傾聴とは? 意味と効果、三原則、具体的なやり方をわかりやすく

傾聴とは、「耳」「目」「心」を傾けて真摯な姿勢で相手の話を聴くコミュニケーションの技法。相手との信頼関係を築くだけでなく、傾聴を通して自分自身を知り、感情のコントロール等精神的成長を促すきっかけにもなります。

また傾聴の技法は、企業内の人間関係や、顧客など社外の人間関係構築にも大きなメリットをもたらすのです。傾聴を社員教育のカリキュラムに加えてみてはいかがでしょう。

1.傾聴とは?

傾聴とは、相手の話に耳だけでなく目や心も傾け、話し手の状況や感情に共感しながら理解し、受け止めるためのコミュニケーション技術です。もともとカウンセリングやコーチングの領域で活用されてきたものですが、ビジネスシーンなど日々の信頼関係構築でも重要なスキルです。

傾聴の特徴は2つ。

  • 受容:相手を受け入れる
  • 共感:話を聞いてその通りだと思う

傾聴が正しく行われると、話し手は自身の理解を深めることができ、積極的・建設的な行動を取れるようになるといわれています。

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2.傾聴の目的

傾聴とは、単に「話を耳に入れる」「答えを導き出すように質問をする」といった、「聞く」「訊く」という漢字のような意味ではありません。傾聴の目的は「相手が言いたいこと」「相手が伝えたいこと」にポイントを置いて、相手を理解することです。

傾聴では、その言葉に用いられている漢字「聴」にある通り、相手のメッセージに「耳」を傾け、声の調子や表情などに「目」で注意を払い、言葉の背後にある感情に「心」を配って話に共感します。

「耳」「目」「心」を使って話に耳を傾けると、相手もこちら側を理解してくれるようになります。関係を築いた上で、相手自身が納得できる結論へと導くこと、それが傾聴の大きな目的です。

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3.傾聴の前提と具体的なやり方、効果

傾聴の前提

  • 広い人間関係の構築
  • 自身の自己肯定感を高める

これらが可能な傾聴には、2つの前提があります。

  1. 人は自ら育つことが可能:自分の力で成長、解決、実現する力を持つ
  2. 解決するのは自分自身:成長や悩み解決の主体は常に自分自身にある

ロジャーズの3原則

傾聴は、アメリカの心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズによって提唱されました。カール・ロジャーズは傾聴を「積極的傾聴」と呼び、自らが行ったカウンセリングの事例を分析して、話を聴く側には3つの要素が必要であると説いています。

3要素とは下記の通り。

  1. 自己一致(congruence):話を聴いて分からないことをそのままにせず聴き直す等、常に真摯な態度で真意を把握する
  2. 共感的理解( empathic understanding):相手の立場になって話を聴く
  3. 無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard):善悪や好き嫌いといった評価をせず、肯定的な関心を持ちながら話を聴く

傾聴の具体的なやり方8個とその効果

傾聴の具体的技法は8個あり、場面に応じての使用が望ましいです。適切な技法を取り入れれば、高い効果も期待できるでしょう。

①相手の気持ちをくみ取る

相手の話、声、表情、しぐさ、などから、相手が今、どのような精神状態や気持ちでいるかをくみ取ります。

相手の気持ちが喜怒哀楽のどのフィールドにあるかだけでなく、

  • 落ち込み
  • 不安
  • あきらめ
  • 恥ずかしい
  • もどかしい
  • 意気込む
  • あこがれる

といった細かい心の状態までを理解することは、傾聴のスタートラインにおいて非常に重要です。

まだこの時点では、相手に直接伝えることはできません。しかし「相手の気持ちをくみ取る」を丁寧に行うことは重要です。それ以降の技法を使う際に気持ちを理解したことを伝える際に役立ちます。

その際相手の気持ちに、善悪や好き嫌いといった判断を加えることは絶対に避けましょう。

②相手の話に登場した気持ちを繰り返す

相手の話からくみ取った気持ちを必ず口に出して反復し、相手に返す技法。たとえば、「心配なのです」と言われたら「心配なのですね」と反復する方法です。これにより、

  • 自分が理解していることを相手に伝える
  • 相手に自分の気持ちをくみ取ってもらった安心感を与える

ことができます。しかし相手が口に出して言わなかった場合、どうすればよいのでしょう?その際は、言葉以外から読み取れる気持ちを反復します。

たとえば、相手が笑顔だったり、緊張しているように見えても発する言葉に元気があったりといった場合。その際、「気分がよさそうですね」「明るい雰囲気が漂っていますよ」など穏やかな声掛けをして、相手の気持ちを反復するとよいでしょう。

③相手の話に登場した出来事などを言い換えて話に組み込む

相手が話した中に出てきた出来事やフレーズ等を、別の言葉で言い換えて話の中に盛り込む技法も重要です。再度盛り込まれた話題やフレーズは、パラフレーズと呼ばれます。たとえば、

  • 「うっかりして大事な物を失くしてしまったのです」:「大事だったのですね。失くしてしまったのですか」
  • 「急な話で驚きました」:「急な話ですとびっくりしますよね」

といったものです。パラフレーズの原則は意味を変えずに別の表現に言い換えることと、「あなたは○○だったのですね」というように、主語を意図的に設定した言葉に作り変えること。

これらは、

  • 聴き手が自分を理解してくれていると認識できる
  • 話の内容が誰の感情、体験なのかを明確に自覚する

などの効果をもたらします。

④一体何が問題なのか、少しずつ明確にする

傾聴には、話の続きを促す技法もあります。悩みがあるということは、悩みを解決する糸口を見つけられていないと同じこと。そこで、

  • これまでもそうだった?
  • それからどうしたの?
  • もっと詳しく話をしてもらえる?

といった続きを促す会話を盛り込むのです。今まで紹介した反復の技法と、話の続きを促す技法の併用で、話し手は自分の抱えている悩みのどこに問題があるのかが明確になります。

話の続きを促す技法は、相手の気持ちや話題に出てきた登場人物の気持ちを確認しながら丁寧に行いましょう。急ぎすぎると、話し手との信頼関係を損ねてしまいやすいです。

⑤沈黙、相手が取り乱した際の対処

会話をしている最中、相手が話に詰まり沈黙したり、取り乱してしまったりするケースも多々あります。沈黙の場合はまず、相手の様子をじっくりと落ち着いて観察しましょう。

  • 考えを巡らせているのか
  • 不安なのか
  • 落ち着いているのか

を正確に見極め、その上でゆっくりと待つ、沈黙の時間が長すぎる場合には少し話してみる、といった対応に移りましょう。丁寧な観察とゆっくりとした対応は、相手の状況をフラットに戻す力を持ちます。

相手が取り乱した場合は相手を落ち着かせることから始めましょう。相づちを打つ、相手の気持ちを言い換えて反復するといった共感の姿勢で、相手に冷静さを取り戻してもらうように試みるのです。

⑥相手が最も問題と感じている内容に注視する

傾聴の目的は、問題を解決する糸口を自ら見つけてもらうこと。それを見つけるには、会話の中で話し手が最も問題と感じる内容に注視する技法を用います。

ポイントは、相手の持つ「自分がその問題についてどう考えているのか」を丁寧に確認した後相手を「自分はどうしたいのか」という思考の方向にゆっくりと導いていくこと。

もし、原因が本人にあっても、改善を要求したり急いで結論を出そうとしたりすることは避けましょう。あくまでも本人の話を理解しようと心掛けることが重要です。

聴き手が結論を急がなければ、信頼関係を構築したまま少しずつ問題解決や事態改善につなげられます。あくまで問題解決の主体は話し手本人。自分がどうしたいのかを話し手が自らの思考で掴むまで辛抱強く、相手が最も問題と感じている内容に注視しましょう。

⑦相手ができる範囲を明確にする

深い悩みであるほど、話し手は、自分の置かれている状況を的確に判断できなくなります。

そういった際は、話し手が自分でできる範囲を明確にしてあげましょう。話の中に、相手ができそうなことがあったら、見落とさずにそれを明確にするのです。

会話に出てきた「できそうなこと」と目の前の相手の状況を照らし合わせ、現実的にできる範囲を絞ります。話し手ができる範囲が絞れたら、そこに話し手が自然と気付くよう質問や応答を用いて導きましょう。

話し手は、自分のできることが分からず悩んでいる場合も多いです。できる範囲を明確にして、そこに思考が及ぶよう促すことで問題解決の近道となるでしょう。

⑧相手が主体的に行っている事柄に着目する

傾聴をしているとよく見られるのが、話し手が主たる問題を認識していないケースです。

本来なら主たる問題は別にあるが、その問題を一旦置いておいて、結論を急がずに話し手が主体的に行っていることに着目して、気持ちや意見を聴く場面があります。

確かに、問題点にズバッと切り込んで話を展開することで、問題解決への最短距離になるかもしれません。しかし傾聴の目的は、最終的に自らが自分の力で問題解決をしていくこと。

そのため相手が主体的に行っていることを傾聴し、気持ちをくみ取って、話し手を徹底的にサポートするのです。サポートにより信頼関係が増すことも大きなメリットになるでしょう。

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4.傾聴を学ぶメリットと方法

傾聴を学ぶことで得られるメリット

傾聴を学ぶと相手の気持ちや考えに真摯に向き合うことになるため、相手をより深く理解できます。相手への理解が深まれば、当然、相手との関係を、今以上に良好なものにできるでしょう。
傾聴を学ぶメリットは、それだけではありません。

  • 相手を理解する行為を通して、自分を今以上に知るきっかけをつくる
  • 自分を知ることで自分の感情をコントロールできるようになる
  • 自分を今以上に好きになることができる
  • 相手の気持ちを整理させ問題解決の道に自ら気付いてもらう
  • 聴き手のの精神的成長を促す

なども傾聴のメリットです。傾聴は自分と周囲を共に成長させ、良い影響を与え合える関係を構築する機会を生み出してくれるのです。

傾聴を学ぶ方法

社内で学ぶ方法

自分と周囲が共に精神的に成長できる機会づくりができる傾聴。学びたい場合は、どうすればよいのでしょう?

企業であれば、人事部が設ける企業研修を利用するのがよいです。その際、講義スタイルの座学だけでなく、実際の対人関係を模した実践を取り入れたカリキュラムを組むとよいでしょう。

なぜなら傾聴は、実践を伴ってこそ学べるコミュニケーションの技術。頭でっかちな知識だけでなく、必ず実践を取り入れて、体に落とし込んでいきましょう。

社外で学ぶ方法

社外で傾聴を学ぶなら、一般社団法人日本傾聴能力開発協会主催の傾聴サポーター養成学校がお勧めです。

  • 聴き上手になりたい
  • 感情をコントロールしたい
  • 自分をもっと知りたい

といった人から傾聴の講師を目指したい人まで、さまざまな要望を網羅した講座が用意されています。

全12コマを都合のよい順番に受講できますし、日程変更や無料再受講制度も完備。また、受講すれば、認定資格も取得できますし、協会のロゴマーク入り専用名刺を作成して、傾聴専門の講師を目指すことも可能です。

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5.傾聴が使われる場面

実際に傾聴が活用されるシーンと効果は次の通りです。

ビジネスシーンにおける傾聴

傾聴は、ビジネスシーンでも活用できます。たとえば、顧客への傾聴です。

顧客のニーズをつかむことは、ビジネスの基本中の基本。顧客が本当に求めていることを掴み、提供できれば当然顧客満足度は高まるでしょう。それだけではありません。顧客の話を傾聴するだけでも、顧客の信頼度が高まる場合もあるのです。

また、社内の上司や同僚、部下といった周囲の人間関係でも、傾聴は力を発揮します。傾聴により社内のあらゆる範囲の人を理解できるようになれば、お互いの信頼関係を強固なものにするのです。

理解したほうもされたほうも自己肯定感を高められるため、仕事のモチベーション向上にも一役買います。職場の最大のストレスは人間関係のストレスともいわれる現代。傾聴により人間関係が円滑になることは、企業にとってもメリットが大きいでしょう。

看護における傾聴

傾聴が多く行われている場面に、病院での看護があります。病院には、さまざまな病気によって気持ちが落ち込んだ患者が多く存在します。

患者は健康なときとは違う精神状態にあるため、「今、忙しいので」と対応したり、自殺願望者に「死ぬ気になれば何でもできます」などの言葉を投げかけたりしてしまうと、病気への不安や自殺願望を助長させる等の危険性が生じてしまうのです。

そこで、医療従事者に求められるのが、傾聴の技法です。医療従事者は患者さんに寄り添い、患者さんの心が和らぐような対応をします。たとえば、「とても辛かったのですね」「私でよかったら話してください」など。誠実な態度で話しかけたり、相手の訴えに真摯に向き合ったりすることが日々行われているのです。

カウンセリングにおける傾聴

カウンセリングでは、さまざまな悩みを抱えた人がやってきます。カウンセリングではどのような傾聴が行われているのでしょう。

まず、悩みを抱えている話し手(クライアント)の話を傾聴し、話し手が安心できる環境を整えます。次に話し手のしぐさ、表情や声のトーンなどにも気を配りながらじっくりと話を聴き、相手の気持ちを楽にするのです。

話し手が心からリラックスできる状況をつくり出せたら、そこから問題解決の糸口を一緒に見出していきます。そうすると、こちらから解決策を提示しなくても、話し手自身が抱えている問題点を自ら認識し始めたり、「そんなに悩む必要はなかった」と考えを改めたりできるようになるのです。