海外で活躍できるグローバル人材は、大企業だけではなく中小企業でも需要が高まってきています。その分、優秀な人材を採用するのが難しくなってきており、社内でグローバル人材を育成する企業が増えてきています。今回は、人事が知っておきたいグローバル人材の知識と育成のノウハウをご紹介します。
目次
1.グローバル人材とは?
グローバル人材とは、複数の国をまたがるビジネスにおいても成果を出せる人材のことです。特に語学力や異文化理解をはじめとしたコミュニケーション能力が重視される傾向にあります。
日本国内の需要の低迷や少子高齢化を受け、海外へ視野を広げる企業が増えています。海外市場を相手にできるグローバル人材の採用や育成を課題として抱える企業も多く、そのニーズは年々増加傾向にあります。
そのため、異文化への理解とコミュニケーション能力を備え、ビジネスで通用する語学力を持つ優秀な人材を確保するだけではなく、自社で人材育成を行うケースが増えています。
グローバル人材の定義
グローバル人材とは「自社のビジネスにおいて規模で絡み合った問題を整理し、商談相手と良好なコミュニケーションを築きながら背景や環境を問わず結果を生み出せる人材」と定義できます。
自社の持つビジネス目標の達成や実現に向けて、国境を問わず多角的な視点を持って行動していけるということ、さらに企業にとって有益な結果をもたらすことのできる力を持っていることこそが、グローバル人材に求められている意義です。
文部科学省の定義
文部科学省では、初等中等教育でグローバル人材としての能力を育成しようとしています。そして、グローバル人材を以下のように定義しています。
参考 グローバル人材の育成について文部科学省「グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様なバックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりやすく伝え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性の差異を乗り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうした差異からそれぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み出すことができる人材」
総務省の定義
総務省の定義は以下の通り。
参考 グローバル人材育成の推進に関する政策評価総務省「日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材」
人口減や少子高齢化などによる国際競争力の低下に対する危機意識が背景となっています。
グローバル人材育成推進会議の定義
グローバル人材育成推進会議は、海外留学の拡大を図る目的で設置され、内閣官房長官を議長として外務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣などで構成されています。
このグローバル人材育成推進会議による定義は以下の通りです。
参考 グローバル人材育成戦略(グローバル人材育成推進会議 審議まとめ)首相官邸「我が国がこれからのグローバル化した世界の経済・社会の中にあって育成・活用していくべき『グローバル人材』の概念を整理すると、概ね、以下のような要素が含まれるものと考えられる。
・要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
・要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
・要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」
2.グローバル人材に必要な能力、スキル
グローバル人材に必要な能力は大きくわけて2種類あります。
- グローバル力:グローバル人材だからこそ求められる能力
- 成果力:グローバル人材に限らずビジネスパーソンに求められる能力
留学や海外旅行の経験が必ずしも必要なわけではありません。ずっと国内にいた人材でも、適切な能力やスキルを磨くことで、世界で戦えるグローバル人材になれます。そのため単に「海外経験がある=グローバル人材」という枠にとらわれないのも大切なポイントです。
参考 ビジネス・レーバー・トレンド 2014年3月号独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)グローバル人材に特に求められる能力:「グローバル力」
グローバル力とは、世界に通用するスキルと新しい価値観を活かして結果を出す力のことです。
経済広報センターによる2013年の「グローバル人材の育成に関する意識調査」でも、日本人が持つべき素質、知識・能力として、
- 外国語によるコミュニケーション能力
- 海外文化・歴史、価値観の差への柔軟な対応
- 既成概念にとらわれずチャレンジ精神を持ち続ける
- 日本文化・歴史に関する知識
といった項目が上位にランクインしています。
外国語能力(英語力)
ビジネスチャンスを確実にするために、外国語能力は必須といえます。ただし、「英語ができる=グローバル人材」という方程式が成り立つわけではない点は認識しておく必要があります。
なぜなら交渉には語学力のほかにビジネスパーソンとしてのマインド、論理的思考力、感情表現力、他者を受け入れる器の広さなどを含めた総合的なコミュニケーション能力が問われるからです。
ビジネスにおける語学力とは、机上の語学力とは異なります。すなわち相手がいる状況下において、いかに自分の伝えたいことを熱心に表現できるかがポイントとなります。
コーチングやネゴシエーションなどの技術も含めた自己鍛錬を続けていくことがグローバル人材には求められているのです。
ダイバーシティ
ダイバーシティとは「多様性」のことで、その多様性を受け入れる能力・価値観の意味もあります。つまり、海外の文化や歴史、価値観などを含めた異文化理解力を指します。
ただ、ここでも気を付けたいのは、ダイバーシティが単なる異文化の習得だけではないということです。
- 自分とは違うという事実を受け入れ、心を開いてその違いをモチベートすること
- 多様な価値観が衝突する中から新たな価値を創造し、ビジネスの結果に結びつけていくこと
これらのステップをクリアしてはじめて、ダイバーシティが発揮できたといえます。
性別、世代、習慣、国籍、文化、歴史、宗教などの違いをお互いにリスペクトすることにより理解を深め、ビジネスの進展に役立てていく柔軟性を持てることが、真のグローバル力と言えます。
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最近、さまざまな分野で「多様性」を意味する「ダイバーシティ」という言葉をよく耳にするよ...
日本文化・歴史に関する知識
ダイバーシティを実現させる上で、持っているべき知識があります。それは、日本の自然や文化、歴史に関する知識です。
ダイバーシティには、他人や他国を理解すると同時に自分のことも理解してもらうことが求められます。自分は何者なのかを説明できるようにしておくことは、必須要件といえるでしょう。
日本には、四季折々の美しい風景、歴史的名所、ヘルシーな点が注目されている「和食」、最先端技術など、世界にアピールできるものが豊富にあります。
これらの日本の伝統や技術力を伝え、日本を知ってもらうことで、パーソナリティの理解にもつながります。生まれ育った日本への知識をしっかり持つことが、海外と円滑に関われることになるのです。
グローバル人材でなくても求められる能力:「成果力」
グローバル人材である前に、ビジネスパーソンとして求められる能力があることも忘れてはなりません。グローバル人材でなくても求められる能力、それは成果力です。
ビジネスに関わっている人間はすべて、成果や結果が求められます。営業部員なら売上、事務部門では業務の効率化、研究職などの専門職は研究成果といったものをイメージするとわかりやすいかもしれません。
仕事に対して求められている成果をあげる力がないのは、グローバル人材を語る以前の問題です。
リーダーシップ
成果を出すために不可欠なのがリーダーシップです。リーダーシップとは、先(目標・ビジョン)を見据えて行動できる能力のことを指します。
一般的にリーダーシップは、経営者やプロジェクトのトップに立つ人物の行動規範のイメージが強いかもしれませんが、組織の構成員であっても目標に向かって行動を起こしている人は、周囲に良い影響を与え続けます。
その行動に刺激を受ける人や賛同する人が増えることで、プロジェクトの進度や充実度が大きくアップするのです。地位や役職を問わず、社員一人ひとりが先を見据えてリーダーシップを発揮できれば、チーム力の底上げが図れます。
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コミュニケーション能力
新卒採用で最も重要な能力にも挙げられるコミュニケーション能力。
オートメーション化やAI技術の進歩が著しいとはいえ、やはりビジネス社会の基本は「人対人」のつながりで成り立っており、コミュニケーション能力はその土台を支えています。
いくら語学力や専門知識があっても、それらは単なるツールでしかありません。それらツールを適切に使いこなせる力、すなわちコミュニケーション能力が備わっていなければ、どんな交渉事も結局は暗礁に乗り上げてしまいます。
自己主張だけでなく相手の話を聴いた上で着地できるポイントを模索する、時にユーモアを交え、時に駆け引きをするといったコミュニケーションスキルの高さはビジネスの基本です。
コミュニケーション能力とは?【鍛える方法】言い換え、低い
コミュニケーション能力は、他人との人間関係を良好に築くために必要不可欠なものです。また、仕事をするうえでも欠かせない能力の一つといえるでしょう。
今回は、
コミュニケーション能力の定義
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(担当領域に関する)専門性
担当領域における専門性も当然必要になります。
「この分野の知識や技術に関しては、他者に絶対に負けない」という部分があること。担当領域に関する専門性が高いほど、顧客は信頼を寄せ、頼ってくれます。
自分の担当している領域に関して常にアンテナを高くはり、専門知識に磨きをかけることへの労を惜しまないという姿勢は、必須能力のひとつとしてあげられます。
グリット(やり抜く力)
グリット(GRIT)という言葉を聞いたことはありますか?
グリットとは、
- Guts(度胸)
- Resilience(復元力)
- Initiative(自発性)
- Tenacity(執念)
というそれぞれ頭文字をとった言葉で、「やり抜く力」を意味します。
ビジネスだけでなく、研究分野、スポーツ、文化芸術の世界などで成果を出す人材の多くが持っているマインドのひとつといわれています。
グリットは、強い意志によって形成されていますがひとりで継続させることが難しければ、チームでグリットを設定し、フォローしあうことも有効です。
その際、「どうしてグリットを持つことが必要なのか」という目的を明確にして、気持ちを高めていくとよいでしょう。「継続は力なり」という言葉があるように、グリットを持ち続ける強さが価値向上につながります。
3.グローバル人材育成の5つのステップ
企業の教育体制を考えた時、海外で活躍できるグローバル人材を自社で育成できるようになれば、競争力を増すことができます。
大切なのは人材教育を単に行うだけではなく必要に応じて取捨選択をしながら、評価やフィードバックを行い、成長意欲を醸成することです。得た経験やスキルを業務にいかしながら、ステップアップできるように教育体制を整備しましょう。
一例として、グローバル人材の育成の5つのステップをご紹介します。
- 候補人材のリストアップ
- 抜擢人材の能力と課題を把握する
- 育成計画の作成
- 育成計画のPDCAを回す
- 抜擢
このステップは下記を参考に作成しています。
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STEP1.候補人材のリストアップ
ファーストステップが、候補人材のリストアップです。たとえば社員リストや人事評価システムなどを利用して、社員の中にグローバル人材の原石として認定できる社員をリストアップします。その際の基準は、上に挙げた能力(グローバル力、成果力)を保持しているかどうかになります。
人事に関わる人たちは、ビジネスにおいて成果力を高めるための最低限必要な資質を持つ逸材かどうかを、冷静かつ具体的に見極めることが必要です。
ただし、気をつけなければいけないのはすべての能力を兼ね備える人材はまず存在しないということです。
絶対に持っていなくてはならないMust能力と、できれば持っていてほしいBetter能力に分け、点数化するなどしてリストアップをすると進めやすいでしょう。
STEP2.抜擢人材の能力と課題を把握する
セカンドステップでは個々が現在持っている能力と、今後身に付けていかなければならない課題の把握を行います。
具体的には、各人材において、
- どんな能力を持っているのか
- どんな能力が不足しているのか
- どの部分を充足すればグローバル人材になりうるのか
を徹底的に分析します。それらを把握することで個々が抱える能力の課題をあぶりだすのです。
グローバル人材になるにはリーダーシップやコミュニケーション能力などの基礎部分の素質だけでなく、外国語能力・ダイバーシティ・日本文化や歴史に関する知識などが不可欠です。これらの能力で何を充足すればよいのか、広い視野をもって丁寧に検討し、リストアップしていくことが重要です。
ステップ1と2は人材情報を集約し可視化できるタレントマネジメントシステムがあれば、効率的に進められます。
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STEP3.育成計画の作成
候補に挙がった人材の能力開発の課題をリストアップしたら、次は育成計画の作成という新たなステップに進みます。
不足しているスキルをどのように補うか、具体的にプランニングを行います。実際の職場で上司や先輩について業務を通じて学ぶOJTの実施、集合研修、外部の教育講座や通信教育の受講など、その育成方法はさまざまです。
最も効果的に不足スキルを補える手段を決め、いつまでにどの段階まで達成できるようにするか計画表を作成します。
通常業務と育成計画を平行して取り組むケースが多いので、対象社員は多忙を極めます。プラン実行から1カ月後、半年後、1年後の到達度を具体的に設定し、シンプルかつ明確な育成計画を立てるようにしましょう。
STEP4.育成計画のPDCAを回す
育成計画が完成したら、あとは実行に移すのみです。そこで忘れてはいけないのが、育成計画のPDCAをまわし続ける重要性です。
育成計画の実行に着手したら、その後の人材を評価し、育成計画の進捗を常に確認します。必要に応じて、計画そのものを修正することもあるでしょう。修正した育成計画をもとに現場ではまた実践の日々をスタートさせます。
その結果をまた評価し、PDCAを何サイクルかまわしていくことで、本当に必要なスキル、最も有効な育成プラン、継続して取り組みたい課題などが明らかになっていきます。
人事に携わる部門はそれらの結果を常に分析するだけでなく、最先端のグローバル人材の完成像を更新し続けることも重要な作業となります。
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STEP5.抜擢
グローバル人材の卵をリストアップし、不足している能力をあぶり出したあとは、育成計画を実行してPDCAをまわしていけば、社内には次々とグローバル人材が輩出されていきます。
そしていざグローバル人材の出番がやってきたとき、最も適した人材を抜擢してビジネスの最前線に送り込みます。
例えば、海外支社設立を控えてグローバル人材を育成していたとしましょう。実際にそのプロジェクトを立ち上げるときに、そのタイミングで候補人材の中から適任者を抜擢します。
候補人材の層が厚いほど選択肢が増え、より有能なグローバル人材を選び出すことができます。よって初めから数名に絞るのではなく、数十名~数百名の人材プールをつくっておき、その中から抜擢していく、ということをおすすめします。
4.グローバル人材の育成手段は”国内人材のグローバル化”だけではない
国内の社員の中からグローバル人材を育成することは、会社の価値を高めることにもつながるため、経営層や人事に携わる人たちの間で注目されています。
現場でも、プロジェクトを推進するために、より有能な社員を求める声は常にあがります。前述したグローバル人材育成のステップを1段1段踏んでいけば、追い求めた人材は社内に蓄積されていくでしょう。
こうして見てくると、国内人材にグローバル力を身に付けさせる方法ばかりに注目してしまいがちですが現地人材に成果力を身に付け(もしくは元々備わっている人材)、グローバル人材の母集団を大きくしていく方法も有効です。
国境を越えて自由自在に動き回る現代国内の人材だけに目を向けていては真のグローバリズムは実現できません。
国籍、人種、性別、年齢にとらわれず個々の持つ能力を見極め、有能な人材に成果力を身に付けさせることができれば、グローバル人材の層は厚みを増し、自社の強みとなっていくことは間違いありません。