大手IT企業が導入していて今注目を浴びている目標管理手法「OKR」。前回は「OKR」の実情と活用方法について人事コンサルタントの金丸美紀子さんにお話を伺いました。
前回のインタビューはこちら。
【連載:「OKR」のソコが知りたい! 前編】OKRは、社内コミュニケーション活性化に最適なツール~人事コンサルタント金丸美紀子さんにインタビュー~
GoogleやFacebookなどの外資系企業だけでなく、国内企業でも、急成長を続けているメルカリも採用するなど、今最も注目を浴びている目標管理手法「OKR」。あなたの会社でも「OKRを導入する」、な...
今回は「OKR」を実際に運用するためのポイントをご紹介します。
人事コンサルタントとして、2016年に独立。人事歴通算13年。
大学卒業後、化粧品メーカーにて代理店向け営業・教育インストラクターして5年半勤務。その後、健康食品会社での通販事業の立ち上げを経て、2000年より食品流通会社の経営企画室長次長、人事部長を歴任。主に採用・教育研修業務を自ら担当するとともに、人事制度の改定、人材開発体系の構築に従事。2013年上場ITベンダーに転職し、人事部長として3年半勤務。
2週間で導入すべきOKRの基本ステップ
――OKRを導入するに当たって、どのくらいの期間が必要でしょうか?
OKRの導入開始までの期間は、基本2週間程度で行うべきだといわれています。
なぜなら、前回お話しさせていただいたようにOKRは新しい事業や野心的な目標に向かって前進するのが目的のため、それくらいのスピード感がないと、実行する意味がなくなってしまうからです。
そもそも、MBOの目標設定は1年もしくは半年のスパンで行う場合が多いですが、OKRは一般的に、4半期に1回のペースで振り返りと目標設定をするのが適切だといわれています。
ですので、その目標設定自体に1カ月もかけていたら、スピード感がずれてしまいます。
――2週間でやるべきOKRの、目標設定のステップを教えてください。
①指針となる会社全体の方針を決める
まず、経営者が新しい事業の方針を決定します。
経営者が強いビジョンを持っているからこそOKRを導入する意義があるので、そのビジョンを社員にしっかりと伝えられるよう方向性を確定させます。
②OKR運営メンバーを選出する
「①指針となる会社全体の方針を決める」で経営者が決定した方針を現場の社員に伝え、社員が考えた目標を選定していくという運営業務が発生するため、OKR運営メンバーを選出する必要があります。
運営メンバーの人数は各部署の代表や人事、経営陣など10人程度がよいでしょう。
③会社の指針をもとに、全社員の目標を確定する
「①指針となる会社全体の方針を決める」で決定した指針となる会社全体の方針を全社員に投げかけ、会社が集中して取り組むべきだと思う目標を提出してもらいます。
OKR運営メンバーはその中から、最も優れた『Objective』と、その結果指標となる『Key Result』を設定します。
以上が2週間で行うべきOKRの目標設定の基本的な流れとなります。全社員で行うのが難しい場合は、部門単位で行うとよいでしょう。
週次の共有ミーティングが欠かせない!
――目標設定を行ったOKRを運用していくための方法を教えてください。
理想としては毎週、月曜日と金曜日にミーティングを行います。
【月曜日:インプットミーティング】
月曜日のミーティングでは、O(目標)に対するKR(目標に対する結果指標)の進捗をチェックします。
ただし、単なるタスクの進捗確認ではなく、チームメンバーが共通の目標にコミットできるよう、
- その週は何にフォーカスするのか
- 優先順位は適切なのか
- 障害はないか
- お互いに貢献できることはないか
などを話し合います。
その週に各人がどのように行動するかといった状況をチーム全員で共有することに非常に意義があって、各人が共通の目標に前進していく高いモチベーションを維持することにつながります。
【金曜日:アウトプットミーティング】
金曜日のミーティングでは各人の1週間の振り返りをチーム全員で共有します。
- 今週のやるべきことがしっかりとできたか?
- できなかった場合は何が原因だったのか?
- 共通の目標にどれだけ近づいたのか?
などを共有し、成果を分かち合います。
毎週月曜日、金曜日で一つ一つ確認するのは大変そうに思われるかもしれません。
しかし、チーム全員が難易度の高い目標に向かって前進していくためには、このようなコミュニケーションが必要だといわれています。
OKRの理想と現実を把握しておこう!
――OKRを取り入れてもうまくいかないケースはどんな場合でしょうか?
やはり経営者がしっかりと強いビジョンを持っていないとOKRの導入は難しいといえるでしょう。結果的に(現在の日本企業的な)MBOと同様の評価制度に陥ってしまう可能性があります。
また、よく問題になるのは、管理部門や一般事務などのルーチンワークの職種は、実際の業務内容と野心的な目標が直接的に結び付けにくいということです。
全社目標と業務との乖離は、業務のやりにくさを感じさせ、社員の不満やモチベーションダウンを招いてしまっている、というのもリアルな声として挙がっていたりします。
そういった問題を回避するためにも、本来は社員全員で行うというのがOKRの理想ですが、まずは新規事業などの野心的な目標を掲げる部署だけで取り入れてみるのがよいでしょう。
大企業の場合もまずは1部署で取り入れてみて、OKRの成功事例を積み上げてから、他の部署に広めてみるというやり方が現実的かと思います。
――他にOKRをうまく運用していくための方法を教えてください。
OKRに対する相当の理解が必要なので、専門のコンサルタントに入ってもらう方が実現しやすいかもしれません。
先ほど申し上げたような社員の不満などが出てきた場合にどう対処するのかも相談できますし、トップの強烈な想いに向けて全社員で目標を立てて動いていくわけですから、その都度「これはこういう意図なのです!」と根気強くコミュニケーションを取っていく必要があります。
そんなプロジェクトを牽引できる専門家、あるいは社内の推進者が必要ですね。
――最後に、OKRは評価制度とは結び付かないとのことですが、実際昇給などはどのように評価するのでしょうか?
OKRは、目標管理手法の一つですが、目標自体は達成率が60%程度で不可能ではないが達成することが非常に困難な目標を設定するため、結果を評価や報酬に反映させるには不向きです。
ですから、評価制度や報酬制度は別に考えられた方がよいでしょう。
日本で一般的に利用されているMBOは、目標の達成度を評価と報酬に連携させていることが多いですが、OKRはあくまでも全社の目標達成をドライブさせ、社員一人ひとりが効率的に、かつ野心的に取り組むための仕組みですから、本来は分けて運用するのが理想です。
ただし、従来のMBOに代えてOKRを導入する場合は評価結果を報酬に反映させているケースが多いのが現状だと思います。その場合は、OKRの達成結果をストレートに報酬に反映させるのではなく、他の評価と併せて総合的に評価する必要があると思います。
いずれにしても、MBO同様、OKRも導入して終わりではなく、運用が最も重要になります。
まとめ
OKRとは、コミュニケーションツールであり、毎週のインプットミーティンとアウトプットミーティンを行うなど、大切なコミュニケーションをしっかりとっていくことでうまく運用できるということですね。
OKRをうまく運用すれば、チームみんなが難易度の高い目標に向かって前進していくことができ、夢のような事業も最短で実現するかもしれませんね。