ビジネスのプロセスを根本から見直して大きな効果を得るBPR。現在、導入する企業や自治体が増えているそうです。BPRとはどういった考え方なのでしょうか。
- BPRの特徴・手法
- 導入事例
などを見て、具体的にイメージしていきましょう。
目次
1.BPRとは?
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、現在の社内の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計することです。
多くの企業では、スムーズな業務遂行のため、仕事の効率化を目指し業務改善を行っています。しかしBPRは、ただ業務そのものを改善するのではありません。
BPRのR(リエンジニアリング)には、根本から再構築するという意味があります。現存のルールを見直し、ビジネスを成功させるためのルールを構築し、成功するプロセスをつくり上げるのがBPRです。
BPRの定義と意味
BPRの定義は「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」。
BPRの意味は、現存の企業におけるルールや業務内容を抜本的に見直し、全面的に改善することです。部分的な改革ではなく、全体的に新しい組織構造や評価システムを構築するという意味を持ちます。
参考 民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究総務省BPRの定義に含まれる4つのキーワード
BPRの定義には4つのキーワードが含まれます。
- 根本的
- 抜本的
- 劇的
- プロセス
BPRを実践して成功に向かう際には、この4つのキーワードを含めた構造改革が必須です。
①根本的
根本的の意味は、今なぜ、それをどうして実施しているのか、根本から問いかけることです。
流されて仕事をしているうちは、目標に近づけません。現在行っている業務はなぜ必要なのか、このような組織にはどういった意味があるのか、といったことをひとつずつ見直します。
②抜本的
抜本的は、古くなった要素を思い切って捨てること。慣習だけで進めてきた業務などがあれば、それを切り捨て改善していくことが必要です。
- 決まっているから
- 慣れていて仕事がしやすいから
という理由だけに基づいて動いている業務や組織構造などはないでしょうか? 客観的に検討することが大切です。
③劇的
劇的は、大きな改善をすること。少しだけの改善や部分的な改善では、大きな成果を得られません。変革をするのであれば、大胆にできる限りの変化を成し遂げましょう。劇的な飛躍が得られます。
④プロセス
プロセスは、複数の要素をプロセスに取り込んで、顧客に価値を与えるアウトプットを伴う行動に変えることです。
2.BPRが広まったきっかけと目的
企業間で広まったきっかけは、1993年刊行の『リエンジニアリング革命』(マイケル・ハマーとジェイムズ・チャンピー共著)。著書の考え方が企業間で広く知れ渡り、導入する企業が増えました。
目的は、
- 古いビジネス構造を見直し、ゼロから業務や組織、価値観などを根本的に改善する
- 業績を上げ、顧客を得られる企業となる
ことです。
3.BPRと業務改善、それぞれの特徴と2つの違い
BPRと業務改善、それぞれの特徴と2つの違いは以下の通りです。
BPRの特徴
BPRの特徴は、
- 営業・販売・人事すべての部分を最適化
- プロセスそのものを根本から見直す取り組み
です。現在の業務内容やフロー、組織構造、規定や人事評価、品質管理、サービスの提供内容・方法などにおいて、顧客の価値になっていない部分を取り除き、改善していきます。
それぞれの部署の部分的な改善ではなくプロセス全体を見直すことで、企業を成功へと導く取り組みです。効率的に成果を上げるため既存ビジネスにおけるさまざまを根本的に見直し、再構築するのがBPRです。
業務改善の特徴
業務改善の特徴はプロセスを残したまま、部分的な改善を行うことです。日常業務に関するシステムを見直し、ムダや無理を改善し、本来の業務をスムーズに遂行できるようにします。
- 特定の部署や担当者に業務が集中して本来の役割が果たせない点をどうすればいいか、などを話し合い改善
- システムなどを検討し、情報がスムーズに流れるようにする
これらが業務改善です。業務改善の目的は仕事をしやすくし、効率化を図ることです。
2つの差異を比較
特徴 | 動き方 | |
業務改善 | 部分的に改善し、業務を効率化 | 少しずつ部分的に |
BPR | 企業におけるプロセスそのものを見直す | 一気に大きく改善 |
4.BPRの手法と進め方、5つのステップ
BPRの方法や進め方の指針は、5つのステップがあります。
- 目的・目標の設定、対象とする業務範囲の設定
- 業務内容、フロー、組織についての分析・課題の把握
- 戦略・方針の策定、実施方法の検討、ビジネスプロセスの設計
- 変更の実施
- 業務モニタリング、効果測定・達成度評価
①検討
検討では以下の内容を実施します。
目的・目標設定
まず、階層の異なる社員それぞれから改善すべき点を、トップからは企業戦略に応じた改善点を聞き出します。その後、それぞれの役割またさまざまな立場から話し合い企業戦略にのっとった目的・目標となるよう調整するのです。
把握できていない課題や問題を互いが認識することで、方向性も共通認識できるでしょう。
対象業務範囲の設定
対象業務や範囲・単位を設定します。
- 対象単位と改革のポイントとなるキープロセス
- 事業システムの再構築単位であるBSU(ビジネス・システム・ユニット)
を明らかにするのです。成功率を高めるには、どこまでが対象か明確にします。具体的なシナリオの設定は、BPRの成功につながるでしょう。
②分析
分析し、課題を把握
分析ツールを用いて、現状のプロセスがもたらす課題などを洗い出し、改善方法を検討します。課題を洗い出す際は、解決への施策が見えるような方法で行いましょう。
また、問題が多い点はしっかりと、問題が少ない点はあまり時間をかけずに、といった形で行うことも重要です。
分析ツールの紹介(ABCやBSCなど)
分析ツールにはいくつかあります。ひとつはABCというツール。時間と単位と回数をかける活動基準原価計算という方法にてコストを割り出し、それに対する効果が測定できるのです。
そのほか、BSCというツールがあります。
- 具体的な目標設定
- 現状を分析したマップ製作
- スコアカード作成
- BPRのポイントを検討
- 効果の評価
といったステップを通してコスト以外に対する効果を割り出します。
③設計
戦略や方針を決定、どのように実施するか検討
洗い出した現状や課題から、改善に向けた戦略や方針を策定します。その際、最初からやり直すことのないようあらゆる戦略を出し、そこから全員が納得できる戦略を決定するとよいでしょう。
また、
- システムや業務内容、業務の流れなどがバラバラになっているビジネスプロセスの標準化
- アウトソースできる業務
などについても検討します。
ビジネスプロセスの設計
あらゆる問題点や課題を、限られた時間の中で改善するのは難しいものです。さまざまな課題や問題点から、効果の高いものから優先順位をつけて、具体的なプロセスを設計します。
スムーズに進めるには、各種体制の整備が欠かせません。
- 取引先も含めたメンバーの構成
- 投資額に対するコスト
などの設計を行いましょう。重要なのは社内全体で共通認識を持ち、進めていくこと。各部門で内容を共有しながら設計しましょう。
④変更内容の実施
トップから「BPRの必要性と目的、ゴール」を発表する時間を設けたりWebを活用したりして、社員と共有しながら進めましょう。
BPRは大がかりな変革ですし、既存のビジネスプロセスを改善するには、時間がかかります。最終的なゴール以外に短期的目標も立てるとよいでしょう。
プロジェクト内に目安を設けるマイルストーン方式にて、
- 方針が逸れていないか
- 目的をクリアしているか
などを都度確認するとよりスムーズです。
⑤モニタリング・評価
- ビジネスプロセスに問題はないか、進み具合はどうか
- 問題があった場合、何が問題か
- 効果や成果はどのくらいか
などをモニタリングし、問題があれば修正します。システムに関しては、業務と情報の両面からのモニタリングが必要です。また各部署や部門の問題や様子、効果を共有しましょう。
短期目標においては、目標はどの程度達成されたかなどを評価しながら、BPRを実施します。
5.BPR導入の事例
岩手県
岩手県では、
- 仕事の効率化
- 財政改革
- 生産性の向上
が必要になり、BPRを導入。実施時、コンサルティング専門会社からのサポートを受けると同時に、現場の技術者とともに幅広い年齢層から選んだメンバーから10人程度のチームを構成し、推進体制を構築しました。
その結果、
- 業務プロセスの見直し
- 効率化の成功
- 残業を減らす
といった成果につながっています。しかし、改革の目的を適切に伝えていなかったため、成果が実感できないうちに別の改革が始まるなど、無理も生じてしまったのです。
今後の課題は、
- 無理が生じないよう期間を決めて実施
- 上司がコミュニケーションを積極的に取る
などでしょう。
佐賀県
財政状況の好転に向けて事業の見直しを図る目的のもと、導入されました。全業務を対象に、
- 赤字になっている商業ビルの倒産
- 都市計画の見直し
- 既存事業や計画の見直し
- 水道事業の共同化
- 総合窓口の設置
などを実施し、その結果、
- 追加的にムダな支出の抑制
- 職員から改善のアイデアが出る
といった成果につながったのです。また仕事の進め方の見直しという観点から業務プロセス改革に取り組む姿勢が重要という点も認識できました。
しかし、
- 複数の部門にわたって改革を実施する際、縦割りの壁が障害となる
- 資金調達の自由度がない
といった点が問題となりました。
静岡市
科学的な運用の必要性を感じ導入した静岡市では、学者からの指導のもと、幹部職員の研修から着手し、ゼロベースによる効果や成果を徹底することにしました。
- 1人1改革運動の実施
- 成果の報告
- ITの活用
などを実施した結果、
- 行政のスリム化
- 人員とコストの削減
に成功。また、1人1改革の実施によって、社員の意識改革につながりました。しかし、事業仕分けなどにボリュームがあり、評価において無理が見られたという課題も見つかっています。