年末調整とは、1年間に支払った所得税の過不足を調整する作業のことです。ここでは必要な理由や確定申告との違いなどさまざまな点から、年末調整について解説します。
1.年末調整とは?
年末調整とは、所得税の過不足を調整する作業のこと。
「社員が納付するべき1年間の所得税」と「月々の給与、賞与から控除した所得税額」を比べ、本来納付するべき所得税額になるよう、追加徴収・還付で調整します。実際の作業は、下記のとおりです。
- 社員の1年間の所得を、年末に確定させる
- 確定した所得から、所得税を算定する
- 源泉徴収で納付した所得税額との差額を、12月(または翌年の1月分)の給与で調整する
2.年末調整が必要な理由
年末調整が必要な理由は、「社員の納税作業」「税務署の徴税作業」の負担軽減です。申告納税にかかる作業負担の軽減を目的として、年末調整が行われるようになりました。
3つの書類を回収
年末調整は、以下3点の書類を社員から回収します。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
扶養家族に関する異動を申告するための書類です。用紙では、下記のような各控除が確認できます。
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- 勤労学生控除
給与所得者の保険料控除申告書
納税者本人が支払っている下記のような各種保険について記載する書類です。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除(国民年金や国民健康保険料など)
- 小規模企業共済等掛金控除
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
基礎控除や配偶者(特別)控除、所得調整控除の申告に用いる書類です。これら申告書は国税庁ホームページよりダウンロードできます。
マイナンバー記載が必須
年末調整で必要な書類のなかでマイナンバーの記載が必須なものは、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書です。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書には、給与所得者本人や控除対象配偶者、控除対象扶養親族等に関するマイナンバーを記載しなければなりません。ただしすでに給与支払者がマイナンバーを記載した帳簿を備えている場合、記載を省略できます。
確定申告との違い
年末調整と確定申告との違いは、手続きを行う主体です。
- 年末調整は、企業が主体となって行う
- 確定申告は、社員が自ら申告する
「年末調整にかかる要件がそろっていない」「医療費控除など年末調整の対象とならない控除を受ける」「給与以外の所得がある」などの場合、社員自ら確定申告して所得税額を申告・納付します。
3.年末調整の時期
年末調整は、11月中旬~下旬に多く行われます。
本人が「確定申告」をする場合の時期
本人が確定申告をする場合の時期は、翌年2月16日〜3月15日。社員が給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を会社に提出しなかった場合、会社が年末調整を行う必要はありません。
会社は社員が自身で確定申告をする必要があるとわかった場合、当該社員にその旨を通達します。
4.年末調整の対象者
年末調整の対象者は、年末調整を行う日までに「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している一定の人です。
パート・アルバイト含むすべての社員
年末調整の対象者は、正社員や契約社員、パートタイマーやアルバイトなどすべての社員です。
ただし会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していても、給与所得が2,000万円を超える社員は年末調整の対象になりません。該当する社員は、自分で期限内に確定申告をする必要があります。
条件に該当する人
年の途中で年末調整を行う場合の対象者は、下記のとおりです。
- 海外支店等への転勤で非居住者となった人
- 死亡により退職した人
- 一部例外を除き、著しい心身の障がいのため退職した人
- 12月に支給される給与等の支払を受けた後、退職した人
- 退職したパートタイマーで、かつ本年度中の給与総額が103万円以下である人
5.年末調整の流れ
年末調整には流れがあります。下記3つの時期に分け、作業の流れを解説します。
- 11月中旬
- 11月下旬〜12月
- 翌年の1月31日まで
①11月中旬:社員による申告
社員が企業に対し、必要書類の提出による申告を行います。申告する際に必要となる書類は、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書です。
保険料や確定拠出年金といった掛金に関する控除を受ける人のみが提出すべき書類として、「給与所得者の保険料控除申告書」「控除証明書類」があります。
②11月下旬〜12月:計算
社員一人ひとりの、所得や税額控除額を計算し、最終的に納付すべき年税額を決定します。
税額決定の際、未払い給与や現物給与、年途中で再就職した人や前年の年末調整による過不足額などについて別途取扱いが定められているのです。計算の際は、詳細について確認が必要となります。
③翌年の1月31日までに必要書類を提出
年末調整で納付すべき所得税額を計算したら、当該所得税額を源泉徴収票や法定調書合計表、報酬・料金・契約金および賞金の支払調書や給与支払報告書といった書類の所定の欄に記載します。
そして翌年の1月31日までに所定の書類を、税務署ならびに市区町村へ提出するのです。書類の提出期限を厳守するため、確実な所得税の計算が求められます。
源泉徴収票
「社員に対する給与の支払金額」「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」「社員の給与から源泉徴収税額(控除額)」などが記載されている書類のこと。
社員に配布し、一定条件を満たした場合、税務署に提出します。確定申告時だけでなく転職時や住宅ローンを組むときなどにも提出が求められる書類です。
法定調書合計表
「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」のこと。法定調書合計表には、下記のような各種法定調書が種類ごとにまとめられています。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票
- 報酬・料金・契約金および賞金の支払調書
- 不動産の使用料等の支払調書
- 不動産の譲受けの対価の支払調書
- 不動産の売買、または貸付あっせん手数料の支払調書
報酬・料金・契約金および賞金の支払調書
弁護士や税理士に支払う顧問料などの報酬や外交員・集金人への報酬、講演料や社会保険診療報酬支払基金の診療報酬といった、報酬や料金、契約金や賞金の支払いについて記載する法定調書です。
「給与所得の源泉徴収等の法定調書合計表」に添付して税務署に提出します。
給与支払報告書
個人別明細表と総括表から構成されています。
- 個人別明細書:氏名のほか給与額や保険料控除額が記載されており、住民税と国民健康保険の計算を用途として市区町村に提出する書類
- 総括表:個人別明細表の表紙としての役割を持ち、個人別明細書を提出した人数が記載されている書類
6.年末調整を計算する流れ
年末調整計算には流れがあります。ステップごとにポイントを解説しましょう。
給与支給額は、会社が社員に支払った1月~12月までの1年間の給与支給額から年間収入額を導き出すので。ここでいう給与支給額には社会保険料・源泉徴収した所得税額も合算するため、覚えておきましょう。
- 給与等の収入金額が162万5,000円までの場合、給与所得控除額は55万円
- 給与等の収入金額が162万5,001円から180万円までの場合、給与所得控除額は収入金額×40%-10万円
所得控除額には、「社員の置かれている状況に応じ考慮される人的控除」「保険料や掛け金などの支払いを考慮した物的控除(生命保険料控除や小規模企業共済等掛金控除などのこと)」があります。
- 課税される所得金額が1,000円から194万9,000円までは税率5%、控除額0円
- 課税される所得金額が195万円から329万9,000円までは税率10%、控除額9万7,500円
など計7段階の区分が設けられています。
- 年調所得税額に復興特別所得税の102.1%を乗じた源泉徴収税額
- 年調所得税額×102.1%で求めた年調年税額
を比較します。その結果、源泉徴収税額より年調年税額が少ない場合は超過分を還付し、源泉徴収税額より年調年税額が多い場合は不足分を追加徴収するのです。
7.年末調整で適用される控除
年末調整で適用される控除には、10種類あります。それぞれの控除項目について解説しましょう。
- 基礎控除
- 配偶者控除
- 生命保険控除
- 扶養控除
- 社会保険料控除
- 地震保険料控除
- 障がい者控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- ひとり親控除・寡婦控除
- 勤労学生控除
①基礎控除
すべての人が受けられる控除で、「給与所得者の基礎控除申告書」を提出します。基礎控除額は、「所得2,400万円以下の場合、控除額は48万円」「所得2,400万円超2,450万円以下の場合、32万円」などと定められているのです。
基礎控除申告書とは?【提出しないとどうなる】書き方、計算
基礎控除申告書とは、年末調整にて基礎控除を適用させる書類のこと。基礎控除申告書の定義や提出しない場合はどうなるか、書き方、注意点、関連書類を解説します。
1.基礎控除申告書とは?
基礎控除申告書とは...
②配偶者控除
所得税法上の控除対象配偶者がいる際に受けられる控除のこと。ただし「民法の規定による配偶者である」「納税者と生計を一にしている」など、4点ある要件のすべてを満たした場合に限られます。
③生命保険控除
一般生命保険料控除や介護医療保険料控除、個人年金保険料控除のこと。払い込んだ保険料に応じて所得から一定金額が控除されるため、所得税額や住民税額を軽減できます。
④扶養控除
16歳以上の子どもや親、親族を養っている場合に受けられる控除のこと。離れて暮らす両親に生活費を援助している場合も控除対象です。ただし子どもに一定の収入がある場合、扶養控除対象から外れます。
⑤社会保険料控除
社員ならびに社員と生計を一にする配偶者やそのほか親族が支払った保険料を対象とする所得控除のこと。控除金額は、保険料として支払った金額もしくは給与や公的年金から差し引かれた全額です。
⑥地震保険料控除
特定の損害保険契約の地震等損害部分に対して、保険料や掛金を支払った場合に受けられる所得控除のこと。控除額は下記のとおりです。
- 支払った保険料額が5万円以下の場合、支払金額の全額
- 支払った保険料額が5万円超の場合、一律5万円
⑦障がい者控除
社員や社員と生計を一にする配偶者、社員の扶養親族が所得税法上の障がい者に該当する場合、受けられる所得控除のこと。扶養控除の適用外となった16歳未満の扶養親族を有する場合でも適用されます。
⑧小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済法に規定された共済契約にもとづく、掛金の支払い金額に応じて受けられる所得控除のこと。対象となる掛金には別途要件が定められています。控除額は、その年に支払った掛金の全額です。
⑨ひとり親控除・寡婦控除
「ひとり親として子どもを育てている」「配偶者と死別して再婚していない」場合に受けられる所得控除のこと。ただしひとり親として認められるには別途要件があります。寡婦控除額は、合計所得金額が500万円以下であれば令和2年分からは一律27万円です。
⑩勤労学生控除
納税者が勤労学生である場合にうけられる所得控除のこと。その年における12月31日の現況で、「給与所得といった勤労による所得がある」「合計所得金額が75万円以下で、勤労にもとづく所得以外の所得が10万円以下である」などの要件があります。
8.年末調整についての注意点
年末調整についての注意点があります。適正に年末調整を行うためにも、覚えておきましょう。
- 年末調整を行わなかった企業へのペナルティ
- 年末調整の期間に離職した社員がいる場合
- 年末調整関連の書類保存期間
①年末調整を行わなかった企業へのペナルティ
年末調整を行わなかった企業には、以下のペナルティがあります。
- 年末調整をせず、所得税を徴収しなかった場合、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金
- 年末調整を行ったが納付しなかった場合、10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金
②年末調整の期間に離職した社員がいる場合
年末調整の期間に離職した社員がいる場合、当該社員が12月時点で在籍していなければ年末調整を行う必要がありません。中途退職した社員に対しては、退職してから1カ月以内に源泉徴収票を交付しなければならないとされています。
③年末調整関連の書類保存期間
年末調整関連の書類保存期間は、年末調整をした年の翌年1月10日の翌日から7年間。もし税務調査で税務署から年末調整の書類提出を請求された場合、速やかに提出できるようにしておく必要があります。
保存する書類
7年間の保存が義務づけられている書類は、以下のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書・退職所得の受給に関する申告書
- 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書