従業員名簿は、企業が作成しなくてはならない法定三帳簿のひとつです。従業員名簿を作成する際、ひな形を用いると管理・更新がスムーズに進みます。
目次
1.従業員名簿のひな形とは?
従業員名簿のひな形とは、労働基準法に基づく法定三帳簿のひとつ「従業員名簿」を作成するためにあらかじめ作られた定型書式のこと。従業員名簿の形式には明確な規定がないため、紙のひな形もあればデータのひな形もあります。
従業員名簿を一から作る手間を省ける
従業員名簿の作成にExcelやWordで作ったひな形を使用すると、帳簿を一から作る手間を省けます。従業員名簿には、人事労務の業務に必要なあらゆる情報が集約されています。
業務をスムーズに、かつ正確に遂行するためにはこの従業員名簿の管理が欠かせません。ひな形を使用すると、従業員に関するあらゆる情報が管理・参照しやすくなるのです。
厚生労働省から配布されているひな形
従業員名簿の形式は法的に定められていません。必要な項目が記載されていればどのような形式でも問題ありませんが、厚生労働省や東京労働局などが基本となるひな形を無料で配布していますので、そちらを利用すると便利です。
これらのひな形を参考にして、自社が使いやすいよう独自のカスタマイズを加えるのもよいでしょう。
2.従業員名簿とは?
企業の大小や業種にかかわらず、労働者を雇用するすべての組織に従業員名簿の作成・管理が義務付けられています。従業員を一人でも雇用した際は、必ずこの従業員名簿を作らなければなりません。ここでは従業員名簿の概要について、もう少し掘り下げてみましょう。
労働基準法第107条で調整が定められている
労働基準法第107条では、従業員名簿について次のように明記しています。
「使用者は、事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。」
企業は従業員名簿を作成・管理するとともに、労働基準監督署などから名簿の提出要請があった際は、すみやかにこれを掲示しなければなりません。
法定三帳簿とは
労働者名簿とも呼ばれる従業員名簿は、使用者が事業場に必ず備えておかなければならない「法定三帳簿」のひとつです。従業員名簿のほかに、「賃金台帳」「出勤簿」が法定三帳簿に含まれます。
- 従業員名簿:氏名や住所など、従業員に関する情報を集約した帳簿
- 賃金台帳:従業員一人ひとりに対する給与の支払い状況を集約した帳簿
- 出勤簿:従業員一人ひとりの労働時間を把握するための帳簿
3.従業員名簿のひな形に記載する内容とは?
前述のとおり、従業員名簿の書式に厳密な規格はありません。しかし記載項目については詳細に決められています。これは紙ベース・電子媒体どちらの作成でも同様です。ここでは従業員名簿のひな形に記載する内容について解説します。
従業員名簿の必須項目について
従業員名簿には、以下9つの記載が必要です(労働基準法第107条)。
- 労働者氏名
- 生年月日
- 性別
- 住所
- 履歴
- 従事する業務の種類
- 雇入年月日
- 退職年月日
- 死亡年月日
これらには必須管理の項目と任意管理の項目があるため、一般的にいくつかの見出しに分けて記載します。それぞれ記載する内容や注意点について詳しく見ていきましょう。
従業員の氏名、生年月日、性別、住所
はじめに、従業員の基本情報を記載します。これらは必須項目となるため、従業員名簿がどのような書式・媒体でも必ず明記するのです。
- 氏名(戸籍上の氏名を記載。社内で旧姓や通名を使っている場合は注意)
- 生年月日
- 性別
- 住所(交通費の計算はこの情報をもとに算出される。現住所と住民票記載の住所が異なる場合は、実際に居住している住所を記載する)
従業員の履歴
労働基準法では履歴の記載範囲について厳密に掲示していないため、一般的には社内における異動や配置転換などの履歴を記載します。必要に応じて最終学歴や社外職歴、保有資格などを記載する場合もあるのです。
従業員の経歴を公式の文書に残しておくと、業務災害や人事労務トラブルなどが発生しても、公式な記録として参照できます。
従業員の業務内容
「営業」「人事」「経理」「技能工」など、従業員の役割や業務内容が分かるように記載します。業務変更や配置転換などがあった際はその都度、「履歴」と「業務内容」の項目を更新するのです。
なお従業員が30人未満の事業で一人が複数の業務に対応するようなケースでは、この項目を省略する場合もあります(労働基準法施行規則第53条第2項)。
従業員の雇入年月日・退職年月日
雇入年月日の項目には、実際に雇用を開始した日付が記載されます。この情報は年次有給休暇の発生日に影響するもの。くれぐれも従業員の採用が決定した日を記入しないよう注意してください。
また退職の事由が解雇の場合、退職年月日と合わせて「なぜ解雇したのか」その理由も記載しなければなりません(従業員都合の場合は任意)。
従業員の死亡年月日
従業員が在職中に死亡した場合、死亡の原因が労災にあたるかどうかを判断する必要があります。そのためこの項目には死亡年月日とともに事故や病気、労災事故など死亡の原因を記載するのです。
ここまで挙げた9項目のほか、従業員本人の同意を得たうえで「基礎年金番号」や「雇用保険番号」、「社会保険(健康保険、厚生年金)の整理番号」を管理する場合もあります。
4.従業員名簿のひな形を作成する際、注意したい点4つ
従業員名簿のひな形を作成する際、どのような点に注意すればよいのでしょうか。ここでは以下の視点から、「従業員名簿のひな形を作成する際の注意点」について解説します。
- 参照しやすい書式にする
- 事業場ごとに名簿を作成する
- 個人情報の取り扱い
- 更新のタイミング
①参照しやすい書式にする
従業員名簿には、人事・労務の業務に欠かせない情報が集約されています。そのため、ただ記載・保管するだけではなく、必要に応じて情報がスムーズに抽出できるよう工夫する必要があるのです。
従業員名簿のひな形を作成する際は、各項目を見やすく、また情報を参照しやすいように項目の表示場所や順番を工夫しましょう。
②事業場ごとに名簿を作成する
従業員名簿は事業場それぞれで作成が必要です。労働基準法でも「労働者名簿および賃金台帳を事業場ごとに調製し、厚生労働省令で定める事項を記入すること」と明記されています。
ここでいう事業場とは支店や営業所、工場や店舗などのこと。従業員名簿は企業全体でひとつ作成するのではなく、事業場ごとに作成・管理しなければなりません。
記載の対象者
労働基準法第107条では、名簿の記載対象者を「各労働者」と定めています。労働者とは、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者のこと(同法第9条)。
つまり正社員はもちろん、パートやアルバイトなど短時間勤務の従業員も、従業員名簿の記載対象です。しかし日雇い労働者や派遣労働者、代表者および役員などはこの限りではありません。
③個人情報の取り扱い
従業員名簿では多くの個人情報を取り扱います。氏名や住所など個人のプライバシーにかかわる情報を取り扱う際は、収集の目的や使用範囲などを事前に明示し、従業員の同意を得なければなりません。
これは従業員名簿を作成する際だけでなく、労働基準監督署などの第三者に名簿を提示する際も同様です。いずれも事前に従業員の承諾を得ておく必要があります。
④更新のタイミング
「結婚して苗字が変わった」「引っ越しなどで住所が変わった」「配置転換があった」場合など、各情報に変更があった際は遅延なく従業員名簿を更新しなければなりません。
これについては労働基準法施行規則第53条において「記載事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければならない」と明記されています。
更新の遅延や不備は、架空請求や労働基準法違反を引き起こす恐れも。変更があった際はすみやかに記載情報を更新してください。
5.従業員名簿の保管方法・保存期間
従業員名簿では氏名や住所、雇入年月日など、従業員のさまざまな個人情報を管理します。こうした従業員名簿はどのくらいの期間、またどのような方法で保管するのでしょうか。ここでは従業員名簿の保管方法や保存期間について、解説します。
3年間の保管期間
従業員名簿を含む法定三帳簿の保管期間について、次のように明記されています。「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければならない(労働基準法第109条)」
3年間の起算日は帳簿ごとに異なるため注意しましょう。従業員名簿の場合、従業員の退職や解雇、死亡した日から起算して3年間です。
保存形態に決まりはない
従業員名簿は、紙媒体で管理する企業もあれば、ExcelやPDFなどの電子媒体で管理する企業もあります。保存形態について厳密に定められていません。しかし紙媒体の場合、変更のたびに二重線を引き、訂正印を押して新たな情報を記載しなければならないのです。
情報の煩雑化を防ぎ、抽出にかかる時間を削減するといった意味でも、データやシステムでの保存が便利でしょう。
データの場合はすぐに提示できるようにしておく
従業員名簿をExcelやPDFなどの電子データで管理する場合、事業場ごとに従業員名簿が表示・印刷できる環境を整えておかなければなりません。労働基準監督署などの調査で帳簿閲覧の要請があった際、スムーズに情報を提示するためです。
事業場内にパソコンおよび印刷機を整備して、すぐに表示、プリントアウトできるよう整えておきましょう。
保存義務に違反した場合は罰則あり
3年間の保存期間が守れないまま従業員名簿を廃棄・紛失した場合、30万円以下の罰金を科せられる可能性があります(労働基準法第120条)。
また対象となる従業員が帳簿に記載されていなかったり、情報更新に遅延があったりした場合も処罰の対象となる恐れがあるのです。企業は、従業員の最新情報を正確に把握するように努めましょう。