リフレクションとは? 意味や使い方、具体的なやり方を簡単に

人はさまざまな経験を通して成長していくものですが、その経験を大きな成長につなげるためには、自分の行ったことに対する「振り返り」をしっかり行うことが重要です。ここでは、企業の人材育成にとって大切な振り返り=「リフレクション」について解説します。

1.リフレクションとは?

リフレクション(reflection)とは、「反射」や「内省」を意味する言葉です。ビジネスシーンでは、日々の業務から一旦離れ、自分の考えや言動を振り返ることを意味します。自分自身や仕事を客観的に振り返ることで、仕事への理解が深まる、改善点を見つけられるといったメリットがあります。

英語:reflection

リフレクション(reflection)はもともと英語で、日本語に訳すと反響、反映、映像、熟考、内省などの意味になります。

ヘーゲル『精神現象学』

人材育成におけるリフレクションは、西洋哲学の巨匠ヘーゲルの『精神現象学』の構想とよく似ているといわれています。『精神現象学』では、意識が外部世界を旅してさまざまな体験を重ね、最終的に自分自身へと回帰してくるという壮大な精神ドラマが描かれています。ヨーロッパ哲学史上、今日に至るまで大きな影響を与え続けている作品の一つとされています。

内省と反省の違い

同じ「振り返り」でも、リフレクション(=内省)と反省は異なります。反省は自分のした言動を振り返り、良くなかった点を認識して同じ過ちを犯さないよう改めて考えることです。

一方のリフレクション、つまり内省は、自分のした言動(ここでは仕事)を客観的に振り返ることです。自分で自分の状態を観察し、感情に流されることなく見つめ直すことがリフレクションの意味するところです。主観を入れないことで、自分を責めることなく、虚心に振り返ります。

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リフレクションの3段階プロセス

人材育成の場で、実際にリフレクションを行う際は、以下の3つの段階を踏みます。

  • レベル1「出来事を振り返る」
  • レベル2「他者および環境を振り返る」
  • レベル3「自己について振り返る」

通常、過去を振り返るときには、レベル1と2にとどまることがほとんどです。しかし、そこから学び取れることは少なく、レベル3に到達することで初めて新たな気付きに出会うことができる場合が多いのです。それぞれ具体例を用いて、以下で説明していきましょう。

レベル1:出来事を振り返る

振り返りを行うときには、まず体験した出来事そのものを振り返ることから始めます。経験した事実をそのまま思い返す、という単純な作業です。
たとえば、「今日の午後、道でAさんに出会った」という具合です。

レベル2:他者や環境を振り返る

次に、経験した出来事の背後にある因果関係を考えます。
たとえば、「Aさんはなぜあの道を歩いていたのだろう?」「いつになく元気がなかったが、何かあったのだろうか?」のような考え方です。経験したことを他者や環境に照準を合わせて振り返ります。

レベル3:自己について振り返る

最後にレベル1と2を通して、自分のそのときの行動について振り返ります。自分の行動は適切だったか、その状況での自分の役割は何だったのか、というところに意識を巡らせます。

たとえば、「Aさんに元気を出してもらうために自分は何かすべきではなかったのか?」「Aさんはひょっとしたら自分に助けを求めていたのではないだろうか?」という疑問を持つことです。

リフレクションの歴史(理論的背景)

リフレクションの概念は、「デューイの実践的認識論」「ショーンの2つのスタイルのリフレクション」に由来しています。

デューイの実践的認識論

デューイの実践的認識論に基づくリフレクティブシンキングは、今日のリフレクションの概念の原型といわれています。

デューイは、経験からの学びを2種類に分けました。1つは行き当たりばったりの試行錯誤的なもの、もう1つはリフレクティブなものです。後者のリフレクティブな経験からの学びとは、自分たちが行うことと生ずる結果との間の関連を発見し、両者を連続的に結び付ける意図的な努力、つまりは思考である、とデューイは考えました。この「思考」がリフレクティブシンキングであり、(1)周りの状況の観察、(2)過去の似たような状況で起こったことに関する知識、そして(3)観察と知識をつなぎ、それが何を意味するのかについての判断である、ということを示しました。

また、この判断に基づいた見通しや展望があってこそ、計画が策定できると説きました。

ショーンの2つのスタイルのリフレクション

ショーンはデューイの理論をもとに、行為の中のリフレクション(reflection in action)」行為についてのリフレクション(reflection on action)」という、振り返るタイミングが異なる2 つのスタイルのリフレクションを提示しました。また、実践思考能力を持つ実践家=「リフレクティブな実践家」という人物像を定義しました。

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2.リフレクションの主な理論と手法

リフレクションの理論モデルと手法については、以下の3つが広く知られています。

  1. 経験学習モデル:現代教育学の主流
  2. ダブルループ学習:問題に対して既存の目的や前提そのものを疑い、それらも含めて軌道修正を行う
  3. ジョハリの窓:自分自身の姿を4つの窓に分割して考える

①デービッド・コルブの経験学習モデル

「経験学習モデル」を提唱したのはデービッド・コルブという人物です。彼の理論では、経験そのものをじっくりと振り返るプロセスが重要だとされています。以下の順で振り返りを進める手法を取ります。

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STEP.1
具体的経験
まず自分が経験した事実=「具体的経験」を思い起こします。経験学習モデルにおいて、成長にとって適切とされる経験は、今の能力を少し超えられるくらいのチャレンジ性のあるものであるとされています。
STEP.2
省察的観察
次に「省察的観察」。いわゆる「リフレクション」はこの部分に当たります。自分が経験した出来事に対し、一度その場所から離れて振り返り、意味付けを行います。(1)の具体的経験は(2)の省察的観察を経ることにより、学習に変わるとされています。
STEP.3
概念化
次に具体的経験、省察的観察を経て、「なぜそうなったか」「どうすればよいか」などの考えを一般的な言葉に整理し、表現する「(抽象的)概念化」を行います。次の経験に生かすための段階で、経験学習モデルの要に当たる部分です。抽象的概念化を経てつくられた学びは、持論やルール、スキームとして定着します。この抽象的概念化の結果、仕事をスムーズに進める個人のスキルや態度が形成されていくことになります。
STEP.4
新しい試み
最後に「新しい試み(能動的実践)」。経験学習モデルでは、抽象的概念化したモデルを実践することで、そのモデルの再現性を検証します。そしてその経験自体がまた、次のプロセスの具体的経験となり、経験学習モデルを繰り返すことができるのです。

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②クリス・アージリスのダブルループ学習

「ダブルループ学習」は、ハーバード大学ビジネススクールのクリス・アージリスという研究者が唱えた手法です。アージリスは、組織における学習のプロセスには、「シングルループ学習」と「ダブルループ学習」の2つがある、と主張しました。

シングルループ学習は、その名の通り、ループが1つ(シングル)の学習のことです。行動によって得られた成果から、問題解決を図り、その過程で学習する、という考え方です。シングルループを繰り返すことで、改善に改善を重ね、目標達成を目指すことができます。

一方、ダブルループ学習は、シングルループ学習よりもう1段階深く考えます。今の成果はどんな行動によって得られたか、ということだけではなく、その行動はどんな前提から引き起こされたものか、というところまで戻って考え直すのです。シングルループ学習を繰り返していても解決策が見えない場合に、そもそもの前提に何か間違いがないか、といったことに思考を巡らせる場合などが、これに当たります。目的を果たすための行動自体に疑問を持つことで、隠れた前提に気付くことができる手法です。

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③ジョハリの窓

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「ジョハリの窓」は、コミュニケーション心理学者のジョセフとハリーによって考案されました。人が認知していることは以下の4つの窓に分けることができ、対話によってその窓の領域を拡張していこう、という考えです。

  1. 開放の窓
  2. 盲点の窓
  3. 秘密の窓
  4. 未知の窓

①開放の窓(自分も他人も分かっていること)

自己について自分が考えている姿と、他人から見えている姿が一致している状態です。自分がオープンな状態ということですから、この領域が大きいほど円滑にコミュニケーションが取れているということになります。

②盲点の窓(他人だけ分かっていること)

他人からは見えていて、自分では気付いていない自分の姿です。この領域が大きいほど、コミュニケーションの状態は良好ではないことになります。他人からのフィードバックを素直に受け入れることで、良い関係性を築くことができるようになります。

③秘密の窓(自分だけ分かっていること)

自分しか知らない自分の姿です。ここの領域も大きいほどコミュニケーションの状態は良好ではないということになりますので、自分をオープンにすることが大切です。

④未知の窓(自分も他人も分かっていないこと)

自分も他人も知らない、未知の領域です。潜在的な可能性を秘めているので、この価値を開花させることができれば大きな成長につながります。新たな分野にチャレンジすることで、未知の領域を開拓することができるとされています。

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3.企業における人材育成のためのリフレクション教育

企業が率先して社員にリフレクションを身に付けさせるための支援を行うことは、人材育成の観点から大きな意義があります。

というのは、リフレクションは、ふさわしい手法や考え方に基づいて実施しなければ、その学習効果を弱めてしまったり、間違った方向に作用してしまうからです。

効果的なリフレクションを実施できるよう、企業が適切なサポートを行うことが重要です。

ここでは、企業の人材育成のためにどのようなリフレクション教育が必要かということについて、解説していきます。

リフレクション教育の重要性

リフレクション教育は、企業などの組織にとって非常に重要であるとされています。それは、リフレクション教育が、組織運営に必要な人材を育てるのにふさわしいからです。

組織を円滑に運営し、成長させていくには、組織全体を俯瞰的に見て牽引できるリーダーが必要です。リーダーは、組織のために行動できる人物でなければなりません。

リフレクション教育を受けた社員は、自己中心的な考えから脱却し、不条理なことを受け入れ、内省し、組織の未来を構想することができるようになる、といわれています。従って、リフレクション教育によって、社員を組織のために行動できるリーダーに育てることは重要なことなのです。

OJTの機能不全はリフレクションの支援不足

日本企業の約9割は、人材開発方針の中心にOJTを据えています。ところが、2010年に産業能率大学が発表した調査報告「OJTの現状(経済危機下の人材開発に関する実態調査から)」によると、「OJTが機能している」と答えた企業は全体の約13%しかありませんでした。

こういった実態に対し、労働政策研究・研修機構は、「製造業における OJT を効果的に推進する要因」(2007)の中で、 「企業内での指導法が統一されていないこと」「教える側に対する教育機会が少ないこと」を原因として挙げています。同レポートからは、教える側にリフレクションに関する指導が行き届いておらず、効果的にリフレクションの機会をつくり出せていない企業の現状を読み取ることができます。

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リフレクションが進む職場と進まない職場の違い

リフレクションが進むか進まないかは、職場環境に大きく影響します。では、リフレクションのしやすい職場環境とはどういうものでしょうか。

たとえば、日々の職務に振り返りの機会を多くつくることができる環境であれば、よりリフレクションが進みやすくなります。

振り返りの機会をつくりやすくする要因の一つには、たとえば他のスタッフとのコミュニケーションの状態が良好であることなどが挙げられます。しかし、現在の組織では人間関係とコミュニケーションが希薄化している例が増えており、そういった組織では振り返りのきっかけをうまくつくり出せず、リフレクションが進みにくくなる、ということが考えられます。

以下に、より具体的な例として、リフレクションを進めやすい職場と進めにくい職場について紹介します。

事例①リフレクションが進む職場

ベテラン社員のAさんは、日々の業務に追われ、資格取得や業務改善に取り組む余地がないと感じていました。ところが上司がBさんに変わってからは、事態は一変しました。

Bさんは気さくに話しかけてくれるため、Aさんは仕事の悩みを話しやすく、またBさんは真剣に耳を傾けてくれ、メールでの相談も即時対応してくれました。

Aさんは、Bさんと親交を深めるうちに、自分が抱えている課題と真剣に向き合えていなかったこと、周りのメンバーに悩みを共有しなかったことなど、自分自身に改善すべき点があったことに気が付き始めました。

それ以降、AさんはBさんに相談しながら業務改善に取り組む一方で、資格取得の勉強に励み、半年後には以前より前向きに仕事に取り組めるようになりました。

事例②リフレクションが進まない職場

Cさんは、仕事へのモチベーションが上がらず、スキルの伸び悩みを感じていました。会社のマニュアルや学習制度は整っており、Cさんは時間を見つけては技能講習に参加していました。しかし実際の業務では初めて体験することも多く、Cさんはいつも戸惑ってしまい、お客さんが怒っているときにはどうすればいいか分からないことも多々ありました。

職場では同僚や先輩と話す機会もあるのですが、Cさんは意識的に仕事の話を避け、雑談に終始していました。また、業務への疑問がを抱いたところで誰にも話せずに1日が終わるため、事態は一向に改善することがありませんでした。

学習する社員と学習しない社員の違い

リフレクションを効果的なものにできるかどうかは、職場環境だけでなくリフレクション実施者の考え方も大きな影響を与えます。

たとえば、学習する人のリフレクションの考え方は、

  • 本来期待されていた結果は何か
  • 実際の結果はどうだったのか
  • ありたい姿と現実にどのような差があったか
  • この差を埋めるために何を変えるか

といったことを念頭に進みます。

一方で、学習しない人のリフレクションの考え方は、

  • どんな間違いが起きたのか
  • 誰の責任か
  • 事態に対する言い訳や謝罪

といった視点で進みます。

前者の場合、次に同じ場面に直面したときは、学習したことを生かして、ありたいと思う姿になることができます。しかし後者の場合、次に同じ場面に直面したときは、自分が責任を負わずに済むような対策を考えることに終始してしまうかもしれません。

リフレクションの方法・フレームワーク

リフレクションは思い立ったときから実践することができます。個人でできるものと会社でできるもの、それぞれ1例ずつ紹介します。

個人で進めるリフレクション例:「KDA」

リフレクションを進めるためのフレームワークとして”KDA” があります。
K:Keep「うまくいっているなどの理由で、今後も続けていくこと」
D:Discard「良くない結果につながったなどの理由で、今後はやめること」
A:Add「今回の経験から、今後新たに始めようと思っていること」

振り返りの対象となる経験は、成功したものでも失敗したものでも構いません。具体的に経験を思い返して、K「続けていくこと」、D「やめること」、A「新たに始めること」の3つの観点から思いつくままに書き出していきます。紙とペンさえあればできますね。

振り返りを行うタイミングとしては、経験した直後、記憶の鮮明なうちが望ましいです。もしくは、何かを経験している最中であっても、課題を抱えていると感じるのであれば、その段階で振り返りを行うことで、それ以降の課題の進め方をより良くするための行動が明確になります。

参考 急成長する人が実践している「リフレクション」とは?THE21 ONLINE

会社が進めるリフレクション例:「リフレクション会議」

会社が進めるリフレクションについては、面白法人カヤックの例を紹介します。

社内のあるチームでは、毎週リーダー層を集めたリフレクション会議を行っているといいます。内容は、各自が自分の経験したことをもとに内省したことを発表し合う、という単純なものです。

内省することは、自分が体験した出来事の価値を高めることができるため、自分自身に良い影響を与えます。そしてその内省を仲間と共有することで、今度はその話を共感的に聞いた仲間が新しい発見をし、結果として自分の内省をさらに進めることができるというのです。リフレクション会議は複数人で行われるため、他者の内省を数多く聞くことで、そこにいる全員が内省を深めることができます。

この会議をより効果的に行うためには、まず話し手が「自分の経験を踏まえて」話すということが大切になります。話し手が苦悩したことや、結果として合点がいったことを、実体験に基づいて話すことで、聞き手の心に響きやすくなるからです。そして聞き手にも、真剣に聞く姿勢を促します。そうすることで他人の話を自分事のように捉えられるようになり、自分自身の内省にもつなげやすくなります。

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まとめ

人が学習し、成長していくためには、効果的なリフレクションが重要です。そして、リフレクションには、ある程度体系化された手法や考え方があります。

企業は、こういったリフレクションの手法や考え方をよく理解し、社員が効果的にリフレクションできる機会を提供するようにしましょう。

優秀な人材に効果的なリフレクション手法を身に付けさせることができれば、早いペースでスキルアップしてくれるだけでなく、その部下にも効果的なリフレクションを促してくれるようになります。