活気のないオフィス、閑古鳥の求人、相次ぐ退職…といった悩みを抱える会社は、企業の根幹をなす「人」の管理が適正でないことが多いといいます。そこで今回は、労務管理の運用とシステム導入のポイントについて解説します。
1.労務管理とは?
社員がその能力を最大限発揮するために必要な環境を整えるには、いくつかの管理が必要になります。労務管理では、労働者と使用者・経営者との間で結ばれる多様な約束事、労働時間や休日・休暇、福利厚生はもちろん、賃金や賞与、手当てといった「労働条件」にまつわる施策や制度を取り扱います。
労務管理の具体例
具体的には、求人・採用から始まり、配置や異動、人材育成、人事評価、賃金および労働時間の管理といった、企業が社員に対して行うすべての管理の総称です。通常は人事部の仕事ですが、総務部が一括して担う会社もあります。
2.労務管理を行う目的
企業が所有する資産のひとつが「人材」です。経営資源には、ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産などがありますが、人材の採用・管理など「ヒト」に関する業務は、どの企業においてもプライオリティが高いでしょう。企業活動の効果は、人材の量・質に大きく影響するからです。
労務管理の主たる目的は、人材の生産性の向上と言えます。従業員の活動をサポートするべく、適切な状態に労働環境を維持することが労務管理の意義でしょう。
3.労務管理に必要なスキル
労務管理を担う人材は、労働法規に関する知識・スキルを正しく身につける必要があります。企業活動において法令遵守(コンプライアンス)を重視し、社会からの信頼を高めるべく、適切に業務を遂行することが求められます。
労務管理の業務に求められる視点
とはいえ人材マネジメントシステムや労務管理システムの普及により、現代の労務管理業務には高度に専門的なスキルは求められなくなりました。最低限のITリテラシーがあれば、誰でも簡単に日々のマネジメント業務を捌くことができます。
代わりに労務管理に従事する者には、経営者に近い視座で、物事を見通す視点を持つことが重要となっています。いかに人件費を抑え、利益を増やすか。従業員のモチベーションアップを図るか。働きやすい環境を整え、企業価値を高めるか。長期的な視点で考えていくべき課題の解決を、多くの労務管理者が担っています。
4.労務管理の仕事内容
一口に労務管理と言えども、担当者が担うべき役割の幅は広く、業務内容も多様です。ここでは基本的な仕事内容を解説します。
労務管理とは何を管理するのか?
使用者と労働者が労働契約を結び、雇用が発生すると、労務管理が必要となります。つまり労務管理とは、企業が従業員を雇い入れる際に、従業員の労働条件や労働環境を定義したり、その後に継続して労働契約内容を維持する目的で管理されます。
- 労働期間
- 労働時間
- 労働の対価
- 業務内容
上記のような契約内容を、業務として適切に管理します。
労働期間
具体的には、雇用の開始日や雇用期間に関する条件を取り決めます。期間に定めがある場合には、延長の有無や退職規定に注意します。
労働時間
一日の労働時間や休憩時間、休日に関する規定など。残業や休日出勤の有無なども扱い方を取り決めます。
労働の対価
給与や賞与、また各種手当など。給与の締め日や支払日も規定します。人事評価制度と給与が連動している場合には、グレード別の給与や条件を具体的に定めます。
業務内容
所属する部署など、労働に従事する環境や、その環境における役割・具体的な業務内容を規定します。
法定三帳簿とは?
法定三帳簿の管理も、労務管理の仕事のひとつ。法定三帳簿とは、労働基準法によって企業に対して整備・管理・保管が義務付けられている帳簿です。違反すると処罰の対象となります。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
企業が労働者を一人でも雇用している場合、上記の三帳簿を作成し、保管する義務があります。
労働者名簿とは?(労働基準法107条)
従業員の氏名や生年月日など、個人情報を記録する帳簿です。名簿の作成・保存は、事業所ごとに義務付けられています。
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賃金台帳とは?(労働基準法108条)
従業員の労働時間や給与の支給額、税金の控除額などを記録する帳簿です。
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出勤簿とは?(労働基準法108条 則54条)
従業員の出退勤に関する記録をまとめた帳簿を指します。
出勤簿とは? 項目や書き方、保存期間をわかりやすく解説
出勤簿とは、労働者の出勤日や労働日数、労働時間などを記載する書類です。作成・保管が義務付けられている書類であり、企業は事業場ごとに作成する必要があります。
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5.労務管理の具体的な業務
労務管理に従事する者には、一般的には以下の業務が任されます。
- 労使関係管理
- 勤怠管理・労働時間管理
- 給与計算
- 福利厚生管理
- 安全衛生管理
- 就業規則管理
- 業務改善
労務管理の定義は多様にあり、企業によりけりです。労務管理と人材管理が複合的に任せられるケースも多くあります。それぞれ必要となる知識・スキルが異なりますから、担当者は業務ごとに、学び直すなどして対応することを求められます。
6.労務管理に関する資格
労務管理に役立つ資格のひとつに、中央職業能力開発協会が運営するビジネス・キャリア検定試験があります。受験すると、実務に即した専門的知識や能力について客観的な評価を得ることができます。
ビジネス・キャリア検定試験(ビジキャリ)とは?
厚生労働省が定める職業能力評価基準に準拠しており、年に2回、全国47都道府県にて実施されています。下記の8つの分野において、職務遂行の上で必要とされる知識習得と実務能力が評価されます。
8つの分野
- 人事・人材開発・労務管理
- 経理・財務管理
- 営業・マーケティング
- 生産管理
- 企業法務・総務
- ロジスティクス
- 経営情報システム
- 経営戦略
4つの等級(難易度)
- BASIC級
- 3級
- 2級
- 1級
労務管理のビジネス・キャリア検定試験(3級、2級、1級)
「人事・人材管理・労務管理」に関するビジネス・キャリア検定試験では、人員計画の作成、従業員の採用、就業管理、福利厚生、安全衛生、労使関係、人材育成など、幅広い領域の業務が対象となります。
2級から3級が評価対象とする労務管理の範囲は、おもに「労使関係」「就業管理」「安全衛生」「福利厚生」です。1級では、総合的なマネジメント能力が問われるため、全範囲からの出題となります。
※人事・人材開発・労務管理試験にはBASIC級がありません。
7.労務管理システムの導入メリット
①法改正や時代に合わせたメンテナンスが必要な「就業規則」
近年は法改正が頻繁となっています。28年度までも、雇用保険法の改正案、育児介護休業法、男女雇用機会均等法の改正案、300人超の会社では女性活躍推進法における行動計画の提出から実践、改正労働契約法における無期転換制度が多くの会社で残り2年に迫るなど、夥しい変化がありました。就業規則はとくに注意を要しますが、労働基準法のみならず労働安全衛生法なども含まれるため、幅広い対応が必要です。
②時代の変化やライフスタイルに対応した労務管理の変更
女性の活躍や雇用の国際化、少子高齢化社会への移行。法改正のタイミングのみならず、価値観の多様化やライフスタイルの変化に合わせた対応もしていかなければなりません。若い世代に合った規則や規定にしていくことで、より働きやすい環境を作り出し、優秀な人材の確保と定着を目指します。
③ITリスクの観点からも見直しが必要
IT化の進展の裏側で、企業が抱えるITリスクは増大しています。大きな企業イメージダウンにつながりかねないリスクを回避するため、個人情報漏洩やセキュリティ対策も含めた規則や規定作りを進めましょう。
④組織としての人事・労務管理機能の充実
内部管理体制強化のための人事機能の充実や人事の育成は必要不可欠。人事を組織化することで、人材の採用、教育、人の活性化、定着化へとつながります。さらに、併せてそれらを実践・実行するマネジメント体制や運営体制も整備することで、会社全体の経営に影響を与え、企業発展に貢献できるようになります。
このように、限られた人員だけでカバーするには、あまりにも業務が煩雑かつ膨大な労務管理ですが、給与計算、社会保険、労働保険などが連携する「労務管理システム」を導入することで、度重なる法改正にシステムがスピーディに対応し、労務管理業務の負荷軽減につながることでしょう。
8.労務管理の課題
かつて団塊の世代を中心とした時代では、「終身雇用制」「年功序列制」「労働組合活動」を3本柱に行われていた労務管理。会社を“親”とし、社員である“子”を養うために万全な労働環境を整備することを目的としていましたが、時代の変化にともない転換期を迎えました。
「リストラ」「早期退職制」「成果主義の導入」など、 “子”を突き放さなければ生き残れない過酷なビジネス環境の中、その手法および概念自体が大きく変化しつつあり、トラブルも増加しています。
労務管理に関する問題やトラブル
労務上のトラブルは年々「個別化・多様化」しており、関連法規も頻繁に改正しています。企業戦略遂行に追われ、労務管理の改正や修正が遅れたがゆえに労務トラブルにつながり、企業イメージを下げる会社が後を絶ちません。日本では、約82万件もの都道府県労働局および労働基準監督署への労務相談があり、うち16万件が個別労働紛争です。
労務管理の役割〜企業戦略を成功させる地盤作り〜
トラブルを避けるためのみならず、就業規則のメンテナンス、労務管理見直し、マネジメント体制と運営体制の整備が実現できて初めて、組織の活性化と優秀な人材の採用および定着が可能となるもの。企業戦略は目立つ重要なミッションですが、一見地味な労務管理をしっかり行っていくことが会社の地盤となり、結果として大きな労力の削減と戦略の成功、そして人の定着につながるのです。