医療の発達、栄養状態や衛生環境の改善などによって、人生は100年時代を迎えています。ひとりの人間の人生が100年続くとなったとき、働き方や生き方はどのように変化させるとよいのでしょうか。
この問題は、個人レベルを超えて国家プロジェクト、さらには世界レベルで取り組むべき社会問題でもあります。長寿社会における人生設計や構想について考えていきましょう。
目次
1.人生100年時代とは?
そもそも人生100年時代とは、どのようなことを指すのでしょう。人生100年時代とは、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の著者であるリンダ・グラットン教授が提言しました。
人生100年時代とは、「寿命が(100歳前後まで)今後伸びていくにあたって、国・組織・個人がライフコースの見直しを迫られている」という内容を表す言葉として登場します。
つまり個人の人生設計といった狭義にとどまらず、国家的な課題であることを初めて社会に訴えかけたのです。長寿国家として名高い日本でも、2017年9月に日本政府によって「人生100年時代構想会議」が開催されています。
本『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の紹介
ここで、長寿時代の人間の生き方を書いた本、『LIFE SHIFT』をもう少し詳しくご紹介しましょう。著者のリンダ・グラットン氏は、英国ロンドンビジネススクールの教授です。
健康で長い人生において、過去の資金計画は崩壊し、労働市場は大きな変化を余儀なくされるとし、
- 男女の役割分担の変化
- お金に換算できない資産がクローズアップされる
など新しい社会構造や価値観が生まれてくることを示唆しています。
人生100年時代構想とは?
日本政府はこの問題に早くから取り組んでおり、2017年9月8日に「人生100年時代構想推進室」の看板を掲げました。
そこでは人生100年時代構想を「『人生100年時代』の提言をもとに、自らが主導して、超高齢化社会の日本において経済・社会システムが今後どのようにあるべきかの構想」と説明しています。
一億総活躍社会の実現という言葉からもわかるとおり、
- 子供たちの誰もが経済事情にかかわらず夢に向かって頑張ることができる社会
- いくつになっても学び直しができ、新しいことにチャレンジできる社会
こうした社会づくりに積極的に取り組んでいるのです。
教育の負担軽減・無償化、リカレント教育、人事採用の多元化
日本政府が行う取り組みのなかでキーワードとなるのは教育です。教育の負担軽減・無償化は100年時代構想の柱のひとつとなっています。
まず2019年10月から3~5歳の子どもたちにおける幼稚園・保育園費用の無償化が始まる見込みで低所得世帯の0~2歳児も無償化の対象としています。
同時に待機児童の解消にも力を注ぎ、2020年度までに32万人を受け入れられるよう計画しています。
- 高等教育の無償化
- 給付型奨学金の支給額増大
などすべての子どもたちの可能性を広げる仕組みづくりが提案されています。しかし、子どもの問題だけではありません。
生涯にわたって学習を繰り返すことのできる教育システム、リカレント教育にも政府は積極的に取り組む姿勢を見せているのです。教育を行う側の人事採用の多元化にもメスを入れるなど、「人づくり革命」といわれるプランニングが進められています。
人生100年時代構想会議
人生100年時代構想会議の概要をもう少し見ていきましょう。人生100年時代構想会議とは、「人づくり革命」を掲げる日本政府が2017年9月に開催したものです。
「人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行う」(首相官邸ホームページより)ために設置されました。
- 幼児教育
- 高等教育の無償化
- リカレント教育
- 大学改革
- 高齢者雇用
といった議題を設定し2018年6月までの間に計8回の構想会議が行われ、リンダ・グラットン教授や有識者議員との意見交換会も開催しています。
2.人生100年時代の「働き方」
人生100年時代は、教育の問題だけではありません。人生100年時代と「働き方」の関係は、どのように考えていけばよいのでしょう。
リンダ・グラットン教授は著書『LIFE SHIFT』で、
- Explorer
- Independent producer
- Portfolio worker
など新ステージが誕生し、労働市場に存在する職種が大幅に入れ替えられる可能性があると説いています。
日本は健康寿命が世界一
リンダ・グラットン教授の著書『LIFE SHIFT』に引用されている研究では「2007年に日本で生まれた子供については、107歳まで生きる確率が50%ある」とのことです。
日本は健康寿命が世界一。超長寿社会において人々は活力をどのように持って時代を生き抜くか、この問題に取り組まなければなりません。経済・社会システムの実現に向けて、政策のグランドデザインを検討することが人生100年時代構想会議の抱える大きなテーマなのです。
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』 ( 2016年 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著)
キーワードとなる『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』には、何が記されているのでしょう。2つに要点を絞って考察します。
- 従来の「教育」「仕事」「引退」の3段階のライフコース
- Explorer・Independent producer・Portfolio worker
【要約①】従来の「教育」「仕事」「引退」の3段階のライフコース
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』では、「人が100年も健康に生きる社会が到来する時、従来の3つの人生ステージ(教育を受ける/仕事をする/引退して余生を過ごす)のモデルは大きく変質する」としています。
従来の3つの人生ステージでは、
- 25歳前後までのステージ 教育を受ける期間
- 25歳から60歳までのステージを 仕事をする期間
- 60歳以降のステージ 定年(引退して余生を過ごす期間)
と区分して考えていました。
年齢で区切られた人生のステージは、次のステージに行けば後戻りができない一方通行の道しか用意されていません。一方通行の道(ステージ)は、人生100年時代を迎えて大きく変革する必要性に迫られたのです。
【要約②】Explorer・Independent producer・Portfolio worker
人生100年時代で新たに誕生した人生のステージは3つです。
- Explorer 自分の生き方に関して考える時期、知識やスキルの再取得 (職業訓練・学び直しなど)
- Independent producer 組織に雇われず、独立した立場で生産的な活動に携わる人(フリーランスなど)
- Portfolio worker 異なる活動を同時並行で行う「(例)週3仕事、週1ボランティア、週1NPO活動など)
これらは、個人の状況、必要に応じてそれぞれのタイミングで自由に行き来ができる関係性を持っています。ExplorerからIndependent producer、Portfolio workerからIndependent producerへ、またIndependent producerからExploreへと、行ったり来たりが可能となるのです。
【まとめ】人生100年時代で必要となるもの
人生のステージが新規に構築されるとき、人生100年時代で必要になるものがあります。
教育
人生で長く活躍するために専門的技能を高めることは必須です。また身に付けた専門的技能は、世界中の競合との差別化に役立つでしょう。
多様な働き方
70歳超まで働くことを想定し、独立した立場での職業を考えることで、活躍の場を確保できるでしょう。
無形資産
お金や不動産といったような目に見える資産だけでなく経験や人的ネットワークなど、目に見えない無形資産をいかに積み重ねていくかがポイントになります。
人生100年時代の新しい働き方
人生100年時代の新しい働き方を考えた場合、「教育」「仕事」「引退」を一方通行で進むだけでは社会で通用しなくなります。
人生100年時代は単純な区割りではなく「引退」も含めその時々で「教育」と「仕事」が絡み合い、それぞれのステージを自由に行き来できるマルチステージの人生プランが必要になるのです。
- 自らの主体性を持ってキャリア開発に取り組むキャリア・オーナーシップ
- 「成果」を出すマインド
- そのための一般常識を含めた社会人基礎力
が必要不可欠な土台となることは間違いないでしょう。
3.人生100年時代で求められる人材像
人生100年時代に必要となるものは3つあります。
- 教育
- 多様な働き方
- 無形資産
「Explorer」「Independent producer」「Portfolio worker」の各ステージを自由に行き来する新しいライフコースにより、100年時代をクリエイティブに構築できるとわかりました。
では、人生100年時代で求められる人材像とは何でしょう。
「社会人基礎力(=3つの能力・12の能力要素)」
100年時代を生き抜くには3つの能力と12の能力要素で構成される「社会人基礎力」が必要だといわれています。これらは教科書に載っていないため、教師から教わることができません。
社会人基礎力は、職場や地域社会で多くの人と関わり合いを持つなかで身につく能力です。働きながら生涯を通じて学び直す姿勢、いわゆるリカレント教育を意識して個人個人が自分の100年ライフを構築する必要があります。
①前に踏み出す力 (アクション)
経済産業省の有識者委員会では、社会人基礎力を構成する要素のひとつに「前に踏み出す力(アクション)」を挙げているのです。
主体性を持ち続け、他人に働きかけを行うことで力を結集、設定した目的に向かって確実に行動を起こす力です。「前に踏み出す力(アクション)」は、能力要素3つが備わることでより力を発揮します。
- 主体性
- 働きかける力
- 実行力
自ら失敗を恐れずにチャレンジする力、仮に失敗しても粘り強くあきらめないで取り組む姿勢は、リカレント教育においても非常に重要なポイントといえるでしょう。
②考え抜く力 (シンキング)
社会人基礎力の構成能力には考える、すなわち物事に対して疑問を持つ姿勢と、それを継続して貫く姿勢を意味する「考え抜く力(シンキング)」も定義されています。
社会人基礎力の能力のひとつである「考え抜く力(シンキング)」も、3つの能力要素で構成されています。
- 課題発見力 現状分析を行い、目的や課題を自ら明らかにする力
- 計画力 課題に対して計画的に解決方法のプロセスづくりを行う力
- 創造力 新しい価値、製品、サービスを生み出す力
③チームで働く力(チームワーク)
社会人基礎力の構成能力にはもう一つ、忘れてはならない能力「チームで働く力(チームワーク)」があります。チームワークは多くの人と関わりながら、一緒に目標に向かって協力していく力です。チームワークは、6つの能力要素で構成されています。
- 発信力 自分の意見を他人にわかりやすく伝える力
- 傾聴力 相手の意見に傾聴する
- 柔軟性 対立意見や立場の違いを理解する
- 情況把握力 自分と自分をとりまく周囲との関係性を把握する
- 規律性 社会のルールを守る
- ストレスコントロール力 ストレスに対応できる
社会人基礎力とは? 3つの能力・12の要素とその鍛え方を簡単に
社会人基礎力とは、さまざまな人と仕事をしていくうえで必要とされる基礎的能力のことです。
ここでは社会人基礎力の3つの能力や鍛え方について説明します。
1.社会人基礎力とは?
社会人基礎力とは、社会人...
職場で求められる能力は?
ビジネスの世界に限定して考えた場合、職場で求められる能力はどのようなものなのでしょう。
職場に限定した場合、下記のような能力が必要になるでしょう。
- 新しい価値創出に向けた課題発見力
- 課題を発見するための「関係者からのアイディア収集力」
- 課題やアイディア実現のための「試行錯誤を惜しまない姿勢」
さまざまな人がいる職場では協働による問題解決活動力、すなわち「チームワーク」がベースになることは言うまでもありません。社会人基礎力を身につけたうえでこのような能力を最大限発揮すれば、企業目標、経営目標を達成できる優れた組織が誕生するでしょう。
まとめ
人生100年時代を生き抜くには、個人のみならず企業や社会、国家の仕組みに大きなパラダイム転換が必要です。
100年時代に必要となるものは、教育、多様な働き方、無形資産。日本政府も「人づくり革命」の一環として100年時代構想のなかで、教育の負担軽減・無償化やリカレント教育、人事採用の多元化といった施策を打ち出しています。
企業も、社会人基礎力を身に付けた社員を育成し、職場でその能力を発揮できるよう、また個人も生涯自己鍛錬の意識を持ちながら職務にあたることがいま以上に求められるでしょう。