デファクトスタンダードとは、事実上の標準のこと。ここではデファクトスタンダードのメリットや具体的な事例とポイントについて解説します。
1.デファクトスタンダードとは?
デファクトスタンダード(De Facto Standard)とは、事実上の標準を意味する言葉で、De Facto」はラテン語が語源となっています。
公的な標準化機関から認証を受けるのではなく、市場における競合他社との競争によって、業界標準として認められるようになった規格を指すのです。
またISOなどの公的な標準化機関で合議制により認証された規格は、デジュールスタンダード(De Jure Standard)と呼ばれる場合もあります。
2.デファクトスタンダードの特徴と対義語
事実上の標準を意味するデファクトスタンダードを深く理解するために、デファクトスタンダードの特徴や規格がどのようにして決められているのか、対義語などから説明しましょう。
デファクトスタンダードの特徴
一般的に新興市場であるほど、複数の規格が乱立しがちです。しかし、市場競争が繰り返される中で、最終的に1つの規格に基づいた製品が市場を占める流れになっていくという状況も多く見られます。
勝ち残ることができた規格は公的な認証を持っていなくとも、業界の標準として認められ、このような規格が「デファクトスタンダード」と呼ばれるのです。企業にとってデファクトスタンダードを得ることは、市場競争における勝利になります。
複数の企業が連携して規格を決める
デファクトスタンダードは、ずしも技術的に優位性のある規格が競争に勝つわけではありません。規格を取り入れるメーカーや消費者をいかに多く獲得するかが勝負のポイントになるとも考えられているのです。
また標準化機関による認証や市場競争の結果を待っていては、技術革新のスピードに十分に追いつけないという背景もあります。複数の企業が連携して統一的な企画を策定する傾向も近年では多く見られているのです。
デファクトスタンダードの対義語
デファクトスタンダードの対義語となるのが「デジュールスタンダード」です。「De Jure Standard」の「De Jure」とは「法律上の」という意味を持つラテン語が語源で公的機関や標準化機関によって、標準規格と認められたものを指します。
代表的なものが乾電池です。世界中のどこにいても同一規格品を安心して購入することができる乾電池は、デジュールスタンダードの典型といえるでしょう。
3.デファクトスタンダードの事例
デファクトスタンダードについて深く学ぶためにも、各製品の事例について把握しておきましょう。ここでは「Windows OS」「DVD・ブルーレイ」「USB端子」「キーボード配列」を取り上げて説明します。
事例1 Windows OS
パソコンのOSとして定着した「Windows OS」はデファクトスタンダードの代表格として知られています。1985年に発売された当初は、Windowsよりも1年早く登場していたMacのほうがクオリティが高いという評判でした。
しかし、結果的には世界的なシェアにおいてWindowsのほうが勝ったのです。また近年のビジネスシーンに欠かせない文書作成の「Word」や表計算の「Excel」もデファクトスタンダードといえます。
事例2 DVD・ブルーレイ
テレビ番組の録画をする際、VHS形式のビデオテープがデファクトスタンダードとして一斉を風靡しましたが、現在ではDVDやブルーレイがデファクトスタンダードとなっています。
これはDVDが高画質という特筆すべき魅力を持っていたために、VHSに取って代わったことになりましたが、近年ではそのDVDよりもさらに高画質で容量が大きいブルーレイが評価されてきています。
このようにデファクトスタンダードは時代の流れに伴って変化する傾向にあるのです。
事例3 USB端子
USB-A端子はパソコンやノートブック、スマートフォンなどでデファクトスタンダードでしたが、近年ではUSB-C端子がデファクトスタンダードになりつつあり、装備されているモデルも続々と登場しています。
パソコンやスマートフォンなどの進化がめまぐるしい現代、USB端子のデファクトスタンダードも刻一刻と変化するのではないでしょうか。
事例4 キーボード配列「QWERTY」
現在のキーボード配列は、最上段の文字列をとって「QWERTY配列」と呼ばれていますが、これはタイプライター時代から確立されていったものです。
この配列はアームで文字を打つというタイプライターのために開発されたものなので、パソコンが主流の現在において最適な配列とはいえません。しかし「QWERTY配列」が世界的に標準であるため、今なおデファクトスタンダードを確立し続けているのです。
4.デファクトスタンダードのメリット
業界標準として認められるようになった規格を意味する言葉、「デファクトスタンダード」ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体例とともに見ていきます。
市場の変化に左右されずに利益を上げられる
デファクトスタンダードを確立した商品を提供する企業は、市場の動向に左右されることなく利益を上げられます。なぜならばデファクトスタンダードとなった商品には安定した顧客が付き、さらにその商品に基づいた商品が開発されていくからです。
よって自社製品のデファクトスタンダード化を狙う企業は少なくありません。一方でデファクトスタンダードは市場の独占につながる懸念事項も考えられるため、市場へのアプローチには注意が必要です。
パテント料を得ることにもつながる
VHSとベータマックスによるビデオテープの規格争いに見られる通り、新技術が開発された際、企業は、自社が開発した技術がデファクトスタンダードになることを目標に進めます。
自社の技術がデファクトスタンダードとしての地位を確立し、市場の覇権を握るとパテント料が得られるのです。またプライスリーダーとなれるため、競合他社と争うことなく優位な立場でビジネスを展開できます。
複数の企業と連携して技術開発を進められる
デファクトスタンダードの獲得を目的に、複数の企業が連携する取り組みも多く見られます。優れた商品ならば必ず市場で標準化されるとは限りません。
ニーズが著しく多様化する現在、製造業者とメーカー、消費者を巻き込みながら、1つの商品がデファクトスタンダードへと成長していく傾向が目立ちます。市場のスピードに追いつくため、複数の企業が提携して技術開発を進めることは珍しくないのです。
5.デファクトスタンダードの注意点
デファクトスタンダードを考える上で、いくつかの注意点を意識する必要があります。ここでは、消費者にとってのデメリットや市場の独占によって被る批判などを見ていきましょう。
消費者にとってはデメリットになる場合も
新しい技術の黎明期には各社がデファクトスタンダードを目指し、競争を繰り広げますが、それが消費者にとってデメリットになってしまう場合もあります。たとえば、デジタルカメラが市場に出た際の小型大容量メモリーカードです。
当時はxDピクチャーカード、メモリースティック、コンパクトフラッシュ、SDメモリーカードなど、デジタルカメラのメーカーそれぞれが記録メディアを販売する傾向にありました。結果、消費者は、汎用性の低さから利便性を損なってしまったのです。
市場を独占することで批判を受けやすくなる
自社の商品やサービスがデファクトスタンダード化すると、市場の動向に左右されず利益を増やしたり競争を優位に進められたりします。その一方で、市場の独占につながってしまう恐れもあるのです。
いかに優れた商品やサービスでも、独占的な立場を得ると、他者排除など独占禁止法上の問題が生じたり、競合他社・消費者などから批判を受けやすい立場になったりする可能性があります。
自社の製品やサービスに生かせる部分がないかを探る
市場で優位な立場を確立し、大きな利益を見込めるデファクトスタンダードを狙うことはビジネスのアイデアを得るための大きなヒントになります。そのため企業は、市場動向や他の企業のヒット商品、新しい技術には常に意識を向けておくことが重要です。
どんな企業でも、新商品やサービスを開発したり発売したりする際は、少なからずデファクトスタンダードになることを意識したほうがよいでしょう。