2020年4月、「働き方改革」の一環として改正労働者派遣法が施行されます。派遣労働者を保護する目的でつくられた労働者派遣法はこれまで世の情勢に合わせて何度も改正されてきました。
ここでは「労働者派遣法」の歴史を振り返りながら、2019年に改正された「労働者派遣法」の内容や違反事例について見ていきます。
目次
1.労働者派遣法とは?
まずは労働者派遣法という法律について確認しておきましょう。派遣労働という働き方が一般化した現在の日本において、派遣労働者は正規雇用の社員よりも低賃金で雇用できるという特徴から重宝されつつあります。
しかし派遣労働者は仕事ごとに契約期間や賃金などが定められているため、収入が不安定になりやすい傾向にあるのも事実です。
労働問題に代表されるように不安定な労働条件から現場での犠牲者となってしまうことも珍しくない派遣労働者を守るためにつくられた法律が労働者派遣法なのです。
派遣という働き方
派遣という働き方は派遣労働者、派遣元(派遣会社)、派遣先の3つから成り立っています。派遣労働者は派遣元と雇用契約を結び、派遣元は派遣先と労働者派遣契約を締結しているのです。
実務の指揮命令は派遣先企業と派遣労働者間に発生しますが、雇用関係があるのは派遣労働者と派遣元の間のみとなり、働ける期間も決まっています。
2.派遣労働者の就業実態
「派遣」という働き方が一般的になって久しいですが、実際に派遣労働者の就業状況はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省が発表した資料によると、平成29年10月時点で派遣労働者が存在する事業所は12.7%。産業別に見ると最も多いのは「情報通信業」の30.1%で、「運輸、郵便業」の21.6%、「金融、保険業」19.3%と続きます。
また事業者規模別に見ると従業員1,000人以上の企業が83.5%、300~999人が63.8%と大規模な企業ほど多く、小規模な企業ほど少なくなっていることが分かったのです。
3.労働者派遣法の歴史
1986年に施行された「労働者派遣法」は、今日に至るまで何度も改正が行われてきました。ここではその歴史について振り返ります。
1986年
1986年に施行された当初、派遣労働者の業務は一部の特筆すべき技能を有する13の業務に限定されていました(同年16業務に変更)。また派遣期間にも上限が設けられ、基本的に1年以上続けることはできなかったのです。
もともと人材派遣は「労働者供給」という禁止事業の中に含まれていました。しかし高度成長期後の経済社会の成熟とともにニーズが高まり、労働者派遣法が成立したのです。
1996年
その後バブル景気の影響もあって人材派遣市場は順調に伸びていきます。しかし1990年代に入ってバブル経済が崩壊。やがて直接雇用の人件費を変動費である人材派遣に置き換えようとする動きが出てきました。
また民間企業の活力を引き出そうという政府の基本方針から規制が緩和され、適用対象業務が16業務から26業務へと拡大します。ソフトウェア開発やファイリング、財務処理やアナウンサー、広告デザインなどを含む26業務は「政令26業務」と呼ばれています。
1999年
規制緩和の波はさらに強くなり、1999年の改正で対象業務の原則自由化が実現しました。それまで派遣労働を認可するものだけを指定していた「ポジティブリスト方式」から禁止するものを指定する「ネガティブリスト方式」に転換されたのです。
一方で士業や医療業務など禁止となる業務も本改正により決定しました。また政令26業務は3年、新しく追加されたものは1年という期間制限も設けられたのです。
2000年
企業の人材派遣に対するニーズはさらに拡大します。2000年には許可基準の改正によって直接雇用を前提とする「紹介予定派遣」が解禁となりました。
「紹介予定派遣」とは派遣契約期間が終了した時点で派遣労働者が「この会社で働きたい」、派遣先企業が「この人に働いてもらいたい」と思いが一致した場合のみ直接雇用へ切り替えられるシステムです。
これにより派遣労働からのキャリアアップが見込めるようになりました。
2004年
2004年には以前からニーズの高かった製造現場への派遣が解禁となりました。雇用形態の多様化が進んできたのもこの頃からです。労働者派遣をはじめとする外部人材の調達は経営側の要請に対応した形で進展していきます。
また政令26業務の派遣期間が無期限に、1999年に自由化されたその他の業務も1年から3年へ期間が変更されました。
2006年
2004年の製造業務解禁に続き、2006年には同じく労働者派遣が禁止されていた医療業界の一部でも労働者派遣が解禁となりました。それまでは病院や診療所での医療業務は禁止とされていたのです(紹介予定派遣は可)。
これには医師の確保が困難な離島や過疎地域などの医師不足の解消と、医療従事者の仕事と家庭の両立支援という目的があったといわれています。
2007年
更に翌2007年、製造業務での派遣期間も変更となりました。2004年に解禁された製造業務への人材派遣は最長1年間という制限がありましたが、現場のニーズによって最長3年に延長されたのです。
1990年代から2000年代にかけて、日本経済は低成長期に直面しました。そのため数次にわたって派遣業務の対象範囲拡大や派遣期間延長が行われたのです。
4.労働者派遣法の改正(2012年)
比較的新しい業界ともいえるわが国の人材派遣ですが、2010年代に入って大きく変わっていきます。2008年のリーマンショックを皮切りに製造業を中心とした派遣切りや雇い止め、人材派遣をめぐる違法行為の発覚などが相次ぎました。
そして2012年、日雇い派遣の禁止や政令26業務の増加などさまざまな規制を強化する方向性が打ち出されたのです。
マージン率の公開
2012年の改正まで、派遣元から労働者に賃金を支払う際、派遣元のマージン率がいくらになるのか分かることはありませんでした。しかし雇用情勢の急激な悪化に伴って派遣労働者の保護が見直されます。
本改正により労働者や派遣先が適切な派遣元を選択できるよう、インターネットなどにより派遣元のマージン率の情報提供が義務化されたのです。
派遣元は、労働者と労働契約を締結する際や派遣先に労働者が派遣される際、派遣料金の額を明示する義務があります。
待遇の説明
併せて派遣元は労働契約の締結前、労働者に対して待遇に関する事項などを説明することが義務化されました。それにより派遣労働者は、以下3つの待遇に関する事項説明を受ける必要があるのです。
- 雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること
- 派遣元の事業運営に関すること
- 労働者派遣制度の概要
法律の正式名称が「労働者派遣業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と変更され、派遣労働者の「権利保護」を目的とした法改正が行われたのもこのときからです。
待遇の配慮
派遣元は賃金や職務内容、福利厚生などにも配慮する必要があります。派遣労働者の賃金を決定する際は、派遣先で同種の業務に従事する労働者の賃金水準や、派遣労働者の職務内容、成果、意欲、能力、経験などに配慮しなければなりません。
これは賃金だけでなく、教育訓練や福利厚生などについても同様です。マージン率には社会保険料や派遣労働者のキャリアアップのための派遣元負担費用なども含まれています。
マージン率が低ければよいというものではありません。どのような費用に充てられているか、派遣先労働者との差を抑えるためにどのようなことに使われているかが重要なのです。
無期雇用への転換
本改正では、労働者の希望によって有期雇用から期間の定めのない無期雇用への転換が進められるようになりました。派遣元は雇用期間が通算1年以上の派遣労働者の希望に応じて以下いずれかの措置を取ることが努力義務となったのです。
- 無期雇用に転換する機会の提供
- 派遣先での直接雇用推進(正社員や契約社員などで直接雇用されることを前提とした紹介予定派遣の対象とすること)
- 無期雇用の労働者へ転換を推進するための教育訓練実施
日雇い派遣の禁止
若年層の貧困化やワーキングプアの急増など、社会問題の一因に考えられていた日雇い派遣もこの改正で原則禁止となりました。日雇い派遣は派遣元、派遣先それぞれで雇用管理責任が果たされておらず、労働災害の原因にもなっていたのです。
ただし以下の条件を満たす場合は30日以内の日雇い派遣が認められます。
- 禁止の例外として政令で定める業務について派遣する場合(ソフトウェア開発や機械設計、添乗や研究開発など)
- 以下に該当する人を派遣する場合「60歳以上の人」「雇用保険の適用を受けない学生」「副業として日雇派遣に従事する人」「主たる生計者でない人」
1年以内の再就業は禁止
この改正により、離職後1年以内は、派遣労働者として勤めていた元の会社で働くことができなくなりました。本来直接雇用として継続雇用するべき労働者を派遣に切り替え、労働条件を切り下げるといった行為を防ぐためのものです。
結婚や出産、親の介護のために退職した後、派遣として以前と同じ会社に復帰しようと考えている人は、この部分に注意しましょう。また受け入れを禁止される派遣先は事業者単位となり、事業所単位ではありません。
グループ企業への派遣規制
人件費の節約などを目的に大手企業が人材派遣会社を子会社として設立し、同社が親会社およびそのグループ企業各社に労働者派遣を行うことを「グループ内派遣」といいます。
派遣先の大半がグループ内だった場合、派遣元が本来果たすべき労働力需給調整機能としての役割が果たされていないということになるでしょう。よって派遣元は、グループ企業への派遣割合を全体の8割以下に制限するよう規制されたのです。
これにいち早く対応したのが大手銀行グループでした。やがて他の業界に波及し、派遣業界全体の再編が進められました。
派遣先都合での契約解除時に配慮
派遣先の都合で派遣契約を解除することになった場合、派遣元は以下2つの措置を取ることが義務付けられています。
- 派遣労働者の新たな就業機会の確保
- 休業手当などの支払いに要する費用の負担
これらは労働者派遣契約の中途解除によって、派遣労働者の雇用が失われることを防ぐためにつくられたものです。派遣元は派遣契約時にこれらの措置について明記しなければなりません。
なお派遣先が直接、派遣労働者に契約の中途解除について通知することはトラブルの原因となります。できるだけ避けましょう。
5.労働者派遣法の改正(2015年)
2015年に改正された労働者派遣法のポイントを見ていきましょう。
許可制に変更
これまで、許可要件を満たさず特定労働者派遣事業と偽って一般労働者派遣事業を実施していた事業者が存在していたのです。
特定労働者派遣事業とは派遣元に常時雇用された労働者を他社に派遣する形態のこと。ここには、特定労働者派遣事業に資産や預金への要件がなく、法定費用がかからないため特定の事業所に対して技術者を派遣する事業者が多かったという背景があります。
本改正では適切な派遣事業が遂行されるよう、すべての労働者派遣事業が許可制に変更されました。
キャリア形成支援制度の実施
派遣元に対して派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めるよう義務付けられました。これは派遣労働者が正規雇用労働者に比べて職業能力形成の機会が乏しいという現状を踏まえて講じられたものです。
派遣元は派遣労働者に対して教育訓練や相談窓口の設置などキャリアアップに関する施策を行う必要があります。派遣労働者のキャリアアップ支援が義務付けられたのはこれが初めてのことでした。
派遣期間の制限
特に注目が集まったのが「3年ルール」「2018年問題」と呼ばれる派遣期間の制限です。
同一事業所への派遣
これまで、専門業務が必要とされる政令26業務には期間制限がかけられず、その他の業務には最長3年の期間制限がかけられていました。
2015年の改正により、施行日以後に締結された労働者派遣契約には、すべての業務で同一事業所に対する派遣期間は原則3年が上限となる「派遣先事業所単位の期間制限」と後述する「派遣労働者個人単位の期間制限」2つの期間制限が適用されることになりました。
同一労働者の派遣
「派遣労働者個人単位の期間制限」では同じ労働者を同じ課や部など同一組織に派遣できる期間は3年までと定められました。
組織単位を変えれば同一の事業所に引き続き同一の派遣労働者を派遣できます。しかし、事業所単位の期間制限による派遣可能期間が延長されていることが前提です。
なお育児休業や介護休業等を取得する労働者の代理など条件を満たした場合は例外となり、期間制限がかかりません。また60歳以上の派遣労働者を派遣する場合や終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣する場合も例外です。
雇用安定に向けて
派遣元には、同じ組織に1年以上労働者を派遣するなど特定の状況下において、労働者の雇用継続に向けて措置を講じることも義務付けられました。派遣期間の上限で雇い止めとなるケースが多発し、継続雇用が保証されなかったためです。
派遣元は、派遣先への直接雇用の依頼や新たな派遣先の提供、派遣元での無期雇用、その他安定雇用のための必要な措置を講じなくてはなりません。これには新たな就業の機会を提供するまでの間に行われる有給の教育訓練や、紹介予定派遣なども含まれます。
6.労働者派遣法の改正(2019年)
これらの改正を経て、派遣先労働者と派遣される労働者との間に存在する待遇の差を改善するため2019年に新たな改正が行われました。
本改正の基本的な考え方となるのが、派遣先に雇用される通常の労働者(無期雇用フルタイム労働者)と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消することを目指した「派遣労働者の同一労働同一賃金」です。
待遇を確保
不合理な待遇差を解消するため、企業には「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」のいずれかの方式によって派遣労働者の待遇を確保することが義務化されました。
待遇決定方式が「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」いずれの場合も派遣先は労働者派遣契約を締結するにあたって、比較対象労働者の賃金などの待遇に関する情報を提供しなければなりません。
また派遣元は、派遣先から情報提供がない状態で派遣先と労働者派遣契約を締結することはできません。
派遣先均等・均衡方式
「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣先で同じ(または同様の)職務に就いている従業員の賃金とのバランスを考慮して、派遣社員の賃金を決定する方式です。
派遣元は、派遣先に雇用される通常の労働者(無期雇用フルタイム労働者)との均衡を考慮しながら、派遣労働者の職務内容や成果、能力や経験など就業の実態に関する事項を勘案して賃金決定するよう努めなければなりません。
派遣先に対しては、従業員の賃金に関する情報を派遣元に提供することが義務付けられました。その情報により均等・均衡の取れた派遣労働者の賃金を決定できるのがこの方式です。
労使協定方式
派遣先労働者の賃金とのバランスを考慮せず、派遣元と派遣労働者間の労使協定で賃金を決めるのが「労使協定方式」です。
この方式では、派遣元と派遣労働者の過半数代表者(または過半数労働組合)との間で締結されますが、派遣労働者賃金の決定方法を協定する際は、一般の労働者の平均的な賃金と比較して同等以上の賃金となるようにしなければなりません。
また労使協定が適切な内容で定められていない場合や労使協定で定めた事項を遵守していない場合、この方式は適用されず「派遣先均等・均衡方式」が適用されます。
待遇情報とは?
待遇情報とは派遣先が派遣元に提供する全情報のことで、後述する「比較対象労働者」の情報や「待遇情報の内容」などがこれに当たります。
待遇情報の提供はFAX、電子メールなど必ず書面の交付によって行わなければなりません。また派遣元は書面などを、派遣先は当該書面などのコピーを労働者派遣が終了した日から3年を経過する日まで保存しなければならないのです。
また比較対象労働者の待遇情報が変更となった場合、派遣先は遅延なく派遣元に対して変更の内容に関する情報を提供する義務があります。
比較対象労働者
待遇情報を提供する比較対象労働者は、下記優先順位により選定されます。
- 職務の内容と職務の内容および配置の変更の範囲が同じ通常の労働者
- 職務の内容が同じ通常の労働者
- 業務の内容または「責任の程度が同じ通常の労働者
- 職務の内容および配置の変更の範囲が同じ通常の労働者
- 1~4に相当するパート・有期雇用労働者(短時間・有期雇用労働法等に基づき、派遣先の通常の労働者との間で均衡待遇が確保されていることが必要)
- 派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
待遇情報の内容
待遇情報は、派遣先均等・均衡方式で5種類、労使協定方式では2種類あります。
派遣先均等・均衡方式
- 比較対象労働者の職務の内容、職務の内容および配置変更の範囲並びに雇用形態
- 比較対象労働者を選定した理由
- 比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容
- 比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質および当該待遇を行う目的
- 比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するにあたって考慮した事項
労使協定方式
- 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(法第40条第2項の教育訓練)
- 給食施設、休憩室、更衣室(法第40条第3項の福利厚生施設)
派遣労働者への説明を強化
本改正では、派遣労働者が不合理な待遇差を感じることのないよう、派遣元に対して説明義務を強化しました。
派遣元は「雇入れ時」「派遣する際」「派遣労働者から求めがあった際」すべての状況下で派遣労働者に対して待遇に関する説明を行わなくてはなりません。
派遣労働者においては、雇用関係にある派遣元と指揮命令関係にある派遣先との相互関係が存在するという特殊性があります。関係者すべてが不合理と認められる待遇の相違解消に向けて認識を共有することが必要でしょう。
雇用
派遣労働者の雇入れ時、派遣元はあらかじめ、労働条件に関する以下の事項を明示する義務があります。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か
- 派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理に関する事項
当然ですが、派遣元事業主は上記の事項を事実と異なるものにすることはできません。待遇情報の明示は文書(書面)の交付、もしくは派遣労働者がFAXまたは電子メール等の送信を希望した場合の当該方法いずれかです。
派遣する際
派遣元事業主は派遣労働者の派遣時にも労働条件に関する以下の事項を明示しなければなりません。
- 賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金を除く)の決定等に関する事項
- 休暇に関する事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か
労使協定方式の場合は、本項目および労使協定の有効期間の終期のみ明示することが必要です。また派遣時には上記6項目のほかに法第34条第1項に基づく就業条件の明示も必要となります。
労働者から要望があった際
派遣元には、法第26条第7項および第10項並びに第40条第5項の規定により、提供を受けた比較対象労働者の待遇などに関する情報に基づいて、派遣労働者と比較対象労働者との間の待遇相違内容および理由などについて説明する義務があります。
説明する際は派遣労働者がその内容を理解できるよう、資料をもとに口頭で説明を行うことが基本です。当然ですが、派遣元は派遣労働者が説明を求めたことを理由とした解雇やその他不利益な取り扱いをすることはできません。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)
場合によっては派遣労働者に関するトラブルが発生し、解決まで時間がかかることも。派遣労働者にとって訴訟を提起することは大変重い負担を伴うものです。
今回の改正ではトラブルの早期解決を図るため、事業主と労働者との紛争においては裁判をせずに解決する手続き「行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)」が整備されました。
これにより、問題が解決しなかった場合、裁判をせずに行政や第三者機関に助けを求めることができるのです。
援助
派遣先均等・均衡方式(法第30条の3)や派遣労働者から求めがあった場合の説明(法第31条の2第4項)などに関して派遣労働者から苦情の申し出を受けたとき、派遣元は苦情の自主的解決を図るよう努めなければなりません。
しかし、「派遣労働者と派遣元事業主との間の紛争」または「派遣労働者と派遣先との間の紛争」に関して、紛争の状態にある当事者から都道府県労働局長への援助が求められた場合は、必要な助言や指導または勧告をすることができます。
調停
また自主的解決が困難な場合、専門家と対応できる機能を併せ持った調停の仕組みの対象となります(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の適用を除く)。
紛争の当事者の双方または一方から調停の申請があり、都道府県労働局長が紛争の解決に必要だと認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に規定する紛争調整委員会において調停が行われるのです。
援助、調停どちらの場合も派遣元および派遣先は、都道府県労働局長に調停の申請をしたことを理由とした不利益な取り扱いを派遣労働者に行うことはできません。
7.労働者派遣法の違反事例
労働者派遣法に違反するとはどういったケースを指すのでしょうか。
二重派遣
二重派遣とは、派遣先が新たな労働者の供給元となり、その供給元に依頼した注文者が新たな供給先となっている状態のこと。派遣労働者は派遣元と雇用関係があるもので、本来、派遣先との雇用関係はありません。
この場合派遣先と注文者の関係は労働者供給に該当しており、労働者供給事業は職業安定法第44条で禁止されているため、二重派遣は職業安定法違反となるのです。
8.労働者派遣法に違反すると
労働者派遣法ではさまざまな規制が課せられています。派遣法に違反したからといって必ずしも不法行為や安全配慮義務違反として損害賠償が認められるわけではありません。しかし場合によっては、刑事罰の対象となる可能性があります。
派遣法上の義務に従わない場合、まずは法48条に基づいて助言・指導がなされ、それでも改善されなかったり一定の法違反をしていたりする場合、許可の取り消しや事業停止命令などの行政処分が下されるのです。
違反によって生じる効果を派遣元と派遣先が共に営業上のリスクとして認識し、その上で適正に労働者派遣をすることが重要です。