労働契約法とは、労働者と使用者間で締結される契約についての法律です。その目的や就業規則との関係性、労働基準法との関係や基本原則、概要や注意点、裁判例などについて解説します。
目次
1.労働契約法とは?
労働契約法とは、労働者(使用者に使用されて賃金を支払われ、労働する人)と使用者の合意によって労働契約を締結・変更して、両者の良好な関係を目指す法律のこと。
第1条から第5条までは労働契約法の基本が記され、第6条から第20条には契約の締結や変更などに関する具体的なルールが記されています。労働契約法は2012年に改正され、有期労働契約に関して新たなルールが作られました。
2.労働契約法の目的
労働契約法第1条には「この法律は、労働者および使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、または変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定または変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」と記されています。
個別労働関係紛争が生じない、円滑な関係の維持が期待されているのです。
3.労働契約と就業規則の関係性
- 就業規則は労働協約に反することはできない(労基法92条)
- 就業規則の基準に達しない労働契約については、該当部分が無効となる(労基法93条)
- そのため、無効となった部分は就業規則の基準による(労契法12条)
となっています。
4.労働基準法との関係
労働基準法は、国が規定している法律で、最低限満たすべき労働条件を使用者に課す法律です。労働基準法にもとづき、違反があった際は労働基準監督署が是正に向けた監督指導を行います。
一方、労働契約法は労使間のトラブルを防止するため、労働契約法にて労働者と使用者の労働条件に関するルールを定めたものです。
5.労働契約の締結をする際の注意点
労働者と使用者が労働契約を結ぶ際の注意点は、下記のとおりです。
- 労働条件の明示
- 契約期間の明示
- 労働契約を変更する場合
①労働条件の明示
労働契約法では労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとしています。労働条件の明示に当たっては、「書面の交付により明示しなければならない事項」「口頭の明示でもよい事項」があると定められているのです。
②契約期間の明示
使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる場合、目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮しなければなりません。「契約期間の定めについてあり・なし」「更新の有無と更新の基準」などを明示する必要があります。
③労働契約を変更する場合
労働者と使用者が合意すれば、労働契約を変更できます。また使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益になるような労働条件にはできません。使用者が就業規則の変更によって労働条件を変更する場合、下記が必要になります。
- (1)その変更が、以下のような事情などに照らして合理的であること
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容は相当であるか
- 労働組合等との交渉の状況はどうか
- (2)労働者に変更後の就業規則を周知させること
6.労働契約法の適用範囲
労働契約が存在しない職業といったように、労働契約法が適用されないケースもあります。適用範囲外の職業をみていきましょう。
労働契約法の適用範囲外
国家公務員と地方公務員は労働契約法に適用されないと定められています。また同居の親族のみを使用する場合の労働契約についても適用されません。特例として船員法の適用を受ける船員に関しても、労働契約法の一部は適用されないのです。
7.労働契約法の基本原則
労働契約法は、会社と労働者が個別に結んだルールです。ベースとなっている「労働契約5原則」を詳しく解説します。
- 労使対等の原則
- 均衡を考慮する原則
- ワークライフバランスに配慮する原則
- 労働契約遵守・信義誠実の原則
- 権利濫用禁止の原則
①労使対等の原則
労働契約の成立、内容の変更時に使用者と労働者の間には力関係の不平等が存在しています。このため労働契約法3条1項では「労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の対等の立場における合意によるべき」という「労使対等の原則」が定められているのです。
②均衡を考慮する原則
第3条第2項では、「労働契約の締結当事者である労働者および使用者が、労働契約を締結し、または変更する場合には、就業の実態に応じて、均衡を考慮すべきものとする」という「均衡考慮の原則」を規定しています。
③ワークライフバランスに配慮する原則
第3条第3項では、「労働契約の締結当事者である労働者および使用者が、労働契約を締結し、または変更する場合には、仕事と生活の調和に配慮すべきものとする」という「仕事と生活の調和への配慮の原則」が定められています。
④労働契約遵守・信義誠実の原則
第3条第4項には「信義に従い誠実に、権利を行使し、および義務を履行しなければならないことを規定し、信義誠実の原則を労働契約に関して確認したもの」と定められているのです。これは民法上の一般原則を労働契約にも適用するもの、と考えられます。
⑤権利濫用禁止の原則
第3条第5項では、「労働者および使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならないことを規定し、「権利濫用の禁止の原則」を労働契約に関して確認したもの」と定めています。
8.労働契約法の概要
- 第1条から第5条までは労働契約法の基本
- 第6条から第20条は契約の締結や変更などに関する具体的なルール
が記されています。いくつか抜粋して見ていきましょう。
第5条 労働者の安全への配慮
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働する」と定められています。使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものと明らかに示したものです。
第8条 労働契約の内容の変更
「労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めています。当事者の合意により契約が変更されることは契約の一般原則であって基本原則である「合意の原則」を確認したものです。
第9条・第10条 就業規則による労働契約の内容の変更
第9条では「使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません」と定めています。
そして第10条では、「就業規則の変更によって、労働条件が変更される場合、労働者に不利益にならないようにする」「変更後の就業規則を周知させること」を定めているのです。
第16条 解雇
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。趣旨として権利濫用に該当する解雇の効力について規定したものです。
第18条 無期労働契約への転換
有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、有期契約労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約に転換させます。仕組みを設けて、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることを明記しているのです。
第19条 有期労働契約の更新等
有期労働契約は一般的に契約期間の満了で終了します。しかし契約が反復更新された後に雇止めされる場合もあるのです。
第19条では、最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結または更新されたものとみなす、と明記しています。
9.労働契約法でおさえておきたいポイント
労働契約法でおさえておきたいポイントは、下記の2つです。それぞれ詳しく解説しましょう。
- 雇止め法理
- 無期労働契約
①雇い止め法理
「合理的な理由がない雇止めは無効」というルールのことで、労働契約法では条文として定められています。下記2つのいずれかに該当する場合、雇止め法理を守らなければなりません。
- 過去に有期労働契約が反復されており、雇止めが無期労働契約における解雇とほぼ同一
- 労働者が反復契約を期待する合理的理由がある
②無期労働契約
有期労働契約が5年を超えて繰り返し更新された場合、労働者の申し込みにより、使用者は無期雇用に転換しなければならないという無期転換ルールが適用されます。
ただし6カ月以上の空白期間がある場合、前の契約期間を通算せず、その労働条件は別段の定めのない限り、有期契約時と同一条件とするという規定があるのです。
10.労働契約法改正における注意点
労働契約法をしっかり理解しておかないと、気づかないうちに法律違反している可能性もあります。改正における注意点を解説しましょう。
- 再雇用者の特例認定
- 無期転換希望者
①再雇用者の特例認定
使用者が適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けている場合、定年後に再雇用された労働者は無期労働契約を申請できません。この特例を適用する場合、雇用契約書作成時には次の3点に注意しましょう。
- 無期転換権が得られない労働者を明示する
- 対象の労働者に無期転換権が生じないと明示する
- 雇用契約書や労働条件通知書に記載する
②無期転換希望者
無期転換を希望する有期契約労働者がいた場合、企業側は次のいずれかの対応を取るのが望ましいでしょう。
- 希望者全員の無期転換
- 人件費増大などを避けるために転換を回避する
- 無期転換する労働者とそうでない労働者を選別する
転換を回避する場合の方法としては雇止めや特例、無期雇用とするなど積極的な雇用があります。
無期転換ルールとは
有期労働契約が更新されて通算5年を超えたとき、労働者の申し込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールのこと。
原則、契約期間に定めがある「有期労働契約」が同一の会社で通算5年を超えるすべての人が対象です。契約社員やパートタイマー、アルバイト、派遣社員など名称は問いません。
有期契約労働者を雇用している企業は注意
無期転換ルールへの対応は、中長期的な人事管理も踏まえて無期転換後の役割や労働条件などを検討し、社内規定を整備するため一定の時間を要します。
またこうした内容については、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)で相談可能です。なお無期転換ルールの適用を避けるため、無期転換申込権の発生前に雇止めをするのは、労働契約法の趣旨から望ましくないといえます。
11.労働契約法に関する裁判例
参考となる労働契約法に関する主な裁判例として、陸上自衛隊事件と高知放送事件を見ていきましょう。
陸上自衛隊事件
陸上自衛隊の隊員が自衛隊内の車両整備工場でトラックにひかれて死亡。「自衛隊員は、万全を期すべき安全管理義務を怠った」として遺族が提訴しました。
このとき使用者の業務命令には従う義務があるので、安全配慮義務に関しては否定する理由がないと判断されています。公務員の生命や健康に危険が生じないよう注意して、物的・人的環境を整備する義務が国にあると示された裁判例です。
高知放送事件
アナウンサーXが2回の寝過ごしによる放送事故を起こしたため、会社は就業規則所定の懲戒事由に該当するため懲戒解雇とすべきところ、将来を考慮して普通解雇にしました。これに対しXは解雇権の濫用だとして、労働者としての地位確認の請求を行ったのです。
その結果、「解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できないとき、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になる」と判断されています。