高度プロフェッショナル制度は、働き方改革の中でも注目を集めている制度。新聞紙面やインターネット上にも、特定された高度な専門的業務に関する新しい働き方として多く登場しています。
高度プロフェッショナル制度は、以前から存在している裁量労働制と類似点があるので間違いやすいですが、それとは全く違った側面があるのです。
- 高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い
- 高度プロフェッショナル制度を導入した際のメリットやデメリット
など、制度の概要を見ていきましょう。
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1.高度プロフェッショナル制度とは? わかりやすく解説
高度プロフェッショナル制度とは、特定高度専門業務を対象とした新しい働き方です。
特定高度専門業務とは、「一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」を指し、一定の年収要件とは少なくとも1,000万円以上の年収をいいます。
職業の範囲は、
- 金融商品の開発業務・ディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
- 研究開発業務
など高度な職業能力を求められる業務が該当します。これらの条件を満たした労働者に成果型労働制を導入するというのが、高度プロフェッショナル制度です。
成果型労働制とは、「時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務などの適用除外とする新たな労働時間制度」を意味しており、新しい働き方といえるでしょう。
高度プロフェッショナル制度の目的
高度プロフェッショナル制度の創設目的はどのようなものなのでしょうか。
通常、労働に対する賃金は、時間を単位として支払われます。高度プロフェッショナル制度は、今までの働き方のベースとなる労働時間に関する制限を撤廃した働き方です。
すなわち、労働を時間で評価するのではなく労働を成果物で評価します。能力の高い人の労働生産性を、徹底した能力主義によって評価することが目的です。
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高度プロフェッショナル制度の対象業務、職種
対象業務の基準は、「高度の専門的知識等を要する」とともに「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」などの性質を満たすものとされています。次の4つに分類される業務、職種が対象です。
- 金融商品の開発業務・ディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
- 研究開発業務
これらの業務は専門性が高く、労働時間と成果物との関連性が強くないという特徴があります。そこに目をつけた高度プロフェッショナル制度は、時間に縛られることなく生産性の高い成果物を生み出すことを求めているのです。
医師は制度運用対象外
高度な専門性といえば、「勤務医といった職種も対象になるのではないか?」とお考えの人もいるでしょう。現時点で勤務医は、高度プロフェッショナル労働制の対象になっていないのです。
ただし、この制度が適用される業務に「研究開発業務」が含まれていることから、一部の研究に携わる医師に関しては制度適用の可能性も否定はできません。
現状では高度な専門的業務の範囲をどこまでにするか、はっきりしていない業務や職種もあるようです。
高度プロフェッショナル制度の対象者
高度プロフェッショナル制度の対象者に関しては、職種や業務のほかに2点、要件があります。
- 書面による合意に基づく職務の範囲内で労働する者
- 平均給与額の3倍を相当程度上回ること(具体的な年収額は、「1,075 万円」を目安に法案成立後に審議会で検討の上、省令で規定する)
高度プロフェッショナル制度の対象者が際限なく広がることを予防するため、「書面による合意に基づく職務の範囲」という規定を設けてあります。
それとともに、高度な職種を証明するような年収額の目安として、
- 平均給与額の3倍
- 1,075万円を目安
といった具体的な数値を設定しています。高度プロフェッショナル制度が厳密に実施されるように、制度設計の工夫がなされているのです。
2.高度プロフェッショナル制度と裁量労働制との違い
高度プロフェッショナル制度は、裁量労働制と類似していると思われがちな制度です。共通点はどこなのか、また裁量労働制との相違点にはどのようなものがあるのかを比較しながら、高度プロフェッショナル制度をひも解いていきましょう。
裁量労働制とは? 高度プロフェッショナル制度との共通点
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制を比較する前に、裁量労働制のおさらいをしておきましょう。裁量労働制は、労働時間の長さとは関係なく労働の質・成果によって報酬を定めることを可能にしている制度です。
このことから、高度プロフェッショナル制度との共通点が見えてきます。それは報酬を労働時間ではなく、労働の質や成果物で評価する点です。
対象職種や業種に違いはありますが、労働時間ではなく成果物によって報酬を定めることは2つの制度の共通点です。
残業代の有無
では、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制はすべてにおいて成果物を報酬の根拠としているのでしょうか。そこには少し違いがあります。
高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の定める法定労働時間と休憩・休日の規制が一切適用されないのです。
一方裁量労働制は、労働時間の計算を実労働時間ではなく、あらかじめ定められた「みなし時間」によって行います。また22時以降翌朝5時までの深夜労働が発生した場合、深夜手当など割増賃金が発生します。
法定休日に労働した場合も割増賃金が発生します。一部残業代の有無に関して、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制はその性質が大きく異なります。
対象労働者の年収の違い
高度プロフェッショナル制度では、年収1,075万円を目安にした労働者に限って制度が適用されます。対象労働者の職種や業種も、
- 金融商品の開発業務・ディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
- 研究開発業務
に限定されています。
一方、裁量労働制の場合、年収要件は設けられていません。
対象職種や業務も、研究開発、出版事業の取材や編集、システムコンサルタント、公認会計士や弁護士、証券アナリストなど19業務、および事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査および分析を行う労働者と幅広いのが特徴です。
労働基準法の適用
高度プロフェッショナル制度には、労働基準法の適用が一切ないのです。労働基準法の定める法定労働時間と休憩・休日の規制が適用されない理由はここにあります。
一方裁量労働制は、労働基準法の適用の範囲内で制度が運用されます。裁量労働制が休日や深夜労働に対して割増賃金の支払いがあることからも明らかでしょう。
労働基準法は労働者が就業するにあたっての最低限の基準を設定した法律ですが、高度プロフェッショナル制度は、その枠を超えた新たな働き方の制度といえます。
高度プロフェッショナル制度は「残業代ゼロ制度」
高度プロフェッショナル制度は「残業代ゼロ制度である」と耳にすることがあります。この言葉は、高度プロフェッショナル制度が労働基準法の適用外に位置する制度ということを象徴しているでしょう。
労働基準法は、労働に対する対価を労働時間で計算することを根幹に置いています。
高度プロフェッショナル制度は、労働時間ではなく成果物で報酬を算定するため、労働基準法の考え方から見れば、「残業代ゼロ制度」と見なすことも間違いではないでしょう。
しかし高度プロフェッショナル制度においては、労働基準法とは違った尺度で労働を考えている点を理解することが必要でしょう。
3.高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット
労働基準法の適用外である高度プロフェッショナル制度は、高度専門業務の働き方を支える新しい制度といえます。この制度を導入するにあたってのメリット、デメリットを把握することで、さらに制度への理解が進むでしょう。
メリット①:自由に出退勤、休暇を取ることができる
高度プロフェッショナル制度を導入することのメリットとして挙げられるのが労働者が自由に出退勤の時間を決められる、休暇の取得も自在という点です。
労働時間という概念の適用外なので、高度プロフェッショナル制度対象者は自分の業務や成果物に対しての責任を負う半面、いつ出勤し退勤するのか、いつ休暇を取るのかといった勤怠のすべてが自己管理となります。時間を自分で自由に使えることは、労働者にとって非常に大きなメリットです。
メリット②:労働効率の向上、企業収支が改善
高度プロフェッショナル制度では、労働時間よりも成果物が重要視されるため、時間外手当、休日手当などの概念が一切なくなります。
それにより「時間外手当が支給されないのなら、短時間で効率良い仕事をしよう」という労働者の意識向上が図れるでしょう。
無駄な残業代が減り企業収益が改善されるだけでなく、モチベーションが高い労働者の育成にもつながる点は、企業にとって見過ごせない大きなメリットです。
メリット③:成果と無関係な給与設定による不公平感が是正される
仕事の進行が遅い労働者の場合、必然的に労働時間が長くなります。成果が上がらないにもかかわらず労働時間だけが加算される従来の給与設定は、社内に不公平感を生み出していました。
高度プロフェッショナル制度は、労働時間ではなく成果物と給与設定が連動しています。仕事ができる労働者は、短時間で仕事を終了でき、それにより自由時間を生み出し、さらに給与も保証されます。労働時間による給与設定から生じる不公平感が是正されるというメリットが、企業と労働者双方に与えられるのです。
デメリット①:使用者が長時間労働を設定しても違法ではない
高度プロフェッショナル制度でも労働者保護のために年104日の休日(祝日除く週平均2日)と有給休暇5日付与という最低限の配慮が義務づけられています。
しかし、裏を返せば年104日の休日と有給休暇5日を付与すれば、休憩なしの24時間労働が合法という解釈を可能にします。このことで、使用者が長時間労働を設定しても違法ではない状態が恒常化するのではないかという危惧が叫ばれています。
デメリット②:成果が評価に結び付かないまま適用される可能性あり
高度プロフェッショナル制度の対象となっている職種にも問題があるのです。
金融商品の開発業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務の4種には、成果が出るまでに時間がかかるものもあります。成果が評価に結びつかないまま高度プロフェッショナル制度が適用される可能性があるのです。
- どのように評価をするのか
- 評価自体が可能なのか
といった疑問を解決しなければならない点が課題でしょう。
デメリット③:賃金格差が生じる可能性あり
高度プロフェッショナル制度を導入した際の評価について、賃金格差という別の課題も浮き彫りになります。労働者の生み出した成果物の評価は、業種や企業ごとに異なるものです。
業種や企業ごとで異なる評価をもとに報酬を算定すれば、賃金格差が生まれる可能性が高いでしょう。高度プロフェッショナル制度は、高度な職種が対象であるからこそ、成果型の評価制度を導入して高い報酬と時間的自由度を保証できます。
評価と報酬の関係性に格差が生じる場合、制度の揺らぎにつながる可能性も否定できないでしょう。
まとめ
高度プロフェッショナル制度は、労働時間でなく成果物で報酬を設定する制度で、対象は特定の高度な専門的職種や業種に限定されています。制度は労働基準法の適用外となるため時間外手当などは一切出ません。
しかし、労働者は自分で時間を自由に使って能力を存分に発揮できますし、企業はそれによって生産性が向上し、収益が改善する可能性も高くなります。
「残業代ゼロ制度」と揶揄される側面の存在も理解しつつ、制度の効果的な活用を労使で考えてみるのはいかがでしょう。