就職氷河期とは、2000年前後に発生した就職難の期間のこと。就職氷河期の由来や経緯、世代の現状と課題、対策などについて解説します。
目次
1.就職氷河期とは?
就職氷河期とは、1995年卒業から2005年卒業までの間に生じていた厳しい就職環境のこと。高校卒業であれば1975年から1985年生まれ、大学卒業であれば1970年から1980年生まれの人が就職氷河期の対象世代です。
この時期日本は多くの企業が新たな採用を控え、有効求人倍率が1.0を切るような状況が10年近くも続きました。こうした深刻な就職難であったため、就職氷河期といわれるようになったのです。
就職氷河期の由来
就職氷河期はもちろん造語です。そもそも氷河期は、地球の気温が長期間にわたって低下し、多くの大地が氷に覆われてしまう寒冷期を意味します。学生に対する求人状況が長期にわたって冷え込んだ就職難の期間を、氷河期になぞらえて表現したのです。
2.就職氷河期となった経緯
就職氷河期には、バブル崩壊と新卒の一括採用が関係しているといわれています。1985年の日本は、バブル景気と呼ばれた空前の好景気に突入します。しかし1990年、株価や土地価格が暴落。好景気は突然終了し、バブルが崩壊しました。
市況は好況から大不況に一気に転落し、多くの企業は営業利益の下落に備えて経費の圧縮に奔走。人件費の削減を目的に新卒の一括採用を止めるようになったのです。
就職氷河期当の失業率
厚生労働省の「職業安定業務統計」によると就職氷河期にあたる1995年から2005年までの10年間の失業率は平均で4.4%。最も悪化したのは2002年の5.4%でした。
コロナ過で社会不安が巻き起こった2020年の失業率は2.8%なので、就職氷河期の就職状況が相当冷え込んでいたとわかります。
3.就職氷河期世代について
就職氷河期は1970年から1982年に生まれた世代で、2021年時点では39歳から51歳になっているのです。ロストジェネレーション世代や団塊ジュニア世代と呼ばれる世代で、出生率が高く同時に大学進学率も上昇しています。
バブル崩壊による景気の低迷と、大学進学率の上昇や該当年齢の人口増などが重なり、大学へ進学したにもかかわらず非正規雇用や無職になった人も少なくありません。
就職氷河期世代の特徴
就職氷河期世代には、以下のような特徴があるといわれています。
- 真面目でストイック
- 資格取得に積極的
- 貯蓄に積極的で結婚には消極的
①真面目でストイック
厳しい就職活動のなか、限られた労働条件を受け入れたうえで就業した人も少なくありません。そのなかでコツコツと粘り強く与えられた仕事を的確にこなしていった結果、真面目でストイックな働き方が身についている傾向にあるのです。
②資格取得に積極的
就職氷河期の世代は、やむなく非正規で採用される、あるいはせっかく就職した企業が倒産するなどの状況に置かれていました。どのような環境にも対応できるよう、自分自身の価値を高めるため積極的に資格を取得する傾向にあります。
③貯蓄に積極的で結婚には消極的
将来の不安をつねに抱えているため、収入をできるだけ貯蓄に回す傾向も見られます。また同じく将来不安から結婚への姿勢は消極的といえるでしょう。現在、40代前後の層の婚姻率が低下しているという統計にも表れています。
4.就職氷河期世代における課題
就職氷河期から20年近く経過した現在でも、就職氷河期世代は雇用や年収など多くの課題を抱えています。また介護の問題に直面する年代になりつつあるのです。
- 非正規雇用の割合が多い
- 平均年収が低い
- 生活が不安定な傾向にある
- 8050問題
①非正規雇用の割合が多い
就職氷河期は、採用する企業にとっても生き残るために非常に厳しい経営を迫られる時期でした。それまで日本では当然とされていた終身雇用制度は崩壊し、非正規雇用を拡大せざるを得ないケースもあったのです。
そのため就職氷河期世代は、現在でも非正規雇用、いわゆるフリーターや派遣社員などで働く人が多いとされています。
就職氷河期世代の雇用の現状
総務省統計局発行の労働力調査基本集計(2019年平均)では、就職氷河期世代の35歳から44歳の約1,637万人の雇用形態を調査しています。内訳を見てみましょう。
- 正規雇用の職員や社員:891万人
- 非正規雇用の職員や社員:359万人
- 非労働力人口:204万人
- 自営業:96万人
- 完全失業者:31万人
- そのほか :56万人
就職氷河期世代の正規雇用は全体の約50%、非正規雇用は全体の約22%、職についていない人が全体の約15%といわれています。就職氷河期の影響はいまだに大きいといえるでしょう。
②平均年収が低い
就職氷河期世代は、ほかの世代と比べて平均年収が低くなっています。就職氷河期に見舞われる以前の世代、いわゆるバブル世代の年収と比較すると、平均して50万円程度の差があるともいわれているのです。
企業の業績低迷による年収の低下も考えられます。しかし大きな原因は、非正規雇用の増大によって全体の平均年収が引き下げられた点にあるといえるでしょう。
③生活が不安定な傾向にある
就職氷河期世代は生活が不安定な傾向にあります。その理由として考えられるのは、フリーターや派遣など非正規雇用者が多い点です。
非正規では満足な社会保障が得られないうえ、将来の退職金も期待できません。そのためロストジェネレーション世代の8割以上が、老後の生活資金や病気やけがなどで働けなくなる点に不安を感じているとされています。
④8050問題
8050問題もまた就職氷河期世代に影を落としています。8050問題とは、80歳の親の生活を50歳の子供が支えなければならないという状況を指し示す言葉です。
就職氷河期世代の親となる世代は後期高齢者と呼ばれる年齢に突入します。そのため就職氷河期世代は生活だけでなく、親の生活や介護など新たな問題を抱えてしまうのです。
5.就職氷河期世代支援プログラムについて
2019年5月、内閣府は就職氷河期世代を支援するプログラムを発表しました。就職氷河期世代に対する雇用促進や安定化を目的とした政府主導型のプログラムです。
概要
就職氷河期世代支援プログラムとは、働く意思を持ちながらも満足な就職に就けない、あるいは非正規雇用で働き続けている就職氷河期世代を対象にした政府の支援計画です。
50以上のプログラムが用意されており、そこには職業体験や資格取得推進などが含まれています。また社会人インターンシップや、採用した企業への助成金など、企業側への施策も行われているのです。
対象者
就職氷河期世代支援プログラムの対象者は、やむなくアルバイトや派遣などの非正規雇用で働いている人や、就業したくても希望する仕事がなく長期にわたって職に就いていない人。また社会とのつながりを持たないひきこもりの人も対象です。
ハローワーク求人では、就職氷河期世代を35歳以上55歳未満と定義しています。
施策の方向性
就職氷河期世代支援プログラムの具体的な内容を見ていきましょう
- 就職相談体制の強化
- リカレント教育の拡充
- 採用のインセンティブ強化
- アウトリーチの展開
- 支援の輪の構築
①就職相談体制の強化
就職相談体制の強化としてハローワークに専門窓口を設置し、就職までのサポートを一貫させました。
応募前には、キャリアコンサルティングや職業訓練の相談、応募書類の作成や面接指導、セミナーの紹介や生活設計などの支援を実施。さらに就職氷河期世代を歓迎する求人を紹介し、無事に就職が決定したあとも相談といったサポートを行います。
②リカレント教育の拡充
リカレント教育とは学校を卒業し就職した後に、再度必要な知識や技能などを学ぶこと。
就職氷河期世代支援プログラムでは就職や正規雇用に必要な訓練や教育を提供しています。たとえば公共職業訓練や求職者支援訓練などで訓練の内容は、機械や電気、建築や塗装、介護や保育、IT系などさまざまです。
③採用のインセンティブ強化
採用のインセンティブ強化とは、就職氷河期世代を採用する企業側にメリットを提示して採用機会の拡大につなげる施策です。たとえば採用選考を兼ねたインターンシップの推進や、採用企業への各種助成金の拡充など。また採用企業や採用された雇用者の良い事例を積極的に広報するのも、プログラム推進の一環です。
④アウトリーチの展開
アウトリーチとは、相談員や調査員が施設で待つのではなく、出張して積極的な働きかけを行う活動のこと。ひきこもりといった潜在的な支援対象者へ働きかけ、自立支援や相談や事例などの情報を本人および家族へ届けます。
たとえば地域若者サポートステーションや生活困窮者相談支援機関の拡充、民間NPOとの連携による支援などです。
⑤支援の輪の構築
支援の輪の構築とは、就職氷河期世代が抱える課題について地域のさまざまな機関で取り組む環境を構築すること。
地域の企業やNPO、地域包括支援センターや相談支援事業所、ボランティアや自治会などとの連携などにより、当事者への寄り添った支援を目指します。これらの施策にて企業と人材をマッチングする仕組みを作り、雇用機会の創出を促すのです。
6.企業が就職氷河期世代を採用するメリット
就職氷河期世代を採用し新たな戦力として迎え入れると、企業側に新たなメリットが生まれます。
- 人手不足を解消できる
- ベテラン社員と若手社員との架け橋になる
- 変化に対応できる
①人手不足を解消できる
就職氷河期世代は正規であれ非正規であれ、少なくとも10年以上の社会人経験と就業経験を積んでいます。よって仕事における最低限のマナーや姿勢は持ち合わせていると考えられるため、即戦力として期待できる人材といえるのです。
運送業や製造業、福祉業やサービス業など、これから人材不足が予想される業界では積極的な採用が検討されています。
②ベテラン社員と若手社員との架け橋になる
就職氷河期世代は、50代以上のベテランと30代以下の若手社員の懸け橋になりえます。就職氷河期世代は現在39歳から51歳。新卒採用を控えた企業にて現在40歳前後の社員数は、ほかの世代と比べて少ない傾向にあるでしょう。
このような企業では、40歳前後という年代がベテランと若手の間をつなぐ中堅社員として活躍が期待されます。
③変化に対応できる
就職氷河期世代は、仕事環境の劇的な変化に対応してきた世代でもあります。たとえば連絡手段は、電話やFAXからインターネットやメール、SNSなどに変化し、業務方法は手書き報告書作成からPCを活用するようになりました。
就職氷河期世代はこのような進化を柔軟に受け入れて対応してきた世代です。そのためこれから生じる変化に対しても、柔軟に対応できる世代と考えられます。
7.企業が就職氷河期世代を採用する際の助成金
就職氷河期世代を受けいれる企業に対して助成金の拡充がなされました。求職者や受け入れる事業主の状況によるものの、さまざまな制度が活用できるのです。
- 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
- トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
- 人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)
- キャリアアップ助成金(正社員化コース)
①特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
就職氷河期に正規雇用の機会を逃した、キャリア形成が不十分な人材を正規雇用する企業に対して助成される制度です。全業種が対象で、助成金は正規雇用後6カ月ごとに2回支給されます。その受給額は1人あたり25万円から60万円です。
ただし「雇い入れ時の満年齢が35歳以上55歳未満である」「ハローワークの紹介による採用」などいくつかの条件があります。
②トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
就業が困難な人材を企業が雇用する際、最長3カ月支給される助成金です。目的は就業経験やスキルが不足している人材のトライアル雇用を促進すること。対象者1人当たり1カ月で最大4万円が支給されるのです。
ただし求職者が雇い入れ時に55歳未満かつ、ハローワークにて個別支援を受けている必要があります。
③人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)
アルバイトやパートなどの有期契約雇用者に、企業が計画的な訓練を実施した際、支給される助成金のこと。訓練は正規雇用への転換や処遇の改善などが目的でなければなりません。
助成金は訓練時間に応じて以下のように変わります。
- 20時間以上100時間未満:10万円
- 100時間以上200時間以内:20万円
- 200時間以上:30万円
④キャリアアップ助成金(正社員化コース)
有期雇用や短時間労働、派遣など非正規雇用者に、正社員化や処遇改善などを行ってキャリアアップを実現した企業に支給される助成金のこと。助成金額はコースによって異なります。
支給を受けるにはキャリアアップ計画書を事前に提出し、管理者を配置したうえで適正な運用を行わなければなりません。