働き方改革における有給取得義務とは、「使用者が労働者に対して年次有給休暇を年5日取得させる」義務が生じたこと。ここでは、改革の内容と年次有給休暇取得義務、年次有給休暇の管理に必要な内容などについて解説します。
1.働き方改革における有給取得義務とは?
働き方改革とは、働く人々それぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。
これによって2019年4月から、使用者は「法定の年次有給休暇が10日以上与えられているすべての労働者に対して、年に5日の年次有給休暇を取得させる」ことが義務化されました。
働き方改革を打ち出した背景
日本が直面する「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「働き方の多様化」などの課題・変化に対応するには、投資やイノベーションなどによる生産性向上とともに、労働者の満足度向上を実現する必要があります。
2.働き方改革の8つの柱
2019年4月より施行された働き方改革関連法。成立した法案は8つあり、各法案によって施行時期などが異なるのです。ここからは、働き方改革関連法の8つの法案について解説します。
- 有給休暇取得の義務化
- 残業時間の上限は原則月45時間
- 労働時間状況の把握
- 勤務間インターバル制度の導入
- 割増賃金率の改定
- フレックスタイム制の導入で柔軟な働き方を実現
- 高度プロフェッショナル制度
- 労働者の健康を確保するための産業医・産業保健機能
①有給休暇取得の義務化
従来、労働者が自ら申し出なければ、年次有給休暇は取得できませんでした。
しかし2019年4月の働き方改革による労働基準法改正により、使用者は労働者の有給取得の希望を聞いたうえで時季を指定して、年次有給休暇を年5日間確実に取得できるようにするとなったのです。これは、全企業を対象とした義務になっています。
②残業時間の上限は原則月45時間
残業時間の上限は、原則として「月45時間・年360時間」。たとえ繁忙期でもこれを超えると刑事罰が適用されるのです。大企業では2019年4月から、中小企業は2020年4月から施行されています。
目的は、これまで黙認されてきた長時間労働を是正して、労働者のワークライフバランスを保つことです。
③労働時間状況の把握
割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することが通達で規定されたのです。
それまで裁量労働制の適用者などは、通達の対象外でした。しかし改革後、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、客観的もしくはその他適切な方法で労働時間の状況を把握するよう法律で義務付けられたのです。
④勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度とは、勤務から次の勤務までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みのこと。
目的は、仕組みを企業の努力義務として、働く人々に十分な生活時間や十分な睡眠時間を確保することです。全企業を対象として、2019年4月から施行されています。
⑤割増賃金率の改定
働き方改革以前、月60時間超の残業割増賃金率は、大企業で50%、中小企業は25%でした。しかし改革後、月60時間超の残業割増賃金率は大企業・中小企業ともに50%としなければならないとされたのです。
大企業ではすでに適用されていますが、中小企業は2023年4月から適用される予定となっています。深夜労働(22~5時)を兼ねる場合、35%増しの賃金を支払う必要があるため、合計85%の割増賃金を企業は支払うことになるのです。
⑥フレックスタイム制の導入で柔軟な働き方を実現
従来、最大1か月単位だったフレックスタイム制の清算期間の上限が3か月単位に延長されました。これによって、子育てや介護といった生活上のニーズに合わせて労働時間が決められるようになり、柔軟な働き方が可能になったのです。
清算期間が1か月を超える場合、企業はフレックスタイム制の労使協定を労働基準監督署長に届け出る必要があります。
⑦高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識などを有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者について、働いた時間ではなく成果で賃金を評価する制度のこと。
対象は、「研究開発者やアナリスト、コンサルタントなどの職種」「かつこれらの職種にて年収が1,075万円以上の人」です。
⑧労働者の健康を確保するための産業医・産業保健機能
働き方改革により、産業医の衛生委員会内および事業者への権限の強化が規定されました。事業者は、産業医への情報提供を充実・強化させる必要があります。また産業医の活動と衛生委員会との関係強化を図らなければなりません。
さらに産業医などによる労働者の健康相談を強化し、事業者による労働者の健康情報に対して適正な取扱いを推進する必要が、あるのです。
3.年次有給休暇の基本条件と付与日数
年次有給休暇が付与される基本条件は、「雇入れの日から6か月以上継続して雇われている」「全労働日の8割以上で出勤している」です。ここからは、付与日数とパートタイム労働者の場合について見ていきましょう。
原則的な付与日数
使用者は、労働者が雇入れの日から6か月間継続勤務し、そのなかで全労働日の8割以上を出勤した場合、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。継続勤務6年6か月で年20日が、限度とされています。
パートタイム労働者について
パートタイム労働者など所定労働日数が少ない労働者の場合、
- 週所定労働時間が30時間以上の場合:通常の労働者と同じ日数を付与
- 週所定労働時間が30時間未満で所定労働日数が5日以上の場合:通常の労働者と同じ日数を付与
- 所定労働日数が4日以下の場合:所定労働日数に応じて比例付与
となっています。
4.年次有給休暇の付与のルール
年次有給休暇の付与にはルールがあります。一体どんなルールなのか、解説しましょう。
- 年次有給休暇を与えるタイミング
- 年次有給休暇の繰越し
- 不利益取扱いの禁止
- その他のルール
①年次有給休暇を与えるタイミング
年次有給休暇は、「労働者が請求する時季に付与する」とされています。労働者が具体的な月日を指定した場合、「時季変更権」による場合を除いて、その日に年次有給休暇を与える必要があります。
2019年4月の労働基準法改正により、年10日以上年次有給休暇が付与される労働者に対しては、使用者が時季を指定して、年5日取得させることが義務となりました。
②年次有給休暇の繰り越し
年次有給休暇の請求権の時効は2年。つまり付与日から2年以内であれば、年次有給休暇を繰り越して使用できるのです。
たとえば同じ会社で6年6か月勤務した場合、1年で最大20日の年次有給休暇が発生します。時効は2年ですので、繰り越される年次有給休暇は最大で40日となるのです。これ以上の休暇は累積されません。
③不利益取扱いの禁止
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、不利益な取扱いをしないように努める必要があります。不利益な取扱いには、「賃金や皆勤手当」「賞与の減額」「欠勤扱いとすることによる不利な人事考課」などが含まれます。
また年次有給休暇の取得理由や取得目的については労働者の自由であるとされており、そこに対して使用者の干渉は許されません。
④その他のルール
ここまで、年次有給休暇の付与にかんする主なルールをご紹介しました。しかしその他のルールもあります。
計画年休や半日単位年休、時間単位年休や特別休暇についてのルールです。これらの年次有給休暇を認めれば、労働者のライフスタイルに合った休暇制度が実現できるでしょう。
計画年休
年次有給休暇のうち5日を超える分は、労使協定を結べば付与日を決めたうえで労働者に年次有給休暇を取得させられます。計画的付与制度の導入においては、就業規則などに関連する社内規定の整備も必要です。
これにより年次有給休暇率の向上ならびに労働環境の向上が期待できます。
半日単位年休
年次有給休暇は、原則として1日単位で取得します。しかし労働者が半日単位での取得を希望して時間を指定して使用者が同意した場合、半日単位で年次有給休暇を与えられるのです。
「半日」は、正午で区分する午前と午後を指しています。また半日単位年休を設けるかどうかは使用者の任意で、労働者の権利ではない点に注意が必要です。
時間単位年休
1日単位の取得が原則となる年次有給休暇ですが、労働者が時間単位での取得を請求した場合、年に5日を上限として、時間単位で年次有給休暇を付与できます。
これによって労働者は、学校行事への参加や家族の介護など、さまざまな事情に応じて柔軟に休暇を取得できるでしょう。ただし時間単位年休を導入する場合、常時10人以上の労働者がいる事業所では、就業規則への記載が必要です。
特別休暇
年次有給休暇にくわえ、取得条件などを自由に設定できる会社独自の特別な休暇制度も設けられます。特別休暇と呼ばれる、会社が労働者に対して福利厚生として与える休暇です。
例として挙げられるのは、リフレッシュ休暇や慶弔休暇、夏季休暇など。一般的に特別休暇について決められた内容は、就業規則や労使協定に記載されます。
5.年次有給休暇5日取得の義務化
従来、年次有給休暇の取得日数について使用者には義務がありませんでした。しかし働き方改革後、使用者が時季を決めて、年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが義務となったのです。ここからは、年次有給休暇の年5日取得義務化について、対象者や時季などから解説します。
対象者について
使用者が年次有給休暇を年5日取得させる対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者です。そこには、「管理監督者」「パート・アルバイト」も含まれます。
年度の途中に育児休暇などから復帰した労働者も対象となるため、そのような場合、復帰後に年5日の年次有給休暇を取得する必要があるのです。
年5日の時季指定義務
使用者は労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。時季指定を行うタイミングは特に定められていないため、使用者は適時指定できます。
その際、年5日の年次有給休暇が確実に取得できるよう、さらには労働者の請求による取得の妨げにならないよう、十分に配慮する必要があるのです。
時季指定の方法について
使用者は、時季指定を行う際、労働者の意見を聴取しなければなりません。またできる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければならないとされているのです。
労働者の意見聴取は、面談や年次有給休暇取得計画表への記入、メールなど任意の方法で行います。勤怠管理ソフトなどの利用も可能です。
時季指定を必要としないとき
すでに5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対して、使用者は時季指定をする必要はありません。そもそも時季指定そのものができないのです。
また労働者自らの請求や計画的付与による取得日数が5日以上となっている場合も、時季指定を行えなくなります。たとえば労働者が自ら3日取得した場合、使用者は2日を指定できるのです。また計画的付与で2日取得した場合、使用者は3日を指定します。
年次有給休暇管理簿
使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、保存しなければなりません。年次有給休暇管理簿とは、時季や日数、基準日を労働者ごとに明らかにした書類のこと。
年次有給休暇管理簿は、当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存しなければならないとされています。必要なときにいつでも出力できる仕組みであれば、システム上での管理も問題ありません。
就業規則に規定
休暇に関する事項は、労働基準法第89条によって就業規則の絶対的必要記載事項とされています。
そのため使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合、時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法などについて、就業規則に記載する必要があるのです。使用者が時季指定を行う際は根拠が必要となり、それが就業規則の文言となります。
罰則などについて
年5日の時季指定義務・就業規則への規定に違反した場合、「30万円以下の罰金」「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される場合もあるのです。罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪となります。
たとえば労働者数100人の会社で全員が年に5日を取得できなかった場合、最大で3千万円の罰金となるのです。労働基準監督署の監督指導では原則、是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていくこととなっています。
6.年次有給休暇を管理するために
年次有給休暇の取得義務化はすでに、全企業を対象に施行されています。そのため、確実な管理・運用が必要、つまりそれぞれの職場の状況に応じた管理が求められるのです。
一体どのような方法があるのでしょうか。最後に、年次有給休暇の具体的な管理方法を2つご紹介します。
- 基準日を年始や年度初めに統一
- 基準日を月初などに統一
①基準日を年始や年度初めに統一
年次有給休暇の基準日を1つにまとめる方法があります。たとえば年始(1/1)や年度始め(4/1)に基準日を統一すると、より多くの労働者を統一的に管理できるのです。
仮に4/1に基準日を統一した場合、入社時点で10日付与し、その後最初に来る4/1に11日付与します。主に労働者数の多い大企業や新卒一括採用を行っている企業に適しているでしょう。
ただし入社日の違いによって次年度の付与までの期間に差は出る点に、注意が必要です。
②基準日を月初などに統一
入社が月の途中でも、基準日を月初などに統一する方法もあります。同じ月に採用した労働者の基準日を月初に合わせると、統一して管理できるのです。中途採用が多い企業や小規模事業者に適しています。
たとえば5/10に入社した人も5/20に入社した人も、年次有給休暇の付与日は「基準日が到来する月の初日に統一」すると考えるため、両者とも11/1が付与日になるのです。