想定年収とも呼ばれる理論年収。近年、求人情報で理論年収の文字を見ることも増えました。この理論年収とは何でしょう。また年収とは何が違うのでしょうか。
理論年収とは何か、理論年収の内訳や計算方法、給与条件の正しい見比べ方や注意点などを見ていきます。「入社したらイメージと違った!」「想定していた額より低い!」といったトラブルを避けるためにも、理論年収について知っておきましょう。
目次
1.理論年収とは?
理論年収とは、新しい年度の初めからその年度末まで在籍した場合の年収のこと。採用決定者の月次給与、所定外労働手当の12カ月分と理論上の通年賞与などで算出される金額で、求人広告に掲載されている年収は、ほとんどの場合において理論年収です。
また年収とは、人材の年間給与と賞与の合計額のこと。賞与が前年と同程度支払われるものとして計算したものが、人材の予想年収です。なお理論年収は人材紹介会社(エージェント)を仲介した際の紹介料を算出する根拠にもなっています。
理論年収の役割
理論年収には入社を希望する人に年収のモデルケースを示すといった役割があります。実は、求人広告などに掲載している年収のほとんどは、理論年収なのです。
ただし、記載されている年収はあくまでも一例である場合がほとんど。また、掲載している理論年収は基本的にボーナスや役職手当、その他手当を最大限にしている場合もあるため、入社一年目の実質支給額と異なることも珍しくはありません。
入社時期や各手当は個人によって異なります。求人情報に掲載されている理論年収がそのままもらえるとは限らないことを念頭に置いておきましょう。
2.そもそも年収とは?
ここで改めて年収について確認しておきましょう。年収とは一年の収入の合計で、通常は支払うべき税金や社会保険料が含まれています。つまり、住民税や積立金などの控除が引かれる前の総支給額なのです。
面接などで年収を聞かれた場合は、一般的に手取り額ではなく源泉徴収票の「支給額」欄に書かれた総支給額を答えます。なぜなら控除される税金は地域によって異なり、手取り額に手当も含まれていることから、自社の給与規定と比較しにくいためです。
手取り年収との違い
総支給額の年収に対して、年収から社会保険料や税金などを差し引いた一年間の収入の総額を手取り年収といいます。年収には毎月の給与以外に各種手当やインセンティブ、賞与などが含まれていますが、ここからさらに下記の金額が引かれ手取り年収となるのです。
- 厚生年金保険料
- 健康保険料
- 介護保険料(40歳から64歳までの会社員)
- 雇用保険料
- 所得税
- その他、人によって財形貯蓄の積立金や社宅費など
なお一般的に交通費は実費支給となるため、年収とは別に計算されます。
3.想定年収とは?
想定年収は、月次給与と所定外労働手当、理論上の通年賞与などで算出される理論年収とほぼ同義で使われます。一般的に想定年収には、交通費など特定の手当を除いた手当がすべて含まれているのです。
想定年収では賞与を満額支給した場合を想定して算出しているため、入社時期によっては賞与査定期間が不足し、実質支給額が想定年収を下回ることも。想定年収として求人情報に掲載されている額が実際にもらえるとは限らないのです。
4.理論年収の内訳
それでは具体的に、理論年収にどんな項目が含まれているのか、内訳を見ていきましょう。理論年収は、以下5つの項目から算出されます。
- 基本給
- 残業代
- 賞与
- 各種手当
- 成果報酬(インセンティブ)
①基本給
基本給とは毎月支払われる固定給与で、理論年収に含まれる基本給は12カ月分で算出するため、実際には「基本給×12」が理論年収の基本給分になります。
繰り返しますが、理論年収における基本給は新しい年度の初めからその年度末まで在籍した場合を意味しています。つまり年度の途中、12カ月在籍していない場合、実質支給額が異なるのです。また一般的に、基本給には後述の残業代は含まれません。
②残業代
毎月支払われる固定給与の基本給とは別に、月の平均的な残業代も理論年収に含まれます。ただしここでいう残業代とは「毎月固定の残業代」です。毎月変動する残業代は含まれていないため注意が必要です。
これは固定残業制度、いわゆる「みなし残業」のことです。たとえば「月30時間の残業を含む」と雇用契約書に記載されている場合、月30時間までの残業代は理論年収に含まれます。
線引きが曖昧で残業代の未払い問題に発展することもあるため、よく確認しておきましょう。
③賞与
理論年収にはボーナス(賞与)も含まれます。一般的に賞与は夏と冬の年2回支払われますが、理論年収にはこの2回分の賞与が含まれるのです。
しかし賞与は前年度の支給月数から算出されており、また同じ賞与でも「固定賞与」と「決算賞与」があり、業績が悪い場合、決算賞与が支払われないことも。さらに、そもそも会社には賞与を必ず支払わなくてはいけないといった義務はありません。
理論年収と実際の年収が違うケースの多くには、この賞与の支払いが関係しているのです。
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④各種手当
手当にはさまざまな種類があります。課長や部長といった役職が高くなるにつれて上がる「役職手当」や、住宅ローンや家賃など住宅にかかる費用の一部を会社が負担する「住宅手当」などです。
ほかにも扶養家族の人数に応じて支給される「家族手当」や、雪国のように冬の冷えが厳しい寒冷地での暖房用燃料費に充てる「寒冷地手当」などがあります。
当然ですが手当が支給されるのは各条件に当てはまる人のみですので、当てはまらない人には支給されません。またこの手当に「交通費」は含まれないため注意が必要です。
⑤成果報酬(インセンティブ)
その会社に年齢や勤続年数に関係なく成果によって報酬が支払われる「成果報酬制度」が導入されている場合、インセンティブも理論年収に含まれます。成果報酬制度では個人の成績や成果が評価されるため、短期間で社員のモチベーションを向上できるでしょう。
ただし成果報酬は人によって金額が大きく異なります。成果報酬が求人情報に掲載されている理論年収と実際の年収に大きな差をつくる原因となることも珍しくありません。
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5.理論年収の計算、算出
理論年収は募集要項に書かれた給与条件から算出できます。賞与があったほうがよい、福利厚生が充実しているほうがよいなど、給与条件の一部に着目し過ぎると、全体的な給与条件の良し悪しを見誤ることもありますので注意しましょう。
理論年収の計算方法
理論年収は下記の計算式で算出できます。
- 「理論年収=X×12カ月+(基本給×前年度の平均賞与支給月数)」
- X=月給(額面)+平均残業代+固定手当(家族手当等)
下記2件を比べてみましょう。
- 求人A:月給20万円(基本給16万円、業務手当4万円)+賞与1.5カ月分(前年の平均支給月数)
- 求人B:月給25万円(基本給25万円)、賞与および手当なし
一見求人Aのほうがよく見えますが、上記の計算式に当てはめると求人Bのほうが年収が高いと分かります。
- 求人Aの理論年収:20万円×12カ月+(16万円×1.5カ月)=264万円
- 求人Bの理論年収:25万円×12カ月+(25万円×0カ月)=300万円
紹介料と理論年収
前述しましたが、理論年収は人材紹介会社(エージェント)を仲介した際の紹介料を算出する根拠にもなっています。人材紹介会社を利用した際に紹介料が生じるのは以下2つのパターンです。
- 完全成功報酬制(内定を出した人材が入社した場合にのみ紹介料が発生する)
- 固定・複合報酬制(固定:人材のサーチに取りかかる前に費用を全額支払う、複合:着手時と紹介時・入社後に分割して支払う)
紹介料は採用された人材の理論年収から算出されます。前者は30%前後、後者は40~50%が相場です。
6.理論年収の注意点
企業を選択する際に給与の比較は非常に重要です。ここでは理論年収の意味を理解した上で、その注意点を確認していきます。
理論年収はあくまでも理論値
理論年収はあくまでも「理論値」に過ぎず、すべての社員に当てはまるものではありません。
理論年収に含まれた賞与や手当の金額がその会社の一部の社員のもの、または最大値である可能性もあります。本人の状況や条件によって賞与が少なくなったり、手当がもらえなかったりする場合も考えられるでしょう。
また理論年収には社会保険料や税金が含まれており、それらを差し引くと実際の手取り額は当然少なくなります。求人情報に掲載されている理論年収はあくまでもひとつのモデルとして捉えておきましょう。
内訳や割合を聞いておく
「実際に入社してみたら予想より年収が少なかった!」という事態を避けるためにも、契約前に年収の内訳や割合を確認しておくことが重要です。「年収は差し引き後の金額ではない」「月給は基本給+毎月変動しない手当」という点を頭に入れておきましょう。
また理論年収に0.8を掛けると実際の年収に近い額が算出できるとされています。それぞれの言葉の意味を正しく理解していないと、年収が上がるとぬか喜びしたり年収交渉時に間違った金額を提示したりといった事態を引き起こしてしまうかもしれません。