コングロマリットとは、元来関連のない複数の企業を統合してできた巨大企業グループのことです。「複合企業」とも言い換えられます。
目次
1.コングロマリットとは?
コングロマリットとは、技術的にも市場的にもお互い関連性のない事業の集合から形成された複合企業のこと。
コングロマリットはM&Aの加速によって企業の多角化が進む中、自社にはない事業やノウハウを素早く得られるため、増加傾向にあります。異業種で構成された複合企業体のなかでも特に巨大なグループ会社を「コングロマリット」と表現するのが一般的です。
2.コングロマリットの語源と意味
コングロマリットの語源や言葉の意味について解説します。コングロマリットの特徴、また近年注目を集めている「コングロマリット型M&A」などについて見ていきましょう。
コングロマリットの語源
コングロマリットの語源は英語の「Conglomerate」で、「巻き付ける」という意味を持ったラテン語に由来しています。
外来語としての「コングロマリット」は異なる分野で構成される多角的複合企業を指して使われますが、英語の「Conglomerate」には集合体、集塊といった意味もあるのです。
コングロマリットの特徴
コングロマリットの目的は、異業種の事業を取得して多様な事業を展開し、それらの相乗効果を図ること。インターネット関連企業がファイナンスを買収して金融事業を運営したり、インフラ事業に新規参入したりするケースが、これに当たります。
コングロマリットには中長期的な経営戦略を描きやすい一方、短期的な経営戦略には不向きな面があるのです。
経営者は自社の「コングロマリットプレミアム(企業価値が向上する効果)」と「コングロマリットディスカウント(想定していた効果を発揮できず、企業価値を低下させてしまう効果)」を把握しておいたほうがよいでしょう。
コングロマリット型M&A
「コングロマリット型M&A」とは、新規事業への参入を目的としたM&Aの手法のこと。
これまでのM&Aは、既存事業の強化を図るため同業者同士で経営統合を目指す「水平型M&A」と、サプライチェーンマネジメントの効率化を図る「垂直型M&A」の2つが主流でした。
「コングロマリット型M&A」は、水平型と垂直型、どちらも行う場合が多くなっています。「コングロマリット型M&A」は迅速的な多角化を目指すうえで、効率のよい経営戦略として注目を集めているのです。
3.コングロマリット企業の具体例
コングロマリットについてより深く知るには、実際にコングロマリットを導入した企業の事例から学ぶと効率的です。国内にも異業種の企業を買収・合併し、多角化経営に乗り出した企業は数多くあります。
ここでは、コングロマリットとして活躍する日本企業の事例を4つご紹介しましょう。
日立製作所
日本を代表する総合電機企業「日立製作所」ではIoTプラットフォームを主体にグループ内の多彩な事業をつなぎました。
なかでもデジタルソリューション事業では「制御技術(OT)」と「情報技術(IT)」、「製造業(プロダクト)」を組み合わせて、高いシナジー効果を発揮するソリューションの提供を可能にしたのです。
ほかにも「金融デジタルソリューション」「ロボティクス・デジタルソリューションを活用した物流センターの高度化」「ビッグデータ解析」「AI・IoTなど異なる最先端の技術と日立の強みを連携させた」といった取り組みがあります。
これらは、国内コングロマリットにおける成功事例のひとつでしょう。
GMOインターネット
インターネットインフラ事業を主力事業として手掛ける「GMOインターネットグループ」も日本のコングロマリットの成功事例です。
GMOではインターネット広告やメディア事業、またこれらの関連事業のほか、インターネット金融事業では株式取引やFXを、仮想通貨事業では仮想通貨交換事業や仮想通貨マイニング事業を手掛けています。
特に業界最安値水準の手数料とスプレッドを採用した「GMOクリック証券」は、日本の金融業界においても幅広い個人投資家から支持を受けているコングロマリットのひとつです。今後もフィンテック事業に特化していくと予想されています。
楽天
日本を代表するインターネット関連企業「楽天株式会社」は、国内の代表的なコングロマリットとして最たるものでしょう。
主力事業はインターネット通販プラットフォーム「楽天市場」ですが、金融機関業を主力とするフィンテックグループカンパニーやメディア&スポーツカンパニーなど、幅広い事業を展開しています。
楽天銀行や楽天証券、東北楽天ゴールデンイーグルスなどは誰もが聞いたことのある事業でしょう。また楽天では「Rakuten Global Market」や「Rakuten VIKI」など海外に向けた事業も展開しています。まさに日本発の「グローバルコングロマリット」です。
DMM.com
さまざまなwebサービスを提供する「DMM.comグループ」はグループ業績が2114億円を突破(2018年2月時点)。
主力は動画配信事業ですが、これのほかにFXやCFDの提供と運営、ゲームコンテンツの制作や商品物流など幅広い分野にわたって事業を展開しています。近年、社会人向けの私塾や非大卒向けの人材育成事業など教育分野に展開した点でも注目を集めました。
最先端技術のひとつであるVR事業や金融機関業にも進出を続けています。ブロックチェーン技術を用いた仮想通貨取引事業や、仮想通貨交換業・金融附帯業なども手掛ける企業です。
4.コングロマリットが持つ3つのメリット
コングロマリットが持つ3つのメリットについて、解説します。
- 相乗効果(シナジー効果)を狙いやすい
- 事業再編やM&Aを行いやすい
- リスクの分散につながる
①相乗効果(シナジー効果)を狙いやすい
コングロマリットは迅速に多業種の事業を獲得できるため、早期企業価値の向上や事業間の相乗効果(シナジー効果)を目指す企業に有効な手段とされています。異なる商品・サービス事業の取得により、新しい技術やノウハウを得ることが期待できるのです。
常に激しい動きを見せるグローバル経済。新たな市場開拓や新規参入時、事業同士の相乗効果が生まれ企業価値の向上につなげられるコングロマリット型M&Aは、非常に有効な手段でしょう。
②事業再編やM&Aを行いやすい
コングロマリット型経営では多業種事業が多いため、持株会社(経営管理会社)を設立しグループ企業の一員として独立させる手段が一般的です。これにより経営環境が変化し、迅速な事業再編やM&Aが実施しやすくなります。
またそれぞれの企業が独立しているため、機会損失の防止や財政悪化といったリスクを最小限に抑えられるのです。ほかにもコングロマリットにより、間接部門の統合などがしやすくなるというメリットもあります。
③リスクの分散につながる
近年、大量生産・大量消費時代に構築したビジネスモデルが通じなくなっている業種も少なくありません。消費者価値観の多様化や破壊的イノベーションにより、単体事業のみで安定的かつ継続的な利益を生み出すことは困難になってきました。
そこで持株会社(経営管理会社)を設立し、複数の事業会社を展開することでリスク分散につなげる動きが増えてきたのです。
万一ひとつの事業会社がひっ迫しても、そのほか事業の収益でリカバリーができるようになります。財務悪化による経営破綻のリスクを低くできるのはコングロマリットの大きなメリットでしょう。
5.コングロマリットが持つ3つのデメリット
コングロマリットにはメリットがある一方、気を付けるべきデメリットも存在するのです。ここでは一般的に挙げられるコングロマリットのデメリットについて、解説します。
- 企業内でのコミュニケーションに不具合が生まれやすい
- コーポレートガバナンスが低下する恐れ
- 企業価値が低下してしまうリスクも
①企業内でのコミュニケーションに不具合が生まれやすい
コングロマリット型M&Aは、専門性の高い技術や経験を軸とした事業の取得が目的となっているため、それぞれの独立性が高い事業といえます。
その結果、専門外である他事業会社との連携や接触の機会をなかなか持てず、「相乗効果に必要な事業内部の情報が伝わらない」「コミュニケーションが取れない」という環境になってしまう危険性もはらんでいるのです。
特にM&A直後は、それぞれの企業風土の違いや評価制度の統合などによって従業員の不満、不安が高まりやすいです。M&Aと同時に適切なPMI(新しい組織体制の構築を目指したプロセス)が求められるでしょう。
②コーポレートガバナンスが低下する恐れ
コングロマリット型M&Aでは企業そのものを統合対象とするのが一般的です。また前述のとおり事業それぞれの独立性が高いため、専門知識を持たない企業が異業種の企業を買収してしまうと、適切に経営を監視できないケースが出てきます。
その結果として懸念されるのがコーポレートガバナンスの低下です。コーポレートガバナンスが低下すると、子会社や関連会社での不正会計や品質低下といった事態を招きやすくなります。
コングロマリット型M&Aではグループ全体の健全性を保つ必要があるのです。
③企業価値が低下してしまうリスクも
コングロマリットでは多業種事業が主となりますが、それにより投資家からの評価を受けづらいといったデメリットが生じます。
本来は多業種事業の相乗効果を期待してはじめたコングロマリットですが、M&Aを行っても想定以上の効果は見込めなかった、という事態も珍しくありません。なかには、かえって企業価値を低下させてしまうケースもあるのです。
企業価値の低下は株価に大きな影響をおよぼします。コングロマリットは一時的な時価総額の低下につながり、資金影響にも悪影響をおよぼす場合もあるのです。