善管注意義務とは|違反事例、罰則、対策などわかりやすく解説

善管注意義務は、善良なる管理者の注意義務のこと。何かを委任された人はこの義務をまっとうしなくてはなりません。今回は善管注意義務についてできるだけわかりやすく説明します。

1.善管注意義務とは?

善管注意義務とは、社会通念上あるいは客観的に見て当然要求される注意を払う義務のことで、何かを委任された人に対して発生する義務です。

民法第644条では「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」となっています。

たとえば会社の取締役は、会社法330条にて会社の経営を委任されている立場とされているため、善管注意義務が発生するのです。また会社法423条では、善管注意義務を怠って取締役が会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負わなければならないとしています。

善管注意義務が要求される場面

日常的な売買取引でも、民法第400条にもとづいて善管注意義務が要求されます。たとえば債務者には債権者へ特定物を引渡すまで善管注意義務が発生するのです。

特定物には不動産や中古車、美術品など個性や特徴のある物品が該当し、その引渡しが完了するまで特定物の管理や保存をしなければなりません。そのほか債権にもとづいて他人の物を占有あるいは売却する際にも、善管注意義務が発生します。

善管注意義務に比べて軽い「注意義務」とは?

程度の軽い注意義務も存在します。たとえば報酬を得ずに物の保管を引き受けた場合や、親が子の財産を管理する場合などです。

この場合、保管物に対して「自身の物を扱うときと同様の注意を払う」という義務が発生します。善管注意義務と比べて責任が低く、程度も軽いといえるでしょう。

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2.取締役の義務とは?

会社法330条で定められたとおり、取締役は会社から経営を委任された立場です。さらに取締役は民法第644条にしたがい、会社に損害を与えないよう「善良な管理者の注意」を持って業務を行わなければなりません。

ここでは取締役の義務について、見ていきます。

  1. 忠実義務
  2. 経営判断と監督義務
  3. 内部統制システムの構築義務
  4. 報告義務

①忠実義務

善管注意義務とは別に、会社法355条によって「忠実義務」も負います。忠実義務は善管注意義務を具体的に説明したもので、「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」とされているのです。

②経営判断と監督義務

株式会社では株主が実質的な会社の所有者になります。一方、取締役は株主から会社の舵取りを一任された人材です。そのため取締役は会社の進むべき方向を示し、さらにそれが確実に実行されているかを確認する義務があります。これらが経営判断と監督義務です。

さらに取締役には株主に対して説明責任が生じるため、懸案事項を説明するために株主総会を開催しなければなりません。

③内部統制システムの構築義務

利害関係者へ損害を与えないよう適正に業務を進めるため、内部統制システムの構築や監視を行わなければなりません。経営者の方針や意思を社員が理解して実行する環境づくりや、社内外で予測されるリスクへの対応、ITへの対応や活用などです。

なお取締役会設置会社のうち、資本金が5億円以上または負債の額が200億円以上の会社は、内部統制の整備義務が生じます。

④報告義務

取締役は株主から株式会社の経営を任されている立場です。もしも会社に大きな損害をおよぼすような事案が見つかった際、事実を迅速に株主へ報告しなければなりません。なお監査役を設置している会社であれば監査役へ報告します。

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3.善管注意義務は分野によって扱いが異なる

善管注意義務は行為者の階層や地位、職業に応じて扱いが変わってきます。これは社会通念上、客観的かつ一般的に要求される注意を払う義務が異なるためです。

準委任契約における受任者

準委任契約とは、委任者から法的な権利が関係しない業務を請け負うこと。業務の一部を外部へ発注する場合が該当し、発注元が委任者、受注側が受任者となります。準委任契約を受けた者は、責任を持ってその行為を処理しなければなりません。

受任者が善管注意義務に沿った処理を行っているなら、処理結果が委任者にとって不利益な結果になっても、責任は受任者に生じないのです。

医師

医師が診察を申し入れた患者を診療すると、診療契約が成立したとみなされて準委任契約に該当します。そのため医師は正しい知識と技術にもとづいて診断や治療を行うという善管注意義務が発生するのです。

また診断の結果や治療方法を患者に説明する義務や、自らの手に負えないと判断した場合は適切な医療機関を紹介する義務も含まれます。

賃貸

賃貸の際、「特定物(賃貸で借りた部屋に備え付けられている設備)」の保存に関する善管注意義務が発生します。

賃借人はその設備について自由に使用できる権利を有しているのです。しかしどのような使い方をしてもよいわけではありません。善管注意義務にのっとって節度ある使用が義務付けられています。

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4.善管注意義務違反と判断される要素

善管注意義務はその性質上、明確な定義がありません。そのため善管注意義務に違反したかどうかについては、さまざまな要素から客観的に見た判断が必要になるのです。

  1. 法令違反
  2. 経営の判断ミス
  3. 監督義務の放棄
  4. 利益相反取引の承認を怠る
  5. 第三者に対する過失

①法令違反

法令違反はもっとも大きな要素といえます。善管注意義務は社会通念上で要求される注意。そして「社会通念上」という言葉には、裁判官が認定する社会一般の常識という意味が含まれるのです。

そのため法律や法令に違反すると善管注意義務にも違反したとみなされます。よって取締役は会社が法令に違反しないように導かなければなりません。

②経営の判断ミス

取締役が善管注意義務にのっとって正常な判断を行ったうえで経営に悪影響を与えた場合、その責任は問われません。

しかし明らかに間違った経営をして会社に損害や悪影響を与えた場合、善管注意義務違反とみなされて責任を追及される可能性があります。

③監督義務の放棄

取締役には会社のほかの役員や社員を監督する義務があります。監督とは社員が業務を適正に行っているかを確認すること。とくに業務執行権限を持つ代表取締役や、業務執行取締役による業務執行の監督が重要です。

また違法なことを行おうとしている取締役や社員を発見した場合には、その行為をやめさせるために必要な措置を取らなくてはなりません。

④利益相反取引の承認を怠る

取締役が自社と取引を行う際、その事実を株主総会や取締役会などで開示して承認を得る必要があります。この工程を怠って利益相反取引(取締役が得をして会社が損をする取引)がなされた場合、善管注意義務違反になるのです。

取締役は損害額を賠償しなければなりません。また取締役と自社間での取引だけでなく、取締役と第三者で取引を行った場合も、開示や承認を行っていなければ利益相反行為に該当します。

⑤第三者に対する過失

第三者である株主や会社の債権者、取引先に対して故意的あるいは重大な過失を生じさせた場合、取締役は善管注意義務違反に問われます。たとえば財務諸表の改ざんや、株式情報に虚偽の内容を記載した場合などです。

これらは会社に不利益を生じさせる行為であり、その取締約には損害賠償を行う責任が発生します。なお第三者が被る損害は2種類です。

  • 債務未履行で第三者が直接損害を受ける直接損害
  • 倒産で会社が損害を受けた結果、第三者が損害を受ける間接損害

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5.善管注意義務に違反した場合(任務懈怠責任)

任務懈怠責任とは、善管注意義務違反と判断され、会社に対して損害賠償を支払うこと。実際に任務懈怠責任に問われた事例を交えて説明します。

損害賠償

会社法423条には「取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と記載されています。

そのため取締役が善管注意義務に違反して会社に損害を与えた場合、会社法423条で定められているとおり、会社に損害賠償を支払わなければなりません。

契約解除

善管注意義務違反を行った場合、損害賠償を請求されるケースだけでなく、契約解除を言い渡されるケースもあります。委任契約の不履行とみなされると、民法第541条と第543条によって委任者による契約の解除が可能となるからです。

そのため会社(委任者)は取締役(受任者)を解任できます。なお取締役は株主総会の決議があればいつでも解任可能です。

違反した事例

実際に善管注意義務違反として訴えられたケースも存在します。経営判断のミスや法令に違反する行為について「監督責任を怠った」として善管注意義務違反となり、損害賠償を求められることになった事例を2件紹介していきます。

  1. 事例①
  2. 事例②

事例①

親会社A社が、不良在庫を抱えた子会社B社に対し、B社の調査結果を特に検証することなく多額の貸付などを行っていたケース。

A社の代表取締役とB社の非常勤取締役を兼任していた人物らに、善管注意義務違反などを理由とした株主代表訴訟が提起されました。なお損害として被った18.8億円の損害賠償も求められています。

事例②

X社の社員が、X社が管理する広告主の情報を利用し、インサイダー取引を行ったケース。この社員には一部刑事責任が問われました。X社の株主らは、その取引が行われていた期間に在任していた同社の取締役の善管注意義務違反を追及。

インサイダー取引の防止を怠った任務懈怠があるとして、取締役に対して同社と連帯して損害賠償金10億円の支払を求めました。

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6.善管注意義務違反にならないために

取締役は法令違反によるリスクを最小化しなければなりません。ここでは取締役が善管注意義務違反にならないために注意すべきことについて説明します。

  1. 利益相反取引は必ず承認を取る
  2. 名目的取締役にならない
  3. 経営判断は慎重に行う
  4. 専門家の知見を求める

①利益相反取引は必ず承認を取る

取締役が利益相反取引を行う際は、自分の判断だけで行うのではなく、必ず株主総会や取締役会を開いて承認を得なければなりません。取締役が利益相反取引を行う場合、株主総会や取締役会で重要な事実を開示し、承認を受ける義務があるからです。

承認を怠って会社に損害を与えた取締役は善管注意義務違反とみなされ、会社から取締役へ損害賠償を請求できます。

②名目的取締役にならない

名目的取締役とは、実際には何の業務も行わない名ばかりの取締役のこと。たとえば取締役の人数が不足したため、知人の名義だけを借りて登録し、業務を行わず取締役会にも出席しないといったケースです。

しかしこのような立場でも、会社が不利益を被った場合に善管注意義務違反として損害賠償を求められる場合もあります。もし名目的取締役を依頼されても受任するべきではありません。

③経営判断は慎重に行う

取締役の経営判断は、以下の点に注意したうえで慎重に行うべきです。

  • 法令または定款への違反がないか
  • 事実の認識や意思決定が不合理でないか
  • 経営判断によって取締役個人に利害関係が生じないか

これらを満たした経営判断であれば善管注意義務にのっとった判断とみなされます。結果的に経営に損害を与えたとしても、損害賠償をされることはないでしょう。

④専門家の知見を求める

法律の専門家の意見を聞かずに経営判断した際、知らずに法律に抵触してしまうケースも見られます。このとき取締役は「法令または定款への違反がないか」の確認を怠ったとして善管注意義務違反に問われてしまうのです。

また経営判断を下した取締役以外にも取締役がいる場合、その取締役は監督不履行とみなされて、任務懈怠責任を問われるでしょう。