休業補償とは、業務または通勤が原因のケガや病気のため、仕事に就くことができなくなった従業員に対して支払われる補償のこと。ここでは、「休業手当」との違い、休業補償の支給に関する詳細について説明します。
目次
1.休業補償とは?
休業補償とは、従業員が業務または通勤によるケガや病気(労働災害)が原因で働けず、賃金を受け取れないときに支払われる補償のこと。労災保険に関係する制度で、労働基準法76条に定められています。
従業員は、休業開始4日目以降に労災保険から平均賃金の80%が支払われますが、賃金ではなく補償なので課税対象にはなりません。
正社員や契約社員、パートタイム・アルバイトを含むすべての労働者が補償対象で、派遣社員の場合は、派遣元の企業による適用となります。
2.休業の定義と意味について
休業とは、従業員が何らかの理由で労働することができず業務を休むことで、4種類あります。それぞれについて解説しましょう。
- 労働災害
- 自己都合
- 会社都合
- 天災事変
①労働災害
勤務中や通勤中の事故によるケガや業務を原因とする病気などで業務を行えない場合、労働災害による休業になり休業補償が給付されます。業務が原因での療養が対象になり、業務中に起きたケガや病気のすべてが該当するわけではありません。
たとえば、「改善の機会があったにもかかわらず、本人の長年の不摂生により持病を悪化させた結果、体調を崩して就業時間中に倒れた」という場合、労働災害とは異なります。
②自己都合
自己都合による休業には、上記の労働災害以外でのケガや病気による療養があります。従業員は健康保険から「傷病手当金」が給付され、出産の際には、産前産後の休暇や育児休業があり、育児休業は男性も取得できるのです。
家族を介護するための介護休業は、対象家族1人に対し最大93日を3回まで分割して取得でき、給付金を受け取ることができます。1年に5日間、要介護状態にある対象家族が2人以上の場合には10日を限度として取得可能な介護休暇とは異なります。
③会社都合
経営悪化による生産調整、ストライキ、設備不良による操業停止などで従業員が自宅待機になるなど、会社からの申し立てにより従業員が休業する場合があります。こうした場合、「休業手当」として賃金の60%以上の額が、会社から従業員に支給されるのです。
休業手当は労働基準法26条に定められた制度で、会社に義務付けられています。従業員にとっては賃金にあたるので、所得税の課税対象です。丸一日ではなく、「通常よりも早く帰宅した」「午前だけ休み」などといった場合も該当します。
④天災事変
近年、全国各地で大規模な地震や台風による風水害が増えており、影響によって会社が操業を停止せざるを得ない場合、従業員は休業することになるでしょう。
こうした自然災害は不可抗力と見なされ、使用者の責にはあたらないと認められます。そのため、会社からの休業手当が発生しない場合も多いのです。
たとえば始業時刻前、災害により公共交通機関が停止して全日休業になった場合などは、原則、休業手当の対象にならないとされています。
3.休業補償と休業手当の違いは?
休業補償とは別に、休業している従業員に支給されるものでは「休業手当」があります。似たような名称で混同しやすいのですが、異なる制度です。支給される理由や支給される額や期間、支給元など、相違点を説明します。
そもそも休業手当とは
休業手当とは会社の責任によって休業が発生した場合に、従業員に支払われる手当のこと。経営悪化による生産調整によって業務が減少、ストライキにより会社が休業したが自分は参加しなかった、などがあります。
この場合、会社は休業した分の賃金の60%以上にあたる金額を従業員に支払わなくてはならず、違反すると会社に罰則が科されます。ただし、自然災害などが原因の場合、不可抗力と認められ、会社に責任はないとされるのです。
休業手当の種類
「使用者の責に帰すべき事由」以外での休業でも、健康保険や労災保険、雇用保険などから受け取れる手当や給付金があり、これらは、休業補償や休業手当とは意味合いが異なります。
- 産前産後期間の休業
- 育児のための休業
- 介護での休業
- 業務上での負傷
- 病気の治療中
たとえば、産前産後休業や育児休業では就業規則で定められている場合を除き、原則として賃金は発生しません。この場合は、健康保険や雇用保険から一時金や手当金、給付金が支給されます。
休業手当の対象者
休業手当は、雇用形態にかかわらず、正社員や契約社員、パートタイマーなど、すべての労働者に対して支給される制度です。しかし中には、支給するかどうか判断に迷うケースもあるでしょう。
就職内定者に対し会社都合で休業を指示した場合、労働契約が締結されていれば、会社に休業手当義務が発生します。
派遣社員が派遣先の会社都合で休業する際は、派遣元会社に支給義務が発生します。その際派遣社員は、ほかの派遣先の紹介を求めることも可能です。
休業補償とは全く別の制度
業務や通勤によるケガや病気の休業を補償する「休業補償」と、会社都合の休業に対して60%以上の手当を支給する「休業手当」とは全く異なるものです。名称が似ており混同しやすいので注意しましょう。
- 休業補償:休業開始から4日目以降の平均賃金の80%が労災保険から支給され、所得税の課税対象にならない
- 休業手当:休業期間分に支払われる平均賃金の60%が会社から支払われ、課税対象になる
4.休業補償支給概要
業務や通勤が原因で起きたケガや病気による休業に対する補償である「休業補償」の給付制度には、以下の2種類があります。
- 休業補償給付:業務が原因の場合
- 休業給付:通勤が原因の場合
ここでは、従業員が業務上のケガや病気の療養のため休業せざるを得ないとき、生活保障として一定額が支給される「休業補償給付」について解説します。
支給条件
休業(補償)給付は、以下3つの要件をすべて満たした場合にのみ支給されます。
- 療養中:療養中は支給対象ですが、治癒後に外科処置で休む期間は補償期間に含まれない
- 働けない状況:休業補償は働くことができない期間に適用される。以前の業務ができなくても、別の軽度な作業に参加できる場合、給付を受けられない
- 賃金を受け取っていない:休業中の従業員に対して企業が賃金を支払っていない状況でなければならない
支給金額
休業補償の支給金額は、「全部労務不能」と「一部労務不能」によって異なり、1日単位で計算されます。
- 全部労務不能:所定労働時間のすべての業務に就労できない場合、一日あたり給付基礎日額(平均賃金に相当する額)の60%が支払われる
- 一部労務不能:病院への通院など、所定労働時間の一部分に就労できない場合、給付基礎日額から労働した部分に支払われる賃金額を引いた金額の60%が支払われる
いずれの場合も、「休業特別支援金」として基礎日額の20%が加えて支給されます。
支給期間
休業(補償)給付は、休業開始後4日目から休業が終了するまでの期間が対象です。また、休業開始から3日間は「待機期間」となり、休業補償および休業特別支援金は支払われません。待機期間は継続した3日間である必要はなく、休日はカウントされません。
しかしこの待機期間中には、会社から給付基礎日額の60%が支払われます。療養開始後1年6カ月を経て傷病(補償)年金の受給に切り替わった場合、休業(補償)給付はありません。
5.休業補償を実施するにあたっての注意点
休業補償を実施するにはいくつかの注意点があります。支給に制限がある場合、書類の作成、パートやアルバイトの場合などから説明しましょう。
支給制限の条件
休業補償の受給資格を持つ従業員が、刑務所や少年院などの施設に拘禁または収容されている場合、支給を制限されます。その日に労働できない理由が刑事施設にいるからであって、業務上のケガや病気のためではないからです。
また、故意に犯罪を起こそうとした際のケガや病気、死亡事故の場合には30%が減額されます。ほかにも、療養中に正当な理由がないのに医師の指示に従わず、傷病が悪化するなどで療養が長引いている場合、休業補償1件につき10日分の減額となるのです。
休業補償と有給休暇は重ねて受け取れない
有給休暇を取得して休んでいる場合、休業補償給付と有給休暇の賃金の二重取りになるため、休業補償はもらえません。給与の額を下げたくない場合、休業補償ではなく有給休暇を利用するのも一案でしょう。
休業補償は、休業特別支援金と合計しても給付基礎日額の80%までの補償ですが、有給休暇は企業から賃金が100%支給されます。両方を受け取ることはできませんが、どちらか選択する余地があるときのために、そういった手段もあると覚えておきましょう。
書類作成の手順
休業補償を実施する際、会社は、関係機関にさまざまな書類を提出します。その際、従業員にも記入や署名・捺印を求めますが、きちんとした手順を踏んでから行いましょう。丁寧に説明した上で、従業員の同意を得ることも重要となります。
たとえば、従業員が労災保険から受け取る給付金を、先に会社が従業員に立て替えて払う「受任者払い制度」を利用する場合です。
従業員が「お金を受け取っていないのに、書類を書かされた」と思うような事態になってはいけません。必ず立て替え払いを終えて従業員が納得した上で、委任状や届出書を用意しましょう。
アルバイト・パートの休業補償
休業補償は正社員だけでなく、契約社員・アルバイト・パートタイマーなどすべての従業員に適用されるものです。
企業には労働保険(労災保険、雇用保険)への加入が義務付けられており、正社員のみならず、労働時間が短いアルバイト・パートタイムなども加入させなければりません。また保険が給付される内容も、正社員と違いはないのです。
もし企業が労働保険に加入していなくても、従業員が労働基準監督署に労災申請をすれば給付金を受け取ることができますので覚えておきましょう。
アルバイト・パートの労災隠しに気を付けて
「一億総活躍社会」という名のもとに、高齢者や女性の労働参加が促進されている現在、アルバイト・パートタイムは重要な労働力です。
しかし近年、アルバイト・パートタイムを「安く便利な労働力」として、業務上のケガや病気をした際に、適切な休業補償の対応をせず、退職をせまる事例が多くなっています。
労災隠しを行った企業には罰金が科せられ、所轄の労働基準監督署への報告書の提出を怠ると厳重に罰せられます。企業はアルバイトやパートタイムに対して、適切な対応を心掛けなければなりません。
6.休業補償についてよくある質問
「もしも、業務や通勤によるケガや病気で働けなくなってしまったら……」休業補償を受給する機会がないことが一番ですが、万が一のために知っておきましょう。
- 休業補償の計算方法
- 1日だけでも休業補償をもらえるか
- パートでも休業補償をもらえるか
よくある質問について説明します。
①休業補償の計算方法を教えてください
休業1日につき、労働基準法の平均賃金に相当する給付基礎日額の80%(休業補償の60%+休業特別支給金の20%)が支給されます。給付基礎日額=直前3カ月の賃金の合計÷3カ月の暦日数で計算できます。
この賃金には、賞与など3カ月を超える期間ごとに支払われるものは含みません。所定労働時間の一部について労働した場合は、その日の給付基礎日額から、実働に対して支払われる賃金の額を控除した額の80%(60%+20%)に相当する額が支給されます。
②1日だけでも会社を休んだら休業補償をもらえる?
1日だけの休業では、労災保険からの休業補償はありません。休業初日から3日目までは待期期間となり、労災保険からは休業第4日目からの支給となるのです。しかし、初日から3日目まで何の補償も受けられないということではありません。
最初の3日間の待機期間中は、会社が休業補償を行う義務があり、会社は従業員に対して、給付基礎日額の60%を支払うことが労働基準法第76条で定められています。よって会社のほうから休業補償を受け取ることができるのです。
③パートでも休業補償をもらえる?
休業補償は正社員のみならず、労働時間が短いアルバイト・パートタイムなどすべての従業員に適用されます。
アルバイト・パートタイムでも勤務日数にかかわらず、休みの日も受給できます。会社は正社員だけでなく、労働時間が短いアルバイト・パートタイムなどの非正規雇用者も労働保険に加入させなければなりません。
業務や通勤が原因でケガや病気をした際の保険の給付内容も、正社員とアルバイト・パートとは同じものになっています。