社内のエンゲージメントを調べる・高めるには?

社内におけるエンゲージメントとは、人事領域に見る経営課題のひとつです。ここでは、社員(従業員)満足度との違いや社内エンゲージメントを高める方法などについて、解説します。

1.社内におけるエンゲージメントとは?

エンゲージメントは、シチュエーションによってさまざまな意味に解釈されます。

企業活動におけるエンゲージメントとは、「所属する組織と仕事に熱意を持ち、自発的に貢献しようとする意欲」のことです。社会的背景や個人価値観の変化から近年、多くの企業で重要視されるようになりました。

人事にとって社内エンゲージメントは重要な課題

社内エンゲージメントの高低は、社員の離職率や生産性の低下に影響を及ぼします。これは会社の規模や業界に関わらず、あらゆる企業に共通する課題です。

今日の人材管理市場では、労働人口の減少に伴う採用難や、人材獲得競争の激化が課題として指摘されています。アメリカのコンサルティング会社からは、エンゲージメントが高い人は、低い人に比べて生産性が約2割高いという調査結果も発表されているのです。

社内エンゲージメントの向上は、生産性を高めるための課題でもあります。これはどの企業も他人事ではありません

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2.社内エンゲージメントと社員(従業員)満足度との違い

「社内エンゲージメント」と似た言葉に「社員(従業員)満足度」があります。これらは非常に似た意味を持ちますが、結び付きの方向性に大きな違いがあるのです。それぞれの定義や、調査の目的を比較してみましょう。

社内エンゲージメントの定義とは?

社内エンゲージメントは、会社と社員の関係性を双方向的に捉えようとする概念のあり方で、「会社が社員の期待に応えられている」「社員が仕事に対して意欲的に取り組めている」2つを両立した測定に意味があります。

そのため会社が社員に対して「労働に意義を見出しているのか」を問う形が、社内エンゲージメントを高める原点になるのです。

社員(従業員)満足度は一方からの視点

双方向の関与によって結び付きを強める「エンゲージメント」に対して「社員(従業員)満足度」は会社の取り組みに対する社員の一方的な評価を指します。

2つはまったく異なる面を持ちますが、社内エンゲージメントを社員(従業員)満足度の延長線上に捉える企業も多く、トラディショナルな会社では一方的な処遇を改善するばかりで、双方向の健全な関係が築けていない企業も少なからず存在するのです。

社員(従業員)満足度とは?

社員(従業員)満足度とは、会社が与える待遇や環境、報酬などに対して社員がどれだけ満足しているかを示すもので、「ES:Employee Satisfaction」の訳語です。

  1. エンゲージメント:双方の信頼関係の上に成立する関係
  2. 社員(従業員)満足度:会社が社員に与える処遇の上に成立する関係

こう区別すれば、2つの違いが分かるでしょう。万が一会社が経営難に陥っても社内エンゲージメントの高い会社は信頼関係が基礎にあるため、一丸となって支え合う強さを持っています。

社員(従業員)満足度を調査する目的とは?

そもそも、社員(従業員)満足度を調査する目的は何でしょうか。社員(従業員)満足度調査の目的は、社員が持つ会社に対する意識や問題点の把握です。具体的には、次の項目が挙げられます。

  • 自社の課題を定量的に把握する
  • 離職率や採用コストを低下させる
  • 顧客満足度を向上させる

しかしながら学術的な研究では、社員(従業員)満足度と企業業績に大きな相関がないと明らかになっています。「社員(従業員)満足度調査を形骸化させない」「改善項目の偏りを防ぐ」ためといった意味でも、社員エンゲージメントが注目されているのです。

社内エンゲージメントが不足するとどうなる?

では社内エンゲージメントが不足すると、どのような課題が浮き彫りになってくるのでしょうか。社内エンゲージメントの低下は、2つの危険を招く恐れがあるのです。

  • パフォーマンスの低下に伴う業績の低下
  • モチベーション低下による離職率の増加、および新規採用コストの増加

世界最大のビジネス誌・フォーチュンでは、「社内エンゲージメントの高いチームが離職率を14.5%から4.1%に下げることに成功した」という事例を発表しています。

社員(従業員)満足度調査が自社で形骸化していないか、今一度見直してみましょう。意味のない調査は、社員をより一層疲弊させます

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3.社内エンゲージメントを調べる方法

社内エンゲージメントの定義はあいまいで、会社により指標が異なるため、どの定義で社内エンゲージメントを計ったのかを明らかにする必要があるのです。ここでは、社員エンゲージメントの具体的な調査方法と、その分析方法について見ていきましょう。

「アンケート調査」による方法

社内エンゲージメントを調べる際は、アンケート形式による調査を実施します。世界有数のコンサルティング会社、コーン・フェリー社では、2015年から2017年にかけて約30の日本企業、23万人もの社員を対象としたアンケート調査を実施しました。

調査対象は商社や金融、各種メーカーと幅広く、企業規模も100人強の会社から5万人もの従業員を抱える大企業まで多岐にわたります。

アンケートの設問例と回答例

同調査では、以下の設問を用意しました。

  1. 設問1:私は自社で働くことに誇りを感じている
  2. 設問2:私は求められる以上に仕事に取り組んでいきたい
  3. 設問3:私は自社をよい会社だと他者に勧められる
  4. 設問4:自社は私が期待されている以上の貢献をする気持ちにさせてくれる
  5. 設問5:あとどのくらいの期間、あなたは自社で働いていたいと思うか

また質問ごとに5つの回答選択肢を用意。これは、各質問に対する肯定的な回答の比率を調べるためです。

  1. 非常にそう思う
  2. そう思う
  3. どちらともいえない
  4. そう思わない
  5. まったくそう思わない

アンケートには「ドライバー」項目も利用しよう

社内エンゲージメントの分析には「ドライバー項目」を利用します。ドライバーとは、コーン・フェリー社が長年の実証研究を通じて見出した、社内エンゲージメントの高低に影響する因子項目のこと。

同社では世界中の企業を対象に調査を実施し、大量のサンプルと統計解析を行ってきました。これにより各ドライバー因子が高い会社は、社内エンゲージメントも高いという分析結果を裏付けています。

ドライバーの項目例

コーン・フェリー社が考える、社内エンゲージメントを高めるドライバーは全12項目あります。その代表的なドライバーと因子例を見てみましょう。

  • 成長の機会:組織において学習したり成長したりする機会がどの程度あるか、周囲のサポート体制が充実しているか
  • 品質、顧客志向:顧客を中心とした質の高い商品やサービスが十分に提供できているか
  • 個人の尊重:個人としての立場が尊重され、よい仕事をしたときに評価してもらえるか、仕事と生活(プライベート)の両立ができているか

社内エンゲージメントと関連度が高いドライバー

同社が実施した調査では、特に3つのドライバーが社内エンゲージメントとの相関が高いと明らかになりました。

  1. 自社におけるキャリア目標達成の見込み:自己成長の見込みが十分に感じられる環境が用意されているか
  2. 顧客に提供する体験的価値への自信:顧客に対して感覚的、情緒的価値を持った製品やサービスが十分に提供できたと自負しているか
  3. 成果創出に向けた効果的な組織体制:効率よく成果を生み出すな組織体制が構築できているか

このアンケート調査によって「適正さ」よりももっと抽象的な、琴線に触れる「主観的」な側面が、社内エンゲージメントの向上に影響を与えていると分かったのです

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4.社内エンゲージメントを高めるには

コーン・フェリー社が提唱するドライバーのなかでも「自社におけるキャリア目標達成の見込み」と「やりがいや興味のある仕事を行う機会」に関しては、国内企業とグローバル企業との間に大きな差はありません。

日本企業の社内エンゲージメントが低い要因は、ほかにあると考えられます。

会社の存在意義を高める

国内企業とグローバル企業との間に大きな差が見られたのは「顧客に提供する体験的価値への自信」でした。

言い換えれば、日本の会社は「顧客に提供している商品・サービスの価値を、社員に対してうまく伝えきれていない」「社員が自社の商品・サービスに自信が持てず、ある種の諦めを持って会社に所属している」傾向にある状態です。

品質・顧客志向の向上

自社の存在意義を感じられなくなる状況のひとつに「他社との差別化が困難」という状況が挙げられます。

競合会社の台頭やコスト構造の変化などによって自社の優位性が下がる(品質、クオリティが下がる)と、自社の強みが不明瞭になるのです。社内エンゲージメントを高めるには、品質や顧客志向の向上が必要でしょう。

戦略・方向性の共有

社内エンゲージメントを高めるには、会社の戦略や方向性を社員とうまく共有する必要があります。

全社的な経営戦略は、一社員にとっては非常に遠い課題で実感がわきにくいもの。現場レベルが課題とするのは、「部署単位での戦略課題」詳しくいえば「明日の目標と目の前のタスク」です。

全社的な戦略や方向性が共有されないまま作業量が増えても、事業の成長が滞るばかりか、無駄に社員を疲弊させ負のスパイラルを生み出してしまいます。

管理職のマネジメント力を強化

社員エンゲージメントの高低には、中間管理職のマネジメント力が大きく影響しています。

コーン・フェリー社の調査によると、社内エンゲージメントの高低と中間管理職のマネジメント力には相関があると分かりました。中間管理職には、大きく分けて4つの要素が求められています。

  • 組織戦略や戦略的決定についての説明と共有
  • キャリア開発や能力開発に関する指導
  • 仕事に対する適切なフィードバック
  • 情緒的なケア

社内エンゲージメントを高めるには、管理職のマネジメント力強化も必要なのです。

会社のビジョンや戦略を部下と共有

社内エンゲージメントを高めるには、全社的なビジョンや戦略の広い浸透も重要です。現在チームで取り組んでいる業務が、会社にとってどのような影響を及ぼすのかをチーム全体で共有します。

社員一人ひとりが「自分の業務が会社全体の生産性を高めている」「自分の業務が戦略の実現に役立っている」と感じられれば、自ずと社内エンゲージメントも高まるでしょう。これは中間管理職のマネジメント力が大きく影響する部分でもあります。

ステップアップやスキルアップを推進

スキルアップやステップアップを後押しする環境整備も、社内エンゲージメントを高めるには効果的です。将来のキャリアや習得したい能力は社員一人ひとり異なるため、一概に当てはめられません。

すなわち画一的なキャリア指導や育成指導は、もはや機能しないといえます。この社員はどんな仕事(業務)を好むのか、また別の社員はどの分野にこだわりたいのかなどを詳細に捉え、それらを推進する風土の構築が必要です。

セルフ・アセスメントによって社員が求める方向を探る

ステップアップやキャリア開発の文脈で「セルフ・アセスメント」の手法を用いる会社も増えてきました。セルフ・アセスメントとは、性格や能力、動機や適性を見出す自己評価のこと。

コーン・フェリー社が紹介する評価方法では、セルフ・アセスメントに5つの軸に対立項を示して、社員がどちらを好むかを簡略的に探ります。例は下記のとおりです。

  • 分析的なアプローチを好むか、直感的な判断を好むか
  • 戦略的な構想を好むか、実務的かつ具体的な業務を好むか

これらを分析し、適切な能力開発を行って社内エンゲージメントの向上につなげます。

社員の性格に合った仕事を与える

「それぞれの社員が、自身の性格に合った仕事に取り組める」状況も、社内エンゲージメントを高める要因のひとつです。

仕事に対する動機は人それぞれ。新商品の開発にやりがいを見出す人もいれば、人間関係が円滑になることでモチベーションが高まる人もいます。

反対にいえば、社員の性格に合わない仕事を与えても生産性は上がらず、社員エンゲージメントが低下する恐れもあるのです。管理職が社員それぞれの強みや特性を知るべき理由はここにあります。

達成感がやりがいにつながる場合

社員が達成感ややりがいを得ることも、社内エンゲージメントの向上につながります。

「ひとつのプロジェクトが無事完了した」「新規チャレンジが成功した」「自社サービスで顧客が笑顔になっているのを見た」ときなど、さまざまなシーンで達成感ややりがいを感じられるでしょう。

メンバー同士で感謝を伝えあったり、それぞれの仕事に対してフィードバックを行ったりすると、達成感ややりがい、社内エンゲージメントの向上につながります。

人間関係の構築がやりがいにつながる場合

離職を考える大きな原因に「人間関係」があります。自身の価値が認められていないと感じる、スキルアップに挑戦しづらい雰囲気がある、など険悪な人間関係のなかで社内エンゲージメントを高めるのは非常に困難です。

ときには社内だけでなく顧客との関係も見直しましょう。良好な人間関係を築くと会社への愛着度が高まり、社内エンゲージメントも高まります。

承認がやりがいにつながる場合

アメリカの大学では興味深い実験結果が発表されています。社員のモチベーション(労働生産性)が最も向上したのは「報酬」ではなく「上司からの誉め言葉」が得られたときだったという発表です。

世界中から優秀な人材が集まるアメリカ・シリコンバレーでも「承認欲求」を満たしてエンゲージメントを高める取り組みが注目されています。

お金や出世ではなく誰かの役に立ちたい、頑張りを認めてほしいといった承認欲求が、やりがいやエンゲージメントにつながっているのです。

社内エンゲージメントは、一朝一夕で向上するものではありません。経営陣が組織づくりに本腰を据えて向かう姿勢を見せ、中長期的に取り組む必要があるのです

承認欲求とは? 強い人の特徴や満たし方、自己顕示欲との違い
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5.社内エンゲージメントが高い企業の特徴、企業事例

社内エンゲージメントが高い企業には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、会社全体として明確な方向性を見出したB社と、部署間で社内エンゲージメントの高低に差異の見られたE社がそれぞれ取り組んだ事例について解説します。

B社の事例

製薬業界において売上規模は中位に位置しながら、同業他社のなかでも社内エンゲージメントの調査結果がずば抜けて高かったのがB社です。この会社の特徴は、治療分野を戦略的に絞り込んだこと。

これにより、患者の姿やニーズがより具体的に特定できるようになりました。選択と集中を果断に実行したため、会社としての戦略や方向性が定まったのです。

結果として自社にしか提供できない良薬を届けることに成功し、社員もまた「自社でなければならない理由」に誇りを持てるようになったという事例です。

E社の事例

大手電機メーカーのE社では、部署間で社内エンゲージメントの高低に大きな差がありました。「それはなぜなのか」聞き取り調査の結果明らかになったのが、課長のマネジメント力です。

エンゲージメントの高い課では、業績の良し悪しに関わらず、ありのままの会社の姿を社員に共有しました。また課長自ら積極的に声掛けを行い、社員の目線に合わせて会話を行っていたのです。

一方、エンゲージメントが低かった課では多忙のため課長はほとんど席におらず、社員からは「放置されている」「何も期待されていないように感じる」といった声があがりました。このように管理職のマネジメント力が、エンゲージメントの高低を分けたのです。

社内エンゲージメントの向上は、今後ますます重要視されるといわれています。戦略や方向性を明確にし、一人一人の特性に応じて働きかけましょう