ハンズオンとはM&Aや投資を行う際に、その後のマネジメントにどの程度関与するのかを表す言葉のこと。ここではハンズオンのメリット・デメリット、事例について見ていきましょう。
目次
1.ハンズオンとは?
ハンズオンとは、M&Aや投資を行う際、その後のマネジメントにどの程度関与するかを示す言葉のこと。社外取締役などに経営を深く関与させるものは「ハンズオン」、買収先・投資先の経営陣に一任させるものは「ハンズオフ」と呼ばれています。
ハンズオンは変革がスピーディーになるというメリットを持つ反面、対立が早期に顕著化する傾向にあるのです。よって明確な方向性を定める際は、企業での行動規準を確立するとよいでしょう。
また買収された企業に変革を許容するよう促すとともに、人材を入れ替えることも必要になります。
2.ハンズオンの特徴とメリット・デメリット
M&Aや投資を行う際において、耳にすることが多いのがハンズオンという言葉です。このハンズオンについて深く理解するためには、まず基本的な特徴やメリット・デメリットについて押さえておく必要があります。
ハンズオンの特徴
ハンズオンには変革がスピーディーになるメリットを持つ一方で、役員や社員間の対立が生まれやすいと考えられています。
そのためM&Aや投資を行う際は、明確な目標を定めたり企業内での行動規準を確立したりといったことが必要になるのです。さらに買収された企業に変革を許容するよう促すとともに、人材の入れ替えを早めに進めなくてはなりません。
また、破綻した企業を買収し投資を回収する再生ファンドに、ハンズオンを用いるケースが目立ちます。
ハンズオンのメリット
出資者は、投資先企業の経営をよりスピーディーに変革できるのです。特に投資先企業の経営状況が悪化している場合、早期の体質改善によって事業育成や再生が早く進みます。
より早く利益を創出し、投資の回収を狙う再生ファンドでは、このメリットを見据えてハンズオンを用いるケースが多いです。
ハンズオンのデメリット
しかし、買収先の社員との間で対立が起こりやすくなります。買収された企業の場合、出資企業より送り込まれてきた経営責任者と自社の社員との間で、経営に対しての見解の相違が生じがちです。
たとえば、新しい経営責任者が事業の専門分野に精通していなかったり代替案を提案しなかったりする場合、スピーディーな変革が実現できない場合も。
対立を防ぐためにも、買収先に対して明確な目標を提示して、改善方針に対する理解を得られるよう進めましょう。
3.ハンズオンを成功に導くための5つのポイント
ハンズオンを成功に導くには、然るべきポイントを押さえる必要があります。下記5つのポイントを見ていきましょう。
- 明確なゴールを設定する
- ビジネスパートナーとして事業に参画する
- コミュニケーションを円滑にする
- 期限を定めて組織改革に取り組む
- ハンズオンが最適な手段かを考える
①明確なゴールを設定する
目標が不明瞭なままだと事業の変革や再生を円滑に行えず、また投資先の経営責任者と社員との間に無用な対立を招いてしまう可能性も高くなってしまいます。
一任された経営責任者は、明確な目標を設定して、改善方針をしっかりと浸透させましょう。
②ビジネスパートナーとして事業に参画する
投資先として相手企業の経営陣と関わっていく際、ビジネスパートナーとして事業に関わっていくスタンスが必要です。出資を受ける企業は、新規事業の開拓や販路の確立、事業再生などさまざまな経営課題を抱えている場合も多いもの。
経営責任者が、ビジネスパートナーとして良き相談相手という立場になると、経営課題の解決だけでなく、投資先企業からの信頼も得やすくなるでしょう。
③コミュニケーションを円滑にする
ハンズオンを行う場合、買収先企業・投資先企業の経営に直接関わるため、摩擦が生じやすくなります。お互いに不信感が芽生えてしまっては、どんなに優れたプランでも実効性が薄くなりますし、次から次に問題が生じてしまう場合も。
できるだけ早期の段階で経営を改善するためにも、経営陣とのコミュニケーションをきめ細かで丁寧なものにしていきましょう。
④期限を定めて組織改革に取り組む
買収先企業・投資先企業と事業分野に対する見識を明確にした上で、目標達成の期限をきちんと決めておきましょう。それにより、ハンズオンのスピーディーを活用できるようになります。
また、「買収先企業・投資先企業の経営状況を把握」「柔軟に対応する」というスタンスを持っておくとよりスムーズです。
⑤ハンズオンが最適な手段かを考える
ハンズオンは出資者が直接的に経営に参画する手法ですが、出資者の経営が、買収先企業・投資先企業に最適な手段だとは限りません。
直接的に経営に関わる必要がない場合、ハンズオフの選択が最も効率的といえるでしょう。しかし、自社の事業と買収先企業・投資先企業の事業を直ちに統合する必要がない場合、ハンズオフが最適なのか、一度検討したほうがよいかもしれません。
4.国の制度を活用してみるのもひとつの方法
企業経営に関する悩みに対して、国の制度を活用するという方法もあります。一体どんな制度があるのでしょうか。中小機構が行っている「ハンズオン支援(専門家派遣)」の制度を詳しく紹介しましょう。
中小機構が行っているハンズオン支援
ハンズオン支援(専門家派遣)とは、経営課題を抱える中小企業などを対象に経験豊富な専門家を派遣し、さまざまな経営アドバイスを提供すること。
目的は中小企業が主体的に課題解決に取り組むことで、支援が終わった後も持続可能な体制作りをサポートしてくれるのです。
専門家には中小企業診断士や公認会計士、大企業で経営幹部を務めた人や工場長・部門責任者など、実務経験の豊富な人材が在籍しています。
ハンズオン支援の流れ
ハンズオン支援を受けたい場合は、中小機構の各地域本部に電話で連絡しましょう。すると、経営者にヒアリングが行われ、企業が抱える事業課題と認識が共有されます。
そして専門家と中小機構職員による審査が行われ、その後に、経営課題の解決に向けた最適な支援計画や派遣アドバイザー候補の検討、さらに社内プロジェクトチーム編成などを行い、アドバイザーによる支援がスタートするのです。
支援が終わった後もフォローアップが実施されるので、安心できます。
ハンズオン支援の種類
ハンズオン支援には、下記4つのメニューがあります。
- さまざまな経営課題の解決に向けて、専門家を一定期間継続して派遣する「専門家継続派遣事業」
- IT導入や運用などに対してアドバイスを行う「戦略的CIO育成支援事業」
- 技術やマーケティングなどの課題を解決に導くためアドバイザーを派遣する「経営実務支援事業」
- 新商品や新サービスについて市場への手がかりを掴み、販路開拓力の向上を狙う「販路開拓コーディネート事業
5.ハンズオン支援の事例
ハンズオンについての知識や理解を深めるためにも、実際の企業におけるさまざまな事例から学んでみましょう。「新事業展開型」「経営基盤強化型」という2つの事例について解説します。
事例1:新事業展開型
工業用手袋メーカーの「ウインセス」は、塗る手袋をコンセプトとした「テアレスキュー」を開発したもののエンドユーザーとのコンタクトが得られませんでした。原因は新しいコンセプトの伝え方や新たな商流の構築不足と判断されたからです。
そこで、課題解決に向けて販路開拓などを活用。テストマーケティングによって、新製品展開ノウハウと販路開拓の構築を実現しました。これらは、中長期的な事業展開の大きな動力になると考えられています。
事例2:経営基盤強化型
業務用食品卸売業を手がける「アクト中食」は、長年、顧客の要望に応えてきたことが功を奏し、毎月40~50社から新規取引の要請を受けていました。しかし同社には、倉庫業務・トラック配送業務の負荷が増大するという一面があったのです。
「労働時間の短縮を目指しながら生産性向上」という経営課題は、中小機構の支援により、物流現場を分析して業務効率化を実現。さらに、全拠点における毎月の物流コストが管理できる仕組みも構築されたのです。