カーブアウトとは? スピンオフとの違い、メリット、手順など

大手企業が新たなビジネスモデルを事業化する際に用いる手法のひとつが「カーブアウト」です。今回はカーブアウトについて解説します。

1.カーブアウトとは?

企業が事業の一部を切り出して、新しく社外事業として新企業を独立させること。企業を分裂させ、グループ会社や新企業を設立させる経営手法です。

大企業が、主力とはなりえないものの競争力のある事業を社外に切り出し、ベンチャー企業として設立する際に使われます。

カーブアウトという言葉の意味

カーブアウト(carveout)とは、「切り出す」「分裂する」といった意味を持つ英単語です。そのため企業の一部を切り取って分裂する経営手法をカーブアウトと呼びます。

ビジネス用語としてのカーブアウトの定義

ビジネスにおけるカーブアウトは、企業が親会社の出資や支援を外部の組織から受け、新しい事業を新会社として設立すること。もとの企業にある人材や技術の一部を新会社へ移動し、新企業として分裂させて事業価値を高めます。

また親会社以外の外部投資を受けられるため、経営資金が確保しやすくなり、さらなる事業促進が見込めるのです。

カーブアウトが注目されている背景

カーブアウトは、新しいベンチャー企業設立方法として注目を集めています。特定の事業を切り離して設立されたカーブアウトは、プロダクトライフサイクルの短期化や経済市場の縮小などに対応しやすいためです。

親会社からの資源供給以外に、投資ファンドや個人投資家の支援によって資本を得られるため、資金調達がしやすいのも注目される理由といえます。また特定の事業のみを譲渡する際の手法として、カーブアウトを用いる場合もあるのです。

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2.スピンアウトとスピンオフとの違い

「スピンアウト」「スピンオフ」は、カーブアウトと混合されやすいビジネス用語です。親会社から独立して新しいベンチャー企業を設立するといった点で類似しているものの、相違点はあるのでしょうか。ここではスピンアウトとスピンオフについて説明します。

スピンアウトとは?

親会社から資本供給を受けずに完全に独立した企業として独立する経営手法のこと。企業内で専門性をもった事業部がスピンアウトによって独立するケースが多く見られます。

不採算事業を親会社から独立させて売却する場合にスピンアウトを用いる場合もあるようです。親会社から資金が支援されなくなる点が、カーブアウトと異なります。

スピンオフとは?

親会社からの資本関係が継続されたまま事業部を独立企業として独立させるケースのこと。カーブアウトと異なる点は、親会社からの資本援助を受けているため外部の融資を受けられない点です。

一見すると安定した事業運営が見込まれるものの、決済承認には親会社の仲介が必要になるため、迅速な経営がしにくくなります。

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3.カーブアウトのメリット

カーブアウトには、以下のメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 親会社からの経営資源を活用して事業促進を図れる
  2. 外部からの融資によって資金調達ができる
  3. メイン事業に経営資源を集中して成長スピードを向上

①親会社からの経営資源を活用して事業促進を図れる

カーブアウトによって、親会社も切り出された会社も事業促進が図れます。親会社は自社の事業を促進でき、新しく切り出されたベンチャー企業は親会社の経営資源支援や協力によって事業促進が図れるのです。

カーブアウトを実施するのは大企業が多いです。たとえばNTTドコモは、NTT(日本電信電話株式会社)の移動体通信事業本部をカーブアウトして、設立しています。

②外部からの融資によって資金調達ができる

カーブアウトは外部からの融資や資金援助を受けられます。これはカーブアウトによって独立した企業が、親会社の経営を後継者に引き継ぐ「承継事業」といった形で事業を運営しているためです。

資金調達だけでなく、企業運営には欠かせない人材や技術などの資源を外部から仕入れられるので、カーブアウト企業の事業を促進する要因になるでしょう。

③メイン事業に経営資源を集中して成長スピードを向上

事業を分裂させるため、親会社は自社の事業に集中できます。切り出される事業の多くは、今後の成長は見込まれるがメイン事業として扱うのは難しい事業。

事業そのものを別の企業にして任せられるので、親会社は残された本来のメイン事業に経営資源を集中させられるのです。親会社の事業成長スピードが加速すれば、企業価値の向上や利益の増加などにつながるでしょう。

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4.カーブアウトのデメリット

カーブアウトのデメリットは以下のとおりです。それぞれについて解説しましょう。

  1. 意思決定プロセスの煩雑化
  2. 人事や総務など管理部門の不在
  3. 事業許認可の承継問題
  4. 離職率の高まり

①意思決定プロセスの煩雑化

カーブアウトによって、意思決定プロセスが煩雑化する可能性もあります。分裂した企業は外部からの資金援助を受けられるものの、外部の持ち株比率が増えるほど経営に介入される可能性があります。

経営に仲介が入ってしまうと意思決定のプロセスが煩雑化し、事業推進が鈍行してしまうでしょう。このような事態を避けるためにも、株式による資金調達では持ち株比率を考慮する必要があります。

②人事や総務など管理部門の不在

カーブアウトによって分裂した企業は、人事や総務など管理部門の不在になる場合もあります。もともと企業の一部である事業部から切り出された組織のため、組織内に人事や総務といった企業運営に必要不可欠な事業部門を持っていないケースがあるのです。

親会社は子会社を独立させる前に、組織運営に必要な部門の手配や協力をしておく必要があるでしょう。

③事業許認可の承継問題

基本、親会社で認可されていた事業許認可を承継できないため、新たに設立した別会社で「届出」「登録」「認可」「許可」「免許」に該当する事業を行う場合、許認可を受けなければいけません。

許認可の手続きから取得まで手間や時間がかかってしまうでしょう。

④離職率の高まり

従業員の中には、親会社でのキャリアプランを思い描いている者も少なくありません。しかしカーブアウトによって勤務していた部門が切り出された場合、従業員は子会社へ転籍します。

親会社でのキャリア形成を絶たれてしまうため、離職につながる可能性も高いです。従業員のモチベーション維持は必要不可欠でしょう。

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5.カーブアウトの活用手順

カーブアウトを実施する手順は4つです。それぞれについて解説しましょう。

  1. 法的手順の検討
  2. 必要事項の検討
  3. 適時開示の検討
  4. 会計データの調整

①法的手順の検討

カーブアウトを実施する法的手法は、事業譲渡と会社分別、2つに分かれます。企業規模や事業希望に応じて、どちらの法的手法が最適か選択するとよいでしょう。ここではそれぞれの手法について説明します。

事業譲渡の方式

分裂して設立された新企業に事業を譲渡する方法です。事業に関連する契約は個別承認となるため、法律上、取引先や販売先の個別同意を再取得します。

取引先が多い事業の場合は、すべての取引先に再度個別承認を得る状況になるため事業譲渡には向きません。事業規模が小さい、あるいは組織化が進んでいない中小規模の企業に適している方法です。

会社分別の方式

会社を分裂させて株式ごと新企業に譲渡する方法です。分裂前から締結している契約に関しては包括承認となり、契約の再取得の必要がありません。事業運営がスムーズに始められるため、一定規模以上の中小、大企業で活用される場合の多い方法です。

事業規模がまだ小さい中小企業のカーブアウトであれば、株式ごと会社分裂する必要はないでしょう。

②必要事項の検討

新企業を独立させて分裂させる前に、何を譲渡して、何を譲渡しないのか必要事項を検討しておきます。主な必要事項は以下で説明する4点です。これに加えて特許などの知的財産の継承についても検討しましょう。

  • 事業部を構成するための資金や負債について
  • 取引先、販売先との契約関係について
  • 働く従業員の雇用関係について
  • 分裂後の従業員の各処遇、役職や待遇面について

これらは最低限決定しておかないと、分裂後の運営がスムーズに運びにくくなります。

③適時開示の検討

上場企業や公開企業から譲渡されるカーブアウトでは、「適時開示」を行います。適時開示とは会社の重要情報を開示することで、内容は企業の決定事項や企業に生じた事項、決算情報など。

主に投資家が資本投資、経営を続ける際の判断材料となります。上場企業が株主に対して開示する情報について譲渡に上場企業がかかわる場合、一般的に適時開示を行うのです。

④会計データの調整

カーブアウトを実施するために、対象となる事業部の会計情報の調整を行います。管理会計データから部門別損益計算書や貸借対照表を参考にして、「カーブアウト財務諸表」と呼ばれる財務諸表を作成しましょう。

もととなる会計情報の精度が高ければそのまま使用できます。しかし固定資産の処理や分裂範囲の調整、実態面の検討を要する場合もあるため、適宜調整が必要になる情報です。

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6.カーブアウト財務諸表

独立後の事業財務を想定して作成される疑似的財務諸表のこと。切り出される事業部や生産ラインなど、独立後の事業に関わる情報を財務諸表に記載します。

独立後の事業運営に必要となる情報が記載されるため、カーブアウトでは必須といえる書類のひとつです。

カーブアウト財務諸表が必要な場面

カーブアウト財務諸表は、場合によっては作成が必須となる場合もあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. SECルールにもとづいた場合
  2. M&Aの基礎情報として必要な場合

①SECルールにもとづいた場合

SEC(米国証券取引委員会)に登録あるいは上場申請中の企業へ事業を譲渡する場合、事業買収に関わる重要書類として財務諸表が必要となります。このときSECのガイダンスに沿って財務諸表を作成しなければなりません。

②M&Aの基礎情報として必要な場合

カーブアウト財務諸表は、M&A(企業や事業の合併や買収)でも必要となる書類です。取引先との契約関係や資産と負債などの財務状況が記載されているため、M&Aの交渉前、企業の財務情報を把握するために利用されます。

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7.カーブアウトの成功事例から学ぼう!

日本の企業でも、カーブアウトによって成功した企業が数多く存在します。今回はそのなかから、「AppBank」と「VAIO」の成功事例について説明します。カーブアウトを実施する際、これらの成功事例を参考にするとよいでしょう。

AppBank

AppBankは、「ガイアックス」から最初にカーブアウトした企業です。同社はiPhoneやiPadについての情報をまとめた「AppBank.net」を事業としています。

特に有名となったのは、YouTuberとしてCMにも起用された「マックスむらい」ことCEO村井智建氏の存在でしょう。同社が設立されるまで、ガイアックスに子会社へ事業を支援する制度はありませんでした。

しかしAppBankの設立によって株式やサポート体制や人材関連など、あらゆる観点から事業を見直せるようになったのです。現在ではカーブアウトのための基盤が整ったパイオニア企業となりました。

VAIO

VAIOは、ソニーからカーブアウトされた企業です。ソニーが1996年に新ブランドとして売り出したPC「VAIO」は、世界中で870万代を売り出す大ヒット商品となりました。

しかし徐々に出荷量は減少、ソニー全体の経営に赤字をもたらすほどの不採算事業となり、2014年にソニーから事業ごと切り出されカーブアウトしたのです。

切り出されたVAIO事業部はそのままVAIOとして再出発し、経営回復のために人件費の削減や販売台数の見直しといった固定費の削減を実施。

ほかにも今後の展開が見込まれるEMS(電子機器製造受託サービス)やロボット事業に力を入れ、2年後の2016年には黒字決済を出しました。

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8.カーブアウトの注意点

カーブアウトを実施する際、何に注意すればよいのでしょう。それぞれについて見ていきます。

  1. 親会社・子会社ともに業務に影響が出ないようにする
  2. 事業成長性やM&Aの手法も検討する

①親会社・子会社ともに業務に影響が出ないようにする

分裂後の親会社と子会社に業務上の支障が出ないか、よく検討しましょう。会計上カーブアウトができると判断した事業でも、実際に切り出してみると業務に支障を来たしてしまうケースもあるからです。

会計上では見えない経営資源や物流、人材のスキルや対人関係などの面で問題が発生してしまうと、分裂後にうまく業務が回らなくなってしまいます。

そうならないためにも「何をどのように譲渡すべきか」「どのような資源や支援が必要か」をカーブアウト前によく検討しましょう。

②事業成長性やM&Aの手法も検討する

「不採算事業がある」「事業の成長スピードが伸び悩んでいる」という理由があるからといって、無闇にカーブアウトをすればよいわけではありません。カーブアウトをする目的は、事業促進や事業スピードの向上。

しかしカーブアウトには会計上の調整のほか、「人材雇用の問題」「配置」「分裂後の譲渡事項」など、検討事項が数多く存在します。まずは焦らず分裂後の事業成長性を見極め、必要であればM&Aの手法を検討してみましょう。