派遣法は、派遣労働者を保護するための法律として改正を重ねてきました。キャリアアップの機会についても記載されており、労働者にはメリットのある内容となっています。一方、派遣先や派遣元にとっては、労働者保護の観点から義務が生じる場合もあるのです。
そんな派遣法について、正しい理解を深めましょう。
目次
1.派遣法とは?
派遣法という名前は昭和61年に施行された法律名の略称ですが、改正により平成24年に正式名称が変わりました。
- 以前の正式名:「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」
- 現在の正式名:「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」
このときに「派遣労働者の保護のための法律」であることが明記されたのです。
派遣労働者は、正社員に比べて雇用状況が不安定なため、社内で弱い立場に付け込まれる恐れがあります。そんな派遣労働者を守るため、派遣法では賃金や就業時間、福利厚生などの規定を定めているのです。
2.2015年派遣法改正のポイントとは?
時代の流れとともに何度も改正されてきた派遣法。2015年にも重要な改正があったので、必ず確認しておきましょう。
- キャリアアップ措置の実施
- 労働者派遣の期間制限のルールの見直し
- 雇用安定措置の実施
- 均等待遇の推進
- 労働者派遣事業の許可制への一本化
①キャリアアップ措置の実施
派遣労働者へのキャリアアップ支援が、派遣元に義務付けられました。派遣元は派遣労働者に対し、「段階的かつ体系的な教育訓練の提供」「派遣労働者からの希望があれば、キャリアコンサルティングを実施する」ことが義務付けられたのです。
また派遣元は、派遣労働者が相談できる窓口として、専門のキャリアコンサルタントを置くことが求められています。
②労働者派遣の期間制限のルールの見直し
改正前は、特定の業務(通訳や研究開発など)を指す「専門26業務」は期間制限がなく、一般的な派遣業務である「自由化業務」とは分けられていました。それが法改正により、期間制限について両者の区分けがなくなったのです。
また業務の種別に関係なく、次の2種類の制限が適用されます。
- 事業所単位の期間制限:派遣先の同じ事業所における派遣労働者の受け入れは上限3年
- 個人単位の期間制限:派遣先の同一組織単位(課)における派遣労働者の受け入れは上限3年
ただし、派遣元で無期限に雇用されている派遣労働者や60歳以上の派遣労働者は対象外となります。
③雇用安定措置の実施
法改正により、派遣元が派遣労働者に対して義務付けられたことは以下の通りです。
- 希望する人へのキャリアコンサルティングの実施
- 教育訓練の実施
- 3年間派遣される見込みがある派遣労働者に対し、雇用安定措置を講じる
- この中の「雇用安定措置」とは、以下のようなものです。
- 派遣先へ直接雇用を依頼する
- 新たな派遣先を提供する
- 派遣元で無期雇用する
- そのほか、安定雇用を継続するための措置を講じる
ただし、1年以上3年未満の雇用期間が見込まれる派遣労働者に対しては、努力義務となっています。
④均等待遇の推進
派遣労働者と派遣先の社員との間で待遇差が生まれないよう、待遇の均衡を推進するものです。
派遣元には、改正前から「均衡を考慮した待遇の確保」が義務付けられていましたが、改正により派遣労働者から要求があった場合、
- 教育訓練の実施
- 賃金水準の決定
- 福利厚生の実施
について、待遇の均衡を図ったことを説明する義務が加えられました。また派遣先も、派遣元から待遇の均衡について求められた場合、賃金水準などについて情報を提供する配慮義務があります。
⑤労働者派遣事業の許可制への一本化
改正前は、
- 一般労働者派遣事業:許可制
- 特定労働者派遣事業:届出制
と区分けされていました。しかし、派遣事業の健全化を図るため、法改正によってすべての派遣事業が許可制に一本化されたのです。
許可制では、ルールに違反した場合は許可が取り消される場合もあるため、派遣事業のさらなる健全化が期待されます。派遣先にとっては、派遣元のコンプライアンスがしっかりしているという前提で派遣労働者を受け入れられるでしょう。
3.派遣法の3年ルールとは?
同一の事業所や部署で派遣労働者を受け入れることができる期間は、最大で3年間と定められています。以前は「専門26業務」には期間の制限がありませんでしたが、2015年の法改正により3年ルールがすべての業務に適用されるようになりました。
事業所単位と個人単位
これまでは業務の種別により派遣期間の制限が異なりましたが、法改正で「上限が3年」に統一されて分かりやすくなりました。派遣の3年ルールには、以下の2種類があります。
- 派遣先事業所単位の期間制限
- 派遣労働者個人単位の期間制限
事業所単位の3年ルール
派遣先の同一の事業所は、同じ派遣元から3年を超えて派遣労働者を受け入れることはできません。
1年前から別の派遣労働者が働く事業者で働くことになった場合、2年後が「事業所単位の抵触日(派遣として働ける期間が切れた翌日のこと)」となります。そのため、派遣先の状況によっては3年より短い期間で派遣期間が終了することもあり得ます。
ただし、派遣先の過半数労働組合(組合がなければ過半数代表者)に対して意見聴取を行うと、延長が可能となります。
個人単位の3年ルール
派遣労働者は、同じ組織単位(課)で3年を超えて働くことができないという制限です。
派遣労働者が働いて3年経過した場合、派遣先の事業所は、
- 部署を異動して引き続き受け入れる(ただし、過半数労働組合の意見聴取は3年ごとに必要)
- ほかの派遣労働者を受け入れて同じ組織単位(課)で受け入れる
- 派遣労働者を直接雇用する
- 受け入れを打ち切る
この中からどのような措置を取るかを選ばなければなりません。しかし派遣労働者は、別の派遣先に移れば派遣労働者として働き続けることができます。3年という区切りで能力やスキルが問われるようになるともいえるでしょう。
派遣法改正による期間制限見直しの経緯
派遣法の改正前、政令で定められている「専門26業務」と呼ばれる業務は3年ルールの対象外で、雇用の期間制限がありませんでした。
専門26業務の一例として挙げられるのは、「ソフトウェア開発」「通訳、翻訳、速記」「秘書」「広告デザイン」「放送番組などにおける大道具・小道具」など。
ただ、どの業務が専門26業務に当たるのか判断が難しく、3年ルールが適用されるかどうか分かりづらいという実態があったのです。しかし法改正により、業務の種別に関係なく期間制限が統一されたため、現場での混乱は解消されるでしょう。
4.「3年ルール」の例外とは?
法改正で多くの派遣労働者に3年ルールが適用されるようになりましたが、一部例外のケースもあります。
派遣元と派遣労働者が無期雇用派遣契約を締結する場合
派遣元の事業所との間で雇用期限が設定されていない無期雇用派遣契約を締結している派遣労働者は3年ルールの適用外となります。この場合派遣先は、数年にわたり継続して派遣労働者を受け入れることができます。
派遣労働者にとっては、無期雇用派遣契約により、これまで通り時間管理がしっかりした環境で働きながら、より安定した形で仕事を続けられるようになるのです。
派遣労働者が60歳を超えている場合
有期雇用の派遣労働者が受け入れから3年目の時点で60歳以上の場合、3年ルールの適用対象外となります。また60歳以上の派遣労働者は、キャリアアップのためより、年金受給が始まるまで少しでも長く働く、というほうが本人の希望に沿う場合もあるでしょう。
3年以内に部署異動する場合
同じ派遣先でも、組織単位(課)の異動によって派遣労働者を継続して受け入れることができます。
たとえば、営業課で2年6カ月受け入れている派遣労働者を総務課に異動させた場合、総務課に移った日から派遣開始と見なされます。つまり、営業課で2年6カ月受け入れた後でも、総務課で3年間は継続して受け入れることができるのです。
5.派遣法における抵触日とは?
抵触日とは、派遣期間の制限を過ぎた最初の日のこと。たとえば抵触日が4月1日の場合、派遣労働者として同じところで働けるのは前日の3月31日までです。抵触日には、「事業所単位」「個人単位」2種類のルールがあるので、注意しましょう。
事業所単位の抵触日
派遣期間の制限には、「事業所単位」「個人単位」の2種類があります。
事業所単位の派遣期間の制限については「同一の派遣先に対して、労働者を派遣できる期間は3年を限度とする」という決まりがあります。この派遣期間制限が切れた翌日が、事業所単位の抵触日となるのです。
派遣労働者は抵触日を迎えると、個人単位で見たときに抵触日まで余裕があっても、その事業所で受け入れることはできません。
派遣期間を延長する条件は、派遣先の過半数労働組合(または過半数代表者)に対して、抵触日の1カ月前までに意見聴取を行うことです。また、派遣先の事業所は派遣元と労働者派遣契約を結ぶ際、事業所単位の抵触日を知らせなくてはなりません。
個人単位の抵触日
個人単位では、「派遣労働者が同一の組織で働くことができる期間は3年が限度」と決められています。この派遣期間が切れた翌日が抵触日となるのです。
ここで注意しなければならないのが、個人単位の期間制限よりも、事業所単位の期間制限の方が優先されるという点。従って、派遣労働者の受け入れ方によっては、派遣期間が3年未満になる可能性もあるのです。
もしある派遣労働者の派遣期間が3年未満で終わったとしても、派遣先が期間延長を申請した場合、個人単位の抵触日まで働くことが可能です。また、派遣元は派遣契約を結ぶ際、派遣労働者へ抵触日を通知する必要があります。
6.無期雇用派遣とは?
無期雇用派遣とは、派遣元と期間を定めない雇用契約を締結し、派遣労働者として働く仕組みのこと。常用型派遣とも呼ばれ、派遣先が決まっていない状態でも派遣元との間で雇用契約が生じます。
一方で、派遣先の事業所と雇用契約を結ぶ一般的な派遣労働を登録型派遣といいます。こちらは派遣先との契約期間が終了すると、派遣元との雇用契約も終了となるのです。
無期雇用派遣と正社員の違い
無期雇用派遣では、派遣先の事業所の状況により業務の内容や働く期間が決まります。また、派遣先により雇用主が異なるなどの点を除けば、給与や昇給などの仕組みは基本的に正社員と同じです。
7.無期雇用派遣と5年ルールの関係
派遣の雇用期間とされる3年ルールと別の内容として、「5年ルール」と呼ばれる法律もあります。
複数回の更新にて派遣労働者の契約期間が通算5年を超えた際、派遣労働者の申し込みがあった場合は無期労働契約に転換しなければならないことを5年ルールと呼びます。
派遣労働者は、通算5年を超えた契約の期間内でも転換を申し込むことが可能で、申し込んだ時点で契約が成立します。また、その契約期間内に転換の申し込みをしなかった場合でも、次の更新以降に申し込みが可能です。
これは、派遣先と派遣労働者だけでなく、派遣元(派遣元)との間の労働契約にも当てはまります。派遣元と派遣労働者の間で複数回の更新があり、契約期間が通算5年を超えた場合は、派遣労働者が希望したら無期労働契約に転換しなければなりません。
労働契約法とは?
労働契約法には、就業形態が多様化する中で労働契約の基本的な規定を明確にすることで、労働関係の紛争を未然に防止するという目的があります。労働者を保護し、雇用主との良好な関係を築く基礎となる法律といえるでしょう。
労働契約法には、下記のような内容が明記されています。
- 労働契約の原則
- 就業規則による労働契約の内容の変更
- 労働契約の継続および終了
- 期間の定めのある労働契約
8.派遣法に違反した場合はどうなる?
派遣元や派遣先にとってさまざまな義務が生じる派遣法ですが、違反した場合、罰則があるのでしょうか。
派遣元に対する行政措置・行政処分
派遣元の事業所が派遣法に違反した場合、「許可の取消」「事業廃止命令」「事業停止命令」「改善命令」といった厳しい行政処分を受けることがあります。具体的な法令違反の例は、下記のようなものです。
- 派遣期間の制限を超えて労働者派遣を行う
- 不合理な待遇の禁止に違反する
- 派遣先からの情報を保存しない
- 事業報告書に労使協定を添付しない
派遣法以外に労働基準法、職業安定法などの労働関係法令による罰則が適用される場合もあるので注意しましょう。
また、許可を得ていないのに労働者派遣を行った場合は、罰則の対象となるだけでなく、派遣労働者になろうと考えている人や派遣先の事業所への情報提供のため、厚生労働省や都道府県労働局のホームページで事業所名を公開されることがあります。
派遣先に対する行政措置・行政処分
派遣先も派遣法に違反すると、罰則の対象となります。
- 許可・届出事業主以外の事業所から派遣労働者を受け入れている
- 派遣期間の制限を超えて派遣労働者を受け入れている
- 派遣先を離職して1年以内の労働者を派遣労働者として受け入れている(60歳以上の定年退職者を除く)
このような違反をした場合、是正のために必要な措置の勧告が行われます。もし従わない場合、事業所名を公表されることも。また、派遣先管理台帳の整備や派遣先責任者の選任が不適切だと認められた場合も、罰則の対象になります。
9.派遣法違反の罰則とは?
どのような行為が派遣法違反と見なされるのか、罰則ごとに確認しましょう。
1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
派遣法には「公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者」は、罰則の対象になると明記されています。派遣元は、こうした行為をしないことも含めて、雇用管理を適正に行うための注意が必要です。
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 適用除外業務について、労働者派遣事業を行った
- 厚生労働大臣の許可を受けないで一般労働者派遣事業を行った
- 偽りその他不正の行為により一般労働者派遣事業の許可を受けた
- 偽りその他不正の行為により一般労働者派遣事業の許可の有効期間の更新を受けた
- 期間を定めた一般労働者派遣事業の全部または一部の停止についての厚生労働大臣の命令に違反した
- 一般派遣元事業主の名義をもって、他人に一般労働者派遣事業を行わせた
などの違反をした者は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の罰則を受ける場合があります。
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
下記のような違反をした場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則を受ける場合があります。
- 厚生労働大臣に届出書を提出しないで特定労働者派遣事業を行った
- 特定派遣元事業主の名義をもって、他人に特定労働者派遣事業を行わせた
- 派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善そのほか当該労働者派遣事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべき旨の厚生労働大臣の命令(改善命令)に違反した
- 継続させることが著しく不適当であると認められる派遣就業に係る労働者派遣契約による労働者派遣を停止する旨の厚生労働大臣の命令に違反した
- 法またはこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合において、派遣労働者がその事実を厚生労働大臣に申告したことを理由として、当該派遣労働者に対して解雇そのほか不利益な取扱いをした
30万円以下の罰金
下記のような違反をした場合、「30万円以下の罰金」の罰則を受ける場合があります。
- 一般労働者派遣事業の許可または許可の有効期間の更新の申請書、事業計画書などの書類に虚偽の記載をして提出した
- 一般労働者派遣事業の氏名などの変更の届出をせず、または虚偽の届出をした
- 一般労働者派遣事業を行う事業所の新設に係る変更届出の際、事業計画書などの添付書類に虚偽の記載をして提出した
- 一般労働者派遣事業の廃止の届出をせず、または虚偽の届出をした
- 特定労働者派遣事業の届出書に虚偽の記載をして提出した
- 特定労働者派遣事業の事業計画書などの書類に虚偽の記載をして提出した
- 海外派遣の届出をせず、または虚偽の届出をした
10.派遣法の違反事例
派遣法に違反し、実際に罰則や業務改善命令を受けた事例もあります。
二重派遣により改善命令がなされた企業事例
二重派遣とは、派遣元から労働者を受け入れた派遣先が、その労働者を別の企業に派遣すること。下記の事例は、職業安定法で禁止されている「二重派遣」に当たるとし、改善命令が出たものです。
派遣元企業(A社)は、別の派遣元企業(B社)が雇用する派遣労働者を業務委託で受け入れ、その労働者をA社が紹介した企業へ派遣していることが分かりました。
こうした行為が二重派遣に当たるとし、労働局はA社に対して事業の点検や原因究明、再発防止などに取り組まなければならない「労働者派遣事業改善命令」を命じたのです。
職業安定法違反により派遣先企業に罰金30万円が科された事例
製造業をしているX社は、販売員を確保したいと考えていました。そこで、求職者に対して面接などの採用活動を行い、その上で一度派遣元企業であるY社にその労働者を雇用させ、X社に派遣させて業務をさせていることが分かったのです。
こうした行為が「職業紹介の許可を得ずに人材を別の企業に紹介している」と認められ、かつ職業安定法に違反したため、X社は罰金30万円、採用を担当したX社の社員は罰金10万円の罰則が科されました。
この事例ではX社だけでなく、個人である採用担当者にも罰金を支払うよう命じられています。法律に違反すると社会的な信頼を失い、今後の活動に悪い影響が出る恐れがあるのです。組織も個人もコンプライアンスを重視する必要があるでしょう。