介護保険とは、要支援または要介護認定を受けた人が必要な介護サービスを受けられる給付制度です。40歳になると自動的に介護保険の第2号保険者となり、介護保険料の支払いが開始します。
今回は介護保険について、対象者や保険料の計算方法、介護保険で利用できるサービスや介護サービスを受ける際の申請方法などをわかりやすく解説します。
目次
1.介護保険制度とは?
介護保険制度(介護保険)とは、介護を必要とする方に費用を給付し、適切なサービスが受けられるようサポートする公的な社会保険です。要介護認定または要支援認定を受けた人が介護サービスを受けられます。40歳以上の人は介護保険料を負担する義務があり、納められた保険料と税金によって全国の自治体が運営しています。
介護保険は、2000年に創設された比較的新しい制度です。高齢化社会や核家族化の進展を背景に、介護による離職が社会問題になったことから、介護の必要な家族がいる家庭の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的に創設されました。
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2.介護保険の加入年齢|いつから保険料を払う?
介護保険は40歳から加入が義務付けられており、保険料の支払いが自動的に開始。64歳まで健康保険料と一緒に介護保険料を支払います。
介護保険には、第1号被保険者と第2号被保険者の2つの区分があります。
第1号被保険者
第1号被保険者の対象者は、65歳以上の人です。65歳になった月から、第1号被保険者としての保険料の支払いが開始します。保険料は、原則年金からの天引きで支払われます。
第2号被保険者
第2号被保険者の対象者は、健保組合や全国健康保険協会、市町村国保などの医療保険加入している40〜64歳の人です。日本は皆保険制度であるため、40歳以降はすべての人が第2号被保険者となります。
40歳に自動的に介護保険に加入し、65歳で自動的に第1号被保険者に切り替わる仕組みです。保険料は40歳になった月から支払いが開始し、通常の健康保険料に上乗せされる形で支払います。
3.介護保険料の計算方法|いくら払う?
介護保険料をいくら払うのか、第1号・2号被保険者ごとに計算方法をみていきます。
第1号被保険者の介護保険料
介護保険料=保険料基準額×前年の所得に応じて区分けされた係数
保険料基準額は「第1号保険者が利用する介護保険サービスに必要な費用÷第1号被保険者数」で計算され、区分け数や係数は市区町村ごとに異なります。保険料は基準額をもとに、一人ひとりの収入に応じて段階に分かれます。
具体的な計算には、お住まいの自治体のWebサイトから保険料基準額や係数の確認が必要です。
第1号被保険者の介護保険料の具体例
東京都八王子市を例に、第1号被保険者の介護保険料の具体例をみていきます。2021年度から2023年度の八王子市の基準額は、年額69,000円です。基準額をもとに、収入に応じて下記16段階に分けられます。
出典:八王子市「令和3年度(2021年度)から令和5年度(2023年度)の介護保険料(所得段階)」をもとに作成
第2号被保険者の介護保険料
第2号被保険者の介護保険料は、加入する健康保険や組合によって計算方法が異なり、会社員か会社員でないかによっても異なります。
会社員の場合は、保険料を勤務先と折半で支払います。それ以外の人はお住まいの自治体によって異なり、保険料は国民健康保険加入者の所得や人数に応じて世帯単位で決定する仕組みです。割合は、各市区町村が決定します。
会社員かつ第2号被保険者の介護保険料の具体例
協会けんぽを例に介護保険料の具体例をご紹介します。協会けんぽにおける第2号被保険者の介護保険料率は、1.60%です。※令和6年3月分(4月30日納付期限分)より
自己負担分の介護保険料は、以下計算式より算出できます。
標準報酬月額×介護保険料率÷2
標準報酬月額40万円の場合、ひと月の介護保険料は「40万円×1.60%÷100=6,400円」です。支払いは勤務先と折半となるため、3,200円が健康保険料に上乗せされます。
協会けんぽ「東京都の令和6年3月分(4月納付分)の健康保険・厚生年金保険の保険料額表」では、第2号被保険者に該当する場合の保険料額が確認できます。
出典:全国健康保険協会「令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
4.介護保険のサービス対象者
介護保険のサービス対象者は、原則第1号被保険者です。第1号被保険者は原因を問わず、要介護認定または要支援認定を受けた場合に介護保険による費用の給付とサービスが受けられます。
第2号被保険者は例外的にサービス対象者となる
第2号被保険者は、指定の16疾病により要介護認定を受けた場合に介護保険サービスが受けられます。対象となる指定の16疾病は、以下のとおりです。
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
5.介護保険で利用できるサービス一覧
介護保険で利用できるサービスをカテゴリごとにご紹介します。
居宅介護支援サービス
居宅介護支援サービスは、要支援者・要介護者ができる限り自宅で自立した生活を送るための支援です。
- ケアプランの作成
- 家族の相談対応
利用者の心身状況や置かれている環境に応じたケアプランを作成し、プランに基づき定説なサービスが提供されるよう関係機関との連絡・調整を行なってもらえます。
居宅サービス
居宅サービスは、施設には入所せずできる限り自宅で生活を送るにあたって受けられる支援です。サービスの種類が多く、主に「訪問型サービス」「通所型サービス」「短期滞在型サービス」「福祉用具・住宅に関するサービス」の4種類があります。
訪問型サービス
- 訪問介護
- 生活援助
- 身体介護
- 訪問看護
- 訪問リハビリステーション
- 居宅療養管理指導定期巡回
- 随時対応型訪問介護看護
通所型サービス
- デイサービス
- デイケア
- 認知症対応型通所介護
短期滞在型サービス
- ショートステイ
福祉用具・住宅に関するサービス
- 福祉用具貸与
- 特定福祉用具購入費(上限:年間10万円)
- 住宅改修費の支給(最大20万円まで)
施設サービス
施設サービスは、介護度や症状に応じた施設に入所し、そこで生活を送れるサービスです。
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
常に介護が必要な方や慢性疾患により長期の治療が必要な方、病状は安定しているが看護・医学的管理のもとで介護や機能訓練が必要な方が利用するサービスです。各施設に入所するにあたり、要介護度などの条件が設けられています。
6.介護保険サービスの自己負担割合
介護保険サービスの自己負担割合は、1〜3割です。第1号被保険者本人と世帯での合計所得金額に応じて自己負担割合が決定します。
出典:厚生労働省「平成30年8月から現役並みの所得のある方は、介護サービスを利用した時の負担割合が3割になります」
介護保険制度が創設された当初は、一律1割負担でした。平成27年に一定以上の所得がある人の自己負担割合を2割、平成30年には2割負担者のうち特に所得の高い利用者の自己負担割合が3割となりました。
7.介護保険の要介護認定とは?
要介護認定とは、介護サービスの必要度を判断する7段階のレベルです。
要介護認定は、市区町村に設置される介護認定審査会において全国一律に客観的な基準によって判定されます。
8.介護保険の支給限度額
要支援・介護度に応じて支給限度額が決められています。数字が大きくなるほど介護度も高くなるため、支給限度額も高額になります。
参照:厚生労働省「介護保険の解説(サービスにかかる利用料)」
介護サービスを受けるにあたって、基本的には担当のケアマネジャーが支給限度額内に収まるようにケアプランを作成します。
支給限度額を超えて介護サービスを受けることも可能
支給限度額以上の介護サービスを受けることも可能ですが、その場合は超過分が全額自己負担となります。また、介護サービスの中には介護保険が適用されない介護保険外サービスもあります。
介護保険適用のサービスは、要介護者の最低限の生活を支援することが目的です。より快適かつ豊かな介護生活を送るため、+αの支援となるのが介護保険適用外サービスとなります。
9.介護保険の要介護認定申請に必要な書類と手続きの流れ
介護保険を受けるには、まず要介護認定の申請手続きが必要です。ここでは、要介護認定に必要な書類と手続きの流れをみていきます。
必要な書類
- 介護保険要介護認定・要支援認定申請書
- 介護保険被保険者証(65歳以上の人)/健康保険被保険者証(64歳以下の人)
- 主治医の氏名・医療機関名・所在地・電話番号
- マイナンバーが確認できるもの
- 身元確認ができるもの(顔写真付き)
申請書は市区町村の窓口で交付、またはホームページでダウンロードできます。代理人が手続きする場合には、委任状のような代理権の確認できるものと代理人の身元が確認できる書類も必要です。
介護保険被保険者証はいつどこでもらえる?
介護保険被保険者証は、65歳を迎えて第1号被保険者になった時にお住まいの市区町村から郵送で送付されます。65歳の誕生月に交付されるため、65歳になる年でも65歳を迎えていないと受け取れません。64歳以下の第2号被保険者は通常発行されませんが、特定疾病に該当し介護認定されると発行されます。
手続きの流れ
要介護認定は以下の流れで手続きを行います。
①市区町村の窓口で申請
申請先は、市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターです。認定を受けるか迷った場合は、地域包括支援センターに相談すると良いでしょう。基本的に手続きするのは本人またはその家族ですが、本人や家族が難しい場合は代理人の申請も可能です。
②認定調査
申請後、調査員による認定調査が行われます。調査員が自宅を訪問し、本人や家族から心身の状況について聞き取りや身体機能、認知機能のチェックを実施します。調査時間は1時間ほどで、当日は本人だけでなく家族の立ち合いも必要です。
③結果通知
申請から30日以内に結果が通知されます。認定が決定しただけでは介護サービスは受けられないため、利用する場合には地域包括支援センターまたは居宅介護事業所に連絡し、ケアプランを作成してもらうことが必要です。なお、認定結果に応じて、受けられる介護サービスは異なります。