パワハラ防止法とは、パワーハラスメント防止のために設けられた法律です。ここでは、パワハラ防止法について解説します。
目次
1.パワハラ防止法とは?
パワハラ防止法とは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の通称です。ここでは、「パワハラ防止法に罰則はあるのか」「パワハラ防止法の施行日」について解説します。
パワハラ防止法に罰則はあるのか?
パワハラ防止法施行日である2020年6月1日時点、罰則は設けられていません。しかし、厚生労働大臣が必要であると認めた場合、当該企業に対して、助言・指導・勧告が行われる場合もあります。
また厚生労働大臣の勧告に従わないと、労働施策総合推進法33条2項にもとづき、パワハラ防止法違反が行使される可能性もあるのです。
大企業と中小企業で施行日は異なるのか?
パワハラ防止法の施行日は、大企業と中小企業とで異なります。
- 大企業…2020年6月1日から施行
- 中小企業…2022年3月31日までが努力義務期間となり、施行は2022年4月1日から
2.よく耳にするパワハラとは一体何?
よく耳にするパワハラとは一体何でしょうか。その際、法で定められたパワハラへの理解がポイントになります。ここでは、下記2点について解説します。
- パワーハラスメントの6類型について
- 職場におけるパワハラの条件3つ
①パワーハラスメントの6類型について
パワーハラスメントは、法で定められた6類型に分類されているのです。
精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、「脅迫」「名誉毀損」「侮辱」「ひどい暴言」のこと。具体的事例は、下記のとおりです。
- 「馬鹿」「役立たず」「給料泥棒」「死ね」といった暴言を吐く
- 指導を放棄し、部下を放置する
- 溜息をつく
- 威圧的な態度をとる
- 職場で同僚たちの前で、部下に対し威圧的な叱責を繰り返し行う
過大な要求
過大な要求とは、「業務上明らかに不要と認められることや遂行不可能なことを強要する」「仕事を妨害する」などで、例は下記のとおりです。
- 本来の任務に関係がない作業を、長時間、過酷な環境下で行わせる
- 必要な指導や指示を行わず、対応しきれない高いレベルの仕事をさせる
- 高すぎるレベルの任務を遂行できなかった、と激しく叱責する
過小な要求
過小な要求とは、道理に反する形で「能力や経験と乖離したかんたんな仕事を命じる」「何の仕事も与えない」などを行うこと。具体例は、下記のとおりです。
- 社員を自ら退職するよう決断させる目的で、能力に見合わない単純作業に従事させる
- 社員が気に入らないからという理由で、嫌がらせのために仕事を与えない
個の侵害
個の侵害とは、個すなわち私的な事柄に過度に立ち入ること。具体例は、下記のとおりです。
- 仕事外にもかかわらず、継続的に行動を監視される
- 私物を写真撮影される
- 本人の同意を得ていないにも関わらず、個人情報を他人に暴露する
- しつこく職場の飲み会に誘い、断るとその理由をしつこく詮索する
人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、「組織から隔離する」「仲間外れにする」「無視」といったもの。具体例は、下記のとおりです。
- 気に入らない部下を担当業務から外し、別室へ長期間隔離する
- 特定の社員だけを意図的に会議に出席させない
- 理由なく仕事を割り振らず、結果的にプロジェクトから疎外する
身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、身体に加える暴行・傷害などのこと。具体例は、下記のとおりです。
- 指導に熱が入って、頭を小突くなど手を出してしまう
- 仕事上で繰り返しミスをする部下に対し、体罰を与える
- 指導中にカッと頭にきて、物を投げてケガをさせる
- 髪の毛を引っ張る
- 足蹴りをする
職場におけるパワハラの条件3つ
職場におけるパワハラには、3つの条件があります。それぞれについて解説しましょう。
労働者の就業環境が害される状況
これは、労働者が能力を発揮して就労するにあたり、「看過できないほどの妨げ」「就業における支障」が生じている状況を意味します。
このような状況下では、就業意欲が低下したり業務に専念できなかったりする可能性が高いでしょう。
優先的な関係を背景とした言動
これは、パワハラの言動を受ける被害者とパワハラの行為者との関係が、「抵抗できない」「拒絶できない」「蓋然性が高い」関係性にあることを意味します。
被害者と行為者の関係は、上司と部下だけでなく、同僚同士でも成り立つのです。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為
これは、「業務上明らかに必要のない行為」「大きく目的を逸脱した行為」「業務遂行上の明らかに不適切な行為」のこと。
たとえば1度の遅刻をきっかけに、当該社員の全人格を否定するような言葉を日常的に繰り返し発するようなものです。
3.パワハラ防止法における企業の義務4つ
パワハラ防止法における企業の義務は、4つあります。それぞれについて解説しましょう。
- 企業の方針などを明確化し、周知・啓発する
- 相談(苦情を含む)へ適切に対応するために必要な体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- 上記とあわせて講ずべき措置
①企業の方針などを明確化し、周知・啓発する
企業は、下記に取り組まなければなりません。
- 自社におけるパワハラ防止方針の明確化
- 管理監督者を含む労働者に対する周知および啓発
- 加害者に対する厳しい対処方針の決定
- 懲戒処分をはじめとする対処内容の就業規則などへの明記、およびその周知徹底
②相談(苦情を含む)へ適切に対応するために必要な体制の整備
企業は、社員からパワハラに関する相談があった場合に適切に対処できるよう、体制を整備する必要があります。たとえば、下記のようなものです。
- 相談窓口を設置する
- 相談窓口を労働者に周知する
- 相談対応の担当者を決める
- 相談窓口を弁護士などに外部委託する
③事後の迅速かつ適切な対応
企業は、社員からパワハラに関する相談があった場合、次のような措置を講じる必要があります。
- 事実関係が確認できたら、休暇を与えたり必要な補償を行ったりして、被害者に配慮措置を行う
- 事実関係が確認できたら、注意や配置転換、懲戒処分など加害者に対して必要な措置を行う
- パワハラの再発防止に向け、再度、事業主の方針を周知・啓発する
④上記とあわせて講ずべき措置
例は、下記のとおりです。
- 相談者と行為者双方のプライバシー保護に必要な措置を講じ、周知徹底する
- 相談したり事実関係の確認に協力したりしたことを理由とした不利益な取り扱いを禁止する旨を定め、社員に周知・啓発する
4.ハラスメントが発生したときの対応について
ハラスメントが発生したときの対応には、手順があります。それぞれについて解説しましょう。
- 事情聴取で問題解決の方針を探る
- 被害者の救済と再発防止策の検討
- 加害者に対する処分の決定
①事情聴取で問題解決の方針を探る
ハラスメントが発生したときは、事情聴取で問題解決の方針を探ります。相談窓口で相談を受けたら、「幅広い情報収集」「事実関係の確認」「問題を解決に導くための方針を探る」といった対応を行うのです。
社内に相談窓口があると、企業はパワハラ発覚後、早い段階で事実を認知し、解決のために動けます。
②被害者の救済と再発防止策の検討
ハラスメントが発生したときは、被害者の救済と再発防止策の検討にも着手します。
事情聴取や調査の結果、パワハラの事実が認定できたら、当該パワハラの行為態様・回数・動機・目的などの調査をもとに「加害者に自宅待機命令を出すなどのパワハラ被害者の救済」「被害者への接触を禁止して再発を防止するための対策」を検討するのです。
③加害者に対する処分の決定
ハラスメントが発生したときは、再発防止策だけでなく、加害者に対する処分も決定します。社内の規定に則ってパワハラ行為の違法性を検討し、相応する社内処分を決定するのです。
パワハラに関する懲戒処分には、「譴責(けんせき)」「戒告」「減給」「降格」「出勤停止」「懲戒解雇」など、軽度から重度までの処分を使い分ける必要があります。
5.具体的なパワハラ防止対策の例
企業における具体的なパワハラ防止対策について、4つ解説しましょう。
- 就業規則で規定する
- パワハラへの理解度を上げる
- 管理職への研修を行う
- 相談窓口を設置する
①就業規則で規定する
企業はパワハラに対して、自社の明確な方針・対処・処罰などの事項を決定し、就業規則の中にあらかじめ規定しておきます。「事業主の方針などを明確化する」ことは、パワハラ防止法のなかで義務付けられているのです。
②パワハラへの理解度を上げる
社員にあらかじめ「何がパワハラに該当するか」を理解してもらうため、取り組みを行います。知らず知らずのうちにパワハラが横行しないようにするためにも、パワハラについての理解度を上げることは重要でしょう。
③管理職への研修を行う
指導・指示とパワハラとの線引きは、非常に難しい問題です。また管理職層は、この両者を混同しやすい立場にあります。そこで管理職層に対して、「パワハラの該当例や非該当例」が周知できる研修を行うのです。それにより混同を防げるでしょう。
④相談窓口を設置する
被害者が、1人で悩みを抱え込んでしまう状況は多いです。そのためパワハラ防止法では、「安心して相談できる窓口の設置」「相談できる担当者の設置」「適切に対応するために必要な体制の整備」などを企業に義務付けています。
6.パワハラ防止法における対象範囲について
パワハラ防止法における対象範囲は、2つあります。ここでは、以下に挙げる適用範囲についてそれぞれ解説しましょう。
- 労働者は、雇用形態にかかわらず対象の範囲となる
- 職場は、業務を遂行する場所が対象の範囲となる
①【労働者】雇用形態にかかわらず対象の範囲となる
労働者は、「正社員」「パート」「アルバイト」「派遣社員」「契約社員」など、雇用形態にかかわらず雇用されているすべての人をさします。なお派遣社員の場合、「派遣元企業」「派遣先企業」両者に同様の配慮・措置が求められるのです。
②【職場】業務を遂行する場所が対象の範囲となる
職場とは、労働者が業務を遂行する場所のこと。「毎日出勤しなくても、労働者が業務を遂行する場所であれば職場に含まれる」「勤務時間外に行われたハラスメントであっても、時間に関係なくパワハラに該当する」などに注意してください。
7.パワハラ対応に関する注意点とは?
パワハラ対応に関する注意点は、3つあります。それぞれについて解説しましょう。
- パワハラ加害者の懲戒処分は慎重に判断する必要がある
- 関係者のプライバシーを保護する必要がある
- パワハラを放置すると企業が義務違反となる
①パワハラ加害者の懲戒処分は慎重に判断する必要がある
パワハラの事実が確認できた場合、懲戒処分の実施と内容が問題になります。過度な処分を行えば、加害者側から「不当」な処分だと訴えられる可能性も高いでしょう。法的な面から慎重に判断します。
②関係者のプライバシーを保護する必要がある
パワハラに対応する際、「被害者」「加害者」「目撃者などの第三者」のプライバシーに配慮しなければなりません。相談・調査時に情報が社内に漏れないような対策も講じます。情報漏えいが起これば、二次被害や三次被害が起こってしまうでしょう。
③パワハラを放置すると企業が義務違反となる
パワハラ防止法の施行日は、下記のとおりです。
- 大企業…2020年6月1日から施行
- 中小企業…2022年3月31日までが努力義務期間、施行は2022年4月1日から
施行日前でも企業がパワハラに対し適切に対応しなかった場合、職場環境配慮義務違反となる可能性があります。