「ナレッジワーカー」とは「知識労働者」のこと。コンピューターなどの進化により、形のないものを創造する機会が増えた結果、注目されるようになった言葉です。今回はナレッジワーカーについて解説します。
目次
1.ナレッジワーカーとは?
ナレッジワーカーとは、「ナレッジ(知識)」と「ワーカー(労働者)」を組み合わせた造語のこと。日本語に訳すと「知識労働者」で、企業に対して自身の持つ知識を活用して新たな付加価値を生み出す労働者を指します。
形のない知的生産物を生み出す労働者であるため、肉体労働といった単純作業でモノづくりをするのとは対極の存在です。
ナレッジワーカーの定義
ナレッジワーカーという言葉は、マネジメントという言葉を生み出したことで有名な、オーストリアの経済学者ピータードラッカーの提唱が始まりです。
彼が1969年に刊行した著書『断絶の時代』では、「ナレッジワーカーとは、知識経済を根本から支える高度な専門知識をもつ労働者」として定義づけされています。
2.ナレッジワーカーが注目されている背景
ナレッジワーカーが注目されるようになった大きな背景は、資本主義経済が世界的に広まったことです。そのほかにもさまざまな原因が考えられます。
VUCA時代などの事業環境の変化
ナレッジワーカーが注目されるようになったのは、VUCA(ブーカ)時代に突入したことにより、環境が大きく変化したためです。
VUCAは、
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
の頭文字で、社会やビジネスにおける将来の予想が難しい状態を示す造語です。
VUCA時代に突入した結果、作り出した商品は「勝利」が保証されなくなりました。そこから挑戦や失敗を繰り返して「勝ち筋を見つける」ことが、ビジネス成功の鍵を握るようになってきたのです。
テクノロジーの著しい発展
テクノロジーの著しい発展もナレッジワーカーが注目されるようになった原因のひとつ。近年、IT化が進んでいます。これまでは人間を労働力として雇わなければ作れなかったものが、ロボットを使って自動化できるようになってきました。
そのため人間には肉体労働だけでなく、自身の知識を使った企業への貢献が求められているのです。
日本でナレッジワーカーが広まったきっかけ
日本でナレッジワーカーという言葉が広まるきっかけになったのは、岩崎夏海氏の小説『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の流行にあります。
ドラッカーは1969年に発刊した著書『断絶の時代』のなかで、知識社会の到来、起業家の時代、経済のグローバル化が到来すると予言していました。そのなかでドラッカーが提唱していたのがナレッジワーカーなのです。
3.ナレッジワーカーに類似する言葉
ここではナレッジワーカーの類義語と対義語について紹介します。
ナレッジワーカーの類義語ホワイトカラー
ホワイトカラーとは、ワイシャツやスーツを着て働く頭脳労働者のことを指す言葉のこと。ナレッジワーカーとホワイトカラーの違いは、下記のとおりです。
- ホワイトカラー:単純作業から事務作業、そしてコミュニケーションが必要な作業まで幅広い業務がある
- ナレッジワーカー:幅広い知識を用いて、新たに何かを生み出すことが求められる労働者。よってナレッジワーカーは、ホワイトカラーのなかに位置づけられる
ナレッジワーカーの対義語マニュアルワーカー
マニュアルワーカーとは、製造業などの現場作業や単純作業を決まった手順で行う労働者です。ナレッジワーカーとの違いは、それぞれに求められるスキルにあります。
- マニュアルワーカー:定められたマニュアルどおりの作業を行い、生産性と作業効率の向上をはかる
- ナレッジワーカー:知識を活用して新たな付加価値を創造する
4.ナレッジワーカーの代表的な職種
ナレッジワーカーとして活躍できる仕事はいくつも存在します。そのなかから6種類の仕事を紹介しましょう。
- 金融ディーラーやアナリスト
- コンサルタント
- ITエンジニア
- データサイエンティスト
- マーケター
- 専門医
①金融ディーラーやアナリスト
金融ディーラーとは、顧客から預かった資金を株や債権などで運用し、利益を還元する職業のこと。高度な金融や経済の専門知識が求められます。またアナリストは情報収集や分析の能力だけでなく、毎日の研究が必要不可欠です。
②コンサルタント
コンサルタントとは、企業や組織が抱えている問題を解決する職業のことで、ITコンサルタントや経営コンサルタントなどさまざまあります。どのコンサルタントでも、専門知識や情報収集能力、考察力や問題解決能力などが求められるのです。
③ITエンジニア
ITエンジニアはプログラミングの知識を生かして、ITシステムの開発を行う職種です。企業の生産性の向上や業務の効率化を実現するにはITシステムの活用が欠かせません。
ITエンジニアにはプログラミングスキルのほか、物事を筋道立てて考えられる論理的思考力が必要でしょう。
④データサイエンティスト
データサイエンティストは、さまざまな場所から集めたビッグデータ(従来のシステムでは管理や解析が難しい膨大なデータ)をもとに分析・解析し、データを今後のビジネスに活用する職業です。
ビッグデータを分析すると、新たな戦略や課題解決策を見つけられる場合があります。
⑤マーケター
マーケターとはその名のとおり、商品が売れる仕組みを考える人のこと。市場調査や顧客分析、製品などの企画、宣伝手法の選定などもマーケターの業務に含まれます。これを行うには、多くの専門知識やデータの分析をする能力が必要不可欠です。
⑥専門医
専門医とは、自身が専門とする分野に関して、幅広く高度な医療の知識を持っている医師のこと。専門分野にて、ほかの医者では難しい診断や手術などを行えます。専門医になるにはその分野にて十分な臨床実績や研究成果などが必要です。
5.ナレッジワーカーに必要とされるスキル
ナレッジワーカーになるには明確に資格が必要なわけではありません。しかしある程度のスキルセットは必要です。ここでは、ナレッジワーカーに必要とされるスキルについて説明しましょう。
- 情報収集能力
- 情報発信能力
- 思考力
- 分析力
- 発想力
- チャレンジ精神
- コミュニケーション力
①情報収集能力
ナレッジワーカーは自身の知識を用いて企業に貢献するため、豊富な知識や知識をアップデートしていく能力が必要です。日々の業務でも新しい情報はどんどん生まれます。つねにアンテナを張り、情報収集する能力が求められるでしょう。
②情報発信能力
ナレッジワーカーはまず、社内にある問題点を自身で発見し、自身の知識を活用してその問題についてどのような対策を行えば解決できるのかを考えます。このとき対策方法を社内に発信しなければなりません。
対策を企業全体に発信して社内の考えや行動を変えるきっかけを与え、問題点を解決につなげることがナレッジワーカーの重要な役割だからです。
③思考力
上司に与えられた指示をただ愚直に受け止めるだけではなく、「別の方法はないのか」「効率の良い方法はないのか」と考える必要があります。
またほかの人が当たり前にやっていることについても「それが本当に正しいのか」「違うやり方があるのではないか」と多くの視点を持ち、分析や検討を行う能力が求められるのです。
④分析力
本当に必要な情報を見極め、その情報をもとに正しいアクションを起こしていくためです。正しい分析のためには、情報の取捨選択と真偽を見極め、情報を多角的な視点から見て本質を理解する必要があります。先に挙げた情報収集力の高さも連動するでしょう。
⑤発想力
豊富な知識を生かして、誰も思いつきもしなかったようなアイデアや、競合他社との差別化を図れるような大胆な施策、既存の体制や考え方を覆すような斬新なアイデアを提案します。そしてそれらを周囲に提供できる能力が求められるでしょう。
⑥チャレンジ精神
誰しもが思いもしなかった施策やアイデアを提案してそれを実現するには、失敗を繰り返して何度も挑戦する必要があるためです。「必ずしも成功が約束されていない」「頼れるような情報がない」場合でもチャレンジできる人は、ナレッジワーカーに向いています。
⑦コミュニケーション力
上述したような能力を発揮して新たな施策やアイデアを提案しても、相手に伝えるコミュニケーション力が備わっていなければ実現できません。
またこちらから伝えるだけでなく、相手の話を聞き出すコミュニケーションも必要です。このような話から潜在的な課題の発見につながる可能性があります。
6.ナレッジワーカーが育つ環境
現代のビジネス社会では変化が著しく起こっています。そのため企業内でナレッジワーカーの早期育成も重要な課題です。
- 専門分野に特化したチーム編成
- 粘り強く問題解決を探る職場体制
- 多様性を受け入れる企業風土
①専門分野に特化したチーム編成
目的はお手本となる企業内のナレッジワーカーの集団を作り、育成したい社員を一緒に仕事させること。その分野に特化したナレッジワーカーとチームになって仕事をすると、考え方やノウハウ、コツなどの暗黙知もその場で吸収しやすくなります。
②粘り強く問題解決を探る職場体制
分析による問題解決能力を高めるには仕事に対して意欲的な人間に課題を与え、問題解決まで情報を収集して分析できる環境を作りましょう。ポイントは年齢や階級、雇用形態などにかかわらず対象人材を選ぶことです。
③多様性を受け入れる企業風土
マニュアルどおりの仕事だけではなくグループワークやディベートができる場を定期的に取り入れましょう。ほかの社員の意見を聞くと、今まで考えつかなかったようなアイデアが生まれる可能性も高いからです。
7.ナレッジワーカーの存在によって生み出される働き方
ナレッジワーカーは、現在のVUCA時代に新たな考え方や価値を与えてくれる人材です。そんなナレッジワーカーは、今の時代にマッチした働き方ができるでしょう。
業界の垣根を超えた交流を行う働き方
ナレッジワーカーは、ひとつの業界にとらわれず、多種多様な人材と交流していくような働き方が適しています。多くの情報から企業を変えるようなアイデアを出すため、多方面から情報を集める必要があるからです。
時間と場所を自由に使いこなす働き方
これは仕事と遊びの時間を分断しないことを指します。たとえば遊びで得た知見が仕事のヒントになる場合も多いからです。ナレッジワーカーが新しい知識や情報を得る方法として、テレワークやワーケーション、副業などが挙げられます。
契約形態に縛られない働き方
契約形態が限定されていなければ、社内外で情報を収集できます。それらの情報を多角的に分析すると、思いもよらないアイデアが提案されるかもしれません。先に挙げたテレワークや副業、業務委託などは柔軟性の高い契約形態といえるでしょう。