デリバラブルとは、人材マネジメント分野において、個人や組織が誰かの役に立つこと。一体どのような事柄なのか、人材マネジメントにおけるデリバラブルの捉え方や育成のポイントなどともに解説します。
目次
1.デリバラブルとは?
「デリバラブル(deliverable)」とは、「届ける(deliver)」と「できる(able)」を組み合わせた言葉で、「提供できる・もたらすことができる」といった意味です。
人材マネジメントの分野では、個人や組織が誰かの役に立つことを指し、また提供する価値そのものをデリバラブルと呼びます。提供価値や果たす役割の内容を意味するデリバラブルの視点は大変重要といえるでしょう。
2.デリバラブルの定義
デリバラブルの考え方を深く理解するためには、「ドゥアブルとの相違点を知る」「人事部における役割の4分類」についての把握も必要です。具体例を用いながら解説しましょう。
デリバラブルが持つ意味
デリバラブルの視点では、何をしているのかという行動ではなく、「どのように役立っているのか」といった見方を持つことが重要だと考えられています。
これまでの人材マネジメント分野(HRM)では、人材採用や人材育成などについて個別の活動を重視する傾向にありました。しかしデリバラブルでは、個々の活動よりも提供すべき価値がどのようなものかを重視します。
ドゥアブルとの違い
「ドゥアブル(doable)」とは、デリバラブルとは対極にある位置付けの概念で、「やろうと思えば実際にできること」を意味するものです。
仕事のあり方や存在意義について考える際、「何を行えるのか」に重きを置くのがドゥアブルで、「何をもたらすことができるか」という視点で考えるのがデリバラブル。仕事や組織のあり方を定義する新しい視点として、近年注目されている言葉です。
人事部の役割の4分類
人事部の役割は4つに分類されます。
- 人事制度に基づいて緻密に人材を管理する「管理エキスパート」
- 経営戦略達成に向けて人事・組織面からサポートをする「戦略パートナー」
- 従業員代表としてその声を経営に届けて従業員への支援を行う「従業員チャンピオン」
- 組織・風土改革を進める「変革エージェント」
これらは、著書『MBAの人材戦略』で知られるデイビッド・ウルリッチ教授が、戦略と成果を結びつけるHRMのあり方を考える目的のために提起したものです。
3.デリバラブルを身に付けるためのポイント
デリバラブルの考え方を身に付けるためには、社内研修などを通じて繰り返し学び続けることが必要です。ここでは、デリバラブルの思考を体得するポイントについて解説します。
仕事に対する自信を持ってもらう
企業が人材を育成する際のポイントとして重要なのは、「何ができるか」よりも「どのように役立てられるか」を念頭に置くこと。
従業員のモチベーション向上を視野に入れて育成し、従業員自身に仕事に対する自信を持たせると、長期的な人材の定着とスキルアップが可能となります。
コミュニケーションスキルを向上
報連相をしたり周囲から評価を受けたり「今、自分は何を求められているのか」などを知ったりするには、コミュニケーションスキルが欠かせません。
研修など座学でポイントを押さえながら、実践の場面を増やしていくと、コミュニケーションスキルはどんどん磨かれ、デリバラブルの考え方にも結び付いていくでしょう。
将来を見据えた人材の育成が重要
デリバラブルによる考え方は一朝一夕では身に付きにくいため、すでに管理職になった従業員を改めて教育するのは難しいとされています。そのため将来的に幹部候補になると想定される人材には、できるだけ早い段階から教育していくとよいでしょう。
その際、OJTや面談などを通じて、3年目、5年目、7年目に「どんな人材になっていたいか?」などを従業員に問います。そして、中長期的な理想像を目指した行動を促しましょう。
4.人材育成のための具体的な手順
人材育成は、継続して行う必要がある一方、注意点を見定めることも不可欠です。ここでは、人材育成を行う上で重要となるポイントを解説します。
人材育成の方向性を明確にしておく
人材育成は継続して行っていくものですので、育成内容に一貫性を持たせなくてはなりません。また、従業員のスキルアップや知識の体得は、企業業績の向上に結び付くもののが業務内容や立場によって求められる内容が異なります。
そこで、どういった従業員に何を学んでもらうのか、どのように学んでもらうのか、方向性を明確にしておきましょう。
スキルマップを作成する
スキルマップとは、従業員の年次や役職において身につけるべきスキルや能力、知識などを、時系列に一覧表でまとめたもので、作成する、体系的な教育制度が容易に構築できるため、人材育成が効率化します。
また経営者や現場責任者に随時ヒアリングを行うと、人材育成に求められる工程を練り上げられるようになるのです。年次・役職ごとに求められるスキルが明確になるため、今どの段階にいるかなど、人事評価でも活用できるでしょう。
さまざまな研修方法を用意する
スキルマップを作成した後は、明確となったスキルを習得するための育成方法を決定していきます。育成方法は、下記の通りです。
集合研修(内部講師)
業務の内容に紐づいた専門スキルの習得が可能です。一回の研修で多くの従業員を教育できるため、効率もよいでしょう。
集合研修(外部講師)
基本的なビジネス知識やスキルだけでなく、各ジャンルにおける専門家ならではの視点から、最先端の情報などを学べます。
OJT
教育対象に合わせてカスタマイズできるため、現場で求められる知識やスキルをムダなく提供できます。
eラーニング
場所や時間に関係なく学べるため、学ぶ側の負担が少ないといえます。またシステム上で一元管理できるため、成績の管理やコンテンツの入れ替えもスムーズです。
アフターフォローや人事評価に反映させる
人材育成を行う際は、教育だけでなく定期的なアフターフォローや能力の向上に伴う人事評価への反映も重要です。また従業員が掲げた目標の管理を評価制度や教育制度と結び付けると、企業の基盤強化がしやすくなります。
5.人材育成に積極的に取り組むメリット
人材育成に積極的に取り組むと、企業に多くの好影響がもたらされます。企業が人材育成をして得られる代表的なメリットは何か、詳しく解説しましょう。
生産性が向上する
昨今、さまざまな業界において人手不足が深刻な問題となっており、2030年には、約1千万人の労働力が不足すると予想されています。このような情勢で企業が成長するには、既存の従業員のスキルアップを通じた生産性の向上が欠かせません。
従業員の生産性は企業の生産性に結びつくもの。たとえば従業員一人の営業力が上がると販売促進につながり、将来的には企業業績の向上につながるのです。
従業員の自己実現やキャリア開発に結び付く
人材育成のプログラムが、従業員それぞれの成長や役職に見合った学習機会となった場合、各個人の自己実現やキャリア開発に役立つのです。
そのためには、従業員からのヒアリングが必要になるため、コストや時間がかかるでしょう。しかし適切にヒアリングし、それに応じた人材育成を行うと、各個人の自己実現やキャリア開発が進むだけでなく、従業員満足度も高まります。
人材が定着する
企業が多くの採用コストを費やして人材を確保しても、早期に退職してしまっては大きな損失となりますが、人材育成は定着率アップに役立つのです。
たとえば積極的に従業員が学べる機会や、業務向上のための知識やスキルを習得できる研修を提供すると、社内教育体制含めた従業員満足度が高まり、中長期的な人材の定着につながるのです。