360度多面評価とは、人事評価手法のひとつです。ここでは360度多面評価の利用目的や導入の流れ、実施後の計画などについて解説します。
目次
1.360度多面評価とは?
360度多面評価とは、上司や同僚、部下など立場や関係性の異なるさまざまな人が、多面的に対象者の実態を評価する手法のこと。
従来の人事評価では上司対部下の一方的な評価や、年功序列を基礎とした人事考課が主流でしたが、労働環境の変化により企業は成果主義へとシフトし、同時に人事考課の見直しを迫られるようになりました。
そこで注目を集めたのが、人材を客観的・多角的に数値化できる360度多面評価です。
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社員の日常行動を把握
360度多面評価の導入には、上司が対象者の日常生活を把握する目的があります。組織のフラット化やITツールの普及により、上司のマネジメント人数は急激に増加しました。
同時に会社全体の生産性を高めるため、多くの管理職がプレイングマネージャーとして第一線で活躍しています。
各個人との直接的なコミュニケーションが減少し、上司ひとりでは把握しきれない社員の日常行動を把握するために活用されているのが、360度多面評価なのです。
処遇の格差を埋める
人事考課は、公平かつ客観的である必要があります。しかし人間が人間を評価する以上、相性や感情的な要素が評価に少なからず影響を与えてしまうのです。
360度多面評価では、上司だけでなく対象者の部下や同僚、社外関係者から多面的に評価します。それにより評価の偏りを防ぎ、処遇の信頼性を高められるのです。
自律性を高める
組織の継続的な成長には、常に同じ指標だけを追い続ける受動的な人材ではなく、自ら課題を探して行動できる「自律性」を持った人材が不可欠です。
360度多面評価で多面的なフィードバックを行うと、被評価者は自己評価と他者評価の違いを把握し、自らの強みや弱みに気付けます。また管理職層は多方面からの評価を得ることで、現状の課題に気付けるのです。
2.360度多面評価を実施する際に準備すべきこと
360度多面評価には複数の社員が評価にかかわるため、被評価者は周囲から見られているという適度な緊張感を持てます。しかし複数の社員に評価されるというのは、現場の負担が増えると同じでもあるのです。
360度多面評価を実施する前は、導入の目的と実施方法をきちんと周知しておきましょう。
目的やその周知
まずは360度多面評価を実施する目的を明確にします。360度多面評価実施の目的は「人材および組織の育成」。具体的には、「若手社員の対人関係力を向上する」「新任管理職にマネジメント力の気付きを与える」などが目的になります。
混同されがちですが、360度多面評価を業績評価目的の人事考課に組み込まないよう注意しましょう。評価に過度な気遣いが加わって、客観性が損なわれる恐れがあります。
評価者と被評価者の設定
客観性を保つという意味では、評価者に適切な人数を揃えることも重要です。人数が少ないと、結果に評価者の特性があらわれてしまい、公正性が損なわれます。
評価者は最低でも5名以上設定しましょう。上司や部下だけでなく、関わりの多い他部署の関係者や付き合いの深い同僚などを選定し、集団によるバイアスを考慮します。もちろん評価者の匿名性確保も重要です。
具体的な実施方法を考える
360度多面評価の目的が明確になったら、合わせて評価項目や評価基準などの運用ルールを設定しましょう。
項目数が多すぎると評価者に過度な負担を与え、継続的な評価が難しくなりがちです。多くても30項目程度、想定回答時間は15分以内に収まるよう設定しましょう。
また回答尺度を4段階程度としたり、「どちらともいえない」という曖昧な尺度を設けずに「分からない(集計対象外)」の項目を設置するなどしたりして、無理な評価をさせない形にする必要もあります。
スケジュールを決める
前述のとおり360度評価には多くの人がかかわるため、社内的な負荷が高まります。場合によっては評価者が取引先や顧客など社外に及ぶ可能性もあるのです。実施前にきちんとスケジュールを設定し、計画的に行えるよう準備しましょう。
また360度多面評価を活用する目的を踏まえて、半年に1度、年に1度など実施頻度を検討し、全社的に周知します。
3.360度多面評価の実施後に計画すべきこと
人物評価の信頼性や妥当性を高める360度多面評価は、「1度評価を実施すれば終了」というシステムではありません。
評価結果を適切に取り扱い、フィードバックで効果を高め、また再び評価して次の課題につなげるという一連のサイクルを回して初めて、360度多面評価を実施した効果が得られるのです。ここでは実施後に計画すべきポイントを3つに絞って解説します。
- どのように結果を取り扱い配布するか
- フィードバックを行う
- アクションプランを作成する
①どのように結果を取り扱い配布するか
前提として気に留めておきたいのが、360度多面評価は能力を評価するものではなく、行動を観察するための方法という点。360度評価では、被評価者の行動が周囲にどれだけ伝わっているかを測定しています。
360度多面評価の実施後は「被評価者の行動が周囲に伝わっているか・伝わっていないか」を気付かせることが必要です。
「自分はこれだけやっているのに周囲に伝わっていない」といった認識のずれは誰しも体験があるでしょう。自己評価と他者評価のずれを認識することが、実施後に行うフィードバックの目的です。
②フィードバックを行う
「360度多面評価を導入したもののうまく活用できていない」「評価結果を見るだけで能力開発や組織の活性化に活かせていない」といった組織も少なくありません。効果を実感できない組織の多くは、実施後のフィードバックが疎かになっている傾向にあります。
フィードバックが疎かになると、被評価者は結果をただ点数として受け取るだけで、改善行動に結び付けない可能性も高いです。評価を実施した後は、被評価者の前向きな気持ちを引き出せる配慮したフィードバックを行いましょう。
③アクションプランを作成する
重要な点は、実施後に被評価者本人による自発的なアクションを促すこと。被評価者は自身の強みや課題を明確にしたうえで、行動改善に向けた具体的なアクションプランを作成しましょう。課題の改善には、次のような方法が効果的です。
- 評価結果をメンバーに共有し、課題を宣言する
- 上司に結果を共有し、定期的なフォローアップを受ける
- 課題を「見える化」し、自分なりにリマインドする
360度多面評価を実施するだけに留めず、結果や課題を周囲と共有して日常的に振り返りを行うと、より高い効果が期待できます。
アクションプランとは?【書き方をわかりやすく】具体例
アクションプランとは、目標を達成するために必要なタスクを管理する行動計画です。アクションプランがあると目標達成のプロセスややるべきタスクが明確になるため、効率的に行動できます。
アクションプランとは何...
4.360度多面評価の活用によって得られるメリット
複数の社員が評価に関わる360度多面評価は、上司一人が行う評価に比べて客観性の高いものになります。同時に複数の社員に評価されるため、周囲にいつも見られているという適度な緊張感と安心感も得られるのです。
評価基準を意識すると、評価する側は組織が期待する姿や求める行動などを認知できます。ここでは360度多面評価の活用によって得られるさまざまなメリットを見ていきましょう。
- 自身のよい点に気付きやすい
- コミュニケーションが活性化する
- 他者評価と比較できる
①自身のよい点に気付きやすい
人材の育成には、「当事者の強みや弱みを正しい認識」が欠かせません。従来の上司一人による評価では、被評価者の強みや弱みを見落とす可能性も考えられます。
その点360度多面評価では、部下や他部署、同僚などさまざまな立場から評価を受けるため、上司が気付かなかった特性を発見できる可能性が高いのです。
特に管理者層は、部下や他部署からの率直な評価を知る機会が少ないです。360度多面評価は、自己評価と他者評価のギャップに気付ける貴重な機会といえます。
②コミュニケーションが活性化する
組織内でのコミュニケーションは、どの業界どの年代も共通して抱える課題のひとつ。コミュニケーションの不足によって仕事の進みが遅くなり、貴重なチャンスを逃したり、優秀な人材が離職したりする恐れもあるでしょう。
360度多面評価のフィードバックに面談の場を設ければ、その時間をコミュニケーション活性化の時間にあてられます。360度多面評価の活用は、「風通しのいい社風づくり」にもつながるのです。
③他者評価と比較できる
「自分ではリーダーシップを発揮しているつもりでも、メンバーには届いていなかった」「被評価者は自身を積極性に欠ける管理職と評価していたが、部下からは柔和で丁寧な指導をする上司と評価されていた」のように、認識のズレは決して珍しくありません。
これらは自己評価と他者評価にギャップが生じている状態です。360度多面評価では複数の立場から評価されるため、自己の強みや弱みを多角的に把握して自己理解を深められます。
5.360度多面評価の利用目的とは?
なぜ360度多面評価を利用するのでしょうか。
「上位層から指示があったから評価をつけている」「同業他社が取り組んでいるから自社でも導入してみる」といった理由では、360度多面評価の実施自体が目的となってしまい、期待する効果を得られません。
ただ評価しただけで終わらないよう、360度多面評価の利用目的を改めて明らかにしておきましょう。
バリューを評価するため
360度多面評価の利用目的のひとつに「バリューの評価」があります。バリュー(value)とは価格や評価額など相対的な価値のこと。会社で次のような課題を抱えていないでしょうか。
- マニュアルがないと判断できない社員が多い
- 自らで判断できないため、スピード感がない
- 他者に意見を求めても何も返ってこない
これらは会社の価値観であるバリューが社員にまで浸透していない状態です。会社が一人ひとりに求める姿を明確にすることが、360度多面評価の目的のひとつです。
社員(従業員)を育成するため
もうひとつの目的は、人材育成とモチベーションアップです。上司一人だけでなく部下や同僚、社外関係者などさまざまな立場から評価を受ける360度多面評価では、それぞれの立場から見た自身の強みと弱みが明らかになります。
同時に複数視点からの評価を受けるため、被評価者の納得度も高まるのです。相性や一人の主観に左右されない公平な評価をされていると感じるため、被評価者のモチベーションも高まるでしょう。
6.360度多面評価導入の流れについて
360度多面評価は、部下や他部署からの率直な評価を知る機会の少ない管理者層や、専門知識を多く必要とするため外部から評価しにくい専門職層などに対して多く用いられる評価方法です。
実際に360度多面評価を導入する際の流れについて解説します。
- 活用目的を明確にする
- 評価基準を考える
- フィードバックと課題を考える
①活用目的を明確にする
はじめに360度多面評価の実施目的を、明確にします。評価結果をどのように活用するかで運用方法が異なるため、最初に評価制度を導入する目的を明らかにしておきましょう。そして目的に沿って、次の評価基準やフィードバックプランなどを掘り下げていきます。
- 若手社員のスキルアップを図る
- 組織全体の連携とモチベーションアップを目指す
- 管理者層に自身や部署が抱える課題の気付きを与える
②評価基準を考える
続いて評価結果を明確にするための設問や解析方法などを、設定します。検討内容は多岐にわたりますが、すべてをテンプレートどおりに定めず、活用目的に沿って掘り下げていきましょう。
- 評価項目や回答基準
- 実施間隔や調査形式
- 評価者
- 解析方法やフィードバック方法
360度多面評価を導入する際は、あらかじめ長期的な運用を念頭に置いて、現場負担が大きくならないよう定めていくことも重要です。
③フィードバックと課題を考える
評価結果のフィードバックは、調査実施の成否を左右するほど重要な工程です。フィードバック担当者の主観を交えず、被評価者の実態を本人が認識できるよう次の点に注意して実施しましょう。
- 主観を入れずに事実だけを伝える
- 事実の要因は本人に考えさせる
- 具体的な行動に落とし込むための支援を行う
フィードバック担当者の主観が加わると、各評価者の回答要素が本人に正しく伝わらない恐れがあります。