ダブルバインドとは、矛盾するメッセージにより混乱や自信喪失が生じるコミュニケーション状態のことです。ここでは、ダブルバインドについて解説します。
目次
1.ダブルバインドとは?
ダブルバインドとは、メッセージとその裏に隠されたメタメッセージとの間に矛盾が含まれている状態のこと。
ダブルバインドは、
- 2倍の、2重のなどの意味を持つ「Double」
- 束ねる、より合わせるなどの意味を持つ「bind」
を合わせた造語です。
ダブルバインドの起源
ダブルバインドの起源は、1956年に遡ります。イギリス出身で文化人類学や精神学の研究を行っていたグレゴリー・ベイトソンの発表から始まりました。
グレゴリー・ベイトソンが明らかにした内容は、生物間で交換されるメッセージには、ひとつのレベル以外に複数のレベルも存在するという点。またグレゴリー・ベイトソンはダブルバインドについて、ラッセルの論理階型理論などを用いて説明しています。
ダブルバインドは精神的によくない
ダブルバインドは、精神的に良くないという特徴を持ちます。そもそもダブルバインドとは、メッセージの中に複数のレベルが存在するコミュニケーション状況のこと。
よく似た症状が、統合失調症です。統合失調症とは、情報や刺激に敏感になって脳が対応不可能な状態に陥るため精神機能が働かなくなる疾患のこと。ダブルバインドの状態に陥れば、統合失調症のように感情や思考などをまとめられなくなります。
ダブルバインドの生みの親
ダブルバインドの生みの親は、グレゴリー・ベイトソン。ベイトソンはイギリス出身で、遺伝学者であるウィリアム・ベイトソンの息子です。第二次世界大戦中には渡米し、文化人類学や精神医学を研究しました。
ベイトソンは精神病棟の勤務で得た知識や経験から、ダブルバインドという新しい概念を誕生させたのです。そして統合失調症の原因を、コミュニケーションにもとづくダブルバインドから説明付けました。
2.ダブルバインドの典型例
ダブルバインドとは、ひとつのメッセージの中に複数レベルのメッセージが存在するコミュニケーション状態のこと。ここでは、下記2つにおけるダブルバインドの典型的な例について解説します。
- 親子関係におけるダブルバインドとは?
- 会社での上下関係におけるダブルバインドとは?
①親子関係におけるダブルバインドとは?
親子関係におけるダブルバインドとは、親子間の会話で矛盾したメッセージが発信されたために、メッセージの受け手が精神的な混乱状態に陥ること。
この状況で多いのが、「親のメッセージに矛盾があって子どもが混乱状態に陥る」ケースです。「自分の子どもが悪いことをした場面」「教育の場面」から2つの事例を紹介しましょう。
自分の子供が悪いことをしてしまったとき
子どもは、悪いことをしたにもかかわらず、親に自己申告しないときがあります。その際親は子どもに、「怒らないから、正直に話してごらんなさい」と説明を促す場合が多いでしょう。
そして子どもはそれを受け、「怒られないなら正直に話そう」と考えて、「○○をした」と説明します。しかしそれを聞いた途端、親が「どうしてそんな悪いことをしたの?」と激高してしまうのです。こういったパターンはよくある話ではないでしょうか。
- 「話せば怒らない」というメッセージ
- 「悪いことをしていたら怒る」というメタメッセージ
こういったパターンでは、上記のように矛盾が生じて子どもを混乱させてしまうのです。
教育の場面において
たとえば不登校の子どもに対して、親や先生が優しく「無理に学校へ行かなくてもいいよ」と声かけをしたとします。
しかし、「できれば一刻も早く学校に復帰してほしい」という本音もあるのです。またこうした本音は、親の態度や表情、先生の言葉の端々から垣間見られるもの。そのため子どもは、下記のようなダブルバインドを感じます。
- 「無理に学校に行かなくていい」というメッセージ
- 「できれば学校に行ってほしい」というメタメッセージ
その結果、不登校に対してより罪悪感を覚えたり、自分がどうしたらよいか分からなくなったりしてしまうのです。
②会社での上下関係におけるダブルバインドとは?
会社での上下関係におけるダブルバインドとは、たとえば上司が部下に対して発したメッセージに矛盾があったため、部下が精神的に束縛されて混乱状態に陥ること。
ここでは、「新入社員に向けた言葉」「仕事を任せた部下に対しての言葉」2つの事例を紹介しましょう。
新入社員に向けた言葉
上司が新入社員に対して、「何か分からないことがあったら何でも聞いて」と言ったとしましょう。新入社員はそこで正直に「○○が分かりません」と上司に話しました。しかし上司は「そのくらいは自分で考えて欲しい」と返答したのです。
このようなケースもよくある話ではないでしょうか。この場合、下記のようなダブルバインドにより、新入社員は萎縮するもしくは自信をなくしてしまうのです。
- 「分からないことは何でも聞いていい」というメッセージ
- 「自分で考えるべき」というメタメッセージ
仕事を任せた部下に対して
上司が部下に対して、仕事の進捗や結果などの報告を求める場面は日常的に見られます。
たとえば上司が部下に対し、「仕事に関して報告するように」と指示したとしましょう。そして指示に従い部下が上司へ仕事の報告をすると、上司から「君の意見は聞いていない」と言われてしまうのです。これも、ダブルバインドといえます。
- 「報告を求める」というメッセージ
- 「意見は聞かない」というメタメッセージ
つまり上記のような矛盾によって、部下は萎縮してしまうのです。さらに「本来の力が出せなくなる」「モチベーションが下がる」「主体性がなくなる」といった状態に陥ってしまいます。
3.ダブルバインドによる影響は?
ダブルバインドは、さまざまな影響をもたらすのです。一体どういった内容なのか、下記4点から解説しましょう。
- ダブルバインドのもたらす悪影響
- 精神疾患の原因にも
- ダブルバインドの対処法は?
- ダブルバインドの影響を良い方向に変えるには?
①ダブルバインドのもたらす悪影響
矛盾が含まれたメッセージを受け取るダブルバインドの状態が続くと、知らない間に強いストレスをため込みます。結果、下記のような悪影響につながる可能性が高まるのです。
- 感情を抑え込むようになる
- 自信が持てなくなる
- 自由な意思決定ができなくなる
- 心身に不調をきたす
②精神疾患の原因にも
ダブルバインドの状態が続くと、場合によっては精神疾患にかかってしまいます。ダブルバインドのメッセージを受け取る側は、緊張やストレス、混乱を強いられるもの。
- メッセージどおりに動いたのに怒られ、何が正解なのか分からなくなった
- 自分の判断や行動は、間違っているのかもしれない……
などのストレスをため、その結果、精神的なダメージを受けてしまうのです。最悪の場合、統合失調症といった精神疾患に陥る場合もあります。
③ダブルバインドの対処法は?
ダブルバインドへの対処法は、一刻も早く現状から抜け出すこと。そのためにも、下記に気を付けながら、周囲の人と協力して自分の発するメッセージを意識しましょう。
- 当事者が自身の言動を意識する
- メッセージに含まれた矛盾に気が付く
- 自分の発言に責任を持つ
- ダブルバインドに関して周囲の人の協力を得る
④ダブルバインドの影響を良い方向に変えるには?
ダブルバインドの影響を良い方向に変える方法とは、ダブルバインドをポジティブなダブルバインドへ変換すること。以下のような考え方を実行すると、ポジティブなダブルバインドに変換できます。
- メッセージの前提をポジティブなものにする
- メッセージとメタメッセージをポジティブな選択肢に転換する
- メッセージの受け手に選択してもらう
発想を転換して、どれを選んでもポジティブな前提にたどり着けるようにすれば、悪影響から解放されやすくなります。
4.恋愛にも応用できる?ダブルバインド応用編
ダブルバインドは、親子関係や会社における上下関係以外にも、さまざまな人間関係にて応用できます。ここでは、ダブルバインドを恋愛に応用した場合の注意点について、具体的なシーンを交えながら解説しましょう。
相手を理解しよう
恋愛におけるダブルバインドには、「メッセージの建前」「メタメッセージに含まれる本音や真意」が隠されているといわれています。相手を理解する場合は、メッセージではなく、メッセージの背後にあるメタメッセージをキャッチしましょう。
恋愛における具体例
恋愛におけるダブルバインドの具体的な事例を見てみましょう。「相手に電話をしたい」「デートの計画を立てる」という2つのシーンから、メッセージの背後にあるメタメッセージをどのようにキャッチすればよいか、解説します。
電話がしたいと思ったとき
気になる相手と電話をしたいとき、「電話してもいい?」か尋ねるには勇気が必要です。聞かれた側も、直球の誘いに引いてしまうかもしれません。
そこで、「昼と夜、電話するならどっちがいい?」と尋ねるのです。これにより選択肢が昼と夜の2つに絞られるため、交渉成立の可能性が高まります。
デートの計画を立てるとき
デートの計画を立てるとき、相手の気持ちを尊重しようとして「いつにする?」と聞く人がいます。しかし漠然と予定を聞かれても、尋ねられた側は返答に困る場合も多いでしょう。
こうした場面では、「平日と休日、どっちがいい?」という選択肢を用意します。これにより相手は、どちらがよいか選びやすくなるのです。
5.ダブルバインドの注意点
ダブルバインドが向かないシーンもあります。ダブルバインドを適切・効果的に活用するためにはどうしたらよいのでしょうか。ここではダブルバインドの注意点について、下記4点から解説します。
- 信頼関係がポイント
- 選択肢の提示が重要
- ダブルバインドを使いすぎない
- ビジネスへの応用
①信頼関係がポイント
ダブルバインドを使用する相手は、ある程度の信頼関係を築いている人に限定しましょう。ダブルバインドを使用する場合、メタメッセージを正しく理解してもらうことが不可欠です。
- お互いのことを理解している
- お互いの信頼関係が構築できている
状況下でなければ、ダブルバインドを使っても混乱や不信、動揺を生み出すだけになります。ダブルバインドは、信頼関係が構築されている相手にのみ使用するとよいでしょう。
②選択肢の提示が重要
あまり多くのメッセージを提示しないようにする点も重要です。ダブルバインドでは、メタメッセージが含まれたメッセージを複数用意し、相手に選択してもらって良い影響をもたらすようにします。
その際相手に、多くの選択肢を提示する人もいます。しかし選択肢があまりに多すぎると、どれを選んでいいか戸惑ってしまい何も選べなくなってしまうのです。良質な選択肢を厳選して用意し、相手に提示しましょう。
③ダブルバインドを使いすぎない
ダブルバインドを乱用しないように注意しましょう。ダブルバインドを活用し始めると、相手とのコミュニケーションがスムーズになるため、多用しがちになるのです。
しかしあまりひんぱんにダブルバインドを使うと、「つねに選択を強いる」といった強引な印象を与えます。ダブルバインドは、良好な人間関係のもとで成り立つもの。強引な印象を与えないよう、使用頻度には気を付けましょう。
④ビジネスへの応用
ダブルバインドは、ビジネスにも応用できます。選択肢の提示をうまく設定すると、相手が「イエス」と答えざるを得ない状況が生まれるのです。
たとえば顧客に対して「AとBは必要ですか?」という聞き方をした場合、「どちらもいらない」と返されてしまうでしょう。
しかし「AとBではどちらがいいですか?」と問いかけた場合、顧客は「どちらか選ぶ」状況になります。