時期にかかる負担の削減にもつながりました。
アイリスオーヤマ
生活用品の製造販売会社であるアイリスオーヤマでは、360度評価を行う対象を管理職階層だけでなくパートや契約社員にまで広げています。
主任以上の幹部社員用と一般社員用、2種類の質問項目を作成し、部門や役職による評価目線の違い、回答の偏りなどの問題解決につなげている事例です。
また幹部社員の評価結果は人事評価と人材育成に、一般社員の評価結果は人材育成にと、反映先をわけて利用しています。
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360度評価の導入を考えているけれど、どのような運用をしていいか分からないなどお困りではありませんか? このページでは360度評価をうまく活用できている企業の事例を集めて紹介していきます。
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