小1の壁とは|発生原因、対策方法、政府の取り組みなどを解説

「子どもが小学生に上がったから仕事に集中できる」「時短勤務からフルタイムに戻ることができる」そう考えている人も多いのではないでしょうか。

しかし実際には「小1の壁」という言葉がある通り、仕事と子育ての両立がさらに大変になったと感じる人も少なくありません。ここでは「小1の壁」の実態や原因、政府の取り組みや対処法について見ていきます。

1.小1の壁とは?

小1の壁とは、子どもが小学校に上がると保育園時代に比べて、仕事と子育ての両立が困難になること

一般的に保育園には「延長保育」という制度があり、仕事の都合でどうしても朝早く出勤しなくてはいけない、交通事情などによってお迎えが間に合わない場合などに利用できるのです。

しかし小学生の子どもを預かる「学童保育」は保育園に比べて終了時間が早いところがほとんど。小学校入学を境に子どもを長時間預けることが難しくなり、結果として働く女性が働き方を変えざるを得ない問題のことを小1の壁と呼んでいるのです。

学童保育の整備が追い付かず、利用すらできない家庭も珍しくありません。学校に必要な備品の準備や家事・行事の増加なども小1の壁の原因のひとつとされています

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2.小1の壁の実態

小1の壁は一部のワーキングマザーの間だけで囁かれる問題なのでしょうか。

4人に1人が小1の壁を機に働き方を変えた

女性の活躍、ダイバーシティの推進で働き方の意識を変えるコンサルティングを提供する、スリール社が2018年に行ったアンケートによると、小1の壁を感じて働き方を考え直した経験のある人は35.4%にも上りました。

小1の壁が原因で実際に働き方を変えた人は24.4%、4人に1人の割合です。子どもが小学校に上がるタイミングで仕事と子育ての両立に不安を感じた人は90%以上。ほとんどのワーキングマザーが小1の壁に不安を感じているという結果になりました。

家庭と仕事の両立は難しい

同アンケートでは78.7%もの回答者が「実際に小学生になって仕事と子育ての両立が大変になった」と回答しています。

具体的な理由として挙げられたのは、「労働基準法上、子どもが就学すると正規で時短勤務ができなくなり契約社員になる」「保育園に比べて迎えの時間が早まった」「保護者会や個人面談、PTAや係などの役割が増えた」「先生とのコミュニケーションが減り子どもの様子が分からない。育児が孤独に感じる」などです。

アンケート回答者は42%が一般社員、26%が係長やリーダーです。役職や立場に関係なく多くの人が小1の壁にぶつかっています

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3.小1の壁の原因

女性の活躍が現場で進まない原因ともいわれる小1の壁。その具体的な原因を探ります。

準備や宿題

小学校に入学するとさまざまな学用品が必要になります。また、文房具や体操服、給食袋に手提げ袋、鍵盤ハーモニカに習字道具などに名前を付ける必要もあるのです。

学用品などは学校で販売されることもありますが、販売日が平日で都合がつかない場合学校指定のお店に出向いて購入しなくてはなりません。また中にはサイズの規格があり手作りで用意しなければならないものもあるのです。

学校に行けば当然宿題も出ますし、お弁当が必要な日もあります。このように、小学校に入学すると、親のやることが必然的に増えるのです。

連絡への不安

保育園時代は、分からないことがあれば直接保育園に尋ねることができました。持ち物は何か、いつ何のイベントがあるのか、今日子どもにどんなことがあったのか、といったことを連絡帳などを通して詳細に知ることができたのです。

しかし小学生になった途端、それらの連絡手段がなくなります。学校とのコミュニケーションは子どもが基本ですので、子ども自身が書く連絡ノートや子どもとの会話、子ども用に配られたプリントなどからしか状況をつかむことができなくなるのです。

学童保育

前述の通り、一般的に学童保育は保育園の延長保育に比べて迎えに行く時間が早くなります。大きくなれば同じ帰宅方向の仲間たちと集団下校させてくれることもありますが、低学年のうちは安全面を考慮して親が迎えに行くことも多いでしょう。

結果、会社の滞在時間は必然的に短くなります。繁忙期や急な仕事が舞い込んだ場合は迎えを誰かに頼むか、会社に相談して仕事を早く切り上げることも必要です。子どもに兄弟がいる場合は迎えの数が増えるため、負担はさらに増えます。

学校活動

小1の壁の大きな原因のひとつに、PTAや保護者会など学校活動の参加があります。

PTAはそれぞれ組織に分かれてさまざまな役員があり、もしPTA役員になれば仕事との時間調整を余儀なくされるのです。平日に休みを取ることも増えれば、仕事との両立が難しくなることは想像に難くありません。

そのほか小学校には、授業参観や面談などがありますが、行事の連絡が遅れることもあります。学校の決定がギリギリになったり子どもが連絡し忘れたりする状況も十分あり得るでしょう。

親の余裕がなくなってしまう

親は、準備や活動などのすべてを仕事と両立するため、余裕がなくなってイライラしやすくなるのです。

一般的に夏休みが最大の「小1の壁」といわれています。学校は夏休みでも親は変わらず仕事をするため、「約1カ月の長い夏休みを子どもにどう過ごさせるか」で頭を抱えてしまう親も多いとされているのです。

そして、親はこれらの問題を抱えるうちに仕事と子育ての両立が困難になってきてしまいます。そこで、小1の壁を機に退職や転職を考えてしまうことも珍しくありません。

「小1の壁」の原因はひとつではありません。またその問題に対する解決策も一律に当てはめられるものではないのです

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4.内閣府による小1の壁への取り組み

社会問題化している小1の壁問題。内閣府はこの問題に対してどのような対策を講じているのでしょうか。

放課後子ども総合プランと新・放課後子ども総合プラン

小1の壁を打破し次代を担う人材を育成するため、2014年7月に「放課後子ども総合プラン」が策定されました。これはすべての就学児童が放課後などを安心・安全に過ごすためのものです。

また2018年9月には2019年から2023年度の5年間を対象とする「新・放課後子ども総合プラン」が策定されています。

国の目標

「放課後子ども総合プラン」の目標は、2019年度末までに約30万人分の放課後児童クラブを追加整備すること。

その際、新たに開設する放課後児童クラブの8割を小学校内で行い、さらに約2万カ所の全小学校区で一体的にまたは連携して実施し、そのうち1万カ所以上を一体型で実施するということを目指しています。

小学校外の既存放課後児童クラブについては、ニーズに応じて余裕教室の活用を推進する方策です。

市町村や都道府県の体制や取り組み

国は市町村や都道府県ごとに放課後児童クラブおよび放課後子供教室の整備を進めていけるよう「行動計画策定指針」を作り、「放課後子ども総合プラン」に基づく取り組みを記載しました。

これには各市町村や都道府県によって平成31年度に達成されるべき目標事業量が記載されています。小学校余裕教室の活用について具体的な方策を記載したのも「行動計画策定指針」です。

市町村は「運営委員会」を、都道府県は「推進委員会」をそれぞれ設置し、教育委員会と福祉部局における連携の強化が求められました。

学校の活用

余っている教室や施設を放課後に活用できるように取り組みを進める必要もあります。近年、少子化に伴う児童生徒数の減少によって、全国の公立小、中学校で約6万5千室もの空き教室が生じたといわれているのです。

「余裕教室」と呼ばれるこの空間、放課後使われていない教室を活用して、放課後児童クラブと放課後子供教室の一体型を中心とした取り組みを推進したのが「放課後子ども総合プラン」。

すでに活用されている余裕教室を含めて、さらなる活用への検討が進められました。

放課後児童クラブなどの取り組み

一体型の放課後児童クラブおよび放課後子供教室は、共働き家庭の児童を含めたすべての児童が参加できるプログラムです。これには活動プログラムの企画段階からそれぞれの従業者、参画者が連携して取り組むことが重要とされています。

また学校外で放課後児童クラブなどを行う場合、事業を連携する連携型と一体型、それぞれから考えて取り組みを進める必要があるのです。すでに公民館や児童館などで実施している場合は、引き続きその施設で実施できます。

新・放課後子ども総合プランの目標

これらの取り組みを踏まえて2018年に策定されたのが「新・放課後子ども総合プラン」です。目標は、2021年度末までに約25万人分の放課後児童クラブを整備し、2023年度末までに計約30万人分の受け皿をつくること。

こちらも学校施設を徹底的に活用し、新たに開設する場合は8割が小学校内になるよう進めるといった目標もつくられました。

小1の壁の打破だけでなく待機児童を解消するためにも、放課後児童クラブの追加的な整備が不可欠となっています

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5.小1の壁の対応、対策、対処法

ここでは小1の壁に対して企業側ができる対策、働く人側ができる対策を見ていきます。

企業側で実施できる対策

企業側には制度の見直しや体制づくり、人材流出というリスクに対するマネジメントが求められます。

制度の見直しと活用

多様な働き方ができる社会を目指して定められた働き方改革によって短時間勤務やリモートワーク、サテライトオフィスなどに対するハードルが低くなりました。

しかしそれがどんな制度なのか、誰が利用できて誰ができないのか、そもそもそんな制度が自社にあるのかさえ周知されていない場合も。これでは貴重な人材の流出を免れることはできません。

さまざまなタイプの「柔軟に働ける制度」を見直し、働く人が活用しやすくなるよう制度の内容を周知することが事態改善への大きな一歩です。

就業時間の見直し

前述のスリールが実施したアンケートにて、「小1の壁を乗り切るために会社に行ってほしいこと」の第1位になったのは「就業時間の柔軟性」でした。

たとえば午前中に出社して通常業務、午後は帰宅して在宅勤務、始業・就業時間を繰り上げる(繰り下げる)、勤務時間中に職場を一度離れる中抜けを可能にする、時間単位で有給を取得できるようにする、といった取り組みです。

どの働き方がベストかは個人差があるため、可能な範囲で選択肢を増やしておくとよいでしょう。

コミュニケーションとコミュニティ

ここ数年で保育園に通う子どもを持つ親に対して、世間の理解は深まりました。しかしそれに比べると「小1の壁」はまだまだ理解が浅い状況です。

これから小1の壁を感じる人、すでに乗り越えた人などさまざまな人を集めたコミュニティを社内に形成することも有効でしょう。

今は、育児だけでなく介護や自身の体調などさまざまな事情を抱えながら働く人が増えています。これらをプライベートな問題として片付けず、不安を吐露したりアドバイスをもらえたりする場をつくることで、社内の雰囲気が大きく変わるのではないでしょうか。

トップマネジメントの理解

小1の壁に直面する30代から40代は、仕事で最も脂の乗る時期です。しかし慢性的な人手不足と売り手市場により、人材は次々と働きやすい会社へ移っています。

小1の壁の実態と悩みを上層部が理解すれば、貴重な人材の流出を防げるでしょう。就業時間の不便さや休みの取りづらさは、子どもの年齢にかかわらず主な離職理由となっているからです。

全社一体で小1の壁への理解と改善を進めることが、これからの時代で競争優位性を保つ道となるでしょう。

上長からの声掛け

前述したトップマネジメントの理解にもかかってきますが、直属の上司に理解があるかないかでも大きく変わりきます。具体的なアドバイスの必要性はありませんし、「小1の壁」を経験している必要もありません。

些細なことで構わないので直接声掛けを行ってみましょう。それだけで、いざというときに部下は相談しやすくなるのです。

周囲に理解者がいるということはそれだけで非常に心強いもの。子育て社員のキャリアアップや成長には人事部やマネジメント層による継続的なサポートは、必要不可欠でしょう。

働く人側で実施できる対策

働く人側ができる対策は、子どもに対して適度な距離感でコミュニケーションを取るということです。

子どもを信じてある程度任せる

親が思っている以上に子どもはたくましく成長します。子どもは大人が思っている以上に順応性が高いのです。「子どもはできないもの」と思い込みすぎず、ある程度は子どもを信じて任せてみるとよいでしょう。

勉強や交友関係についても見守ることは大切です。しかし実際、行動するのは親ではなく子ども自身。フォローしすぎないことで子どもは自分で考えるようになります。本人の責任感が育つよう促していくことで、子ども自身の自立心が育っていくのです。

できるだけフォロー

初めのうちは不安なことも多いでしょう。忘れ物をせずに帰ってこられるだろうか、きちんと留守番できるだろうか、宿題に取り組んでくれるだろうか、など親の悩みは尽きません。

もちろんフォローは大切です。しかしやりすぎれば子ども自身の成長を妨げてしまう場合も。それに、四六時中何から何までフォローしていては親の負担が増えてしまいます。

ここは思い切って「できる限り」のフォローにとどめましょう。大切なのは子どもが困ったときに親を頼ってよいと思える適度な距離感と安心感を常に与えることです。

可能な限り制度を活用する

前述した企業側でできる対策にかかってきますが、社内に制定されているさまざまな働き方の制度を活用することも有効です。

たとえばフレックスタイム制度や在宅勤務を利用すれば、朝の通学をフォローできます。学校によって異なりますが、多くの小学校では朝7時45分から8時20分の間が。フレックスタイム制度を利用して出社時間を10時にすれば、子どもを見送った後出社できます。

短時間勤務やリモートワーク、サテライトオフィスなどさまざまな制度を活用して、両立できるように努めてみましょう。

両立の不安を共有

小1の壁にはこの対策をすれば万全、といった明確な答えはありません。制度を活用し子どものフォローを行っても不安は尽きないもの。

仕事と子育ての両立に対する不安を誰かと共有し、一人で抱え込まないようにすることも重要です。それは家庭内でも会社内でも構いません。理解者が一人でもいるということは非常に心強いものです。

同じように小1の壁に直面している人と支え合うことで、お互いに助け合えるかもしれません。

上長に相談する

上長などに家庭の現状を伝えておくことも効果的です。相手が小1の壁を体験したことがなくても、それまで本人が知らなかった会社の制度を知るきっかけになるかもしれません。

また必要に応じて仕事量や業務内容を調整してもらうことも視野に入れましょう。社内に同じ立場の人や小1の壁を乗り越えた人がいればその人との接点を設けてくれることも。プライベートな事情だからと遠慮せず、まずは一度上長に相談してみるとよいでしょう。

小1の壁では「これをすれば間違いない」といった答えはありません。「人口減少社会の経営戦略」という企業全体での取り組みが重要となるでしょう