企業がシナジー効果を期待してM&Aなどを行う事例が増えています。そこで、シナジー効果とはどのようなものなのか、解説します。
目次
1.シナジー効果とは?
シナジー効果とは、いわゆる相乗効果のことで、1+1が2よりも大きな効果を生み出す、と考えると分かりやすいかもしれません。具体例は、下記のようなものです。
企業同士がタイアップしてビジネスを展開し、想定外の成果が生じた
企業が経営の多角化を選択して、単なる利益を合計した以上の収益を上げた
2.シナジー効果の種類とメリット
シナジー効果には、下記の5種類がありますが、どのようなものなのでしょうか。それぞれについて解説します。
- 売上・収益
- コスト
- 財務
- R&D
- マイナス
①売上・収益
売上・収益とは、企業同士や部門同士の協力、経営の多角化などによって企業の売上や収益に大きな効果をもたらすこと。
シナジー効果があれば、「販売チャネルが倍に増えた」「ブランド力が強化された」で終わらず、それらによって規模や力が倍増した以上に売上や収益そのものに大きな効果がもたらされるのです。
②コスト
複数の企業がタイアップしてビジネスを展開すれば、当然、重複する分野は集約されます。単体でビジネスを展開していれば必要となる対売上比のコストも、複数の企業で協力して負担すれば、大幅に削減できるでしょう。
また、1社では負担しきれず諦めていたビジネスも、企業同士の協力や連携によって規模を拡大して取り組めれば、1社の負担が軽減します。
③財務
複数の企業で協力体制を構築できれば、増資などの資金調達も強化できます。増資が可能になれば、資金力の改善、借入金利息の返済など、財務的にも好循環が生まれるでしょう。
それによって、経営基盤を安定させビジネスを拡大できれば、シナジー効果は財務面でも大きな効果となります。財政基盤が不安定な企業ほど、財務面でのシナジー効果は高いでしょう。
④R&D
R&DとはResearch and Development の頭文字を取ったもので、研究開発を意味します。企業が研究開発に力を注ぐと、事業に関する科学的な研究、新しい技術や製品の開発、既存技術の改良などに大きく貢献するのです。
企業同士が共同で研究開発を行うと、技術開発や改良に大きな成果を生み出しやすくなります。
⑤マイナス
タイアップした企業によっては、「自社の取引が縮小してしまう」「事業展開に制限が生じる」「自社の意としない方向にビジネスが展開する」場合があります。
シナジー効果が、プラス面に作用すればより大きな成果、効果が期待できるでしょう。しかしマイナス面に作用すれば、より大きな損失になります。これらについて冷静に考慮しておくことも重要です。
3.シナジー効果とイゴール・アンゾフ
アメリカの経営学者イゴール・アンゾフは、「経営戦略論の父」とも呼ばれ、シナジー効果をビジネスの世界で最初に用いた人物だといわれています。フィリップスやIBMなど、多くの多国籍企業でコンサルテーションを行ってきました。
アンゾフのマトリクス
イゴール・アンゾフが論文「多角化のための戦略(Strategies for diversification)」で提唱したのが、成長戦略のマトリクスです。
縦軸に市場、横軸に製品を用いて、既存・新規に分類し、ここで生まれた4つのカテゴリーを組み合わせ、
- 既存市場で既存製品なら市場浸透
- 新規市場で既存製品なら市場開拓
- 既存市場で新規製品なら製品開発
- 新規市場で新規製品なら多角化
という4つの戦略を提示しました。「市場」を「企業」に置き換えて考えれば、シナジー効果を生み出す経営戦略が見えてくるでしょう。
4.シナジー効果の事例
シナジー効果が実際にどのような効果を生み出したことがあるか、3つの事例から解説します。どれも、シナジー効果をプラスに作用できた事例です。成功の要因を探るきっかけにしてみてください。
ソフトバンク
ソフトバンクは、さまざまな企業をM&Aなどで傘下に収めてシナジー効果をプラスに活用している企業です。
- 2004年、日本テレコムがソフトバンクグループ傘下に
- 2006年、ボーダフォンがソフトバンクグループの傘下に
- 2013年、イー・アクセスとの株式交換が完了し、ソフトバンクグループの傘下に
ソフトバンクは、M&Aで「売上・収益」「コスト」「財務」「R&D」といったシナジー効果を手にしています。
楽天
楽天は、グループシナジーを強化している企業のひとつで、金融事業強化やエコシステムなどにグループ全体で取り組んできました。
「楽天経済圏」構想を持っており、企業の集合体としてグループシナジー効果を最大限享受しながら、国内外を問わず事業展開を繰り広げています。
ビックカメラとユニクロ
ビックカメラとユニクロは、家電業界とファッション業界という異業種同士でタッグを組み、「ビックロ」という新しい名称で事業を展開しています。
これまでの「家電を買うなら家電量販店」「衣服を買うなら衣料品店」という仕切りを取り払い、「家電も洋服も広くは自分のライフスタイル」という発想で新たな話題を広く社会に提供しながら、シナジー効果によって集客力や収益の向上に成功したのです。
5.シナジー効果を発揮するための注意点
シナジー効果を発揮する際の注意点を3つに絞って解説します。シナジー効果を活用したい場合のチェック項目としても活用してみてください。
- リスクのチェック
- 自社の価値
- 情報の管理
①リスクのチェック
シナジー効果には、「売上・収益」「コスト」「財務」「R&D」「マイナス面」の5種類があり、プラスに働けば、収益や財務の面でも想定外の効果が期待できます。しかし、マイナスの面が潜んでいることも忘れてはなりません。
債務、人材、社風などパートナー企業についてあらゆるデータを収集し、どのようなリスクがあるのか検証が必要です。
②自社の価値
シナジー効果は、相互の協力関係が構築できたときに発揮される効果です。
- 自社にどのくらいの価値があるのか
- 自社が持っている経営資源の評価はどうなっているのか
- 自社にどのような技術が蓄積されているのか
など、自社について十分に把握し、パートナーである相手企業から質問があってもすぐに回答できるようにしておきましょう。
③情報の管理
シナジー効果は、事業展開をしている、もしくは事業展開を検討している市場に対しインパクトを与えることでより多くの効果を発揮します。
事前に協力企業の情報が漏れたりパートナー企業との新規事業がリークされたりする状況がないよう、情報管理の徹底は重要です。情報管理が疎かになれば、協力関係の解消など新たなリスクも生じかねません。