奨学金とは、経済的な困窮を理由に進学が困難となった学生を支援する資金です。奨学金制度の種類や問題点、企業による奨学金返還支援制度について解説します。
目次
1.奨学金とは?
奨学金とは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)や民間団体などが、経済的な理由で進学できない学生に貸与する資金のこと。返済不要の「支給型」と、卒業後に返済する「貸付型」の2種類にわかれ、貸与団体や型によって、金額や貸与条件などが異なります。
この奨学金を貸与する制度が奨学金制度で、目的は学費や生活費など学生の経済的な問題を解決して勉強に集中できる環境を整えること。これは次世代の人材育成にもつながります。
支給対象者
奨学金制度は基本、進学する学生を対象とした制度です。運営団体によって異なるものの、主に以下の学校へ進学する学生が奨学金の対象となります。
- 高等学校
- 高等専門学校
- 大学(短期含む)
- 大学院
- 専門学校
- 海外への進学
- 通信制の学校
支給金額
独立行政法人日本学生支援機構の給付型奨学金は、以下のとおりです。
- 国公立大学:自宅通学の場合は月額2万9,200円、それ以外は月額6万6,700円
- 私立大学:自宅通学の場合は月額3万8,300円、それ以外は月額7万5,800円
- 通信教育課程:国公立や私立、自宅通学などにかかわらず一律5万1,000円
上記の金額は、第1区分(住民税非課税世帯の学生)の場合です。世帯年収によって3つの区分にわかれ、区分によって受けられる奨学金の月額が変わります。
2.奨学金の種類
奨学金の種類は、先に説明したとおり貸与型と給付型にわかれます。
- 貸与型:学生がお金を借りる形式となり、卒業後に返済しなければならない。昨今、就職の厳しさから返済できない学生が増えていると社会問題になっている
- 給付型:返済する必要がない形式。日本学生支援機構の給付型奨学金制度では、2020年4月から、授業料も減免されている
それでは奨学金について見ていきましょう。
- 給付型奨学金
- 貸与型奨学金(第一種)
- 貸与型奨学金(第二種)
- 入学特別増額奨学金
①給付型奨学金
返済義務がなく、貸与型奨学金と併用できるものの審査は厳しく、支給対象人数も限られているのです。審査基準には成績のほかに世帯収入があり、住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯でなければ申し込めません。
区分の詳細は以下のとおりです。
- 第1区分:給付奨学生と生計維持者の市区町村民税が非課税
- 第2区分:給付奨学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が100円以上2万5,600円未満
- 第3区分:給付奨学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が2万5,600円以上5万1,300円未満
第1区分で自宅から国公立大学へ通学する場合、授業料の減免額が年間53万5,800円、入学金の減免額が28万2,000円、給付額は年間35万400円まで受けられます。
②貸与型奨学金(第一種)
第一種奨学金とは無利息で貸与される奨学金のこと。とくに優れた学生もしくは、経済的理由により修学が困難と認定された学生に貸与されます。優れた学生の基準は以下のとおりです。
- 大学や短大への進学の場合:高等学校2年から3年次の成績が平均3.5以上
- 専門学校への進学の場合:高等学校2年から3年次の成績が平均3.2以上
- 上記に相当するする大学入学資格検定または、高等学校卒業程度認定試験合格見込者
③貸与型奨学金(第二種)
第二種奨学金とは有利子で貸与される奨学金のことで、在学中は無利息、卒業後は年利3%を上限として付加されるのです。しかし利子があるため第一種よりも貸付条件が緩和されています。第二種奨学金の支給に関する学力基準は、以下のとおりです。
- 高等学校の成績が平均的な水準に達している
- 特定の分野で秀でた能力があると認められる
- 学習意欲があり、学業を修了する確実な見込みがある
- 高等学校卒業程度認定試験合格者で上記のいずれかに準ずる
④入学特別増額奨学金
月度の奨学金とは別に1回のみ支給される奨学金。貸与額は10万円から50万円までで、10万円刻みで希望できます。
目的は入学時の教材や制服などの準備費用を軽減することです。しかし月々の奨学金の第1回目に合わせて振り込まれるため、タイミングから見て入学金へ充当するのは難しいでしょう。年利は最大4.68%となっています。
3.奨学金に関する問題点
奨学金は進学を志す学生を経済的に援助する資金です。しかし近年、利用者が増加したのもあり、さまざまな問題点が指摘されています。
- 返済負担による困窮
- 学費の高騰
- 救済対策が不十分
①返済負担による困窮
奨学金返済が負担となり、困窮する人が増えています。日本学生支援機構の「平成30年度学生生活調査」によると奨学金を利用している学生の割合は、大学(昼間部)で47.5%、短期大学(昼間部)で55.2%、大学院修士課程で48.0%、大学院博士課程で53.5%。
これらのほとんどは貸付型のため、必ず返済しなければなりません。返済は学校卒業7か月後から開始されるものの、それまでに就職できなかった人や就職して1年目で給与が低い人なども返済しなくてはならないのです。
②学費の高騰
奨学金を取り巻く問題点として、物価の高騰や少子化の影響などによる学費の高騰も挙げられます。
特に国公立大学と比較して私立大学は学費が年々増加傾向にあり、生活を維持するうえでも、支給される奨学金だけでは就学を継続できない事態に陥る恐れがあるのです。
③救済対策が不十分
返済に困窮した返済対象者に対して返還期限の猶予や延滞金減免、最終的には返還の免除といった救済策が考えられます。しかし現実的には、返済困難者の増加に対して救済策の整備が追い付いていないのです。
またすでに延滞金がある場合、返還期限の猶予や延滞金の減免は認められません。返還免除が認められるのは、病気で労働できないほど心身の障がいが生じているといったケースです。これらの措置は十分に周知されておらず、知らない学生も少なくありません。
4.奨学金返済を企業が支援するのも可能
奨学金の返済は就職後も大きな負担となりえます。このような現状を打開するため、企業や地方自治体が奨学金返済を支援する動きがあるのです。
企業の奨学金返還支援(代理返還)制度について
奨学金返還支援(代理返還)制度とは、日本学生支援機構の奨学金を受けていた社員に対して、企業が返済額の一部あるいは全額を支援する制度のこと。
2021年3月末までは企業が社員へ相当額を給付し、社員から日本学生支援機構へ返還する仕組みでした。しかし2021年4月からは、企業から日本学生支援機構へ直接返還できるようになったのです。
なお社員へ支給する場合で、企業が本人へ支給額の返還を求めるのは認められていません。
企業が奨学金返済を支援するメリット
企業が行う奨学金代理返還は、さまざまな効果が期待できます。とくに企業側は有能な人材確保や企業イメージの向上、節税などの効果につながるため、メリットは大きいといえるでしょう。ここでは4つのメリットを紹介します。
- 優秀な人材を確保できる
- 社員のモチベーションにつながる
- 会社のイメージアップになる
- 非課税になる税金がある
①優秀な人材を確保できる
売り手市場の場合、企業は優秀な人材の確保が難しいです。そこで奨学金返還支援(代理返還)制度を導入すると、奨学金を受けられるような優秀な人材を呼び込みやすくなります。また競合他社と差別化も図れるのです。
現在奨学金の返還中の社員がいる場合、転職や退職などによる人材流出を防ぐ効果も期待できます。
②社員のモチベーションにつながる
奨学金返還支援を受ける社員はもとより、周囲の社員へも配慮を示せるため、社員全体のモチベーションアップが期待できるでしょう。
一方、代理返還は実質的な報酬のアップと見なされる場合も。そのため社員間で不公平感が生じる可能性もあるのです。制度導入の際には、社員の十分な理解を得ておきましょう。
③会社のイメージアップになる
若者の支援に取り組んでいるとアピールできるため、イメージアップにつながります。
制度を利用している、あるいは導入を予定している企業は、日本学生支援機構のホームページに企業名および返還支援要件などの情報が掲載されるため、奨学金返済を控えた学生から応募が増加する可能性も高いのです。
企業PRとして有効なため、制度を継続する企業も多いとされています。
④非課税になる税金がある
奨学金返還支援制度は、所得税と法人税の節税効果が得られます。日本学生支援機構に返済された金額は、以下の2点に該当すると所得税が非課税になるのです。
- 対象社員が奨学金を学資として、活用している
- 給付された金額が間違いなく、返済に当てられている
また返済された金額は給与として損金算入できます。よって法人税の課税所得から差し引けるのです。
5.奨学金返還支援制度を導入している企業
奨学金返還支援制度を導入する企業は年々増えています。現在導入している企業の事例を5つ紹介しましょう。
トヨタグループ
トヨタグループでは、技術者育成基金として支援制度を導入。募集対象は大学に在籍する女子学生で、将来女性エンジニアとしてトヨタグループに就職し活躍する意欲のある人です。
月5万円(年60万円)を最長6年間にわたって実質無利息で貸し付ける制度となっています。また入社した場合、返済額と同額が毎月給付されるといった元金返済免除が適用されるのです。
シルバーライフ
給食や宅配弁当事業を全国的に展開しているシルバーライフでは、入社より7年間奨学金の全額を、日本学生支援機構へ直接代理弁済しています。
給与とは別枠のうえ、給与水準も正社員と変わりません。企業と本人の両者に生じていた余計な所得税や住民税、社会保険の負担を軽減する効果も得られました。
マニー
医療機器の製造開発を行うマニーは、社内制度として「社員奨学金代理返還規則」を新たに制定。勤続1年6カ月を経過し奨学金の返済を行っている社員に対して、返済金の残高を一括支給しました。
支給額の上限は300万円。またマニー松谷医療奨学財団を設立し、医師や看護師、歯科医師や歯科衛生士を目指す学生への給付型奨学金制度も設置しています。
大東建託リーシング
建物賃貸事業を展開している大東建託グループの大東建託リーシングでは、20代の若手社員に対して奨学金返済支援を実施。大東建託グループのケアパートナーも、日本学生支援機構奨学金を借入中の新卒新入社員に対して奨学金返還支援を導入しました。
こちらは入社後5年間にわたり、毎月給与とは別に1万円を支給。合計60万円を支給する制度です。
Spelldata
IT開発やコンサルティングを行うSpelldataは、2021年4月より奨学金返還支援制度を導入。貸与型奨学金の返済額を全額負担し、日本学生支援機構に直接返済しています。なお金額に上限はないようです。
対象者は、入社試験(学力検査や定期性検査)に合格していて、社内基準に達している新卒あるいは第二新卒となっています。
6.奨学金返還支援制度を活用する際の注意点
奨学金返還支援制度を導入する際、条件や対応できないケースに注意しましょう。制度を活用する際の注意点を3つ説明します。
- 申請方法の確認
- 対応できないケースもある
- 労働契約の不履行で損害賠償を求めるのは違法
①申請方法の確認
奨学金返還支援制度では、申請や専用システムへの登録などが必要です。日本学生支援機構に返還支援申請したのち、「スカラKI(仮称)」という企業の返還支援(代理返還)システムで、奨学生や返還支援対象者を事前登録します。
払い込みの際、スカラKIへ支援額を入力する必要があるので、忘れずに登録しておきましょう。
②対応できないケースもある
「日本学生支援機構で債権管理が複雑になる」「現行の奨学金返還支援制度では支援が難しい」場合、代理返還に対応できない可能性が高まります。
たとえば「返済額の半額など一部を支援する」「勤務年数による猶予期間を設定」といった要件を設ける場合です。
③労働契約の不履行で損害賠償を求めるのは違法
奨学金返還支援制度にて代理返還を行った際、退職といった労働契約の不履行を理由として社員に返還を求めるのは認められていません。労働基準法で労働契約の不履行による損害賠償額を予定するのは禁止されているからです。
たとえば「5年以内に退職した場合には、代理返済金を返還する」といった規約は違法となるので注意しましょう。