従業員満足度とは、企業に対して従業員がどれだけ満足しているかの指標です。従業員満足度を向上させると、生産性の向上や人材の定着、顧客満足度の向上などさまざまな面でメリットがあります。
今回は従業員満足度とは何かをふまえて、従業員満足度が上がる・下がる要因や高める方法、調査方法などを詳しくご紹介します。
目次
1.従業員満足度(ES)とは?
従業員満足度(ES)とは、職場環境や働きがい、福利厚生などにおける従業員の満足度を示す指標のこと。
ESは「Employee Satisfaction」の略です。アメリカの心理学者 エドウィン・A・ロック氏は、従業員満足度を「個人の仕事への評価や仕事からの経験によってもたらされる喜ばしい、もしくは肯定的な感情」と定義しています。
従業員満足度は、定着率やパフォーマンスの向上などにつながるもの。よって従業員満足度の向上は企業として優先的に取り組みたい課題のひとつです。従業員満足度を向上するには、定期的に従業員満足度を調査し、満足度の低い項目に改善策を図ります。
従業員満足度とエンゲージメントの違い
- 従業員満足度:職場環境や人間関係、給与やキャリアの成長機会、福利厚生などから評価する
- 従業員エンゲージメント:従業員の仕事に対する意欲や主体性、責任感などから評価する、従業員満足度の延長線上にある
つまり、従業員満足度は従業員の幸福感や働きやすさに、従業員エンゲージメントは従業員の貢献度や関与度に焦点を当てた指標です。組織にとっては、どちらも欠かせない重要な要素となります。
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2.従業員満足度が重視される理由
従業員満足度が重視される背景には、人材の確保と流動化への課題があります。
現代の日本は、少子高齢化により労働人口が減少しているため人材の確保が難しい状況にあり、とくに優秀人材の確保は困難を極めます。また、働き方の多様化や転職の一般化、終身雇用制度の実質的崩壊によって人材の流動も激しくなっているのが現状です。
そのようななか職場への不満があり、改善されなければよりよい職場に転職しようとの意思決定が早い傾向にあります。そうした状況下で人材を確保しつつ流出を防ぐために、従業員満足度を高めることが重視されているのです。
3.従業員満足度を向上させるメリット
従業員満足度を高めると、企業側にも多くのメリットがもたらされます。重要性とあわせて、満足度を向上させるメリットもおさえましょう。
- 生産性が向上する
- 人材が定着する
- 顧客満足度が高まる
①生産性が向上する
従業員満足度が高い=労働条件や労働環境、職場の人間関係などに不満がない状態です。こうした状態ではモチベーションを高めながら業務に集中して取り組め、仕事に対しても前向きかつ意欲的な姿勢が保ちやすくなります。
また、能動的に仕事に取り組むようになり、生産性向上にもつながるでしょう。
意欲的な従業員が増えれば組織の生産性が向上するだけでなく、コミュニケーションの活性化やイノベーションの創出も期待できます。結果的に業績アップや企業の発展に貢献するのです。
②人材が定着する
従業員満足度が高いと転職するメリットがないため、人材の流出を防ぎ、定着率を高めます。人材が定着すれば、それだけ採用や育成にかかるコストの削減も可能です。また、離職率や定着率は求職者からみても重要な指標といえます。
離職率が低く、定着率が高い企業は魅力的であり、採用力の強化にもつながるでしょう。
③顧客満足度が高まる
従業員満足度が高いと従業員エンゲージメントも高まる傾向にあり、相乗して顧客満足度の向上にも期待できます。
というのも、満足度やエンゲージメントが高いと自社の商品やサービスへの愛着が高くなり、よりよい商品・サービスを顧客に提供したいという気持ちになるからです。その結果、サービスの質が向上し、顧客満足度が高まるよいサイクルが確立されます。
複数の調査においても従業員満足度と顧客満足度の相関は証明されており、従業員満足度なくして顧客満足度は上がらないといっても過言ではありません。
4.従業員満足度が上がる要因
従業員満足度を高めるには、これらの要素において従業員が満足している必要があります。ここでは、各要因を詳しく解説しましょう。
- 共感できる企業理念・ビジョン
- 快適な職場環境
- 良好な人間関係
- 公平な評価制度や報酬制度
- キャリア成長の機会
- 充実した福利厚生
①共感できる企業理念・ビジョン
企業理念やビジョンに共感できていると、会社に対して誇りや期待感を持って仕事に取り組めます。従業員が自社の理念やビジョンを説明できる場合は、共感している傾向にあるのです。
会社への信頼度が高く働きがいを感じられ、納得感を持って業務に取り組めれば、パフォーマンス向上にもつながるでしょう。ただし、強制的に共感させるような場合、反発を生んでしまうため逆効果です。
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②快適な職場環境
労働環境や適切な業務量、自分に合った仕事に取り組めているなど、職場環境にはさまざまな要素があります。
また、ワークライフバランスを保って働けているかどうか、も重要なポイント。「心身ともに健康な状態で働けている」「プライベートも大切にしながらバランスよく働けている」と従業員満足度も高まります。
③良好な人間関係
上司や同僚など、社内での人間関係は満足度に大きく影響します。良好な人間関係を構築するうえでは「円滑なコミュニケーションが取れている」「ハラスメントがない」「相談できる環境である」「孤立化していない」といった要素が重要です。
お互いが信頼関係を築けているなかで働けると心理的安全性が高い状態になるため、従業員満足度も上がります。
④公平な評価制度や報酬制度
公平な評価制度や報酬制度が確立しているのも、従業員満足度において重要な要素です。頑張りが正しく評価され、報酬に反映されていると満足度が上がる一方、人によって評価や報酬が大きく異なる、適切だと感じられない場合には、不満が募ります。
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⑤キャリア成長の機会
ただ業務をこなすだけでなく、そのなかで必要なスキルや能力を伸ばせる機会があったり、明確なキャリアパスのもと目標をもって業務に取り組めたりする環境は従業員満足度を高めます。
一方、キャリア成長の機会がないと、将来的に継続して働くビジョンも見えなくなってしまうもの。将来が明確であり、そのために必要なトレーニングやスキル開発がなされる機会が設けられていると、従業員満足度も向上します。
⑥充実した福利厚生
充実した福利厚生は、安心感や満足度の向上につながります。手当や制度が充実しているだけ安心して働ける一方、福利厚生が整っていないと長期的に働くことに対して不安になりやすいでしょう。
ただ福利厚生を用意するだけでなく従業員のニーズに合わせた福利厚生があると、より満足度も高まります。
5.従業員満足度が下がる要因
従業員満足度が下がる要因として挙げられるのは、従業員満足度が上がる要因となる要素に不満が生じていること。具体的な要因には、下記が挙げられます。
- 企業理念やビジョンに共感できない
- 働きにくい職場環境
- 人間関係に問題がある
- スキルやキャリアを成長させる機会がない
- 評価制度や報酬制度に不公正さを感じる
こうした事態に発展する要因は「コミュニケーション不足」「過度な業務量」「キャリアパスが整っていない」「福利厚生や評価制度が整備されていない」などさまざま。従業員満足度がどういった点で向上するかを理解すれば、必然と下がる要因も明確になります。
6.従業員満足度を高める方法
従業員満足度が高まると、企業に多くのメリットがもたらされます。ここでは、従業員満足度を高める具体的な方法をご紹介しましょう。
- 企業理念やビジョンの共有・浸透
- 職場環境の整備
- 適材適所な配置
- 社内コミュニケーションの活性化
- 評価制度の見直し
- 福利厚生の整備・充実
①企業理念やビジョンの共有・浸透
企業理念やビジョンがただあるだけでは浸透しません。ミーティングや全体会議などを活用して共有し、浸透を図ることが必要です。
理念やビジョンへ共感してもらえ、かつ浸透すれば組織に一体感も生まれやすくなり、従業員も納得感を持って仕事に取り組めるでしょう。
また、個人目標に落とし込むと、目標の達成が企業理念・ビジョンにつながります。それにより「自分の仕事が企業理念・ビジョンの実現につながっている」と実感しやすくなり、さらなる浸透にも有効です。
②職場環境の整備
業務効率化や多様な勤務形態の提供など、職場環境を整備すると働きやすさが増し、従業員満足度の向上につながります。また「適切な業務量か」「責任が個人に偏っていないか」などにも着目することがポイントです。
③適材適所な配置
従業員が納得して仕事に取り組むには、適材適所な配置も重要なポイント。適材適所な配置が実現すれば自分の強みが発揮できるため、よい評価にもつながるうえ、活躍・成長しやすい環境に身を置けるためやりがいも感じやすくなります。
従業員のスキルや経験を把握したうえで配置を検討したり、従業員が自発的にやりたい仕事に取り組める社内公募制を採用したりするなど、方法はさまざまです。
④社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化は心理的安全性を高めるため、良好な人間関係が構築されやすくなります。またアイデアや意見交換も活発に行われるため、イノベーションも生まれやすくなるでしょう。
社内コミュニケーション活性化のためにできる取り組みはチャットツールやフリーアドレス制度の導入、オープンスペースの設置、社内イベントの開催などさまざまです。
ただし、人によって他者と保ちたい距離感は異なるもの。コミュニケーションを強制するような過剰な施策は逆効果です。
⑤評価制度の見直し
明確な評価制度は、従業員のモチベーションや満足度向上に大きく影響します。企業側は「なぜその評価になったのか」「なぜ昇格・昇給できないか」理由を明確に説明できることが求められます。
公平かつ客観性のある評価制度になっているか、今一度見直してみましょう。
⑥福利厚生の整備・充実
金銭的な手当や休暇制度など、福利厚生を充実させると、より働きやすい環境を作っていけます。法定外福利厚生は自社で自由に導入できるため、従業員の声を取り入れると、満足度も高まるでしょう。
ただし、福利厚生が充実しているだけで活用されなくては意味がありません。積極的に活用できる環境づくりも大切です。
7.従業員満足度を調査する方法
従業員満足度は、調査によって測定可能です。ここでは、従業員満足度の代表的な調査方法をご紹介します。
- アンケート
- インタビュー
- 人事データの分析
- ツール・システム
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①アンケート
従業員満足度を調査する最も代表的な方法です。基本はWeb上で行われ、満足度を測るための質問項目を設定し、回答してもらいます。質問として設定されるのは「仕事」「職場」「処遇」「メンタルヘルス」など。下記は、アンケートでの質問例です。
仕事に対する質問例
- 今の仕事に満足していますか?
- 長く働きたいと感じますか?
- やりがいを感じますか?
処遇に対する質問例
- 現在の給与に満足していますか?
- 昇給や昇格は適正だと感じますか?
- 労働時間は適正だと感じますか?
職場に対する質問例
- チームや上司からのサポートはありますか?
- 社風に馴染めていますか?
- メンバー同士のコミュニケーションは活発ですか?
メンタルヘルスに対する質問例
- ワークライフバランスは確保できていますか?
- 悩みを相談できる相手はいますか?
- 社内での人間関係はよいと感じますか?
アンケートは、質問数が多いほど手間がかかるため、基本的に回答は選択式になります。そのため全体的な満足度は調査できるものの、詳細まで深ぼるのが難しい点に注意が必要です。
また、アンケート後さらに調査・分析して情報の補充が必要なケースもあります。
②インタビュー
「小規模な範囲で調査したい」「特定のテーマについて詳細な情報を得たい」場合にオススメの方法です。一人ひとりに質問できるためアンケートより詳細な調査ができる一方、時間とリソースが必要となります。
また、企業や質問者との関係性によっては正直な回答が得られない場合も。匿名で行うアンケートよりも回答の質が低下する可能性のある点に注意です。
③人事データの分析
離職率や離職理由、パフォーマンスなどの人事データの分析によって調査するのもひとつ。人事情報を管理するツールによっては、マトリクス分析によって多角的なデータを組み合わせて分析するのも可能です。
人事データをもとにした課題からダイレクトに分析できるため、従業員がどの点に満足していないか、調査するために役立ちます。
離職系のデータに関してはすでに離職している人のものになってしまうでしょう。それでも既存従業員のなかに同じような不満を抱えている可能性も考えられるため、活用できます。
④ツール・システム
タレントマネジメントシステムといった従業員データを管理するツールやシステムに従業員満足度を調査・分析する機能が備わっている場合、そこから調査できます。
カオナビでは、パルスサーベイやアンケートから従業員の不満・満足を可視化できるだけでなく、一元管理された従業員情報を活用して従業員一人ひとりに即した具体的な施策まで検討することが可能です。
ツールやシステムは手軽に調査できるだけでなく、あらゆるデータを活用して多角的に分析し、具体的な打ち手まで検討できるメリットがあります。
パルスサーベイとは? 意味や目的、導入メリット、質問項目例
パルスサーベイとは、従業員の離職防止や満足度向上を目的に短いスパンで行う意識調査のこと。従業員の離職や満足度に課題を抱えている場合、解決の糸口としてパルスサーベイの実施を検討している企業も多いでしょう...
8.従業員満足度向上の取り組み事例
企業によって、従業員満足度向上のための取り組みはさまざまです。取り組み事例から、従業員満足度向上のアイデアを検討する際の参考にしてみてください。
- 【DeNA】シェイクハンズ制度
- 【富士通ラーニングメディア】サンクスカード
- 【メルカリ】多彩でユニークな福利厚生
①【DeNA】シェイクハンズ制度
2017年8月よりスタートしたシェイクハンズ制度は、本人と異動先の上長が合意すれば現在の部署の上長や人事の承認なしに異動できる人事制度です。入社から1年以上経過した正社員であれば、誰でも利用できます。
月に1回行う「キャリアマネジメントアンケート」から、「能力が最大限発揮できているか」「今の仕事へのやりがい」に高いスコアをつけている従業員が6割、そうでない人が4割いると判明。
4割の活性化に向けて、従業員が自発的に自分の能力を最大限発揮でき、やりがいが感じられるポジションにつけるようシェイクハンズ制度を導入しました。
②【富士通ラーニングメディア】サンクスカード
2006年11月、社内コミュニケーションの活性化や相手の立場に立って考える力や気づき、感謝心の向上を目的にサンクスカードを導入しました。
サンクスカードがあることで素直に「ありがとう」と言える雰囲気が作られただけでなく、そのために相手の仕事を知ろうとする雰囲気も醸成されました。
結果、ほか部門の人とも交流しやすくなり、円滑に仕事が進めやすくなっただけでなく、一体感や親密度の向上にも貢献。
ありがとうといわれることは、やりがいにもつながり、そうした文化が従業員のやる気や満足度を高める要因ともなった事例です。
サンクスカードとは?【導入効果】デメリット、成功事例
サンクスカードとは、上司や同僚に感謝の気持ちを伝えるカードのことです。導入のメリットとデメリット、導入の注意点、運用のポイントなどを解説します。
1.サンクスカードとは?
サンクスカードとは、上司や...
③【メルカリ】多彩でユニークな福利厚生
「コアタイムなしのフレックス制度」「有給とは別に自分自身や家族、ペットなどの病気や怪我を事由とした休暇を年10日間付与」「自由なタイミングで取得できる年3日間のリラックス休暇」など、多様な働き方や休暇制度を導入しました。
また、最適なデバイスの貸与や副業の推進、ドリンクの無料提供など職場・労働環境の充実にも取り組んでいます。
さらに、2016年2月に導入した人事制度「merci box(メルシー・ボックス)」では、下記のようなライフイベントにかかわる福利厚生を充実させました。
- 産休・育休・介護休業の支援
- 育児・介護休暇の取得
- 妊活サポート
- 卵子凍結費用の補助
- 病児保育費の支援
- 認可外保育園の補助
何かあったときでも福利厚生によって手厚いサポートが受けられる安心感は、従業員満足度にも大きく影響しています。