現在、教育機関や教育界でアクティブラーニングと呼ばれる学習方法が注目を集めています。
従来の座学中心の一方的な学習方法ではなかなか身に付かなかった「自ら学ぶ力」を養い、汎用的能力の向上につながることから、ビジネスシーンでも期待が寄せられているのです。アクティブラーニングの特徴や内容、そのメリットなどについて紹介しましょう。
目次
1.アクティブラーニング(Active Learning)とは?
アクティブラーニングとは「児童」「生徒」「学生」などの受講者が、自ら能動的に学びに行けるように設計された学習方法のこと。
- 認知的
- 倫理的
- 社会的能力
- 教養
- 知識
- 経験
といった汎用的能力の育成を図る内容だと定義されています。教師が一方的に指導を行うのではなく、
- グループ・ディスカッション
- ディベート
- グループ・ワーク
といった体験学習を中心とした授業を指します。
Active Learningの訳語
受講者が能動的(Activeアクティブ)に学修(Learningラーニング)に参加する学習方法の総称です。
日本語では「能動的学修」と訳されており、「主体的、対話的で深い学習」という意味を持ちます。「自ら進んで学んでいく力」を養っていきます。
アクションラーニング/参加者中心型学修(Participant Centered Learning)などの言い方も
欧米では「アクションラーニング」、または「参加者中心型学修(Participant Centered Learning)」などと呼ばれています。
高校生、大学生、社会人、企業幹部など幅広い層を対象にした教育法として確立されており、汎用的能力の向上を目指します。
具体的な学び方
主な学習方法は、
- 発見学習
- 問題解決学習
- 体験学習
- 調査学習
- グループ・ディスカッション
- ディベート
- グループワーク
受講者の自主性を尊重して、実地体験に基づいた学習法が採られており、アクティブラーニング型授業とも呼ばれています。
2.文部科学省によるアクティブラーニングの定義
アクティブラーニングは、「生涯にわたって学び続ける力」「主体的に考える能力」を備えた人材の育成方法のこと。
「文部科学省の用語集」や、2012年8月にまとめられた「中央教育審議会答申」では、アクティブラーニングの授業内容を下記のように定義しています。
- 従来の知識の伝達・注入を中心とした授業とは違い、自主的に物事を考える力を養う
- 教員と学生が密接なコミュニケーションを取り、相互に刺激を与えながら知的に成長できる場をつくる
- 学生が主体的に問題を発見して解決に導く「能動的学修」へと転換させる
能動的学修の意味
アクティブラーニングは、日本語で「能動的学修」と訳されています。
しかし、「アクティブ(活動的)」という言葉が使われていることから、「座学ではなく、身体を動かしながら学ぶ」と誤解している人も多く、中には単なる「ディベート学習」「グループ学習」「体験学習」だと思い込んでいる人もいるようです。
アクティブラーニングは、文部科学省が発行している用語集の中で、
- 一方向な講義方式ではなく、受講者たちによる能動的な参加を促した学修方法
- 主に大学で行われている一斉講義の質的転換をはかった教育内容
と紹介されています。受講生たちが能動的に学修に参加することであり、身体を動かすかどうかが条件ではありません。
3.アクティブラーニングの特徴
アクティブラーニングの最大の特徴は、「正解がない」議論を講師がハンドリングしなければならない点です。
「正解」「解答」がある課題から、正しい「知識」を習得させるのではなく、受講者個人が自ら考えていけるよう受講者一人ひとりの考え方を引き出して導いていく能力が、講師に強く求められています。
ラーニングピラミッドにおけるアクティブラーニング
アメリカ国立訓練研究所の研究によると、「ラーニングピラミッド」という図で「学習方法」と「平均学習定着率」の関係を表すことができます。
- 講義(学習定着率5%)
- 読書(学習定着率10%)
- 視聴覚(学習定着率20%)
- デモンストレーション(30%)
- グループ討論(50%)
- 自ら体験する(75%)
- 他の人に教える(90%)
このうち、「グループ討論」から「他の人に教える」はアクティブラーニングに位置しており、「学習定着率」の向上の鍵は、能動的な学修と示しているのです。
4.アクティブラーニングが注目される理由・背景
「アクティブラーニング」が注目されるようになった背景には、
- 急速なグローバル化
- 少子高齢化
- 社会環境・構造の変化
などが主な要因として挙げられています。そして教育の場においても、時代の変化やニーズに応じた人材育成が求められているのです。
近い将来、コンピューターの急速な発展によって、多くの職業がAIに取って代わられるといわれています。そのためにも、単なる知識の伝達だけではなく、生き抜く上で主体性に物事を捉えて解決していく能力が必要になったのです。
そういった理由から学修方法も質的転換が行われていきました。
アクティブラーニングの必要性
アクティブラーニングの必要性を主張する根拠として、「学習定着率」の高さが挙げられており、「ラーニングピラミッド」という図では、それぞれの学習方法の「学習定着率」が示されています。
- 「座学」の講義はピラミッドのトップに位置しながらも、「読書」よりも「学習定着率」が低い
- 「グループ討論」「フィールドワーク」「プレゼンテーション」といったピラミッドの下に位置するアクティブラーニングは「学習定着率」が高い
といったことが証明されています。これらからも、能動的な学修方法である「アクティブラーニング」が必要とされているのです。
5.日本における推進の経緯・歴史
日本では、大学の教育改革が進む中で講義の質的転換としてアクティブラーニングが取り入れられるようになりました。そういった経緯から、小学校や中学校、高等学校の初等教育、中等教育にまで普及していったのです。
2012年:大学教育の改革(中央教育審議会の質的転換答申)
日本では、大学教育からアクティブラーニングという言葉が使われ始め、現在この言葉を使わない大学はないというほど定着しています。
平成24年8月28日の第82回総会「中教審(文部科学省中央教育審議会)」の答申において、アクティブラーニングという言葉が使われたのがきっかけとされています。
この答申は、「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」というタイトルで、文部科学省中央教育審議会が取りまとめ、文部科学省のサイトにアップされました。
タイトルにある「質的転換」は、学生の「受動的な受講」から「能動的な学修」への転換を指しています。
2014年:小中高等学校教育の改革(学習指導要領の見直し)
2014年11月20日、下村博文文部科学大臣から中教審に提出された「小中高の学習指導要領を見直してください」という諮問の中に、アクティブラーニングという言葉が使われました。
- 生産年齢人口の減少
- グローバル化の進展や絶え間ない技術革新
- 社会構造や雇用環境の多様性
といった時代や環境の変化を踏まえて、子どもたちが能動的に参加できる教育への転換が掲げられています。
学習指導要領は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校および特別支援学校の教育課程について細かく記述されており、教科書作成の基準、各学校のカリキュラムやシラバスの土台になるものです。
2014年:高等学校教育と大学入試の改革
2014年12月22日の「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」という中教審の答申の中でも、
- 基礎的な知識及び技能
- 課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力などの能力
- 主体的に学習に取り組む態度
が重要とされ、教育改革の一環としてのアクティブラーニングに言及がありました。
答申では、以下の2点が大きく掲げられています。
- 高等学校教育の中でのアクティブラーニングの充実
- 大学入試改革としてのアクティブラーニングの実施
特にアクティブラーニングが大学入試にも大きく関わるという内容から、定期的に学習指導要領が改定される高校(特に私立高校)でも大きな衝撃が走りました。
そういった経緯から、私立の中学校や高校の間でアクティブラーニングという言葉が当たり前のように飛び交うようになったのです。
6.学校教育におけるアクティブラーニング導入の実施状況
全国の高校におけるアクティブラーニングの実施状況について、リクルートマーケティングパートナーズが2014年と2016年の2度にわたって調査しています。
- アクティブラーニング型授業の実施率は約2倍に増加(2014年47.1%→2016年92.9%)
- 学校全体・教科で取り組んでいるケースも約2倍に増加(2014年20.7%→2016年41.7%)
2年間で、全国でアクティブラーニングを実施している高校は9割にのぼります。また約4割もの高校が学校全体でアクティブラーニングに取り組むようになりました。さらに、大学・短大への進学率が高い高校ほどアクティブラーニングの実施率が高いという結果が出ています。
7.アクティブラーニングを導入するメリット
アクティブラーニングを実施すると、「物事を多角的に捉えて問題を発見して、自分で解決に導く」能力が養われます。
そのため、アクティブラーニングでは正解のない議論を取り交わすことが最大の意義とされるのです。そして講師も知識のみを伝授するという役割ではなくなります。
- アクティブラーニングにおける教員の役割は「正解」のない質問を投げかけること
- そのためには受講者による「予習」が必要
- 議論に重心を置き、必要な知識を身に付けることが求められる
実際に、予備校ではビデオを活用したオンデマンド学修が普及しています。
アクティブラーニングによって身に付く力とは?
これからの時代、あらゆる業界・分野において、知識をどう活用していくのかが問われてきます。知識を応用する力、新しいことを創造する能力を養うために、アクティブラーニングは登場しました。
- 思考力
- 判断力
- 表現力
- 主体性
- 多様性
- 協働性
などがアクティブラーニングで身に付けられます。
アクティブラーニングは既存の知識を詰め込むだけの学習方法ではありません。主体性を持って問題を解決していくことの意義を教えて、新しい知識や技術を習得できる人材を育成するために生まれた学習方法なのです。
8.アクティブラーニング形式の授業の種類
アクティブラーニングは知識を詰め込むのではなく、「思考力」「判断力」「表現力」を養い、「主体性」「多様性」「協働性」を身に付けていくものです。その授業内容は、3種類に分類されます。
- ジグソー法
- 学び合い
- KP法
①ジグソー法
ジグソー法とは均等にグループ分けした受講者に異なる課題を与えた後、同じ課題の担当者たちを集めて議論を実施し、その後グループ内で各課題の解決に取り組んで、能力を身に付けていく方法のこと。
カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校の名誉教授でもあるエリオット・アロンソンが提唱した学習形式です。
②学び合い
「全員達成」「1人も見捨てない集団づくり」といったコンセプトのもと、講師が関わる時間を極力減らし、受講者が主体となって課題に取り組み、集団で課題の解決へと導く学習方法です。
受講者が能動的に学修に参加することを目的とした授業内容で、認知的・倫理的・社会的能力・教養・知識・経験を含めた汎用的能力を育成します。
③KP法
「KP法」とは、「紙芝居プレゼンテーション法」の略であり、日本環境教育フォーラム理事長の川嶋直氏が提唱しました。
KP法では講義が始まる前、紙に授業の内容をまとめておき、進行に合わせて黒板やホワイトボードにその紙を貼り付けながら説明するといった方法を取ります。
9.問題解決型学習(PBL/Project Based Learning)とは?
「問題解決型学習(Project Based Learning)」は、現在、文部科学省が進めるアクティブラーニングの教育方法として注目を集めており、下記のような特徴があります。
- 受講者が自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とする
- 受講者の「自発性・関心・能動性」を引き出すことを重視する
- 解決にたどりつくまでの過程が大切であるという学習理論
教育学者ジョン・デューイの学習理論
1900年代初頭、アメリカの教育学者ジョン・デューイが、教育現場で初めて問題解決型学修の実践に取り入れたとされています。
- 人間の自発的な成長を促すための環境を整えることが重要であり、
- 講師はあくまで助言者として受講者のサポートに徹する
- 受講者は正解のない議論を通して問題解決へのアプローチ方法を身に付ける
といった授業形式が提唱されました。
問題解決型学習(PBL)のステップ
問題解決型学習(PBL)は、6つのステップを踏んで行われます。
チュートリアル型、実践体験型の2つの方法
- チュートリアル:1つの課題に対して仮説を立て、6つのステップに沿って検証していく方法
- 実践体験型:民間の企業など実社会の中で設定した課題を、6つのステップをもとに検証していく方法
10.アクティブラーニングの導入・取り組み事例
ここでは、大学教育の現場でのアクティブラーニングの導入・取り組みについて、
- 産業能率大学・小林昭文教授
- 上越教育大学・西川純教授
- 名古屋商科大学
の事例や授業内容を紹介します。
①産業能率大学・小林昭文教授
産業能率大学の小林昭文教授は、『アクティブラーニング入門』(産業能率大学出版部)、『いまからはじめるアクティブラーニング導入&実践BOOK』(学陽書房)などの著者で、アクティブラーニング実践の第一人者といわれる人物です。
小林教授の講義では、最初に簡単な説明を済ませて、残りの時間を演習に充てています。クラス全員が演習問題を解決するという目標が掲げられており、
- 演習中は早く解決できた生徒が他の生徒に教える
- 生徒同士で教え合うことで、問題への理解がより深まる
といった授業内容で、その効果から、生徒たちの主体性が育成されています。
②上越教育大学・西川純教授
上越教育大学の西川純教授は、2001年頃から「学び合い」という授業形式を提唱しました。
- 学校とは、クラスメイトたちとともに課題を解決する経験を学ぶ場
- 教師の役割は、「目標の設定と評価」「環境の整備」
と定義して、生徒が自主的に学修意欲を身に付けていくという内容です。「学び合い」は「アクティブラーニング」の理念とも符合しており、西川純教授は『すぐわかる!できる!アクティブ・ラーニング』(学陽書房)という書籍も出版しています。
③名古屋商科大学
2016年4月、日本で初めて教養科目から専門科目まで一貫して「アクティブラーニング」を実施した「都心型コース」が名古屋商科大学で開始されました。
ここでは、
- 国際的な企業の運営について実際のケースを取り上げ、ビジネスにおける知識を得る
- 学生は授業の中でディスカッションをすることにより課題解決に臨む
- 自ら考えたことを実社会の中で提案できる「フロンティア人材」の育成
などを目的としており、ビジネススクール教育で長年培ったノウハウをもとに、参加者中心型の授業形式が採られています。
11.アクティブラーニングの実施における注意点
2012年、教育の場においてアクティブラーニングの推進が叫ばれ、全国的にアクティブラーニングを実施する学校が増えています。アクティブラーニングはどの学校でもすぐに導入でき、特別な設備がないと実施できないということはありません。
アクティブラーニングを実施するうえで重要なのはハード面ではなく、参加する受講生自身の意識と姿勢とされています。
- 予習をきちんと行い、議論に備える姿勢
- 主体的に知識を得ようとする姿勢
- 考えの異なる人と議論しようとする姿勢
の3つがなければ、アクティブラーニングは成り立ちません。
実施前に必要とされる準備
アクティブラーニングでは、グループワーク後に実施される全体討論において、いかにうまく受講者たちの意見を引き出すことができるかといった、講師たちの「質問能力」が重視されます。
そのためファシリテーション能力が確実に講師に備わっているかが問われるのです。アクティブラーニングの実施において必要な質問は、以下6種類に分かれており、これらを組み合わせて、授業に参加した受講者たち全員をファシリテーションしていきます。
- 課題質問(予習用の事前課題として)Assignment Question
- 単純質問(発言しやすい雰囲気づくり)Break Question
- 極論質問(賛成か反対かなど意思決定を求める)Decision Question
- 深掘質問(意思決定に基づいて本質に迫っていく)Engage Question
- 反転質問(立場/状況を変えた質問で別の視点を加える)Flip Question
- 一般質問(課題の本質に迫っていく)Generalize Question
12.アクティブラーニングを成功させる秘訣
アクティブラーニングは講師と受講者だけでは実施できません。大学教育では講師と「事務」が明確に分かれているところが多く、どれだけ講師がアクティブラーニングの導入に積極的でも、事務のサポートが得られなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
またアクティブラーニングを導入する際には、
- 講義時間
- 資料配布
- 事前課題
- 教室配置
- 成績評価
- 学生指導
といった、従来にはなかった業務を事務が担当しなければならない場合もあるのです。もし事務が、どのような授業内容が行われるのかを理解していなければ、サポートは見当違いなものになってしまうでしょう。
むしろ事務がリーダーシップを発揮して、講師とともに積極的にアクティブラーニングを導入する姿勢がなければ、教育を取り巻く環境は変化できないと言わざるを得ません。