PMIとはM&A後に行われる統合プロセスのこと。今回はPMIの基本的な意味とM&Aを行うときに注意すべきポイントについてご紹介します。
目次
1.PMIとは?
PMIとは、企業がM&Aを行う際、「初期段階で統合阻害要因などに対して事前検証を行う」「検証の結果をもとに統合後にそれを反映させて組織統合マネジメントを進める」ことで、「Post Merger Integration:ポスト・マージャー・インテグレーション」の略です。
PMIの重要なテーマは、企業文化の違いをどのようにマネジメントするか。M&Aによるシナジー効果の度合いはこのPMIをうまく行うかどうかにかかっているといわれています。
2.PMIの重要性
PMIのプロセスでは、「買収後のシナジー効果」「企業文化の違い」「経営統合後のマネジメント」に意識を向けておく必要があります。統合相手の企業価値や組織の体質をよく見極めておかなければ、経営統合後に思いがけない不安要素を抱えてしまうことも。
PMIの準備と進め方によってその後の効果は大きく変わるのです。ここからは、PMIの重要性やポイントについて解説します。
買収後のシナジー効果
M&Aを行う目的は、売り手企業と買い手企業がうまく相乗効果を出し、経営統合を行う前以上の利益を計上して、継続的な企業価値の向上を生み出していくこと。そのためにも、統合作業前から短期、中長期的なビジョンをしっかり持っておくのです。
このポイントを十分に理解し、PMIを実施しなければM&A前より企業価値が高まらない恐れがあります。M&Aにより十分な相乗効果を出したい場合、適切なPMIの実施が欠かせません。
企業文化の違いに対応
M&Aでは、2つの組織を1つにまとめる過程を経るため、それぞれの企業文化の違いに配慮します。異なる企業文化や風土の中で育成された人材が交わると摩擦が生じるのは当然のこと。
人事評価制度の仕組みや社員同士の意識の違いなどが影響して、経営統合がうまく進まないケースもあるので注意しなければなりません。
このような事態を回避するためには、M&Aを行う前に相手企業の情報などを査定・評価する段階から、PMIを想定した準備をしておくのです。
統合後のマネジメント
M&Aは経営統合をして終わりではなく、その後に企業価値を生み出してこそ、本来の目的を達成したといえます。企業価値を生み出すポイントは、売り手企業と買い手企業双方のギャップをクリアすること。
売り手企業と買い手企業のマネジメントが同等である場合、レベルの低い経営が行われる可能性が高いので注意です。逆にマネジメントに差がある場合、優れたほうの経営が導入される傾向が強いため、公正な人材登用が行われ、シナジー効果も期待できるでしょう。
3.M&Aの難しさ
M&Aによって2つの組織が統合すると、いろいろな面でリスクを抱えたり新たな問題が発生してしまったりします。経営統合を問題なく進めるためにも、M&Aを行う前に想定される問題に対して、きちんと対処法を探っておかなくてはなりません。
適切な対処をしなければ、想定していたシナジー効果が得られないだけでなく、M&Aが破談になり莫大な損失が発生するケースもあるのです。ここでは、M&Aの際に起こりがちな3つの問題を解説します。
- 合意プロセスばかりに注目しがち
- 統合直後の混乱
- 従業員の不安・反感
①合意プロセスばかりに注目しがち
M&Aの場合、相手企業と合意する点ばかりに意識が向きがちですが、無理に合意を急ごうとすると、かえって社内に混乱を招いてしまいます。また、その後の統合作業に失敗し、M&Aで期待していた効果が発揮できないだけでなく、M&A自体が破談になる場合も。
そのため、PMIの重要性を正しく理解しながら経営統合を考えていくことが重要となるのです。不十分なPMIによってM&Aで想定していたシナジー効果を得られないケースはよくあること。それほどPMIはM&Aの結果に影響するプロセスといえるのです。
②統合直後の混乱
経営統合を行う際には、2つの組織が1つになるという過程を経るため、経営上の混乱を招きやすくなります。統合準備に不備があれば、システム障害や業務上のミスだけではなく、企業としての信用が低下し、顧客離れ・業績悪化などの問題が怒りかねません。
特に注意すべき点は、現在の顧客に対して混乱を与えること。従業員や労働環境など企業内部だけに目を向けると顧客や取引先に迷惑を掛けてしまいます。M&Aによる内部・外部双方への影響を鑑み、どの部分から統合に取り組むべきか、慎重な判断が必要です。
③従業員の不安・反感
経営統合の手順に不備があると、優秀な従業員のモチベーションが下がり、不安・反感を招く場合も。それをそのまま放置してしまうと、従業員が離職し、職場がさらに混乱してしまう可能性も高いです。
従業員に対しても手厚いフォローを心掛けましょう。従業員へのフォローは、顧客や取引先へのフォローと比較すると優先度が低くなりがちです。しかしできるだけ意識して、3カ月程度で具体的な施策を実施しましょう。
4.M&Aの失敗例
M&Aが失敗する要因として、「簿外債務の存在」「不誠実な交渉」「契約書・価格設定の曖昧さ」「見通しの甘さ」などが挙げられます。中小企業であれば、M&Aは経営者が一生に一度経験するかしないか程度のものです。
従って、リスクを承知の上でM&Aに踏み切るケースも少なくありません。では、上記に挙げたM&Aが失敗する4つの要因を解説します。
- 簿外債務の存在
- 不誠実な交渉
- 契約書・価額設定の曖昧さ
- 見通しの甘さ
①簿外債務の存在
貸借対照表上に記載されていない簿外債務がある場合、リスク管理やマネジメントの拙さが露見し、企業や経営者の信用が大きく失墜してしまいます。
また、簿外債務の存在は相手企業に対して誠実ではありません。「知っていたけど隠した」という簿外債務は論外です。金銭管理は経営に影響を及ぼすだけでなく、「経営がうまくいっていない理由は経理の未熟さにあるのでは?」と思われる可能性もあります。
健全な経営をアピールするためにも、M&Aを行う前に簿外債務などをしっかりと洗い出し、適切な経理処理を行いましょう。
②不誠実な交渉
M&Aは企業間のやりとりではあるものの、結局は経営陣同士の交渉となるため、相手企業の意思を尊重する姿勢が重要です。経営者の意思を軽んじる発言や対応をしてしまった場合、言葉ひとつで破談となってしまいます。
特に買い手企業のほうが売り手企業よりも経営規模が大きいため、図らずも不用意な発言をしてしまうことも。反対に、売り手企業も過度な要望を出せば破談を招いてしまうでしょう。
M&Aを行う上では利益追求を重視すべきですが、不誠実な交渉をした結果、M&A自体が破談とならないよう細心の注意が必要です。
③契約書・価額設定の曖昧さ
M&A自体が初めてという経営者も少なくないため、契約書の作成方法や買収・売却価格の設定に対して知識が不足している場合も珍しくありません。
M&Aの契約書は単なる株式の売買契約とは異なります。どのように経営権を譲渡するか、経営の引き継ぎはどのようにするか、問題が発生した場合の処理方法など、さまざまな事柄に対して詳細を決める必要があるのです。
契約額についても話が平行線にならないために根拠が必要でしょう。ただ相手企業の言いなりになるのではなく、専門家のチェックを受けるなどして適正な契約を結ぶことを心掛けましょう。
④見通しの甘さ
どれだけ優良企業同士のM&Aでも、実際に得られる恩恵はやってみないと分からない部分が多いです。
実際に経営統合を行ってみると、思ったほどの相乗効果を得られなかったり、社内が混乱したりといった想定外の出来事も起こりますが、完璧さを求めすぎないことも重要となります。
完璧にしようとするあまり、M&Aの際のPMIに時間をかけすぎて本業にリソースを割けなくなる可能性も出てくるからです。
しかし、M&A後の手続きについてよく考えずに押し通した結果、失敗するケースが多いのも事実。M&A後に無用な混乱を避けるためにも、経営統合後のリスクについて把握しておきましょう。
5.PMIの具体的な手法
PMIはM&Aによる「経営統合」「業務統合」「意識統合」をスムーズに進めることを目的とします。そのため、PMIに取り組むには時間的制約がある中で、これらのうちどれから取りかかり、いつまでに統合するかを決定する必要があるのです。
また、PMIを成功に導くには、「トップダウン型の基本方針の提示」「統合準備室を中心とした体制の整備」「マスタープランの作成と運用」が重要になります。ここからは、PMIの具体的な手法について解説しましょう。
経営体制・組織の統合
経営統合後の経営の在り方や組織再編について検討します。意思決定機関の在り方や意思決定プロセスと伝達方法や人員配置、情報伝達の仕組みなどが検討されなければなりません。
思いやり人事やたすき掛け人事を行うのではなく、買い手企業と売り手企業双方において、可能な限り多くの従業員が賛同できる体制や組織を構築するという難しい意思決定です。
ここで重要となるのは、買い手企業と売り手企業が最大限のシナジー効果を発揮し、経営統合を行う前以上の利益を計上して、継続的な企業価値の向上を生み出していくというM&Aの目的でしょう。
制度面の統合
人事・総務・法務などの事務的な部分での統合が必要です。人事評価制度や報酬の仕組み、退職金制度などは経営統合後に格差を生み出さないためにも、人件費の負担増と従業員のモチベーションを考えて検討しなければなりません。
また、M&Aによって変化した環境に柔軟に対応できる人材を育成する研修制度を構築しましょう。さらに、外部に向けた財務会計、企業内の経営状態を把握する管理会計の統合も必要です。
財務会計・管理会計の統合によって、グループ内の取引を把握し、財務の改善や取引の見直しを推進します。
業務システムの統合
販売や調達といったシステムの統合や管理部門の統合を検討します。ITにまつわるシステムの統合には多額の費用が必要になるため、導入時期を慎重に判断します。どのような順番で、どのように導入していくかを協議しなければなりません。
業務への影響を鑑み、発生するコストと得られる効果を比較して、統合時期や範囲を決定するのです。できるだけ早くITシステムを導入すると、従業員の生産性は向上し、企業利益にへとつながります。
またM&Aにより新たな業務が発生した場合、新しいシステムの検討も必要です。
事業や取引先の精査
事業を統合するシナジー効果が大きいものと小さいもので、選択と集中を行います。現状の業務を継続する計画や、両社における仕入れ先や資材などの分析、得られたデータに基づく事業展開の立案、担当業務の割り当て、新規部門の創設などを実行するのです。
製品やサービスで重複する部分を統廃合したり、スケールメリットを追求したりすることも必要でしょう。
また、企業にはそれぞれ取引先がありますが、M&Aを行う企業が同業だった場合、共通して購入しているものを1つにするなど、見直しも必要となります。このように事業面の統合は、シナジー効果の獲得に直結するPMIといえるでしょう。
業績評価制度の見直し
経営統合の効果が当初の計画通りに現れているのかを検証するために、測定・分析できる仕組みを整えます。KPIの設定やマネジメントサイクルを導入し、定期的なモニタリングを通してPDCAサイクルを回していくことが重要となるのです。
KPIをどのように設定するかは、業種や事業の内容、職種などによって変わりす。また、マネジメントサイクルを導入し、高めると、さらなる利益を生み出せるでしょう。
M&Aによって、いかに効率よく成果が出せているかを繰り返しチェックし、精度を高めることで、目標達成率は高まります。
期限を決めて実行する
PMIを厳密に実施しようとすると膨大な時間を要するため、経営統合のタイミングを見失ってしまう恐れも。そこで、どれくらいの期間で実施するのかを決めて、優先順位の高いものから取り組んでいく必要があるのです。
PMIを実施していく中で想定外の出来事が発生した際は、柔軟に対応しましょう。また、PMIが長期にわたる場合、運用状況を考慮した上で、随時見直す必要もあります。
M&Aを繰り返し行っている企業は特に、個々の案件のシナジー効果を十分に検証し、次のM&Aに活かすよう努めましょう。