従業員満足度を向上させるための取り組みは、企業の継続的な成長に欠かせません。従業員満足度は、2019年に施行された「働き方改革」の指標として用いられています。
目次
1.従業満足度を向上させる取り組みにおいて必要なこととは?
従業員満足度を向上させる取り組みには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは3つの視点から、従業員満足度を向上させる取り組みについて解説します。
- 企業理念やビジョンへの共感と理解
- 働きやすい職場環境の整備
- 福利厚生の充実
①企業理念やビジョンへの共感と理解
まずは企業ビジョンや理念を従業員に発信・浸透させ、従業員の理解を得る必要があります。「自分たちの仕事が社会にどう貢献しているのか」「会社の一員であることに誇りを持てるか」などで組織全体が一丸になると、より強固な組織が構築できるのです。
「会社としての使命は何か」「目指す目的地はどこか」、これらを言語化して、従業員に浸透させましょう。
②働きやすい職場環境の整備
従業員満足度を向上させる取り組みとしては、職場環境の整備も有効です。給与改定をこまめに行ったり、評価制度を明瞭化したりして従業員の納得感を高めましょう。
不明瞭な評価や古くから使用している給与規定のままでは、従業員満足度を下げる恐れがあります。
もちろん職場環境の整備も大切です。「オフィスを綺麗で快適な空間にする」「社内インフラを整える」「エンジニア用にデバイス周りや椅子などをグレードアップする」などで、従業員満足度を高めましょう。
③福利厚生の充実
福利厚生の充実も、従業員満足度を向上させる取り組みとして欠かせません。働き方の多様化が叫ばれる昨今、福利厚生への関心は年々高まっています。
重要なのは、従業員が求める福利厚生の充実。「会社が一方的にメニューを提供しても、従業員が満足するとは限らない」点に注意しましょう。
またせっかく導入したものの従業員に浸透せず使われない、ケースも少なくありません。名ばかりの制度にならないよう、積極的な推進が求められます。
2.そもそも従業員満足度とは何か?
従業員満足度(ES:employee satisfaction)とは、会社に対する従業員の満足度を高めると会社全体の業績向上につながる、という考えのこと。
厚生労働省の調査によると、従業員満足度を重視する企業は、顧客満足度のみを重視する企業に比べて「売上高」「営業利益率」「売上高」ともに増加傾向にあるそうです。
従業員満足度が重要視される背景
従業員満足度の向上が注目されるようになった背景には、さまざまな要因があるといわれています。
- 顧客満足度との関係:従業員がやりがいや熱意を持って職務に取り組めれば、おのずと顧客満足度も向上すると考えられる
- 離職率の低下・人材確保:「休みが取れない」「福利厚生がない」といったストレスや疲労が従業員のモチベーションを下げ、離職につながっている
- 生産性向上の必要性:少子高齢化や労働人口の減少から、従業員一人ひとりの生産性を高めることが求められている
従業員満足度の構成要素
従業員満足度を構成する要素は、次の5つに大別されます。
- 企業理念やビジョンへの共感:ビジョンがしっかり浸透していると、従業員は会社の一員であることに誇りを持てる
- 納得感の高いマネジメント:上司、会社から認められているという承認感を得られる
- 参画、業績への充実度:自己成長を感じ、仕事の社会的意義を感じられる
- 企業風土の快適さ:柔軟なコミュニケーションが実現すると、ビジョンの浸透やマネジメントの納得感を向上できる
- 職場環境の快適さ:基本的な労働条件が整備・サポートされている
3.従業員満足度が高い企業の特徴とメリット
政府が推奨する「働き方改革」と方向性が一致するため、今後ますますの注目が期待される従業員満足度。高めるとどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは従業員満足度を向上させるメリット3点について、解説します。
- 会社に愛着心を持つため、生産性が高まる
- リピート顧客の増加
- 会社に適した(会社が必要としている)優秀な人材の確保
①会社に愛着心を持つため、生産性が高まる
従業員満足度の高い企業は、従業員が企業に愛着を持っているため、生産性が高い傾向にあります。仕事へのやりがいを感じている従業員は、仕事を他人事ではなく自分事として捉えられるのです。
結果、従業員自らが自発的に動くようになり、パフォーマンスおよび生産性が高まります。
②リピート顧客の増加
従業員満足度を高めると、リピート顧客の増加も期待できます。従業員満足度の高い従業員は、自社サービスや業界の知識を豊富に持つだけでなく、サービスや品質の向上に努めるのです。
「自社サービスに誇りを持ち、顧客に対して高い価値を提供したい」と考える従業員と「ノルマをこなすことが目標で、顧客の満足度はどうでもいい」と考える従業員。どちらにリピート顧客が増えるかは、いうまでもありません。
③会社に適した(会社が必要としている)優秀な人材の確保
従業員満足度が高ければ、自社を離れたいと考える従業員が減ります。働き続けたいと感じる環境が整っている点から、優秀な人材の定着が期待できるのも従業員満足度が高い企業の特徴です。
結果として、新規採用や教育にかかるコストの削減にもつながります。優秀な既存従業員からの推薦で求職者が増えるケースや、採用活動に好影響を与えるケースもあるのです。
4.従業員満足度が低い企業の特徴とデメリット
一方、従業員満足度が低い企業にはどのような特徴があるのでしょう。ここでは従業員満足度の低下が招くデメリットを3点に絞って、解説します。
- 従業員の視野が狭く、改善意識が低い
- 育成環境が整っていないため、人材が定着しない
- 企業に対する不信感があり共感できない
①従業員の視野が狭く、改善意識が低い
従業員満足度の低い企業では、積極的なコミュニケーションが行われていません。業績改善にも意識が向かないため、非効率な業務に気付きにくくなります。
また従業員それぞれが短絡的な目標を狭い範囲で設定しているため、視野や発想が狭まっている場合も多々。結果、自分の業務にしか関心を持たず、企業全体の生産性が下がっているのです。
②育成環境が整っていないため、人材が定着しない
社内教育制度が整っていない企業も、従業員満足度が低い傾向にあります。かつて終身雇用制度が実現できた頃は会社への帰属意識が高かったため、「この会社で何とか頑張りたい」と思う従業員も存在したでしょう。
しかし現代、従業員の選択肢は増えました。結果、「成長できないなら別の会社に行こう」と考える従業員も増加したのです。
目先の経費節減や売り上げ確保にとらわれるばかりで、スキルやキャリアアップが望めない環境から優秀な人材が離れようとするのは、当然でしょう。
③企業に対する不信感があり共感できない
企業そのものに対する不信感も、従業員満足度を下げる要因となります。「仲のよい従業員のみ高く評価されている」「実務に見合った正当な評価がされていない」こういった環境下で、従業員満足度が向上するはずもありません。
従業員満足度の低い企業は、調査を通じて企業が抱える問題を顕在化し、従業員の不信感を払拭する必要があります。
5.従業員満足度を高めている企業の取り組み事例
従業員満足度を向上させるための取り組みは、企業の実例に学ぶのが一番です。ここでは従業員満足度の向上に取り組んだ4社の例を紹介します。
それぞれ自社の課題や特性に応じてさまざまな取り組みを行っています。必ずしもすべての企業に通用するという取り組みはないため、自社に活用できるかじっくり検討してみましょう。
VOYAGEGROUP
VOYAGE GROUPでは、「メディア関連事業」「リサーチ関連事業」「アドテクノロジー事業」「投資事業」の4つを展開しています。移り変わりが激しいインターネット産業において、ワンドメイン、ワンサービスで生き残りを図るのは極めて困難と考えていました。
人を軸にした事業開発会社を指向する同社。事業内容よりあえて「人」を軸にするという、独自の経営スタイルを掲げていた企業の事例です。
取り組み前の課題と取組後の効果
VOYAGE GROUPでは人事本部の実務的工数、現場のリアルな状況が管理できない点に課題を抱えていました。そこで独自に開発したのが「クルー満足度調査」と呼ばれるユニークな人事制度です。
従業員の本音をいかした従業員満足度調査は、他の評価結果や目標管理情報とあわせてクラウド上で管理されます。すべての情報が一元に管理されているため、アラートが立った際に多角的な要素からの分析・対応を可能にしました。
その結果、同社は「働きがいのある会社ランキング」(GPTW調査)中規模部門で3年連続1位を獲得したのです。
ジヤトコ
変速機や自動車部品の製造開発、販売を手掛けるジヤトコは労働時間の「見える化」を推奨し、生産性の向上を実現して「ベストプラクティス企業」に選定されました。
これは厚生労働省静岡労働局が毎年、長時間労働の削減に積極的に取り組んだ企業を選定し、魅力ある職場づくりに取り組んだ企業として発表する取り組みです。
取り組み前の課題と取組後の効果
同社ではパソコン上でリアルタイムに従業員の労働時間が管理できるシステムを導入しました。同時に法制化に先んじた勤務間インターバル制度の導入、在宅勤務の上限を週16時間から月64時間へと拡充するなどして労働時間の適正化を図ったのです。
あわせて休暇制度や在宅勤務の利用率を高め、結果、時間外労働の大幅な削減を実現し、従業員満足度の向上につなげました。
サイボウズ
キントーンやメールワイズといったグループウェアの開発・販売を行うサイボウズ。「チームワークあふれる社会を創る」を企業理念に掲げたサイボウズのソフトウェアは、企業規模の大小を問わず幅広い業界で利用されています。
同社が提供するグループウェア最大の特徴は「伝える手間」が省ける点。経営幹部の議事録から当日の出退勤まで、情報が流通するため自ずと議論も公明正大になり、「指示待ち」の状態を削減できたのです。
取り組み前の課題と取組後の効果
同社は、離職率が過去最高の28%を記録して以来、積極的に組織や評価制度を見直してきました。根源にあるのは「100人いたら100とおりの働き方があってよい」という考えです。
退職者に「またチームに戻れる」という安心感をもってチャレンジしてもらうため「育自分休暇制度」を導入したり、経済的にも精神的にも自立できるようにという観点から副(複)業を許可したりと、理想の働き方が実現できる環境づくりを続けています。
ディスコ
ディスコは高度な「切る・削る・磨く」の3種類の技術に特化して、精密加工装置やツールの開発・製造を手掛ける企業です。これら3つの技術領域を通して、科学を暮らしの豊かさや快適さに還元することを社会的使命としています。
「働きがいのある会社ランキング(GPTW調査)」において過去8回選出され、営業利益率10%超が続いている高収益企業です。
取り組み前の課題と取組後の効果
同社は関係の質を強化して組織の連帯感を高めるため、チームの「信頼関係を見える化」しました。「仕事の能力を認め合っているか」「同じ部門で働く同僚は誠実か」などのアンケートを通じて、部門ごとに信頼関係を数値化したのです。
取り組みを形骸化させないため「タウンミーティング」と呼ばれる社長と従業員との交流も実施。さらにタウンミーティングを部門単位にスケールダウンした場を設けて、リーダーとメンバーのコミュニケーションを図りました。
従業員満足度を高める取り組みは恒久的なもの、と体現した事例といえます。