完全失業率とは、労働力人口の中で完全失業者が占める割合のこと。総務省の「労働力調査」によって毎月算出されている雇用情勢を表す指標となっています。完全失業率について解説しましょう。
目次
1.完全失業率とは?
完全失業率とは、労働力人口のなかで完全失業者が占める割合のこと。総務省が行う「労働力調査」でも雇用情勢を表す指標となっており、毎月調査が行われています。
労働力人口とは、調査期間中に15歳以上であり労働意欲がある人のこと。そのため休業中の人や内職者なども含まれるのです。
対する完全失業者とは、調査期間中に仕事をしたくても就業できていない人や、求職活動の準備をしている人のこと。なお学生や高齢者は非労働力人口と見なされ、完全失業率の計算に含みません。
完全失業率が高いほど仕事を探している人が多いといえます。
完全失業率と自然失業率の違い
自然失業率とは、景気や社会情勢などに関係しない失業率のこと。疾病やインフレなどの影響で一時的に失業している人ではなく、そもそも働く気がない人や、労働条件をゆずらず失業が続いている人などが自然失業率に含まれるのです。
2.完全失業率の計算方法
完全失業率の計算方法は、「完全失業者÷労働力人口×100=完全失業率(%)」。完全失業率は%で表されるため、完全失業者数を労働力人口で割った数値に100をかけています。
労働力人口内にどれだけ完全失業者がいるかという割合になるため、完全失業率が高ければ高いほど、働く意欲はあっても就職できていない人が多い状況になります。
3.完全失業率の推移
景気が悪いと、完全失業率が上がる傾向にあります。バブルが崩壊した1990年ごろ、それまで2%前後だった完全失業率は上昇を始めました。さらに阪神・淡路大震災の影響もくわわって2003年と2009年には5.5%へ到達したのです。
その後完全失業率は下降して2018年には2%程度までになるほどの回復を見せます。しかし新型コロナウイルスの影響もあり、2020年には11年ぶりに完全失業率が上昇したのです。
年齢別
年齢別で見ると、どの年代でも若年層である15歳から35歳の完全失業率が高い傾向にあります。若年層は現状より良い条件の仕事を求めて離職や転職を志す人が多いため、完全失業率を高める要因のひとつになっているのです。
男女別
男女別に見ると男性より女性のほうが、わずかに完全失業率が高くなっています。この背景にあると考えられるのが結婚や出産による退職や、キャリアアップの不足など。
また女性が結婚後に再就職しても、パートやアルバイトなど非正規雇用での就業になりやすいです。結果、継続率が男性より低くなってしまいます。
地域別
2009年から2019年の地域別完全失業率を見ると、全国的に完全失業率は低下傾向にあります。なかでも「北海道」「南関東」「北陸」「近畿」「沖縄」の5地域は、前年の完全失業率を下回りました。とくに沖縄は対前年度増減で0.7%もの低下が報告されています。
「東北」「中国」地域は前年と比較してもほとんど変化はなく、「北関東」「甲信」「東海」「四国」「九州」の5地域は前年よりもわずかに上昇した結果となっています。
コロナ禍による影響
新型コロナウイルスの影響で、2020年から2021年の完全失業率は上昇。2020年1月は2.4%だった完全失業率が、同年8月には3.0%へ到達。2021年の7月までの期間で3%に到達しそうな数字となりました。
男女別では男性のほうが、完全失業率が高い傾向にあります。
国際比較
世界で比較してみましょう。2021年7月時点の国別完全失業率は、スペインの14.3%がもっとも高い数値です。続いてイタリアの9.3%、フランスの7.9%とヨーロッパ地域が高い傾向にあるとわかります。
一方アメリカは5.4%、韓国は3.3%、日本は2.8%。ここから日本は先進国のなかでも、完全失業率が低い国だとわかります。
4.完全失業率と有効求人倍率の関係
完全失業率と有効求人倍率は相反関係にあります。有効求人倍率とは、ひとりの求職者に対して何件の求人があるのかを示した数値のことで、調査対象は企業や事業所。
つまり有効求人倍率が表す指標は、人手不足となっている事業所がどれほど多いかを表すのです。有効求人倍率が高まると人手を必要としている企業が増えているため、好景気だといえるのです。
「有効求人倍率が高くなる=完全失業率が低くなる」ではない
一般的に、有効求人倍率が高くなれば完全失業率は低くなると考えられます。しかし有効求人倍率が上がれば完全失業率が下がると一概にいえません。
なぜなら景気に関係なく、つねに人手が不足している企業や業種、職種もあるからです。また有効求人倍率は景気の変化とほぼ同時に変わるものの、完全失業率は数カ月ほど遅れて変化が現れます。これも理由の1つとなるのです。
5.完全失業率が増加する要因
完全失業率が増加する原因はいくつかあります。ここでは下記3つの要因について見ていきましょう。
- 労働力人口の減少
- 雇用のミスマッチ
- 景気の悪化
①労働力人口の減少
労働力人口が少なくなると、労働力人口における完全失業者の割合が高くなり、完全失業率が増加します。完全失業率を計算するうえで、母数となる労働力人口が減少するからです。
日本では少子高齢化により労働力人口が年々減少しているため、完全失業率を減少させるのは難しいと予想されています。なお労働力人口の減少で起こる労働力人口の低下は、景気状況と関係しません。
②雇用のミスマッチ
求職者と求人側の雇用条件が合わないと完全失業率が増加します。仕事を探す求職者と人を雇いたい求人側の双方のニーズがマッチしなければ、雇用につながらないからです。
年代によって人手不足が発生する業種や職種は変動するものの、事務職といったデスクワークは希望者が過多になります。一方、医療や介護、建設などは人手不足に陥るというミスマッチが見られるのです。
③景気の悪化
景気が悪くなり、企業活動の抑制が起こると完全失業率が増加します。景気が悪化すれば企業は業務を縮小し、人件費を抑えるために人員整理の実施や新たな人材採用の見送りなどを行うからです。
また契約切りや派遣切りによって職を失った人たちが再就職しようとしても、企業の採用枠は少なくなっています。よって完全失業者が増加する悪循環に陥ってしまうのです。
6.完全失業率が社会に与える影響
長期就業できない人が増えて完全失業率が増加すると、社会的にもマイナスな影響が出てしまいます。ここでは完全失業率が社会に与える影響について見ていきましょう。
- 若年者の賃金に持続的な影響を与える
- 自殺者の増加
- 貧富の差
- 犯罪率の上昇
①若年者の賃金に持続的な影響を与える
失業率が1%上昇した際、中卒および高卒で就職した若者の賃金を調査したところ、卒業後12年にわたって賃金が5%から7%低下しているとわかりました。
失業率が低下しているというのは、景気が低迷している状態です。このタイミングでは正規雇用が難しくなるため、非正規雇用の派遣社員やアルバイトで働かざるを得なくなります。
②自殺者の増加
完全失業率が高くなると、失業者の自殺が増える傾向にあります。仕事に就けず将来に対する希望が持てないうえ、金銭的問題も同時に起こるため生きることが困難になるからです。
実際、完全失業率の増減と自殺者数の推移は一致しています。バブル崩壊やリーマンショックの発生後、自殺者は大きく増加しました。
③貧富の差
完全失業率が増加すると、働ける人と働けない人の間で貧富の差が大きくなります。収入の無い失業者が増える一方、働けるポストを確立している人は継続して収入を得られているからです。
実際に生活保護の回帰分析では、高齢化率の値が5.81、離婚率が6.23、完全失業率が8.04となりました。完全失業率が向上すると働きたくても働けないため、やむを得ず生活保護率を受給する人が増えてくるのです。
④犯罪率の上昇
完全失業率と犯罪発生率もまた、相関係数が高いといわれています。失業して収入源が無くなり、生活に困った失業者が金銭を得るために犯罪に手を染める可能性があるからです。
車上荒らしや強盗といった犯罪だけでなく、高額な金銭を得やすい詐欺や違法な取引なども含まれます。犯罪発生率が増えれば地域の治安は悪くなり、市民に危険がさらされる可能性も高まるでしょう。
7.失業の種類
一概に失業といっても3種類あります。3つの要因から発生した失業の種類について、詳しく見ていきましょう。
- 構造的失業
- 摩擦的失業
- 需要不足失業
①構造的失業
産業や就業状況によって起こる失業のことで、景気に関係なく起こるのです。
現在、グローバル化やIT化によって、労働者を雇わなくても仕事できる社会構造が生まれつつあります。これまで人が行っていた手作業を機械やテクノロジーが代行できるようになったからです。
なお近年、企業が求めている年齢や性別、キャリアやスキルなどが求職者とマッチせず失業を生む状況も、構造的失業と定義づけられるようになりました。
②摩擦的失業
職探しの期間によって起きる失業のこと。求職者は自分のスキルを生かせる仕事や、キャリアアップにつながる仕事を求めています。しかし求職者が新しく就職先を見つけようとしてもすぐに見つかるとは限りません。
求めている条件の求人がない、あるいは求人があっても書類選考が通過しないと失業期間は長引いていくでしょう。やっと面接にこぎつけても、期待していた仕事でなければ採用されても辞退するかもしれません。
このように自分に合った仕事や職場を追及する気持ちが強い人ほど、摩耗的失業に陥りやすいのです。
③需要不足失業
景気に左右される失業のこと。景気が悪くなると業務を停止あるいは縮小する必要が出てきます。サービスや商品の生産を抑えるだけでなく、経費で大きな割合を占める人件費の削減にも乗り出さなくてはなりません。
ただし需要的失業は、景気の回復とともに回復する傾向にあります。
8.完全失業率を下げるための取り組み
国や行政機関では、完全失業率の低下に向けた取り組みを実施しています。完全失業率の増減は、景気や社会情勢に大きく影響するからです。ここでは完全率業率を下げるための取り組みについて、見ていきましょう。
国と自治体の雇用対策協定
国と地方自治体の間で雇用対策協定を締結し、完全失業率を低下に向けた取り組みを行っています。
たとえば北海道では正規雇用を希望する求職者へキャリア形成を支援し、「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が職業訓練をサポート、ハローワークが職業を紹介するという連携を実施。
京都府では、労働局や独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構などと連携して、職業訓練から就職までをフルサポートする施設を実現させました。
そのほか奈良県では労働局と連携して、職場実習や障がい者雇用に関する相談など、障がい者の就業支援を行っています。
労働局・ハローワークによる人材確保支援
労働局やハローワークも、企業の人材確保を支援して完全失業率を低下させています。
宮城県仙台市では、ハローワークを利用する企業の誘致や労働市場調査などを実施。同県名取市では、誘致企業に対して説明会や公別相談会を行っています。
鳥取県松江市では、企業が求める情報と求職者が求める雇用条件をマッチングし、企業説明会の周知や案内を行いました。さらに早期人員確保を実現するため、隣接するハローワークにもあっせんを依頼しています。
雇用調整助成金
新型コロナウイルスの影響で休業しなければならなくなった事業者に助成金を支給する制度のこと。目的は労働者へ支払う休業手当などの一部を助成し、労働者の雇用を維持することです。
すべての業種が助成金の対象で、労働者がアルバイトやパートでも1人あたり最大1万5,000円の給付を受けられます。