年俸制とは? 月給制・総報酬制との違い、企業にとってのメリット・デメリット

年俸制とは、1年単位で給与金額を決定する給与形態のことです。ここでは年俸制について、さまざまなポイントから解説します。

1.年俸制とは?

年俸制とは、ひとりの労働者に支払う給与金額を1年単位で決める給与形態のこと。英語で、「annual salary system」「annual salary scheme」と表記されるのです。

労働基準法では、給与の支払いに関して「毎月1回以上の支払いの原則」を定めています。そのため実際の支払いは、年俸を「12分割して月々支給する」「14分割して月々と夏季、冬季に支給する」形になるのです。

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2.年俸制と月給制との違い

月給制とは、月単位で賃金が支払われる形態のこと。「企業業績の変動に応じ、毎月の金額が増減する」「年間の総収入があらかじめ定められていない」といった特徴を持ちます。

一方、年俸制は企業業績を問わず事前に提示された給与額が全額支払われるのです。

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3.年俸制の特徴

年俸制の特徴は、成果主義(個人の能力や仕事の成果、プロセスに応じて賃金などの処遇を決定する人事制度)となじみやすい点。

なかには年俸制を成果主義制度とリンクして、前年度の成績や個人への期待値、職務上の役割などに応じて年俸金額を設定する企業もあります。

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4.年俸制の適用条件

労働者との合意があり、就業規則や雇用契約に年俸制について記載があれば、誰でも年俸制を適用できます。また今後、年俸制の採用が予測されるのは、高度プロフェッショナル制度の対象者だといわれているのです。

高度プロフェッショナル制度とは?

「指定された19業務に従事し、年収1,075万円と一定額以上の年収がある」といった条件を満たした労働者を、労働時間の規制対象外とする制度のこと。

「働き方改革法」における目玉のひとつとして、2019年4月から施行されました。別名、ホワイトカラーエグゼンプションとも呼ばれています。高度プロフェッショナル制度は成果主義と相性がよいため、年俸制の導入もしやすいと考えられているのです。

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5.年俸額の決定方法

年俸額の決定方法は、企業によって異なります。一般的に見られるのは下記の方法です。

  • 就業規則が賃金規定に年俸額決定に関するルールが定められている
  • 契約更新時に経営側が労働者に年俸額を提示し、了解を得る

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6.年俸制に向いている人の特徴

年俸制に向いている人にはどんな特徴があるのでしょう。ここでは3つの特徴について解説します。

  1. 正当な評価を求める
  2. 安定した収入を求める
  3. 大幅な年収アップを目指す

①正当な評価を求める

年俸制は成果主義と親和性が高いため、一般的に両者を併用して制度を設計します。自分の仕事ぶりや能力、成果を正当に評価され、それが年俸額に適切に反映されることを好む人は、年俸制に向いていると考えられるでしょう。

②安定した収入を求める

年俸制では、1年間の報酬額をあらかじめ確定させられます。そのため「マイホームや自動車などの購入で長期間のローンを組む」「教育資金の計画をたてる」といった資金計画がある人にとって、年俸制は安定した収入源になるでしょう。

③大幅な年収アップを目指す

年俸制は成果主義と結びつくケースも多いです。たとえば前年における仕事の成果が、翌年の年俸額に反映されます。つまり年齢や勤続年数、役職などにかかわらず、仕事で成果を生み出せば生み出すほど、大幅な収入アップが実現するのです。

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7.企業にとっての年俸制のメリット

企業にとって年俸制はどんなメリットを持つのでしょうか。ここでは企業が得るメリットについて解説します。

  1. 経営計画が立てやすい
  2. モチベーションアップによる生産性の向上
  3. 管理が楽になる

①経営計画が立てやすい

年俸制は、1年間の人件費をあらかじめ決定できる制度です。その結果、経営計画・人件費の年間計画が立てやすくなります。

②モチベーションアップによる生産性の向上

「成果をあげれば年俸額が上がる」ため、労働者のモチベーションを高めると同時に、生産性も向上できます。

③管理が楽になる

年俸制では、契約時に労働者への説明があれば、残業時間の目安を決めて残業代を年俸額に含ませられます。残業代の計算や管理が簡素化するでしょう。

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8.企業にとっての年俸制のデメリット

企業に生じる年俸制のデメリットもあります。一体それは何でしょうか。

  1. 経営状況に応じて人件費を変更できない
  2. 就業規則の改定が求められる
  3. 労働者への説明と理解に時間がかかる

①経営状況に応じて人件費を変更できない

年度中に企業側から年俸額の減額を持ちかけると契約違反になります。思っていた成果が上がらない・ミスやトラブルで売上が落ちた場合でも、人件費を変更できません。

②就業規則の改定が求められる

年俸制を制度として新たに導入する際、労働者の同意を得たり就業規則を改定したりする必要があります。改定への同意を得られるような、丁寧な説明が必要でしょう。

③労働者への説明と理解に時間がかかる

給与制度の改定は、労働者にとって大きな不安材料になります。納得してもらうための説明・理解に時間を要するでしょう。

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9.年俸制を採用している職種

年俸制を採用している業界や職種、役職は何でしょうか。それぞれについて解説します。

  1. 外資系
  2. エンジニア・プログラマー
  3. スポーツ選手
  4. 役員・管理職

①外資系

一般的な日本企業では年功序列・終身雇用が広く知られています。一方、外資系企業では、個人の成果により報酬額を決定する年俸制が一般的な給与形態となっているのです。

②エンジニア・プログラマー

年俸制は、高度な専門知識を必要とするこれら職種にて、成果に対応した高い報酬の確保や高いモチベーションの維持に役立ちます。

③スポーツ選手

スポーツ選手は、想定外の報酬をあげれば追加報酬が得られます。よって長期的な成果を見込んだうえで複数年契約を結ぶような、実力主義を代表する職種といえるのです。プロ野球選手を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。

④役員・管理職

外資系企業にかかわらず日系企業でも、役員・管理職に昇格したら月給制から年俸制に変更されるケースが多く見られます。経営に近い立場で一定の成果が求められるからです。

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10.年俸制における残業代

年俸制における残業代についても定めがあるのです。ここでは年俸制における残業代で誤解されやすい点を中心に解説しましょう。

原則、支払う必要がある

年俸制における残業代は原則、支払う必要があります。年俸制における年俸額は、基本給として扱われるため、法定労働時間を超えた労働時間分は残業代として支払わなければなりません。

年俸制の年俸額に残業代も含まれているといった考えもありますが、それは誤解です。年俸制でも法定労働時間を超えた労働時間に対して別途残業代の支払いが必要となります。

「固定残業代」には注意が必要

「年俸500万円以上・固定残業代として1カ月6万円以上(35時間分/月)を含む」ケースを例に見てみましょう。この場合、月の残業時間が35時間を超えたら、超過した分の残業代を別途支払わなければなりません。

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計算方法

年俸制における残業代の計算方法は、「1時間当たりの賃金額×残業時間×割増賃金率」。ここでいう「1時間当たりの賃金額」は、「月額賃金(年俸÷12)÷1年間における1カ月の平均所定労働時間」で計算します。

なお「1年間における1カ月の平均所定労働時間」は、「1年間の所定労働日数×1日の労働時間÷12」で求められるので、覚えておきましょう。

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11.年俸制におけるボーナス

年俸制におけるボーナスは、企業が任意で定められます。年俸制におけるボーナスについて解説しましょう。

支払い方法は3パターン

年俸制におけるボーナスを支払う場合の支払い方法は、以下3つです。

  1. 年俸額を12で分割した金額を月々支払う
  2. 年俸額を16で分割した金額を月々支払い、16分の2を年2回夏と冬のボーナス月に支給する割り数は企業によって規定が異なる)
  3. あらかじめ決定してある年俸額とは別に、業績に応じたボーナスを支給

ボーナスカットについて

年俸制におけるボーナスカットには、以下2つの考え方があります。

  1. 年俸と別にボーナスを支払う場合、ボーナスの支払いの有無や金額の決定は企業に裁量権がある。よってボーナスカットできる
  2. 年俸額にボーナスが含まれている場合、業績悪化を理由にボーナスを減額もしくは不支給にするのは契約違反となる。よってボーナスカットできない

退職金の有無は就業規則による

年俸制における退職金(企業や組織が賃金の一部を退職一時金として積み立てているもの)の有無は、就業規則の定めによります。年俸制を採用している労働者でも、退職一時金を積み立てているのが一般的です。

しかし労働契約によっては、退職金不支給と定めているケースもあります。就業規則や個々の労働契約を確認する必要があるでしょう。

12.年俸制に関する代表的なトラブル

年俸制に関するトラブルは何でしょうか。代表的なトラブルを3つ解説します。

  1. 年俸額の更改
  2. 年俸額の引き下げ
  3. 残業代

①年俸額の更改

就業規則や賃金規定で年俸制に関するルールがある場合、それを超えた更改は違反です。また明確なルールがなくとも、社会通念上から見て不合理もしくは公正でない更改は、人事権の濫用とみなされる場合もあります。

②年俸額の引き下げ

最初に決定した年俸額は、企業業績に関わらず支給しなければなりません。しかし企業の認識不足により、業績悪化を理由に年途中で年俸額を引き下げるケースが発生しているのです。

③残業代

原則、年俸額に残業代は含まれません。しかし「年俸制を採用すれば残業代は不支給で構わない」という誤った認識を企業が持っている場合、残業代不支給という労使トラブルが生じます。