IT企業やIT部門の評価制度のポイントとは、目的をもって公正、明確に実施することです。ここでは、IT企業の評価制度について解説します。
目次
1.IT業界における人事考課の現状とは?
IT企業やIT部門の評価制度のポイントとは、目的をもって公正、明確に実施することです。
そもそも現状、IT業界において人事考課はどのようになっているのでしょうか。その内容は下記のとおりです。
- 人事考課制度を設計・運用後に課題が生じている
- 設計した内容をつねにブラッシュアップするため、検証が必要
このような現状から、設計した人事考課制度の見直しを迫られています。その背景にあるのは、ITエンジニアがIT業界における人事考課に満足していない点です。
キャリアアップを望まない人もいる
本来、人事考課の目的は、「人材の育成」「賃金制度や昇格、配置転換といった人事施策への連動」だといわれているのです。しかしITエンジニアの中には、キャリアアップを望まない人たちもいます。
その理由として挙げられるのは、「部下の管理業務を担いたくない」「生涯現役のエンジニアとして活躍したい」などです。
会社は人材確保・育成をしたい
企業は、慢性化したITエンジニアの不足といった現状から、「ITエンジニアの人材育成」「優秀なITエンジニアの確保」に躍起です。
そのため、キャリアアップを望むITエンジニアだけでなくキャリアアップを望まないITエンジニアに対しても、評価や考課に関して工夫した制度設計を行うことが求められています。
2.IT企業において人事考課はいつからスタートするべき?
IT企業で人事考課をスタートさせる際、ITエンジニアの勤務形態の見直しをきっかけにする場合が多いようです。ここでは、IT企業が人事考課を始める時期について解説します。
できるだけ早く導入したほうがよい理由
IT企業において人事考課をスタートさせる時期については、できるだけ早く導入するほうがよいといわれています。
特に、オフィスなど物理的な場所から解放されて自由な空間、時間の中で働くテレワーク(リモートワーク)などを導入するIT企業は、速やかに人事考課方法を見直すとよいでしょう。
早期に人材の確保・育成が可能
IT企業が人事考課をスタートさせれば、早期の人材確保ならびに人材育成を可能にします。それにより退職といった人材の流出も防げるでしょう。
こうした目的に向けた行動の例として挙げられるのは、入社後すぐ「人事考課を行う」「人事考課にもとづき給与水準を高めておく」などです。
スキルや技術の習得に有効
人事考課は、スキルや技術の習得に有効だと明らかになっています。人事考課を実施すると、企業がITエンジニアに求めているスキルや技術が明確化されるのです。
求める人材像が分かれば、ITエンジニアも目標が設定しやすくなります。その結果、スキルや技術を習得する効率的な道筋が明らかになるでしょう。
規模によっては経営に影響する
企業規模によっては、人事考課のスタートが経営に影響する場合もあります。中小企業やベンチャー企業では、従業員一人ひとりが担う負担なども大きくなるため、人事考課が従業員に与える影響も、経営へダイレクトに反映されるのです。
公正で適切な人事考課の実施は、企業経営の好循環を生み出すきっかけになるでしょう。
3.IT企業の人事考課は何から始めればよいか?
IT企業の人事考課を始める際は、従業員の視点で不明瞭・不透明と思われる点から制度化していきます。ここでは、新たに人事考課を制度化する際のポイント3つについて解説しましょう。
- 等級制度の作成
- 昇格・降格の基準を決める
- 報酬体系の作成
①等級制度の作成
等級制度とは、「能力」「職務」「役割」という3つを基準に区分し、それらに序列をつけた制度のこと。「給与」「昇給や配置」「人材育成」などさまざまな施策と関連性を持っており、人事制度の中でも根幹となる重要な制度です。
役割・能力の明確化
等級制度には下記3つがあります。これら制度の併用導入で、従業員の役割や能力、職務に応じた評価が可能になるのです。
- 能力を軸とした職能資格制度
- 職務を軸とした職務等級制度
- 役割を軸とした役割等級制度
「評価の目的」「軸とするもの」「何等級に区分するのか」といった制度の詳細を詰めながら、具体的かつ慎重に制度を設計していきます。
公平な評価・処遇
等級制度を設計していく際は、公平な評価、処遇を心掛けます。ここで注意したいのが、社外で勤務するエンジニアの存在です。
IT企業には、顧客先企業に常駐しているITエンジニアが存在するケースが多いもの。等級制度を設計する際は、客先に常駐するエンジニアも含めて、評価や処遇を検討しなければなりません。
②昇格・降格の基準を決める
公平な評価・処遇を考えるため、昇格・降格の基準を設計します。
公正で明確な基準にもとづいて人事評価が行われれば、結果によって決まった昇格や降格をきっかけに、「さらに実力をつけていこう」「不足部分を補って自分を成長させよう」など、モチベーション向上の機会づくりに役立つでしょう。
③報酬体系の作成
公平な評価、処遇を考える際は、報酬体系も作成します。ITエンジニアにかかわらず、労働者にとって報酬は、生活の維持に重要です。
また優秀なITエンジニアの安定的な確保のためにも、報酬体系を作成し、報酬体系と等級制度に連動性を持たせましょう。従業員の仕事ぶりが報酬につながるようなシステムの構築が必要です。
4.ITエンジニアの評価シートには何が必要なのか?
ITエンジニアの評価シートとは、業務姿勢やスキル、能力などを評価するための書類です。人事考課シートや自己申告書などとも呼ばれ、記入は一般的にエンジニア自身が行います。
目標設定と記載例
評価シートの項目には、目標設定があります。「モチベーションの向上」「自身の成長」「業務実績」を達成するには目標設定が不可欠です。目標を設定する際は、「将来のキャリアビジョン」「仕事に向き合うスタンス」を意識します。
たとえば、「技術者試験の資格を取得するため週3時間の学習時間を確保」「顧客からの依頼に対し、できることは自ら手を挙げ対応する」などです。
資格取得
評価シートの目標に資格取得を記載するケースがあります。ITエンジニアのスキルアップに資格取得は有効な手段のひとつでしょう。対外的にもスキルを証明するため、資格取得をバックアップする企業も多くあるのです。
資格取得の項目には、取得計画や進捗度を記載します。評価期間ごとに計画どおりに進んでいるかを確認するためにこのような項目を設けるのです。
キャリアビジョン
キャリアビジョンとは、中長期的なキャリア形成の目標のことで、数年~数十年後における自身の理想像を描きます。
キャリアビジョンが明確になれば、モチベーションや成長にもよい影響を与えるでしょう。記載例は、「最新のサイバー攻撃に対応できるコンサルタントになる」「セキュリティ強化の専門家になる」などです。
生産性・効率
評価シートには、生産性や効率性という項目もあります。
たとえば、「生産性を上げて前年度比7%減少を目指し作業時間を削減する」「作業を自動化できるツールを開発し、週5時間の効率化を図る」「ファイルサーバーの整理や既存資産を棚卸しして業務関連資料を整理する」などです。
マネジメント
マネジメントの項目では、部下や部門、企業の成長を意識した目標設定を行います。たとえば、下記のようなものです。
月1回進捗報告ミーティングを実施して、四半期のチームメンバーの目標達成率を95%以上にする
各マネージャーと週1回の個人面談を実施して、プロジェクトチームの成長率の前年度比130%を目指す
5.ITエンジニアの評価手法とは?
ITエンジニアを人事考課するための評価手法があります。ここでは、評価手法のなかでも最近トレンドとなっている、4つの手法について解説します。
- バリュー評価
- リアルタイム評価
- ノーレイティング
- ピアボーナス
①バリュー評価
バリュー評価とは、「自社の価値観を理解する」「その上で価値観に沿っていかに行動できたか」といった行動をクローズアップして、適切に評価を行う手法のこと。
会社が提示した価値観に対して、自ら何をすべきかを考え、それを実行に移せる従業員を増やしていけば、会社の価値も磨かれるでしょう。
②リアルタイム評価
リアルタイム評価とは、「その瞬間」「1日」「数日」「1週間」といった短い期間で、その時の仕事ぶり・意欲などを振り返る評価手法のこと。評価期間の短さは、下記のようなメリットを生み出します。
- 評価がモチベーション向上につながりやすい
- 業務の進め方や進捗の遅れなどの問題点を軌道修正しやすい
- 上司と部下のコミュニケーションが良好になる
③ノーレイティング
ノーレイティングとは、ランク付け年次評価を行わない評価手法のこと。従来のランク付け評価では従業員の業績にランクを付け、競争意識による個々の成長を目指しました。
ノーレイティングでは、「評価のしくみは維持する」「上司と部下で課題や問題についてじっくり話し合う」などを重視しています。特徴は、コミュニケーションを通して「目標の実現」「トラブル対応」などを迅速に行うといったものです。
④ピアボーナス
ピアボーナスとは、働く者同士で成果や会社への貢献を認め合い、報酬を送り合って評価を行う手法のこと。「モチベーション向上」「仲間との業務や取り組み、成果の共有」「円滑なコミュニケーションの創造」といったメリットを持ちます。
個人やチームの垣根を超えたコミュニケーションを構築できれば、人材流出を防ぐなどの効果も生み出すでしょう。
6.ITエンジニアの人事考課に役立つツールとは?
ITエンジニアの人事考課に役立つツールを使用すれば、スキルを可視化できます。ここでは、ITエンジニアの人事考課に役立つツール2つについて解説します。
- スキルマップ
- キャリアパス制度
①スキルマップ
スキルマップとは、「縦軸には氏名」「横軸には業務のプロセスや必要な能力」が配置されているマップのこと。
個人ごと・業務プロセスごとの進捗度、達成度が分かりやすくなるため、「不足するスキルの底上げ」「マルチスキルの実現」「モチベーションの向上」などにつながります。
②キャリアパス制度
キャリアパス制度とは、昇進・昇格のための基準や条件を明確化した人事制度のこと。
「どのような道筋をたどれば、キャリアアップができるか」が事前に示されるキャリアパス制度を活用すれば、「モチベーションの向上」「スキルアップ」「優秀な人材の確保」「企業業績の向上」などが実現できます。
7.ITエンジニアの人事考課に対する注意点とは?
ITエンジニアの人事考課に対する注意点4つについて、解説しましょう。
- 無理のない目標を設定する
- 目標には期限を設ける
- 達成度が分かりやすい目標を設定する
- 評価する側がばらつきを出さない
①無理のない目標を設定する
「無理のない目標を設定する」とは、目標は達成できる範囲のものに設定すること。あまりにも高い目標を設定してしまうと、目標にチャレンジする気持ちより、目標に対するあきらめが大きくなります。
これでは、ITエンジニアのモチベーションも下がってしまうでしょう。モチベーションを向上させられる範囲での、適度な目標設定が重要です。
②目標には期限を設ける
「目標には期限を設ける」とは、定めた目標をいつまでに達成しなければならないかを明確にさせること。目標を設定しても期限を定めなければ、進捗管理もできず実績を残すのも難しくなってしまうでしょう。
「目標と期限をセットで設定する」「期限を区切り進捗管理を行う」「期限がきた段階で目標を達成できるようにする」などは、目標管理の基本です。
③達成度が分かりやすい目標を設定する
「達成度が分かりやすい目標を設定する」とは、設定する目標の内容を定量的なものに落とし込むこと。目標の到達度を適切に判断するには、可視化しやすい目標の設定が必要です。
可能な限り数値を用いて、誰にでも分かりやすい目標管理を心掛けましょう。数値による目標管理は、公平性の観点からも重要です。
④評価する側がばらつきを出さない
「評価する側がばらつきを出さない」とは、評価者の評価技術を一定に保つこと。評価者の主観が入ったり評価者の評価レベルが一定でなかったりする場合、評価そのものの信頼性が損なわれかねません。
「評価者が評価のための研修を受ける」「経営陣が評価者を評価する」といった方法を用いて、評価スキルの均一化を目指します。