組織改善に効く「エンゲージメント」とは、組織や仕事に対して自発的、主体的に取り組んでいる心理状態を指標化したものです。
目次
1.会社組織における「エンゲージメント」とは?
会社組織における「エンゲージメント」とは、組織自体と社員との関係を示す指標のこと。組織と社員が相互に信頼できる関係性を構築することを「エンゲージメントを高める」といいます。
エンゲージメント(engagement)は、約束や契約、婚約や雇用などシチュエーションによってさまざまな意味に解釈される言葉です。もともと欧米で注目され始め、現在は日本企業でも注目度が増し、エンゲージメントの向上に努める企業が増えてきました。
なぜエンゲージメントに取り組む必要があるのか?
会社組織はなぜエンゲージメントを高める必要があるのでしょうか。社内エンゲージメントの高低は、離職率や生産性の高低に大きく影響するからです。
個人価値観の多様化や、会社組織と個人の関係性の変化など、さまざまな理由から「働くことの意味」は大きく変化。かつて1社に所属し続けることが美徳とされていた時代は終わりを迎えました。
終身雇用が事実上崩壊し、組織と社員の関係が縦のつながりから横のつながりに変化するなか、主体的でクリエイティブな人材が求められているのです。
「エンゲージメント」と「社員満足度」の違いを解説
社員満足度とは、労働環境や福利厚生、上司と部下の人間関係から見た職場の居心地のよさを表す指標のこと。「エンゲージメント」と「社員満足度」の違いは、下記のとおりです。
- 社員満足度:待遇や福利厚生など会社から与えられるものを土台に成り立っている
- エンゲージメント:帰属意識や貢献意欲などの信頼関係が土台となっている
2.組織のエンゲージを高める目的
続いて、組織のエンゲージメントを高める目的について見ていきましょう。エンゲージメントを高めると、以下のような課題を解決できるのです。
- 社員のモチベーションをアップさせたい
- 生産性をアップさせたい
- 人材の確保と育成をしたい
- 表に出てこない問題を早期発見したい
①社員のモチベーションをアップさせたい
価値観の多様化が進む昨今、かつてのように「給料をたくさんもらう」「出世する」などが社員の幸せだと言い切れなくなりました。
そこでエンゲージメントを調査すると、何が社員のモチベーションに影響を与えているのか、その社員が意欲的に取り組める要因は何か、などを調べられます。
②生産性をアップさせたい
人事領域におけるエンゲージメントの重要性が注目され始めた1990年代、アメリカの企業では生産性向上に対する意識が強まりました。
エンゲージメントを調査すると、社員が無駄や無理と感じている業務を発見できます。こうした課題を改善すると、組織全体の生産性向上につながるのです。
③人材の確保と育成をしたい
少子高齢化に伴う労働人口の減少によって、日本の人材採用は売り手市場が続いています。成長のチャンスが少なかったり、働く意味ややりがいを見出せなかったりした人材がより良い環境を求めて転職することは、珍しくありません。
企業が継続的な成長を続けるには、貴重な人材を確保して育成し続ける必要があります。社員エンゲージメントを調査して社員の不満を拾い上げ、改善策を講じれば、離職率の低下が期待できるのです。
④表に出てこない問題を早期発見したい
エンゲージメントの調査は、社員一人ひとりが抱える課題の早期発見につながります。潜在的な課題には、大きくなってから対策を講じたのでは手遅れになるものも含まれているのです。
課題を早期に発見できれば、生産性低下や離職の前にフォローアップを行えます。社員も自身の意見が取り入れられたと感じるため、貢献意欲が増すでしょう。
3.会社組織のエンゲージを調べる2つの方法を紹介
社員モチベーションアップや生産性の向上など、会社組織にさまざまな影響がもたらされるエンゲージメントを調査するにはどうすればよいのでしょう。ここではエンゲージメントを調べるために、欧米で実施している2つの方法を紹介します。
- アンケート調査
- 上司と部下で1on1ミーティングを行う
①アンケート調査
グローバルな組織コンサルティングファーム、コーン・フェリー社では、70年の実績と経歴にもとづいた世界最大級のデータベースがもとになった社員意識調査を行っています。
ここでは社員がどの程度会社にエンゲージしているかを調査しながら、解決への道のりをサポートし続けているコーン・フェリー社のアンケートについて、見ていきましょう。
アンケートの質問項目とは?
同社のアンケート調査では、次のような質問を行っています。
- 私は当社から求められている以上に仕事に取り組もうと思う
- 当社は自分が期待されている以上の貢献をする気持ちにさせてくれる
- 私は当社で働くことに誇りを感じる
- 私は当社を良い会社だと他者に勧められる
- あなたは、あとどのくらい当社で働きたいと思うか
「自社で働くこと」「今の仕事に対して誇りや熱意を持っているか」を、複数の角度から問う質問を用意しています。
アンケートに用意する回答とは?
この質問に対する回答項目には、次の5段階を設置しました。
- 非常にそう思う
- そう思う
- どちらともいえない
- そう思わない
- まったくそう思わない
さらにこれらの選択肢を肯定的回答(1と2)、中立的回答(3)、否定的回答(4と5)として3つに分けます。それぞれの高低をもって調査結果の比率を理解するアンケート方法です。
②上司と部下で1on1ミーティングを行う
1on1ミーティングとは、上司と部下が一対一で話し合う面談のこと。週1回から月1回の頻度で、定期的に1対1の対話を行います。アメリカのシリコンバレーでは人材育成の手法として、また社内コミュニケーションを活性化させる手法として根付いているのです。
1on1ミーティングの目的とは?
1on1ミーティングを実施する目的は、中長期的な部下の育成や、職場における心理的安全性の確立。グーグル社では、「心理的安全性の確保」こそが、マネジメント施策に重要だと考えています。
同社の調査プロジェクトでは「誰もが均等に話す機会がある」「自由に意見が言える」「否定させない」といった心理的安全性が、「好業績にもっとも大きな影響を与える因子だった」ことを明らかにしているのです。
1on1ミーティング後にはアンケートを実施
1on1ミーティングを実施した後は、上司と部下の双方にアンケートを実施します。
- 上司が話していた比率と部下が話していた比率はどのくらいか
- 総合的な満足度はどのくらいか
- 話を十分に聴いてもらえたか/話を十分に聴いてあげられたか
双方のギャップを見ると、抱えている課題を顕在化できます。そして結果をもとに支援策へと落とし込んでいくのです。
4.「コーン・フェリー式」会社組織のエンゲージを高める方法
前述したコーン・フェリー社のアンケートについてもう少し掘り下げてみましょう。同社のアンケートを活用すると、エンゲージメントが高まる要因を絞り込めます。
- 組織に何が不足しているかを分析する
- キャリア・スキル・能力の開発ができる体制に
- 組織のビジョン・戦略・特性などを共有
- 仕事への意欲やモチベーション
①組織に何が不足しているかを分析する
コーン・フェリー式アンケートを活用すると、組織に不足している要素を分析できます。同社が約30社、約23万人に対してエンゲージメントに関する調査を行ったところ、相関の高い項目(ドライバー)は以下の順になっていると分かりました。
- 顧客に提供する体験的価値への自信
- 成果創出に向けた効果的な組織体制
- 自社におけるキャリア目標達成の見込み
つまり日本の会社では、体験的価値(カスタマーエクスペリエンス)の有無がエンゲージメントの高低に大きく影響しているのです。
②キャリア・スキル・能力の開発ができる体制に
エンゲージを高めるには、キャリアやスキル、能力の開発ができる体制も重要です。ここで有効なのが、能力的・パーソナル的な特性を見出す「セルフ・アセスメント」。コーン・フェリー式アンケートではこのセルフ・アセスメントにて以下5つの対立軸を設け、自己分析を行っています。
- 分析重視
- 戦略重視
- 創意
- 段取り
- 実直
③組織のビジョン・戦略・特性などを共有
会社組織のエンゲージを高めるためには、組織のビジョンや戦略、特性などを全社的に共有する必要があります。
コーン・フェリー社の調査では日本企業がグローバル企業と比べて、品質および顧客志向、リソースそして戦略・方向性の差分が大きいと明らかになっているのです。
経営陣だけでなく、上司や部下にも自社の目標やそのための戦略、同業他社より勝る点などが共有できているか振り返ってみましょう。
④仕事への意欲やモチベーション
仕事への意欲やモチベーションの在り方は人によってさまざまです。自分の所属組織を超えた全社的な情報に興味のある人もいれば、他者からのアクションがなければ関心が向かない社員も当然存在するでしょう。
社員一人ひとりの性格や特性にあった仕事を与え、やりがいを持たせるとエンゲージメントやモチベーションの向上につながります。
5.組織のエンゲージメント施策を成功させるには?
組織のエンゲージメント施策を成功させるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。施策を成功させるためのポイントは下記の4つです。
- 組織全体で取り組む必要がある
- 会社組織の経営者や管理職も対象となる
- 管理職のスキルアップも欠かせない
- コミュニケーション能力の向上が必要
①組織全体で取り組む必要がある
エンゲージメント施策の失敗パターンとして多く挙げられるのが、目の前の仕事に追われ、施策を後回しにしてしまったというケース。とはいえ単に「時間がない」のではありません。「より優先度の高い業務がある」状況なのです。
エンゲージメント施策を経営の最重要事項と位置付け、組織全体で取り組みましょう。
②会社組織の経営者や管理職も対象となる
そもそもエンゲージメントとは、会社と社員の双方向的な関係から成り立つもの。エンゲージメントを見直すと、会社内のリーダーシップ(組織の目標を定めてチームを作り、成果を出す能力)も見直せます。
経営者や管理職は、部下の特性によって効果的なリーダーシップを使いこなせているか、改めて確認してみましょう。
③管理職のスキルアップも欠かせない
1on1ミーティングを効果的な取り組みとするためには、管理職に以下5つのスキルが必要です。
- 傾聴
- 勇気づけ
- 質問
- フィードバック
- 結末を体験させる
1on1ミーティングをエンゲージメント破壊のツールとしないためにも、管理職のスキルアップを図りましょう。
④コミュニケーション能力の向上が必要
相手を深く理解するには、カウンセリングやコーチングの基本ともなる「コミュニケーションスキル」が必須です。ロールプレイや研修トレーニングを通じて、管理職のコミュニケーション能力を高めましょう。
これは先に述べた「傾聴」にあたるスキルで、次のようなものが含まれます。
- バリエーション豊かに相槌を打つ
- オウム返しを活用して相手に気付きを促す
- 沈黙の時間を活用して深い内省の時間を作る
問題点や悩みを引き出す「傾聴力」
「傾聴力」についてさらに掘り下げてみましょう。来談者中心両方を確立したカール・ロジャーズは、以下3つの概念を「傾聴の3条件」として説いています。
- 共感的理解:相手の立場を共感的に理解する
- 無条件の肯定的配慮:相手の話を無条件に肯定的に聴く
- 自己一致:あるべき姿と現実との間に乖離が生じない
組織のエンゲージメント施策を成功させるには、この「傾聴力」を磨いていく必要があります。
部下を成長させるための質問力が求められる
エンゲージメントを高めるためには、部下を成長させるための「質問」も重要となります。人が経験を学びに変えるためには「内省」と「概念化」が必要で、「内省」を促す際に必要なのが、先に述べた管理職に求められるスキルのひとつ「質問」なのです。
質問を行う際の代表的なスキルには、以下のようなものが挙げられます。これらをうまく使いこなせているか、改めて振り返ってみましょう。
- 開いた質問:5W1Hを用いて相手に自由な発想を促す
- 閉じた質問:YESとNOの2択にすることで、回答しやすい反面話が制限される質問
- 要約:相手の話を要約し、理解に乖離がないか確認する
- 相手ペースで質問:相手が話したそうにしていることを質問する