月額変更届とは、社会保険料を変更する際に提出する書類のこと。ここでは、月額変更届の目的や算定基礎届、特徴、書き方や作り方などについて詳しく見ていきましょう。
目次
1.月額変更届とは?
月額変更届とは社会保険料を変更する際に、日本年金機構の各都道府県の事務センターあるいは管轄の年金事務所へ届け出る書類のことで、正式名称を「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」といいます。
従業員の昇給や降給、雇用契約の変更などで報酬額が変わる際に行う、「随時改定」の際に届け出るものです。
社会保険とは? 仕組み・種類・加入条件をわかりやすく解説
社会保険とは、私たちの生活を保障することを目的としたもので、万が一の事故に備えるための公的な保険制度です。しかし複数の制度で構成されているため、分かりにくい点も多々。それぞれの制度について加入要件など...
2.月額変更届の目的
目的は、被保険者の昇給や降給、雇用契約の変更などによって報酬額が大きく変わった際、標準報酬月額を見直すこと。
社会保険料の計算のベースとなる「標準報酬月額」は年に1回算定されます。たとえば算定時に高い給与だった被保険者は、年の途中で何らかの理由で給与額が下がったとしても次の算定で変更されるまで、高い社会保険料を支払い続けなければなりません。
そのため企業は、被保険者の報酬額が変わった際に、月額変更届を提出しなくてはならないのです。
3.算定基礎届とは?
算定基礎届とは、毎年4~6月の3カ月間に支払われる給与の平均から被保険者の社会保険料や年金を計算するベースとなる標準報酬月額を定めるために、7月上旬に年金事務所に提出する書類のこと。
この算定基礎届の提出によって、その年の9月から1年間使用される標準報酬月額が決められます。7月1日の時点で被保険者の資格を有する、休職中、産休・育休を取得している従業員が対象です。
4.月額変更届の特徴
ここでは月額変更届の特徴について、具体的にご紹介していきましょう。
随時改定
随時改定とは、年の途中で昇給や降給、あるいは雇用契約の変更などによって被保険者の給与額が大きく変わった場合に、標準報酬月額を見直すために行う改定のこと。
標準報酬月額は一般的に、年に1回、7月に届けられる算定基礎届によって決定されます。もし何らかの理由によって給与額が大きく変わった場合、標準報酬月額が同じままでは社会保険料額が給与に対して多すぎ・少なすぎという状況になってしまうのです。
それを防ぐのが随時改定で、3つの条件を満たした際に行われます。
随時改定の条件
随時改定は、下記3つの条件すべてに該当してから手続きを行うものと定められています。
- 昇給や降給によって、従業員の固定的賃金に変動が見られた
- 変動月以降継続した3カ月間に従業員に支給された給与(残業手当などの非固定的賃金を含む)の月額の平均額に当てはまる標準報酬月額と標準報酬月額との間に2等級以上の差が発生した
- 4~6月の3カ月において支払基礎日数が17日以上
固定的賃金と変動
固定的賃金とは、あらかじめ支給率や支給額が決まっている賃金のこと。一般的には、下記のような状況によってしょうによって昇給や基礎単価の変更、歩合給の単価や率の変化などを意味する変動が生じるとされています。
- 昇給や降給があった場合
- 日給制から月給制に変わるなど給与制度に変更があった場合
- 日給や時間給の日当、単価など基礎単価に変更があった場合
- 請負給や歩合給などの単価、またその歩合率に変更があった場合
- 住宅手当や役付手当など不変動な手当の追加、またはその支給額に変更があった場合
提出時期、提出先、方法
改定を行う必要が生じた場合、事業所は次に予定する定時決定を行う前に、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」をできるだけ速やかに提出する必要があります。
提出先は日本年金機構の各都道府県にある事務センター、あるいは事業所のある地域を管轄する年金事務所です。厚生年金基金や企業年金基金、健康保険組合に加入している事業所は、あらかじめ決められた様式に従って届け出るよう定められています。
なお、提出方法は「電子申請」、「電子媒体(CDまたはDVD)」、「郵送」、「窓口持参」から選択可能です。
5.月額変更届の書き方、作り方
それでは、月額変更届の書き方や作り方を見ていきましょう。
月額変更届に記入する内容
月額変更届を提出する際に必要な記載事項は、下記の9項目です。
- 資格取得時に払い出された被保険者証の番号
- 生年月日
- 標準報酬月額が改定される年月
- (記入時における)標準報酬月額
- 従前の標準報酬月額が適用された年月
- 昇給や降給が生じた月の支払月と区分
- 遡及分の支払いがあった月と、支払われた遡及差額
- 固定的賃金の変動が発生した月から3カ月分の給与支払月
- 給与計算の基礎日数
記入時の注意
月額変更届を記入する際には以下のような点に注意しておきましょう。
- 被保険者番号は、資格取得をした際に日本年金機構から送付される「健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書」に記載されている
- 生年月日は元号と年月日を数字だけで記入する
- 改定年月は、標準報酬月額が改定される年月です。変動後の給与を支払った月から4カ月目を記入する
- 短時間労働者である場合はその旨を記載する
添付書類
原則として、月額変更届に添付書類は不要とされています。しかし以下の場合、固定的賃金の変動が生じた月の前月から改定月の前月までの賃金台帳や、出勤簿の写しなどの書類の提出が求められるのです。
- 標準報酬月額における等級が5等級以上下がる
- 標準報酬月額の改定月の初日から起算して、60日以上届け出が遅れた
短時間労働者の随時改定
短時間労働者とは、通常の社員の所定労働時間や所定労働日数が4分の3未満で、以下にある5つの条件のすべてを満たす人のこと。
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 雇用される期間が1年以上見込まれる
- 給与の月額が8.8万円以上である
- 学生でない
- 厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の法人・個人の適用事業所、国や地方公共団体に属するすべての適用事業所で働いている
短時間労働者の随時改定における条件は、3カ月すべてで11日以上の支払基礎日数であることです。
6.月額変更届と新しい保険料率
月額変更届を届け出た後に、標準給与月額が改定されるのは「固定的賃金の変動が生じた月から連続する3か月の翌月」とされています。
これは給与の変動が起こったときから起算した4カ月目です。社会保険料は翌月の納付と定められているため、給与の変動が生じた月から5カ月目に支払われる給与から新しい保険料額となります。
7.月額変更届の注意点
ここでは、月額変更届に関する注意点について詳しく見ていきましょう。
被保険者への通知
日本年金機構から下記のような決定通知があった場合、事業主はその内容を被保険者や過去に被保険者であった社員に速やかに伝えなければなりません。
- 被保険者の資格取得や喪失
- 標準報酬月額の決定や改定
- 標準賞与額の決定
- 適用事業所以外の事業所が適用事業所となった場合
- 適用事業所が認可を受けて適用事業所以外の事業所となった場合
またこの日本年金機構による通知義務に対して正当な理由なく被保険者や被保険者であった社員に伝えなかった場合、「6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されると定められているのです。
提出漏れを防ぐ方法
月額変更届は、定期的に提出するものではなく、変更があった場合に日本年金機構に届け出るといった不定期なもの。日々の業務に追われて提出し忘れてしまうことも珍しくありません。
一方で月額変更届は、住所変更届や被扶養者異動届など、各社会保険の手続きとも関連しているため、日頃からの意識が重要です。下記の方法で提出漏れを防ぐことができるので覚えておくとよいでしょう。
- 給与計算システムの機能を利用して、自動判定してもらう
- 部署内で変更要件を確認し、情報を共有する