レイオフとは一時解雇のことで、日本ではなじみが少ないです。しかしアメリカではひんぱんに行われています。レイオフの概要や目的について、解説しましょう。
目次
1.レイオフとは?
レイオフ(layoff)とは、従業員を一時的に解雇することで、業績が悪化した企業が人件費の削減を行う雇用調整のひとつです。業績が回復するまで一時的に解雇し、業績が回復したら再雇用します。再雇用が前提にある点で、リストラと大きな違いがあるのです。
なお似たような雇用調整方法に雇用を維持した状態で自宅待機する一時帰休があります。こちらも人件費の削減を目的とはしているものの、給料の何割かは支払いが発生するため、レイオフと比べると削減できる割合が少なくなるのです。
2.企業がレイオフを行う目的
企業がレイオフを行う目的は3つです。
人件費の抑制
人件費の削減を目的として、レイオフによる雇用調整を行う場合があります。レイオフで一時的に従業員を解雇すれば、給与を支払う必要がなくなるからです。なお業績が戻った際は、レイオフで解雇した従業員を再雇用します。
優秀な人材の流出防止
優秀な従業員をやむなく解雇した場合、その従業員は他社へ就職してしまうでしょう。再雇用を前提としたレイオフならばこのような人材の流出を防げます。再雇用できるので、それまでに従業員に費やしてきた教育にかかった時間やコストなども無駄になりません。
ナレッジの留保
ナレッジとは、企業独自の業務知識やスキル、経験値のこと。長年その企業に勤めてナレッジを蓄積してきた従業員を解雇してしまうと、ナレッジが流出する恐れもあります。レイオフで再雇用すれば、ナレッジの流出を防げるでしょう。
3.日本におけるレイオフの現況
日本でレイオフはほとんど実施されていません。整理解雇に対する法的な規制が強い日本では、一時解雇でも従業員を解雇できないのです。
一方アメリカでは、IT業界や製造業などではレイオフが一般的に実施されています。勤続年数の短い人から解雇され、再雇用の際には勤続年数の長い人から順番に自社へ戻るケースが多いようです。
近年、大手企業がレイオフを実施しています。たとえばMicrosoft社がレイオフした従業員数は約5,000人、インテル社は1万2,000人でした。
4.レイオフと解雇の違い
レイオフと解雇は混同されやすいものの、日本ではレイオフであってもかんたんに解雇できません。日本における解雇の特徴を説明します。
解雇とは?
解雇とは、雇用主が一方的に従業員の労働契約を終了すること。解雇は雇用主側から自由に行えるわけではありません。
解雇を行うためには社会の常識で考えて納得できる理由が必要です。一方的な解雇は、使用者の権利を乱用したと見なされ、労働契約法違反となります。
解雇の種類
解雇にも種類があります。労働基準法で定められている解雇は、普通解雇と懲戒解雇、そして整理解雇の3つで、実施の際はそれぞれの解雇が認められるだけの理由や根拠が必要です。ここでは3つの解雇について説明します。
普通解雇
企業側から従業員に対して解雇を申し出て労働契約が終了する解雇のこと。「何度も指導や教育を行ったにもかかわらず改善が見られない」「健康に問題がある」などの理由で雇用の継続が難しい場合が該当します。
普通解雇とは? 理由と要件、手順と手続き、デメリットを簡単に
普通解雇とは、使用者が一方的に従業員の労働契約を解約することです。ここでは解雇の種類や用件、普通解雇を行う際の手順や手続きなどについて解説します。
1.普通解雇とは?
普通解雇とは、従業員側を起因と...
懲戒解雇
重大な規律違反や法律違反などを起こした従業員を解雇すること。
たとえば「社内のルールを著しく逸脱した」「自分勝手で悪質な行動によって業績の悪化を引き起こした」「犯罪行為を行った」など。このようなときに懲戒解雇処分を行います。
なお懲戒解雇では、企業は一方的に従業員を解雇できるのです。
懲戒解雇とは? 理由や条件、手続きなどをわかりやすく解説
懲戒解雇とは、労働者に科されるペナルティの中で最も重い処分です。
懲戒解雇の意味
懲戒解雇の理由
懲戒解雇の要件
懲戒解雇の判断基準
懲戒解雇の手続き
懲戒解雇を言い渡された際に残っていた有給休暇に...
整理解雇
経済不況や企業の経営悪化などの理由で従業員を解雇することで、いわゆるリストラが該当します。整理解雇は先述した普通解雇や懲戒解雇と異なり、企業の都合で従業員を解雇するため、対象者や基準などの正当性が厳しく問われるでしょう。
整理解雇とは? 4要件、具体的な手順、通知書、注意点を解説
整理解雇とは、人員削減といった理由のもと企業が一方的に解雇を行うこと。今回は整理解雇について詳しく解説します。
1.整理解雇とは?
整理解雇とは、企業が人員削減のために行う解雇のこと。希望を募る早期...
解雇が認められるための要件
解雇のうち、整理解雇には正当な理由が必要不可欠です。この整理解雇が認められる条件として4つの条件が挙げられます。以前は4つの条件すべてに該当する必要があったものの近年、4つを総合的に判断し、正当性が認められればよいという傾向になっているのです。
人員整理の必要性
企業は「経営を継続するためには人員の削減が不可欠である」と証明する必要があります。「今の経営状態では明らかに従業員を雇えない」と、収益や財務状況などを用いて従業員や労働組合へ説明しなければなりません。
解雇回避の努力
従業員の解雇という事態を避けるため、企業はさまざまな施策を行う必要があります。たとえば「経費の削減」「役員報酬の減額」「雇用調整助成金制度などの利用」などです。従業員を守るために、企業がどのような努力を行ったかを証明しなければなりません。
雇用の人選の合理性
整理解雇に選ばれる対象者の基準は、公平かつ合理的でなければなりません。人事担当者が自身の主観で選んでいないと、証明する必要があるのです。
たとえば「給与が高い」「遅刻や欠勤が多い」「成果や貢献度が低い」「再就職が容易」といった従業員が基準に挙げられます。
解雇手続きの妥当性
整理解雇を実施する際、従業員だけでなく労働組合からも理解と同意を得なくてはなりません。そのため解雇の必要性や時期、実施方法などを説明する必要があるのです。
とくに労働組合との協議は必須となるため、説明が不十分になってしまうと整理解雇が認められないでしょう。
5.リストラなどレイオフと間違えやすい言葉
レイオフと似た3つの言葉とレイオフとの違いについて、説明します。
- リストラ(整理解雇)
- 一時休業
- ファーロー
①リストラ(整理解雇)
リストラクチャリングの略で、本来の意味は組織の再構築です。しかし日本では、企業を再構築するための手段である「人員整理を目的とした解雇」を指す言葉として使われています。
レイオフは解雇されても再雇用されることが前提とされていますが、リストラによる解雇に再雇用の可能性はありません。
リストラとは?【意味をわかりやすく】クビとの違い
市況など外部環境の悪化に伴って企業の業績が不振に陥った場合、企業は事業の再構築を図るためにリストラを行う場合があります。違法なリストラを避けるにはどうしたらよいのでしょうか?
リストラとは何か
解雇...
②一時休業
自社との雇用関係は維持したまま休業することで、自宅待機や一時帰休とも呼ばれます。目的はレイオフと同じで、人件費の削減と優秀な人材の確保です。
雇用関係が継続される点と、休業している間は労働基準法にもとづいて休業手当が支払われる点がレイオフとは異なります。なお休業手当を国が補填する制度を、雇用調整助成金制度と呼ぶのです。
③ファーロー
一時的な無給休職もしくは一時的な職務停止のこと。自社とのつながりは保ったまま、業績が回復するまで無休で休職します。ファーローの目的も優秀な人材の確保と人件費の削減です。
自社との雇用契約を保ったままである点がレイオフと異なります。なお従業員の流出を防ぐため、健康保険を継続する企業が多いようです。
6.レイオフと失業保険
レイオフは再雇用を前提にするとはいえ解雇にあたるため、失業保険が適応されます。しかし失業保険にも受給資格があるので、満たしていない場合は失業保険を受け取れません。ここでは失業保険の受給資格について、説明します。
失業給付の受給資格
失業保険を受給するには、2つの条件を満たす必要があります。
- 就職の意思があり、いつでも就職できる状態である
- 一定期間の雇用保険の被保険者期間である
それぞれの条件について詳しく説明しましょう。
積極的な求職活動と求職状態
失業と見なされる条件は、積極的に就職しようとする意志があり、体調や環境に問題がなくいつでも働き始められるが、仕事に就けていないこと。この失業状態にある人は失業給付の受給資格を得られます。
ケガや病気、出産や育児などですぐに働き始められない人などは認められません。なお失業した理由によって受給までの期間が異なります。
倒産などの会社都合の場合は7日間の待期期間後に受給できますが、自己都合の場合は7日間の待期期間に加えて3カ月の給付制限期間が発生するのです。
一定期間の雇用保険の被保険者期間
失業保険を給付するためには、雇用保険に一定期間加入していなければなりません。原則、失業した日から2年前までさかのぼったとき、雇用保険に12カ月以上加入している必要があるのです。
ただし倒産や解雇などの理由では、失業した日から1年前までに6カ月以上雇用保険へ加入していれば受給資格を得られます。なお給与の支払われた日が11日未満の月は、雇用保険の加入月と認められません。
コロナ禍が原因で一時帰休した労働者の失業給付
2020年4月、新型コロナウイルスの影響で東京の「ロイヤルリムジングループ」が600人を解雇しました。600人は一時解雇の状態で、近々「ロイヤルリムジングループ」に再雇用される予定があったにもかかわらず、失業保険を受給したため問題となったのです。
東京労働局は「前職との労働契約が完全に終了しており、失業者は積極的に求職活動を行う必要がある。また失業者はいつでも就職可能な状態でなければならない。これは不正受給と見なされる可能性もある。」と指摘しています。
7.教えて!レイオフと休業手当
レイオフを行った場合、失業給付が不正受給になる恐れがあります。では休業手当を受け取るのは可能なのでしょうか。
レイオフされたら休業手当はもらえるの?
休業手当は原則、自社と雇用契約を結んでいながら「休業」状態の人に与えられる手当です。レイオフは一時的であるとはいえ解雇に当たるため、休業手当は受け取れません。
なお休業手当は、その従業員の休業前3カ月の平均給与を算出し、その6割を企業が給付します。
コロナ禍における厚生労働省の企業向けQ&Aでは?
原則、レイオフで休業手当はもらえません。厚生労働省が発信したコロナ禍におけるQ&Aでも、レイオフによる解雇を検討している質問者に対して、休業手当を受けられると記載していないのです。
事業主からの質問
質問者は、コロナ禍でタクシーを利用してくれる乗客が減少し、経営が苦しくなっているタクシー事業者。雇用調整助成金を利用するのではなく、一時的な従業員の解雇を検討しています。
レイオフで従業員を解雇し、従業員には失業手当を受給して収入を確保させ、経営の状況が落ち着いて需要が見込めるようになった段階で再雇用したいと考えているのです。
厚生労働省の回答
厚生労働省の回答にレイオフによる休業手当を認める記載はなく、雇用を継続した休業手当について解説しています。また積極的な再就職への活動が必須のため、再雇用を前提とした解雇の場合、失業手当を受給できないと回答しているのです。
やむを得ず解雇する場合、解雇の少なくとも30日前に解雇を行うと告知するか、解雇予告手当を支払う必要があるとも記載しています。
8.レイオフを実施する際の注意点
レイオフは人件費削減の施策としてかんたんで優秀な手段に見えます。しかし実際に行う場合、いくつかの点に注意が必要なのです。
説明責任を果たす
レイオフは解雇にあたるため、正当な理由があると対象者や労働組合に説明しなければなりません。説明会を開催し、データや根拠を交えて説明しましょう。
また対象者全員の十分な理解と納得、同意を得る必要もあります。説明が不十分だとレイオフが実施できない、あるいは実施しても訴訟などに発展する恐れがあるからです。
正当な解雇手続きを踏む
レイオフを行うには、正当な手続き手順を踏むのも重要です。厚生労働省のQ&Aにあったとおり、解雇対象者へ30日前に告知するか、日数が30日前まで予告が不可能な場合、不足する日数分の解雇予告手当を支払わねばなりません。
怠ると労働基準法第20条に違反したと見なされ、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。