労働力人口の減少や働き方の多様化に伴い、従業員満足度の向上は業界規模を問わず喫緊の課題として叫ばれています。ここでは従業員満足度向上の取り組み事例を紹介します。
目次
1.従業員満足度向上の取り組み事例について
従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)とは、会社に対する従業員の満足度を高めると、会社全体の業績向上につながる、という考えのこと。
90年以上前のアメリカで調査が始まったとされていますが、現在でも会社の業績向上に欠かせない指標として注目を集めているのです。
2.従業員満足度について
従業員満足度は、次の5つの要素から構成されています。
- 企業理念やビジョンへの共感:会社の一員であることに誇りを持っているか、目指す目的地ははっきりしているか
- 社会および業績への参画度:働くことでどれだけ社会に(会社の業績に)貢献できているか
- マネジメントへの納得感:上司から認められているという承認感はあるか
- 職場環境:ワークライフバランスを実現する福利厚生はあるか
- 企業風土:柔軟なコミュニケーションを図れるか、メンバー間で関心を持ち合えるか
従業員満足度の向上によって企業が得られるメリット3つ
従業員満足度を向上させると、3つのメリットが得られます。
- モチベーションと生産性を高める:やりがいを感じると従業員は自発的に動くようになり、結果として企業全体の生産性が高まる
- 優秀な人材を定着させる:従業員が働き続けたいと感じる環境を整え、人材の定着、離職率の低下、採用活動に好影響を与える
- 顧客満足度(CS:customer satisfaction)を高める:自社の愛着を高め、「顧客に対してよりよい価値を届けたい」と思うと顧客満足度が高まる
従業員満足度とエンゲージメントとの違いとは?
従業員満足度と似た言葉に「エンゲージメント(engagement)」があります。人事領域が指すエンゲージメントの高い状態とは。「従業員みずからが組織に貢献する意欲を持って業務に打ち込んでいる状態」のこと。
従業員満足度が従業員側から見た満足度を一方向的に測定したものを指すのに対し、エンゲージメントは組織と従業員、双方向的な関係を測定したものとなります。
【世界ランキング】従業員満足度が高い企業とは?
Great Place to Work(GPTW)では世界における「働きがいのある会社」ランキングを公開しています。2019年版のベスト5は、下記のとおりです。
- Cisco
- Hilton
- Salesforce
- DHL Express
- Mars, Incorporated
日本でも複数企業が調査対象となりましたが、残念ながら日本の企業は25位以内にランクインしませんでした。
3.従業員満足度を向上させた企業の取り組み事例
それでは従業員満足度を向上させた企業の取り組み事例を具体的に見ていきましょう。必ずしもすべての企業に共通して通用する取り組みはないのです。しかし今からすぐ自社に取り入れられる施策があるかもしれません。
サイボウズ
サイボウズは「Kintone」や「サイボウズoffice」などのグループウェアを開発・販売する企業です。「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念にもとづいて、チームワークあふれる社会を創るための活動を続けています。
サイボウズの抱えていた課題
2005年、サイボウズでは離職率28%という過去最高の水準を記録しました。毎週のように送別会が続き、オフィスの雰囲気もよくない期間が続いていたといいます。
この時期は流動の激しいWeb・IT業界において、2度目のITバブルがはじけた時期でもありました。また同社でも長時間労働や休日出勤が日常化し、人材の定着率に課題を抱えていたのです。
取り組みの内容
サイボウズでは人材の採用、定着を強化するため「100人100通りの働き方」の実現に取り組みました。同じ従業員でも「仕事を重視する」「仕事とプライベートを両立させたい」など、さまざまな人が存在します。
そこでワークライフバランスに配慮した制度や、社内コミュニケーションを活性化する施策を実施した結果、28%の離職率は4-5%に低下したのです。
そしてGPTWジャパンが発表した「2020年版 日本における働きがいのある会社」ランキングの中規模部門で、第2位にランクインしました。
ディスコ
ディスコは高度な「切る・削る・磨く」の3種類の技術に特化して、精密加工装置やツールの開発・製造を手掛ける企業です。おもな顧客は半導体や電子部品のメーカーで、自社製品の大半が7-8割の世界シェアを誇ります。
ディスコの抱えていた課題
ディスコでは「事業経営と組織経営を共に追求し、どんな環境でも生き残れる強い会社を創る」といった「DISCO VALUES」の浸透に手ごたえを感じていました。しかし、従業員満足度調査で予想外の結果が出てきたのです。
その声は、「従業員同士の連帯感が薄い」「評価制度に不満を抱える部署がある」「働きがいがない」といったものでした。
取り組みの内容
結果を受けて同社は、現状の評価制度で従業員のモチベーション維持は難しいと判断。そこで従業員のやる気を引き出す、納得度の高い人事制度をすぐさま導入したのです。
チームの信頼関係を「見える化」した新制度にて、リーダーとメンバーの双方向でコミュニケーションを取れる環境を整備しました。匿名形式のアンケートを実施し、日常の業務では出てこない疑問や意見をすくい上げて、双方向の信頼関係を構築したのです。
ディー・エヌ・エー
ソーシャルゲームプラットフォーム「Mobage(モバゲー)」やEコマース、球団運営など幅広い事業を展開するディー・エヌ・エーは、自分たちを「永久ベンチャー」と表現し、昨日より今日、今日より明日の進化を続けたいという思いで幅広い領域に挑戦しています。
ディー・エヌ・エーが抱えていた課題
ディー・エヌ・エーが抱えていた課題は「能力を活用できていない」「仕事にやりがいを感じられない」など、自らの仕事内容に不満を抱いている従業員の存在でした。
具体的には、「自身の強みを活かせていかせていないのでは」「巨大化する組織の中で従業員の特性が埋もれているのではないか」といったもの。そこで新たに立ち上がったのが、2017年に開始した人事プロジェクト「フルスイング」でした。
取り組みの内容
新プロジェクトの第一弾の取り組みとして「シェイクハンズ制度」を導入しました。これは本人と異動先の部署の合意さえあれば、人事や現上司の承認なしに異動できるものです。
それまでも一般的なキャリア公募制度はありましたが、厳しい選考があったり、ポジション数が限られていたりして異動のハードルは高く設置されていました。
新制度導入の結果、約3か月で20件以上の異動が決定。これにより従業員本人のパフォーマンスがあがり、組織全体の成長につながったといいます。
ユーザベース
ユーザベースは「経済情報で、世界を変える」というミッションにもとづいて、グローバルに事業を拡大する企業です。
世界に6拠点を構え、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」や、世界の若手ビジネスリーダー向けにグローバルな経済ニュースを配信する「QUARTZ」などのサービスを提供しています。
ユーザベースの抱えていた課題
同社が課題としていたのは、従業員数の拡大とともに組織の共通価値観、バリューが浸透しなくなっていった点でした。
そして個性豊かなメンバーが揃うなか2012年、内部崩壊の危機に直面します。従業員それぞれの見る景色が異なり、全員が迷わず同じ方向に進むことが困難になってしまったのです。そこで実施したのが「The 7 Values(7つのルール)」の設定でした。
取り組みの内容
同取り組みで制定したのは以下のルールです。
- 自由主義で行こう
- 創造性がなければ意味がない
- ユーザーの理想から始める
- スピードで驚かす
- 迷ったら挑戦する道を選ぶ
- 渦中の友を助ける
- 異能は才能
2016年の上場のタイミングで、これをさらにブレイクダウンした「31の約束」を制作しました。リアルなシーンに落とし込み「何となくこんな感じ」では伝わらない共通の価値観を言語化して、従業員満足度の低下を防いだのです。
iYell
iYellは住宅ローンに関するソリューションを提供している会社です。「人が生み出す信頼を社会に伝えていきたい」という思いをもって2016年に生まれました。
GPTWジャパンが発表した「日本における働きがいのある会社」ランキングの小規模部門にて、2年連続ベストカンパニーに選出されています。
iYellの取り組み事例
2016年5月に誕生したばかりの同社は創業当初から、「従業員ファーストの経営」を貫いています。これにはお客様第一主義を目指した結果、離職率が挙がるケースを見てきた背景があるのです。
従業員が辞めると会社には少なからず業務の引き継ぎが発生します。どれだけ万全な引継ぎができたとしても、顧客に迷惑をかけることは避けられません。
取り組みの結果
同社では、従業員ファーストの経営が、まわりまわってお客様のためになると考えています。
2019年1月時点で従業員数は100名を突破。その半分がリファラル採用(すでに自社で働いている従業員から人材の紹介を受けたり、人材を推薦してもらったりして採用活動を実施すること)でした。
従業員ファーストの経営を行うことで従業員が従業員を呼ぶため、新規採用にかかる費用を抑えられます。また経営理念の決定プロセスに全従業員を介在させ、当事者意識を徹底しました。従業員の目線を合わせ「自分ごと」にしていくことが大切と分かる事例です。
ストライプインターナショナル
ストライプインターナショナルは、20年間アパレル企業として培ったノウハウを活かし、衣・食・住、IT領域と幅広い分野に新しい価値を生み出している企業です。
2018年には大人のためのECデパートメント「STRIPE DEPARETMENT」を開始。「ポケットに入るデパート」としてプラットフォーム事業の拡大を続けています。
ストライプインターナショナルの抱えていた課題
従業員の9割を女性が占める同社では、結婚や出産、育児や介護などによる意に反した退職を迫られられない環境づくりを課題としていました。日本一女性が働きやすい職場にするためにはまず、残業時間の削減が目下の課題だったのです。
そこで同社は次の3つの取り組みを実施しました。
- 会議数を減らす
- 会議時間を半分にする
- 出席人数を減らす
取り組みの内容
はじめに会議室の利用をなくし、オープンなミーティングスペースを利用するようルールを改めました。
同社の会議では、原則として大型液晶モニターやプロジェクターを使用しません。資料を事前に作成し、社内共有サーバーにアップして説明に終始する情報共有的な打ち合わせを省きます。
ホワイトボードを使用しないため参加人数は最小限になり、参加者同士は適度な距離感を保てます。「会議のスリム化」をはかって残業時間の削減を目指し、従業員満足度の向上を実現したのです。
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのミッションは「世の中を変えるファシリテーター」。自身の変革マインドを引き出す「ファシリテーション型変革コンサルティング」を武器にして、クライアントの変革を成功に導いています。
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの抱えていた課題
同社では2001年のネットバブルが弾けた際、トップマネジメントを担っていた人材の大幅な引き抜きが行われました。それまで100名近くにまで増えた人材が1/3になり、会社の存続が危ぶまれたのです。
即戦力重視で採用を進めていた当時は自社カルチャーへの共感も薄く、引き抜きの状況を目の当たりにして将来に不安を感じる従業員も後を絶ちませんでした。
取り組みの内容
この課題を受け、ケンブリッジでは30数人という小所帯を活かしたビジョン・ミッション・バリューの強化に取り組みます。カルチャーに共感できる人材を慎重に採用し、価値観を共有しながら長期的な育成を進めたのです。
同社では、「相互理解の深まりから信頼が生まれるのは、経営層と従業員、コンサルタントとクライアントも同じ」と考えています。
結果、従業員の管理者層に対する信用や公正の高さから、GPTWジャパンが発表した「日本における働きがいのある会社」ランキングにて4年連続ベストカンパニーに選出されています。
メルカリ
メルカリでは日本最大のフリマアプリ「メルカリ」や、アプリ内で簡単に決済が行える「メルペイ」を運営しています。フリマアプリの流通総額は年間5,000億円。
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、誰もがかんたんにモノの売り買いを楽しめるサービスを提供しています。
メルカリの取り組み事例
メルカリでは新規採用で人材を募るだけでなく、すでに入社した人材の成長や活躍支援に注力しました。
産休・育休中の給与を100%保障する「merci box」や、異なる国籍や文化を持つメンバーが円滑なコミュニケーションをはかれる翻訳・通訳のサポート、エンジニアがパフォーマンスを最大限発揮するための最新デバイスの貸与など、ユニークな福利厚生制度を充実させていったのです。
取り組みの結果
柔軟に働ける環境が整った結果、新規採用と既存人材の定着、両面で効果を発揮しました。結婚や出産、育児などのライフイベントを迎えても柔軟に対応できる風土が構築されたのです。
もちろん制度があっても利用さけなければ意味がありません。しかしメルカリでは社長が率先して育児休暇を取得したり、男性の所得率が9割を超えていたりと生きた制度になっているのです。
フレックスタイム制の導入や副業の容認も後押しして、プライベートの充実や生産性の向上を実現した事例といえます。
富士屋ホテル
140余年の歴史を受け継ぐ箱根屈指の老舗、富士屋ホテル。1878年(明治11年)の創業以来、日本初の本格リゾートホテルとして国内外の顧客に上質なサービスを提供し続けています。
箱根、山梨、大阪に6つのホテルを構える富⼠屋ホテルの社是は、創業以来変わらない「⾄誠」です。
富士屋ホテルの抱えていた課題
宿泊業は土日勤務や深夜勤務など不規則な業務が続くため、どうしても離職率が高くなります。これは富士屋ホテルも同様に抱える課題でした。
調理人や施設管理などの技術職には70歳を超える従業員も多数在籍しており、さらには紙ベースで行われている人事評価も少なくなかったといいます。現場の希望に対して、即座に対応できる体制が整っていなかったのです。
取り組みの内容
そこで同社は全従業員の顔と名前、パーソナリティをデータベース化しました。それまで紙で管理していた面談記録をクラウドで一元管理し、役員や人事、本部のすべてでスムーズに共有できるようにしたのです。
その結果、データ管理にかかる時間の大幅削減に成功。責任ある立場の事業所支配人も、従業員が真剣に書いたメッセージにしっかり目を通せるようになったといいます。
また異動希望をタイミングよく把握できたため、キャリアの不満や離職につながる不安をも払拭できました。