スペシャリストとは、ある特定分野に深い専門知識がある人のこと。仕事の範囲を限定し、専門性を高めて、特定分野に関する知識や技術を向上させているのです。
ここでは、
- スペシャリストとは何か
- スペシャリストの採用方法
- 社内での育成方法
- 配置転換時の注意点
- 企業事例など
のテーマを中心に詳しく解説します。
目次
1.スペシャリスト(Specialist)とは?
スペシャリストとは、特定分野を専門にする人、特殊技能を持つ人、専門家です。ビジネスにおいては、特定分野に深い専門知識を持つ人材を指します。
特定分野とは、担当する分野や技術領域、資格に関するものまで多岐にわたります。仕事の範囲を限定し、専門性を高めて、特定分野に関する知識や技術を向上させているのです。
・技術者
・特定の研究に従事する研究者
・特定の機器の開発に携わるエンジニア
・エコノミスト
・アナリスト
また、資格を持っていないと業務を行えない下記のような仕事に従事している人もスペシャリストに分類されます。
・弁護士
・医師
・看護師
・薬剤師
総務や経理といった一般的に見える仕事でも、社外ではスペシャリストとして扱われないものの、社内の業務が特殊な場合、スペシャリストとして扱われることがあります
2.対義語のゼネラリスト(ジェネラリスト)の意味
スペシャリストの対義語として使用されるのがゼネラリスト(ジェネラリスト)です。ゼネラリストとは、広範な分野の知識・技術・経験を持つ人のこと。スペシャリストと違い、幅広い分野の仕事に従事する人です。
ゼネラリストとは? スペシャリストとの違いや育成方法を簡単に
ゼネラリストとは、仕事に対する深い経験と知識、技術を持ち合わせた人を指す用語です。今回はゼネラリストについて概要や育成方法を解説します。
1.ゼネラリストとは?
ゼネラリスト(ジェネラリスト)は、担...
ビジネスでは総合職を指すことが多い
ゼネラリストは企業において、総合職を指すことが多く、広範な知識を持ち、さまざまな担当者たちをまとめる役割を担います。ビジネスシーンでは管理が主な仕事となり、プロデューサーやマネージャー、経営層などがゼネラリストに該当するのです。
ゼネラリストの具体例
ゼネラリストとはどんな人がどういう経緯でなれるのでしょうか。具体的に見てみましょう。
- 会社の幹部候補生が、総務、営業、技術とさまざまな分野の仕事に従事し、将来的に会社を運営するための経験を積むという場合
- 個人事業所などで、社長であり、営業であり、技術者である場合
①の場合、数々の職種での経験をもとに成果を生み出すビジネスパーソンになります。一方②の場合は、技術者としてはスペシャリストといえますが、全体として見るとゼネラリストになるのです。
一般的に、ゼネラリストはスペシャリストの対義語として使われています。しかしこのように、スペシャリストとゼネラリストには密接なつながりがあるのです。
3.スペシャリストと似た言葉との違い
ここからは、スペシャリストと似た言葉との違いを見ていきましょう。
エキスパートとスペシャリストの違い
スペシャリストは前述の通り、特殊技能・技術を持っている人や特定分野の専門家のこと。
一方エキスパートは専門知識の背景やほかの分野との関係性まで熟知している人を指して使うことが多く、スペシャリストの中でも一握りといえます。つまり、エキスパートとは、ある分野について高度な知識・技術を備え持った人のことを指すのです。
プロフェッショナルとスペシャリストの違い
プロフェッショナルのポイントは、ある特定分野における仕事の対価として報酬をもらっているか、それによって生活を営めているか。職業で生計を立てているかどうかを区別するため使われる言葉ですので、プロフェッショナルの反対語はアマチュアとなります。
実際には、ほとんどすべてのスペシャリストが自身の職業で生計を立てているため、スペシャリストかつプロフェッショナルといえるでしょう。
ベテランとスペシャリストの違い
ベテランとは、ある事柄について豊富な経験を持ち、優れた技術を示す人、老練者、古強者(ふるつわもの)のことで、「ベテランドライバー」「ベテラン歌手」「ベテラン俳優」「ベテラン選手」などさまざまな分野において使われる言葉です。
スペシャリストは特定の分野において高度な特殊技能・技術を持つ人を指す場合が多いですが、ベテランは必ずしも高度な技術を持つ人を指してはいません。経験年数が長い人を指す場合もあるのです。
4.なぜスペシャリストに対する需要が高まっているのか?
なぜスペシャリストに対する需要が高まっているのかを見ていきましょう。
日本型経営におけるゼネラリストの必要性
日本の経済は高度経済成長期に発展を開始し、バブル期の崩壊を迎えるまで「大量生産・大量消費」の時代が長く続きました。この期間、企業が世の中の流行をつかむことは容易で、モノは作れば作っただけ売れる消費型経済だったので企業は安定的に成長できました。
そして、当時は合理的なシステムとされていた日本的な雇用慣行(新卒一括採用・終身雇用制・社内人事異動制度・年功序列型賃金制度など)も安定していったのです。しかし日本的な雇用慣行では、後から特定分野に特化した人を雇う例はほとんどありませんでした。
ホワイトカラーの大半は早い段階で広い業務を担当できる「ゼネラリスト」になることが普通だったのです。そのため、世の中の人材の流動性は著しく低下していきました。
転職市場の活性化による影響
昨今では、ホワイトカラー層に求められる能力が少しずつ専門分野に特化したものへと方向性を変えているのです。このような時代の流れから、スペシャリストは一企業にとどまらず、さまざまな企業・業界において必要性が高まっています。
「営業」「企画・マーケティング」などゼネラリストが多くいた部門でも、スペシャリストのように専門分野に特化した知識を持つ人が求められるようになってきたのです。マーケットのニーズを捉えるための企業活動にも専門知識が必要となりました。
インターネットが普及した現代では、顧客が商品・サービスを購入するまでに仕入れられる情報量も増えています。そのため、顧客に合わせたアドバイスやコンサルティングなども必要となっているのです。
スペシャリストに対する需要の増大
このように、スペシャリスト人材の需要がますます高まる中、スペシャリストを兼ねたゼネラリスト(スペシャリストであることは当たり前で、かつ業務範囲を広げた人材)が求められるようになりました。
このような人材がキャリアアップ・年収アップを目指せるといえるでしょう。「現場のことを理解していない上司」とは真逆の発想で、成果や目標達成にチームや部署を導けるスペシャリスト兼ゼネラリストが必要とされています。
スペシャリストとしてある特定分野に深い見識を持つと同時に、ゼネラリストとして他の分野においても理解を示し、自らの観点で知識や経験などを組み合わせて活用できる人材、いわゆる橋渡しにもなれる存在のニーズが現在高まっているのです。
5.スペシャリストを目指すには?成長のポイント
教育改革実践家の藤原和博氏によると、スペシャリストを目指すためのポイントは、自らの労働に希少性という付加価値を付けることだそうです。
マルコム・グラッドウェル『天才!成功する人々の法則』
マルコム・グッドウェルは著書『天才!成功する人々の法則』の中で、さまざまな実例を挙げながらどんな人でもある分野について1万時間練習すれば、その道のマスターになれることを示しました。
1日8時間、年間200日間働いたとして、1万時間は約6年かかる計算です。個人差は多少ありますが、ある1つの仕事を10年間真面目に続ければ、100分の1の人材となっていくのです。
6.優秀なスペシャリストを採用する方法
働く人材は、スペシャリストタイプの人材とゼネラリストタイプの人材に大きく二分できます。
どちらが優れているというわけではありませんが、経営戦略としてスペシャリスト人材の人員強化を考える場合、スペシャリストとして適性のある人材を採用する必要があるでしょう。
優秀なスペシャリスト人材を採用する方法としては、職種別採用を導入することもひとつの手です。最近では、職種別採用を導入する企業も増えています。
スペシャリスト人材の定義
働く人材は、スペシャリストタイプの人材とゼネラリストタイプの人材に二分できます。採用する企業側は、それを見極めた上で、必要な人的資源を効果的に採用していく必要があるのです。
一般的にスペシャリストとして適性があるのは、特定の専門領域について探究心がある学者肌、職人肌の人材、プロダクトアウト型の人材。方ゼネラリストとして適性があるのは物事に幅広く関心を持ち、領域などにこだわりがない、マーケットイン型の人材です。
どちらが優れているとはいえませんが、ジョブローテーションが幅広い企業ではゼネラリストの採用が多く、ジョブローテーションが少なく特定職種で人材を募集する企業はスペシャリストを求めるでしょう。
職種別採用とは?
職種別採用とは、技術系採用、営業系採用など、入社前から職種を決めて採用すること。最近ではこの職種別採用を行う企業が増加傾向にあります。
企業の採用方針として、その職種に適正があり、専門知識も持った人材を選びたいという事情の表れです。採用される側の学生などには、自分の持つ専門的なスキルを活用でき、やりたいことを実現できる職に就けるというメリットがあるでしょう。
入社後の職種が分かっているため仕事についてのイメージもしやすくなりますが、早い段階で志望をきちんと把握する必要があります。企業は、目的を明確に持った専門性の高い人材を絞って採用できるので、ミスマッチを防げます。
職種別採用の導入メリット
職種別採用のメリットは、
- 「職種」としてプロフェッショナリティを強く意識できる
- その職種の人間を採用して育てる、という一貫性がある
- 採用担当メンバーに採用と育成の責任感が生まれる
反対に総合職採用の場合、万能型の人材を採用する傾向が強くなります。入社後、ジョブローテーションをしながらバランスの良い人材を育てたい企業の場合、総合職採用が向いているといえます。
たとえば、企業のビジョンと個人のやりたいことをリンクさせて、お互いの強みを発揮しながら、お互いの思いを実現させていく組織の場合、全員がバランスの良い個人である必要はありません。よって職種別採用が向いているでしょう。
企業事例:P&Gのケース
一般消費財メーカー大手のプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンは職種別採用を行っています。「プロフェッショナルなスペシャリストこそ最良の人材である」という考えからこの採用方法を取っているのです。
目的は、営業統括、広報・渉外、人事統括、マーケティングなど9職種に分けて選考を行い、各分野で専門的な知識・能力を高めていくスペシャリスト人材を育成すること。
社員本人の意向により社内公募に申し出たり、上司と相談して職種を変更したりなども可能で、基本的には職種間の異動はせず、マーケティング職で採用の場合は、マーケティング職としてキャリアを積み、そのままブランド経営やビジネスの経営に移っていきます。
7.企業内におけるスペシャリストのキャリアパスのつくり方
スペシャリストとして仕事をする人材が増えた結果、キャリアプランも多岐にわたるようになりました。そのため、企業にはスペシャリストのキャリアパスを考える必要が生じているのです。
スペシャリストとして活躍できるキャリアパスを企業が用意すれば、スペシャリスト枠の社員のモチベーションも向上し、さらなる専門性の向上にもつながるでしょう。
- 管理職(マネージャー)を目指す
- プレイングマネージャーとして両立する
- 第一線で活躍するエキスパートを目指す
①管理職(マネージャー)を目指す
キャリアパスとは、ひとつの企業の中でどのようにステップアップし、昇進・昇給していくかを表すもの。
スペシャリストには、ある業務領域内で係長、課長、部長と出世をし、管理職(マネージャー)として働くキャリアパスがあります。管理職への昇進を目指すためマネジメントなどゼネラリストとしての能力も求められることになるでしょう。
メリットとデメリット
スペシャリストが出世し、管理職として働く場合のメリットは、同じ現場で昇進していくため、現場にも理解を示せて、部下からの信頼を得られやすい点です。
しかしスペシャリストとしては一流でも、マネジメントに不向きな人材を昇進させてしまった場合、多くの企業では降格が難しいため、優秀なスペシャリストを失ってしまうこととなります。
また、優秀でないマネージャーが誕生するため二重のデメリットが生じてしまうのです。
②プレイングマネージャーとして両立する
昨今、「プレイングマネージャー」としての働き方も一般的となりました。プレイングマネージャーとは、現場の第一線でプレーヤーとして企業の売上に貢献する実務を行いながら、部下であるメンバーの育成などを担当する管理職を兼任する働き方のこと。
優秀なスペシャリストとして活躍しながら、管理職としてゼネラリストの役割も果たします。スペシャリストとしてはもちろん、ゼネラリストとしての能力も同時に求められるので、双方共に有能な人材が適しているでしょう。
メリットとデメリット
プレイングマネージャーとして働く場合のメリットは、プレーヤーとして優れた仕事をしている人材がマネジメントを行うため、部下や周囲からの理解も得られやすく、指示系統がしっかりと機能する点。うまく機能すれば有効な働き方でしょう。
しかしプレイヤーとしての自分像に固執してマネジメント業務がおろそかになってしまう、プレイングマネージャーに業務が集中して負荷がかかりすぎてしまうといったデメリットもあるのです。
③第一線で活躍するエキスパートを目指す
管理職(マネージャー)などにはならず、スペシャリストとして仕事をし続ける働き方もあります。この場合、管理職への昇進を目指さず、現場の第一線で活躍しながら昇進できるような、「エキスパート」をキャリアプランとして用意しましょう。
専門領域をさらに探求したいにもかかわらず、管理職への昇進しかキャリアアップの道がない場合、モチベーションの低下や人員流出へとつながる可能性が高いからです。
メリットとデメリット
スペシャリストには学者肌や職人気質の人材が多いため、「現場から遠ざかってまで昇進しなくてもいい」と考える人も少なくありません。中には、マネジメント業務を敬遠し、あくまでも現場の最前線で仕事をすることにこだわる人も。
現場の第一線で活躍しながら昇進し、「エキスパート」となれば、モチベーションも向上し、企業への貢献度も高まるでしょう。
しかし1人のプレイヤーとして働くとキャリアの限界が生じる場合もあります。これはデメリットとして挙げられるでしょう。
8.社内でスペシャリストを育成する方法
では、社内においてスペシャリストを育成する方法を解説します。
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントとは、優秀で会社に貢献できる人材(タレント)が持つスキルやナレッジを把握し、適材適所な人員配置や、適切な人材育成を用いて、そのパフォーマンスを最大化させる取り組みのこと。
アメリカで生まれたタレントマネジメントという考え方は、日本では2011年頃から注目を浴び、現在15~20%ほどの導入率で推移しているとされています。
タレントマネジメントとは? 意味や目的、導入の進め方を簡単に
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タレントマネジメントシステムの導入効果
タレントマネジメントシステムとは、個人情報やスキル、経験値などをデータ化し、一元管理するシステムのこと。このシステムの導入により、個人の能力評価が総合的なものとなるため、その能力を効果的に活用できます。
また、業務経験・保有スキルの把握により、的確な教育も可能となるでしょう。ポテンシャルが可視化されるため、社員一人ひとりに最適な能力開発の場が与えられます。
開発効果の高い人材に対して集中的に教育を実施すれば、高い能力を持つ管理職などの早期育成が可能です。
9.スペシャリストの配置転換におけるポイント
では、スペシャリストの配置転換におけるポイントを見ていきましょう。
成果が最大化する人員配置を行う
スペシャリストの能力を最大限に発揮するめにも、適切な配置の検討は必要です。優秀なスペシャリストが何人いても、それを管理できなければ意味がありません。スペシャリストを採用した後は、適切な人員配置が必要不可欠なのです。
そのためには、クラウド人材管理システム・カオナビなどのシステム導入を検討するのもよいでしょう。カオナビはあらゆる人材情報をデータ化して一元管理できるシステム。組織を可視化できるため、社内の人材を適材適所に配置でき、業務の効率化を図れます。
ジョブローテーションの方法に配慮する
日本においては、定期的に配置転換を行い、ジョブローテーションをする企業も多いでしょう。配置転換は、部署内の人員のバランスを保ったり、経営資源を集中させたりするのに効果的です。
しかし、スペシャリストの配置転換を安易に行うと、これまで育成してきた専門性を放棄させてしまうことにも。配置転換に納得がいかなければ、企業を退職し、他の職場へ転職してしまうかもしれません。
社内にいるスペシャリストの待遇だけでなく、今後どのようにスペシャリストの位置を決めるかについては、実際に当事者と面談し、本人の意向を把握しましょう。本人の理想とするキャリアパスと上司が考えるキャリアパスをすり合わせる必要があるのです。
10.スペシャリストの採用・育成における注意点
最後にスペシャリストの採用・育成における注意点です。
- 組織へのマッチング性を確認する
- 専門職種に対するキャリアパスを充実させる
- インセンティブによるモチベーションの向上を検討する
①組織へのマッチング性を確認する
現在、スペシャリスト人材に注目が集まっていますが、必ずしもスペシャリストを採用すべきというわけではありません。
ジョブローテーション(配置転換)が幅広い企業ではゼネラリストを多く、ジョブローテーションが少なく特定職種で人材を募集する企業ではスペシャリストを採用したほうがよいでしょう。
組織とのマッチング性を確認した上で、どちらの人材を採用すべきかを決めることが重要なポイントとなります。
②専門職種に対するキャリアパスを充実させる
スペシャリストを目指す人は、企業が専門職種に対してどのようなキャリアパスを準備しているのかを細かくチェックしている場合が多いです。
現在働いている企業において、専門性に特化した経験・スキルを学べないうちに管理職を任せるキャリアパスしかない場合、スペシャリスト人材は転職してしまう可能性は高いといえます。
企業側は、管理職への昇進だけでなく、前述したようなプレイングマネージャー、現場の第一線で働きながら昇進できるようなエキスパートなどさまざまなキャリアパスを準備しておく必要があるでしょう。選択肢の多さによって人材の流出を防ぐこともできます。
③インセンティブによるモチベーションの向上を検討する
スペシャリストの需要が高まっている現在、好待遇の求人がほかにあれば、スペシャリストは簡単に転職してしまうかもしれません。
優秀なスペシャリストを失わないためにも企業は、スペシャリスト人材にモチベーションアップにつながる役割を担わせたり、給与・賞与をアップしたりするなど、インセンティブへの配慮が必要です。
企業としては、スペシャリストの活躍と業績への貢献を正当に評価し、管理職と同等の待遇をするのが望ましいでしょう。スペシャリストの評価を向上させ、賃金にも反映することがモチベーションの源泉となるのです。