企業は、変化し続ける市場で発展するため変革を続ける必要があります。しかし現実には、どんな組織でも変革を妨げるさまざまな要因が存在し、対応を怠ればあっという間に事業存続の危機に陥るのです。
経営学者の伊丹敬之氏と加護野忠男氏は、競争環境が「革新・競争・代謝・多様性」を求めるのに対し、組織で働く個人は「安定・調和・保存・凝集性」を求めるため、その矛盾をどうマネジメントするかが経営の論点になると述べています。
こうした矛盾を解消する方法のひとつとして、組織活性化に取り組もうとする企業が増えてきているのです。
目次
1.組織活性化とは?
企業が目的を達成し成長するには、組織活性化が必要です。組織活性化とはどういったことなのでしょうか?
経営学者の伊丹・加護野の理論
組織活性化とは、仕事をするために構成されたチームの一員として、目的に向かってメンバー一人ひとりが、主体的に意識を持って活動していること。経営学者である伊丹敬之氏、加護野忠男氏の経営戦略における理論です。
組織と従業員の意識の矛盾を解消するマネジメント法が重要
企業が目的を達成するには、組織の意向を従業員が適切に把握し、行動することが必要です。それが不十分だと組織は活性化されません。
組織と従業員に共通認識がないと、
- 従業員が生き生きと仕事ができていない
- 職場におけるコミュニケーションが取れていない
- 退職者が多くなる
といったことが発生します。こうした問題を解消し、組織として成功するには組織と従業員の意識の相違を解消するマネジメントが必要なのです。
2.活性化している組織とは?
組織が活性化している状態とはどういったものか、具体的に見ていきましょう。
経営層と従業員とが組織の経営理念・ビジョンを共有している
従業員がどのような考え方で仕事をしているかという点は重要ですが、経営層の考えと違っては目的も変わり、スムーズな目標達成はできません。
組織の活性化に重要なのは、明確な経営理念やビジョンを経営層と従業員とで共通認識している状態です。
経営理念・ビジョン達成のため従業員が主体的・自発的に協働
仕事を「やらされている」という受動的な意識で働いている状態は生産性が低く、従業員本人も仕事を楽しめません。目的を理解せず指示に従うだけの仕事では、組織の活性化がなされないのです。
従業員が能動的になると主体性が生まれ、さまざまなアイデアが生まれたり自発的に協働したりといったよい状況になり、仕事もスムーズに進みます。
従業員のモチベーションが高い
- 目標達成のために仕事がしたい
- 自分の存在意義を自覚し仕事に励みたい
という気持ちがモチベーションです。従業員全員が目的達成に向かって自分の役目を果たそうという気持ちが持続している組織は、活性化しているといえるでしょう。
組織内のコミュニケーションが循環している
多くの組織では、業績アップに欠かせないコミュニケーション方法について考案しているでしょう。
コミュニケーションを円滑にするため、
- 飲み会を開催
- ミーティングを増やし意見交換ができる場
などコミュニケーションができる環境をつくることは大切ですが、「上司から言われたから」と思われてしまえば逆効果です。
活性化されている組織には、自然なコミュニケーションが取れている状態の存在が重要です。
効果的な人材育成のシステムが構築されている
指導方法や手段など人材育成のシステムが構築されていると、より効果的でスムーズな人材育成につながります。
3.組織活性化を実現するための取り組み
組織活性化を実現するには、どういった取り組みが必要なのでしょうか?
取り組み1:社会的使命感を持つ
仕事をするうえで、意識は重要です。自分のしていることが、どういった貢献になるのか、何を生み出すのか、といった点の把握がモチベーションの持続につながります。
「この組織は何を目標にしているか」
社会的使命感には、明確な目標が欠かせません。会社の経営方針や計画だけでなく、なぜその目標を立てたのかまで従業員が理解している状況が重要なのです。
「何のためにこの仕事をしているか」
目的が明確でないまま仕事をするとやる気は起こりませんし、モチベーションも下がってしまうでしょう。その仕事をすることで、何をどう達成するか、自分はどのような役割を担っているかを明確にすることが必要です。
「仕事が社会にどう貢献しているか」
自分の仕事が社会的貢献となる事実は、大きなモチベーションにつながります。自分の仕事がどのような社会的貢献につながるのかを理解することが大切です。
社会的使命感を持つことの効果
- 経営理念・ビジョンが明確化
- 経営理念・ビジョンの共有が容易
- 従業員一人ひとりの目的意識や目標が明確化
- 従業員の自発的・積極的な協働を促進
- 従業員のモチベーションが向上
①経営理念・ビジョンが明確化
自分の役割や社会的使命の理解と同時に目的がはっきりすることで、経営理念やビジョンも明確になります。
②経営理念・ビジョンの共有が容易
経営理念やビジョンが明確になることで、経営層と従業員の考え方が共有されやすくなるでしょう。
③従業員一人ひとりの目的意識や目標が明確化
社会的使命感を持つことで、自分が何をするべきかを認識し、実行しやすくなります。
④従業員の自発的・積極的な協働を促進
目的が明確になることで意識が向上し、自らの意見を持って積極的な行動を取れるようになります。
⑤従業員のモチベーションが向上
意識が向上し、仕事にも面白みが出てくるためモチベーションが向上します。
取り組み2:上司と定期的に面談
上司とさまざまなことを話し合う場が必要ですので、定期的な面談を実施しましょう。しかし、漠然と話をするだけではなく、
- 明確な目標や悩みなど細かい点まで話をする
- 意見交換をする
ことが重要です。それを半年に1~2回ほど、定期的に行います。
仕事上の悩みや不安
仕事上の悩みや不安を上司に伝えられれば気持ちは軽くなり、聞いてもらえることで安心感も生まれます。このような環境をつくるためにも自由に何でも話せる雰囲気の構築が重要でしょう。
上司は部下から打ち明けてもらった悩みや不安から、問題点や課題を見いだすことも可能です。
話し合いをする際会社の目的やビジョンについて話すことから始めるとよいでしょう。そのほうが、会社の目的や社会的使命について明確な話し合いができます。
仕事以外での悩みや不安
プライベートが不安定だと、仕事にも影響してしまいます。
- 結婚後はどうなるのか
- 育児をしながら仕事ができるのか
- 介護が必要な親がいる
など仕事以外での悩みや不安、さらに組織内での人間関係などについても、細かく話し合いましょう。
従業員の仕事への取り組み
現在担当している仕事について話し合います。
- どのような仕事をどのくらいの時間をかけて行っているのか
- どのような目的で行っているのか
- 必要の無い仕事をしていないか
- 必要な教育や研修は何か
など実際の業務に関する点を上司と従業員で互いに認識しましょう。
チームやグループの仕事への取り組みなど
チームやグループ全体における仕事に対する話し合いをして一人ひとりが、
- 自分の役割を認識しているか
- チーム内で目的が統一されているか
- ムダな仕事や会議をしていないか
など確認点や改善点を洗い出します。コミュニケーションを取るひとつの方法として懇親会やイベントなどの開催について話し合うのもよいでしょう。特に新入社員の場合、さまざまな人と知り合うことで仕事にも良い影響を与えます。
定期的な面談による効果
- 直属の上司との良好な人間関係を構築
- 組織内の円滑な意思疎通環境を醸成
①直属の上司との良好な人間関係を構築
直属の上司とさまざまな点について話し合うことで、わだかまりや誤解などが生じにくく、信頼し合える関係が生まれるでしょう。お互いの思考や性格なども理解できるため、話しやすくなり、風通しの良い職場になるという効果も期待できます。
お互いの考え方や性格などを把握していないと、歩み寄りもできず、コミュニケーションも取れません。定期的な面談はそういった壁を取り除くことができます。
②組織内の円滑な意思疎通環境を醸成
面談では目標やビジョンの再確認とともに、自然なコミュニケーションも可能となります。
意思疎通が自然とできるため、無理にコミュニケーションを取ろうとすることはなくなります。すると誤解などもなくなり、職場内でスムーズな意思疎通を図ることができるでしょう。コミュニケーション不足や意思疎通ができないストレスもなくなります。
ななめ面談(直属上司以外の上司との面談)も有効
直属の上司との面談のほか部署や職種などに関係のない上司との面談であるななめ面談を取り入れるのもおすすめです。
面談内容は、
- 仕事や仕事以外の悩み
- 相談事
- 自分の目標やチームの目標
- 直属の上司との関係
などさまざまな内容があります。堅苦しさよりも自由に話ができる雰囲気づくりが大事です。
部署や職種などに関係のない上司との面談は、
- 違った意見を聞く
- 違った角度からのアドバイスをもらえる
といった点があるため従業員の成長につながるでしょう。
ななめ面談は、直属の上司との関係がうまく構築できない場合により効果を発揮します。悩みや相談事を言える場が増えるため、精神的な支えになるのです。
組織としても、ななめのつながりによりコミュニケーションの向上につながるでしょう。上司も、ほか部署のスタッフが何を考えているか、どのような目的を持ち仕事に取り組んでいるかを把握でき、視野が広がります。
取り組み3:マルチ担当制の導入
1業務に専任の担当者が存在する仕組みは合理的で、担当者に責任感が生まれます。一方で1業務に複数の担当者を配置したり一人が複数の部門を担当したりするマルチ担当制もメリットをもたらします。
一人が複数の部門を担当、または1つの業務を複数人が担当
信頼関係が生まれやすいといったメリットがあるため、営業などは専任担当となる場合が多いでしょう。しかし、マルチ担当制によるメリットも多いのです。
マルチ担当制とは、一人が1部門ではなく複数の部門の担当になること、また1業務を複数人が担当すること。組織活性化のために導入を検討してみてはいかがでしょう。導入することで、次のような効果が期待できます。
マルチ担当制の効果
- 全社的な視点を育成
- 「この人がいないとわからない」属人的な状態を解消
- 自分の担当部門やほかの部門の理解を深める
- 複数人による多角的な判断が可能
①全社的な視点を育成
専任担当となることで専門性は高まりますが、その半面、
- 該当部分だけしか理解できない
- 把握できない
というデメリットも生じるのです。複数部門の担当により、違った視点を持つことができ、視野も広くなります。全社的な視点を持った人材の育成につながるでしょう。
②「この人がいないとわからない」属人的な状態を解消
担当者や責任者が一人だったり限定されていたりすると、その人が不在のときの判断を誰に委ねればよいのかという問題が出てきます。
一人ではなく複数の担当者がいれば、問題がなくなるとともに判断の偏りもなくなり、さらに業務もスムーズになって引き継ぎなどの時間も節約できるでしょう。
③自分の担当部門やほかの部門の理解を深める
1つの部門だけにいると、ほかの部門のことはわかりません。しかしほかの部門を担当することで業務内容や人間関係、それぞれの部門に対する要望や考えていることなど理解できるのです。
さらに自分の担当部門を外から見ることができるため、より良い工夫やアイディアなどが生まれます。
④複数人による多角的な判断が可能
複数の担当者がいることで、視野もさらに広くなるでしょう。そのうえ問題に対してさまざまな角度から議論もでき、多角的な判断につながります。
取り組み4:ITツールの導入
現在、ITツールを活用していない企業はないに等しいと思われます。しかし、状況によってはエクセルやワードなど業務に必要な基本的ツールを使いこなせていないケースもあるでしょう。
ITツールの活用は仕事をスムーズにしますので、組織活性化のためにもITツールの導入は欠かせません。
ITツールの担当などを決め、不得意な人への指導や研修などを行いましょう。業務の一環として評価すれば、指導する側もされる側もストレスを感じません。
ITツール導入の効果
- 情報の共有
- コミュニケーションが活発化
①情報の共有
従業員の一人ひとりがITツールを活用することで、情報を共有しやすくなります。言葉などで伝えるよりも同じ情報を見るほうが正確で迅速に情報が伝わります。同じ情報を従業員全員で共有していることが、組織活性化には大切です。
②コミュニケーションが活発化
メールやチャットツールなどを活用することで、社内のコミュニケーションは活性化します。ITツールを使うことが苦手な人に得意な人が教えるだけでも、コミュニケーションを取ることになり、社内の雰囲気も変わるでしょう。
まとめ
組織が活性化していないと、従業員のモチベーションは持続せず、目的も達成できません。生き生きと仕事ができないため、退職者も増えるでしょう。
それを防ぐには、理念やビジョンを明確にしたり従業員に社会的使命を実感させたりすることが必要です。
直属の上司やそれ以外の上司との面談機会を設けたり、マルチ担当制を導入したり、ITツールを導入したりとさまざまなことに取り組んで、組織の活性化を図りましょう。