縁故採用は、紹介者からの推薦によって採用する方法です。以前はネガティブなイメージを持たれる場合もありました。しかし近年、効率的な採用方法として見直されています。
目次
1.縁故採用とは?
縁故採用とは、求職者を知人や社員から紹介してもらい、採用につなげる手法のこと。「縁故」という言葉は血縁や婚姻、人同士のつながりという意味です。この縁やつながりを利用して、求職媒体などを介さずに求職者と接点を持てます。
これにより採用コストの削減、採用後のミスマッチの防止などさまざまな効果が見込めるのです。
縁故採用の仕組み
縁故採用の仕組みは、通常の採用フローとは異なります。顔合わせのみで採用を決定するパターンが一般的でしょう。通常の書類選考や面接などを行ったうえで採用したり、面接のみで書類選考は免除したりするなど、さまざまなケースがあります。
公務員の場合
国や自治体が採用する公務員にて縁故採用が行われた場合、地方公務員法及び国家公務員法違反になります。公務員の採用は法律により、受験や勤務成績、そのほか能力の実証をしなければなりません。
そのため実証を行わない縁故採用は法律に抵触するのです。縁故採用によって採用したと発覚した場合、採用取り消し処分が下される可能性もあります。
2.リファラル採用とは?
リファラル採用とは自社の社員など関係の深い人物から推薦を受けた人物を採用すること。リファラルには委託や推薦、紹介といった意味を持つのです。
リファラル採用には、自社の社員以外にも、取引先や開発面でかかわりのある大学教授からの推薦なども含まれます。このような人脈を利用すると採用コストを抑えられるうえ、質のいい人材を確保できるのです。
よって現在新たな縁故採用としてさまざまな企業の選考に取り入れられています。
縁故採用との違い
縁故採用と混同されがちなリファラル採用は、採用の目的という点で大きく異なります。
- 縁故採用:紹介者および求職者の救済が目的。どのような人物でも基本、採用する傾向にある
- リファラル採用:組織の強化を目的とする採用方法。よって関係者からの推薦にはなるものの、必ずしも採用されるとは限らない
リファラル採用が主流になった理由
リファラル採用が注目されている背景には、定着率の向上が挙げられます。ミスマッチによる早期離職がどの企業でも問題となっている現代、リファラル採用は業務内容をよく知る人物がその業務に合う人物を推薦するため、このリスクを軽減できるのです。
また少子高齢化による慢性的な人手不足にくわえて、有名企業が実際に導入している点も注目される背景に挙げられるでしょう。
3.雇用側にとっての縁故採用のメリット
人脈を頼りとする縁故採用には、雇用側にとって多くのメリットが存在します。縁故採用のメリットについて解説しましょう。
- コスト削減
- 時間短縮
- 身元が明確
- 採用後のギャップが少ない
- 定着しやすい
①コスト削減
一般的に人材を採用する際、さまざまなコストが発生します。主に求人サイトへの掲載費、人材紹介の成功報酬などです。しかし縁故採用の場合はこうした媒体を利用せずに採用へと至るため、コストを大幅に削減できます。
②時間短縮
選考にかけられる人物は関係者の知人であるため、企業や属する組織の説明やその人物の自己紹介などにかかる時間を大幅にカットできるのです。また連絡などもスムーズに進められる場合が多く、面接の日程調整や入社までの手続きなども素早く行えるでしょう。
③身元が明確
推薦する人物も自身の信頼に関わるため、その企業に合う人物かよく吟味して推薦しています。そのため身元について信頼できるのはもちろん、その人物の性格や特徴、詳細なスキルなども紹介者から事前にヒアリングできるのです。
履歴書と面接で判断するしかない一般の採用過程より、多くの情報を得られるでしょう。
④採用後のギャップが少ない
その企業をよく知る人物からの推薦なので、推薦を受ける人物は企業説明会では分からない企業情報や実際の業務内容などをあらかじめ確認できま。事前に詳しくその企業を把握できるためギャップがほとんどなく、入社後から活躍する可能性も高まるでしょう。
⑤定着しやすい
推薦を受ける人物は、企業の長所も短所も知る紹介者から詳しい情報を聞けるので、その企業が自身に本当に合っている企業なのか判断しやすいのです。入社後に感じるギャップが少なくなるので、入社後の早期退職を防げます。
紹介者も同じ企業に勤務しているので縁故採用された人が安心しやすいです。これも早期退職を防ぐ効果につながるでしょう。
4.雇用側にとっての縁故採用のデメリット
雇用側に対してのメリットがある反面、デメリットも存在します。採用計画の不明瞭さや一般社員との関係性、解雇に関するものなど、デメリットを知っておきましょう。
- 採用計画が立てにくい
- ほか社員との公平性に欠ける
- 解雇しにくい
①採用計画が立てにくい
社内関係者からの推薦によるため、応募人数を見込みにくくなります。求人媒体を使用しないのでコストは削減できるものの、そもそも選考や採用にいたる人数も少なくなるでしょう。よって詳細な人材計画を立てるのが難しくなるのです。
②ほか社員との公平性に欠ける
通常の採用によって入社した社員は、縁故採用で入社した社員に不満を抱くかもしれません。縁故採用者の実力や報酬に対して不信や疑問を感じる社員も少なからずいるでしょう。縁故採用にいい印象を持たない人とのあつれきを防止するのも課題のひとつです。
③解雇しにくい
縁故採用は紹介者との関係性を重視するため、関係の悪化を恐れて解雇が難しくなります。人物のスキルや能力に問題があっても解雇できず、教育に多くの人手と時間を費やすケースもあるでしょう。
5.求職者にとっての縁故採用のメリット
縁故採用は雇用側だけではなく、求職者にとってのメリットもあります。求職者側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
- 採用される可能性が高い
- ミスマッチを避けられる
①採用される可能性が高い
応募前にすでに企業に話がとおっているため、採用される可能性が高いです。応募や試験など通常の過程を大きく飛ばして、面接のみで実際の業務内容などの確認事項の説明のみで入社できる場合もあります。
しかし学生時代の成績や本人の態度次第で不採用になる可能性もあるため、通常の応募活動と同様の対策が必要です。
②ミスマッチを避けられる
事前に紹介者から実際の詳しい業務内容や社風などを聞けるため、ミスマッチを避けられます。通常の採用過程でこうした具体的な話を聞ける機会は少ないです。求職者にとっては大きなメリットでしょう。
6.求職者にとっての縁故採用のデメリット
縁故採用では、周囲との関係にて求職者にデメリットが生じる可能性もあります。詳しく見ていきましょう。
- 周囲とのあつれきを感じる場合がある
- 離職しにくい
①周囲とのあつれきを感じる場合がある
「周囲からの高い期待に応えなければ」「紹介者に迷惑をかけてはいけない」と余計なプレッシャーを感じてしまう場合があります。またほかの社員より就業規則で優遇されると、それが一般社員からの不満へとつながってしまうのです。
②離職しにくい
実際に話を聞いていても自身のやりたいことや、思っていたことと違う可能性もありえるでしょう。また自身の離職によって紹介者に不利益が生じると考え、離職に踏み切れない可能性もあります。
7.縁故採用を行う際の注意点
縁故採用は通常の採用方法とは大きく異なるため、注意が必要です。その効力を十分に発揮するためにも注意点に気をつけましょう。
- 社内周知の徹底
- ほかの採用手段も併用
- 公平性を保つルール決め
①社内周知の徹底
社内周知に最も重要なのは、縁故採用を行う目的や理由を明確にすること。なぜ縁故採用を行うに至ったか、といった経緯をロジカルに説明する準備が必要です。
配慮を怠ってしまうと、実際に縁故採用で入社した社員との間にあつれきが生じる可能性も。一般の社員が企業や人事に対して不信感を抱いてしまうので注意しましょう。
②ほかの採用手段も併用
縁故採用は採用コストを抑えて人材を確保できるものの、多くの人材を確保するのには向いていません。多くの応募者を集めるには、求人サイトや人材紹介などの媒体を合わせて活用するとよいでしょう。縁故採用をメインとするのではなく、補助として扱うのです。
③公平性を保つルール決め
縁故採用とほかの社員を公平に評価するルール作りも必須です。能力やスキル、経験など本人の実力にて管理職や専門職に就かせるのには問題ありません。しかし紹介者の身分や影響力などそれ以外の要因を考慮して幹部とするような特別待遇は、避けるべきです。
どの社員に対しても公平なルールを整備し、公平に評価される透明性の高い運営を行いましょう。
8.縁故採用後のフォロー
縁故採用された社員がいる場合、本人と既存社員へのフォローが必要です。それぞれどのようなフォローが必要なのか説明します。
- 縁故採用で入社した社員
- 既存の社員
①縁故採用で入社した社員
縁故採用で入社した社員を定着させ、活躍してもらうためにフォローは不可欠です。まず社内に紹介者がいるので、細かいフォローがしやすくなります。
また企業側はすでに採用した社員の情報をしっかりと把握できているのでコミュニケーションが取りやすく、現場での人間関係も構築しやすいでしょう。事前にどのような人物か把握できているので、配属も最適な部署や業務を設定できます。
②既存の社員
縁故採用した社員には、既存社員と同様の扱いをしましょう。縁故採用社員の紹介者は既存社員である場合がほとんどで、なかには上役や経営層というときも。そのため教える立場の既存社員が紹介者と本人に気後れしてしまう状況も少なくありません。
同じ組織に属している以上、既存社員が特別視や無用な気づかいをしなくてもよい環境づくりが必要でしょう。